ファイアーエムブレム聖戦の系譜〜選ばれし聖戦の子供たち〜
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第一章:光をつぐもの
第3話:天馬と魔導師と盗賊と
解放軍が峡谷の戦いに勝利を収めガネーシャ城に入城したとの報はいち早くリボー城のダナンの下に届けられた。
「ガネーシャが反乱軍の手に堕ちただと?ハロルドめ、抜かりおって!」
ダナンはそれに激昂した。その周りにドス黒い軍服を身を包み胸に犬の首と箒の紋章を飾った者たちが控えている。王の親衛隊だ。散々に怒鳴り散らし周りの物を壊し尽くした後ようやく落ち着きを取り戻したダナンは肩で息をしつつ家臣に命令を下した。
「わしの息子たちは何をしておるのだ!さっさと反乱軍を討てと伝えろ!一人も生かして帰すなとな!」
「はっ!」
かくしてイザーク城城主ヨハンとソファラ城城主ヨハルヴァに反乱軍討伐の命令が下った。使者たちはすぐさまそれぞれの城へ向かった。
ーイザーク城ー
ダナンの次男ヨハンが城主を務めるイザーク城はイザーク南東部にあった。王国の名の由来にもなっているイザーク地方はリボーからすれば高地にあり、イザークとリボーの間は長く穏やかな坂になっている。人口密集地であり国都でもあるリボーと比べると流石に劣るがなかなか豊かな地方であり城主ヨハンは多少風変わりながらも父に似ず暴政や弾圧を嫌い、イザークの民からも慕われていた。そんな彼に今深刻な問題が突きつけられていた。
「反乱軍を攻撃せよ、だと?やれやれ父上のご命令か」
「どうなされましたか?」
ブルーグレーの髪と瞳のまだあどけなさが残る若者が主君に問うた。ヨハンの部下であるボウファイター、ロナンである。茶色のズボンと胸が大きく開いた緑色の上着の中に白いシャツを着ている。
「いや、何でもない」
焦げ茶の髪と瞳に、凛々しい顔立ちの青年が渋い表情で首を傾げながら言った。彼こそがイザーク城城主のヨハンである。濃い目の青い軍服に青白いズボン、赤いマントと黒いブーツを身に着けている。
「では出撃いたしますか?」
やや長めの濃茶の髪と瞳の男が言った。オーシンという。深緑色のシャツと白いズボンを着ている。その上から肩当を着けている。斧の使い手として知られている。
「そうすれば私はあのラクチェと剣を交えなければならない。それは嫌だ」
「直ちに出撃をなさらないと、王から何を言われるかわかりませんよ。王は実子に対しても厳しいお方です」
やや短めの髪と瞳の男が言った。アクスファイターでハルヴァンという。赤銅色のズボンと黄土色のシャツを着ている。ゴツい外見に似合わず頭が切れることで知られている。
「そうなのだ。父上は誰に対しても容赦なさらぬ。例えそれが私やヨハルヴァでもな」
顎に手を当てヨハンは考え込んだ。暫くして口を開いた。
「出撃しよう」
「はっ、ですが・・・・・・」
「兵は動かさぬ。迎え討つという口実でな。それならば文句はあるまい」
「はい」
ロナン、オーシン、ハルヴァンなどは出撃の準備に取り掛かるべく部屋を後にした。それをヨハンはひっそりと呟いた。
「しかし、私にはラクチェと戦うことなどはできん。ああっ、一体どうすれば・・・」
頭を抱えたヨハンは部屋を後にした。出撃してからも彼の表情は冴えなかった。
ーソファラ城ー
イザーク西部はソファラ盆地という高い山々に囲まれた盆地であり丁度ガネーシャとイザークの中間にその入口がある。潮沼が多く肥えているが十分に開拓されているとは言えない。人口もあまり多いとは言えない。その中で最も豊かな地域にソファラ城はあった。
城主ヨハルヴァは短気で口が悪いが豪快で気さく人物として知られていた。そんな彼にも兄と同じ難問が飛び込んできた。
「親父が攻撃命令を出してきただと?冗談じゃねえぞ」
茶色の髪と瞳の少し荒削り顔立ちの若者が苦々しげに言った。ソファラ城城主ヨハルヴァその人である。白いシャツの上に緑色のベストと黒いズボンを身に着け、その額に緑の鉢巻、茶色のブーツを履いている。手首には黒いグローブを着けている。
「しかし、そうも言ってはいられませんよ。王はご自身たることに従わぬ者に対しては残忍で極まりないお方です」
小山のような大男が低くドスの聞いた声で言った。ダグダという。元は山賊であったがヨハルヴァの人柄に惚れ込み帰順してその部下になった。怪力で知られまた気概のある人物として有名である。濃い髭が顔を覆い、髪は薄紫色のバンダナで包み白いズボンにオレンジ色のシャツを着ている。
「それは俺と兄貴が知っている。何せ生まれた時から親父の側にいたからな」
「でしたらすぐ出撃するべきです」
茶色の髪と瞳の素朴な外見の大男がその外見から思いもよらぬ小さな声で言った。白いズボンにほうじ色のシャツを着ている。
「簡単に言ってくれるな、マーティ!向こうにはラドネイがいるんだぞ!!」
「すいません」
「いや、謝ることはねえけどよ」
「けど殿下、結局は出撃しないとどうなるかわかりませんよ」
茶色いショートの髪と瞳の小柄で少年のような外見の少女が言った。少し赤みがかった黄色いズボンに薄緑色のシャツを着ている。
「おい、タニア。殿下に対してそんな言い方ねえだろ」
「何言ってんだよ、親父。親父だって殿下の前で平気でガラガラと笑ったりむしゃむしゃ熊みたいに食べたりしてるじゃないか」
「うっ・・・・・・」
「それに今は素直に言ったほうがいいと思うぞ。そうでしょう、殿下」
「ああ、まあな」
「ほら、殿下も仰ってるんだぞ。わかったか?」
「くそっ、本当に口の減らないやつだ」
「親父の娘だからな」
「まったく・・・。すいません殿下、わしがよく躾ときますんで」
「構わねえよ。俺は体裁や綺麗事が嫌いなんだ。それよりも考えたんだがやっぱ出撃するぞ」
「え!?」
驚いた三人を前にヨハルヴァは続けた。
「ただし、ソファラの入口辺りで動かない。これで親父の命令は一応果たしているしラドネイとも喧嘩にならない。どうだ、名案だろう」
「はい」
「じゃあ行くぜ!」
「おう!」
勇ましい声を挙げ三人とヨハルヴァは部屋を出た。そして出撃しソファラとガネーシャ、イザークの境で進軍を誰一人も受け止めはしなかった。
ヨハン、ヨハルヴァ両王子の軍が解放軍を進撃に出るふりをして軍を止めていた頃ソファラに四騎の天馬が舞い降りた。その中の一頭から一人の少女が飛び降りた。
「ふうっ、ごめんねマーニャ。重かったでしょ」
緑のショートヘアをしたエメラルドの瞳を持つ小柄で可愛らしい少女である。スリットが入った丈の短い緑のワンピースに白い肩当てと胸当ての鎧を身に着け、イヤリングと白い鉢巻とが特徴である。
「ふうん、そのペガサスはマーニャっていうのか」
ペガサスの背に乗る長い薄紫色の髪と瞳をした中性的な若者が言った。白い上着とズボンの上に水色のベストを着て、丈の短い黒マントを羽織っている。
「やっと着いたわね、アーサー」
「ああ、今までありがとうフィー」
「いいわよ、お互い様。ところであんたこれからどこ行くの?」
「アルスター」
「アルスター!?あんた、バカじゃない」
フィーが思わず声をあげる。
「ああ、ちょっと妹を探しにね」
「実は妹が危ないんだ」
「どうして?」
「俺が神父をやっていたって話はしていただろ?」
「ええ」
「あれは父さんが病で死んだ半年ほど経った頃かな。家にある人物が訪ねて来たんだ。父さんのお墓参りにね。その時俺の父さんが本当はヴェルトマーのアゼル公子で母さんはフリージのティルテュ公女だと話してくれた。その証がこのペンダントだと言ってね」
そう言って首にぶら下げているペンダントを見せる。
「そしてティニーという妹がいることも教えてくれた」
「ふうん。あんたお坊ちゃんだったんだ」
「まあそういうことになるかな。今はしがない村の神父だけど」
「ところでそのお客さんって誰?」
「いや、俺にはわからない。紅い髪をしたすごく気品のある男だった。その人は俺に言った。お前の妹は今アルスターにいるがヒルダ王妃に命を狙われている。一刻も早く彼女を助け出すんだ、ってね。俺が家から出た時にはもうその人はいなかったってわけだ」
「なんか物語みたいな話ね。けどあたしにも似たような偏遇だしね」
「フィーも誰か探しているのか?」
「一応お兄ちゃんをね。でも今は解放軍に入れてもらう方が先」
「お兄ちゃんって誰だ?」
「セティっていうの。知ってる?」
「十二神器の一つフォルセティを受け継ぐあの大賢者かい?」
「あれ?やっぱり知ってたのね」
「有名だよ・・・ってことはお前はシレジア王と四天馬騎士の間の娘か」
「言ってなかったっけ?」
「初耳だぞ」
「ちなみにフェミナはマーニャ叔母さん、カリンはパメラさん、ミーシャはディートバさんの娘よ」
「・・・四天馬騎士二世揃い踏みかよ」
「そういうこと。解放軍に入るためにシレジアからここまで来たのよ。あんたも入る?」
「う~ん、解放軍も多分アルスターへ行くだろうしな、そうさせてもらうか。いいかな、アミッド、アスベル、スルーフ」
「俺はそれでいいよ」
後ろのから短めの緑の髪と瞳をした細面の若者が降りてきた。彼がアミッドである。白いズボンと青みがかった水色の法衣、茶色のブーツが特徴である。
「メルゲンからイシュトー王子の下にいる妹を救い出すにはその方がいい。リンダをヒルダからの魔の手から救うためにな」
「イシュトーって『雷帝』?」
アミッドの乗っていた馬に乗る少女が聞いた。フィーと同じく緑のショートヘアにエメラルドの瞳、背はフィーと同じ位で顔はフィーより大人びた感じをしている。スリットの入った丈の短い緑のワンピースに、白い肩当てと胸当ての鎧、長い緑色のブーツを身に着けている。
「ああ、そうだ。すごくできた人で人質のリンダも可愛がってくれている。しかしあの人でもヒルダの魔の手から守りきれるかどうかだ・・・・・・」
「妹さんを救うためにシレジアから出てきたのね」
アミッドはシレジア人の父とティルテュの妹エスニャとの間に生まれた。両親の死後、妹の話を聞き彼女を救うためすぐにシレジアを出た。
「それで私たちと出会ったのよね」
緑のショートヘアに同じ色の瞳をしたフィーたちと同じ位の小柄で可憐な少女が、別の馬から降りながら言った。彼女がカリンである。
「そういうこと」
「まあこれもなにかの縁ね。君もそう?アスベル君」
カリンと同じ馬に乗っていた少年に声をかけた。女の子と見間違うばかりの整った顔にきめ細やか肌、緑の髪と瞳、青い服、青のマントと茶色のブーツという服装である。
「いえ、僕は自由都市のフレストに生まれました。けれどセティさんに憧れて魔導師になってここへ向かったんです」
「なんかアーサーもアミッドもアスベル君も偶然あたしたちと会ったのにね」
フィーがそれを言う。
「ホント、私たちなんか四人共解放軍に入るためにここまで来たのにね」
フェミナも言った。カリンもそれに続く。
「大体途中まで行き倒れたら、どうするつもりだったのよ。アルスターまで遠いわよ」
「そこまでは考えてなかったな」
アーサーはキョトンして言った。アミッドも同じであった。
「何とかなると思ってた」
「絶対にここまで来れるって信じていました」
アスベルも似たようなものである。女三人組は一言漏らした。
「呆れた!」
その時六人の後ろから声がした。
「みんな、お話中悪いけど」
大人の声だった。フィーたちと比べると長身で顔立ちも女性の美しさがある。短めの緑の髪と瞳を持ちスリットの入った丈の短い空色のワンピースの上に肩当てと胸当ての鎧、灰色のタイツと白い手袋とブーツを身に着けている。ミーシャである。
「そろそろ行きましょう。解放軍はガネーシャにいるそうよ」
「あ、はい」
「じゃあ行きますか」
六人は再び天馬に乗った。ミーシャのペガサスを先頭に楔形の陣形で四騎は天に上がった。ミーシャはすぐ後ろに乗る青年に声をかけた。
「スルーフさん、すみません。なんか妙な一行を入れてしまいました」
「いえいえ、旅は一人より大勢の方が面白いですよ」
金髪碧眼の気品のある顔立ちの美しい青年である。細い普通位の背を持ち手首や裏地が紫で彩った白い法衣とズボン、薄紫のマントを羽織っている。
「ブラギの塔でクロード様に言われて『世界を救う光となる者』を探すため旅に出て早一年、その間は色々とありましたがこれまでになく楽しい気分です。それもミーシャさんや皆さんのおかげです」
「そんな・・・・・・」
「それにセリス公子やシャナン公子には以前より興味がありました。彼らとも一度はお会いしたいと思っていたのです」
「そうだったのですか」
暫くして一行の眼前に三つの小さな村が見えてきた。そしてそこへ向かう怪しげな一団も。
「賊みたいね」
ミーシャがその整った眉をしかめた。
「私とカリンたちは一つ目の村、フィーとフェミナたちが二つ目の村、そして最後の村は、それぞれの村の賊を倒してから急行する。それで行くわ」
「ええ、それでいいわ」
「行くわよ!」
アーサー、アミッド、アスベル、スルーフの四人は天馬から飛び降り、ミーシャ、フィー、フェミナ、カリンの四人は天馬の速度を速めそれぞれの村へ急行した。風が動いた。
村では山賊の一人が民家の扉を斧で叩き破り、中年の夫婦と子供たちを脅して僅かな金目の物や食料を巻き上げ税に入っていた。
「へっへっへっ、たまんねえなあ」
干した豚肉を葡萄酒で流し込みながら山賊たちは下品な笑い声をあげた。
「戦争が起こってくれて鬱陶しい兵隊共が他所に行ったちまうなんてな。おかげで俺たちは楽に町や村を襲えるってもんだ」
「そいつはいいな」
後ろから声がした。
「おう!そうだろう?弱い奴らから巻き上げた酒や食い物を頂くってのはな」
「しかしそれも最後だな」
「へっ、なんでだ!?」
「お前がここで死ぬからだ」
「なにィ!?」
山賊が振り向いた場所にはアーサーが立っていた。肩の高さで上へ向けて手の平には蒼い風が人魂のように吹き盛っている。足下には二人の山賊が風に包まれ倒れている。
「貴様、何者だ!?」
風の手に身構えつつアーサーは仮面のように全く表情を変えずに見ている。
「これから死ぬ奴に言う必要も無いだろう」
「てめえ!!」
山賊はイキり立ってアーサーに向かってきた。アーサーはゆっくりと手を前に出し風球を撃ち出した。
「ウインド!」
風球が山賊の腹に直撃した。吹き飛ぶような姿勢で動きが止まった次の瞬間、もう一撃が山賊の頭部に直撃した。
「弱いね。やっぱり山賊なんてこの程度かな」
「あれ?まだ三人しか倒してないの?」
民家の上から、からかうような声が聞こえた。フィーである。
「あたし?あたしは六人よ」
得意そうにアーサーを見下ろすフィーをアーサーはニヤリと笑って見返した。
「勝った。七人」
「ええ~!嘘!?」
「嘘なもんか。全員ウインドかエルウインドで倒してるからすぐわかるぞ」
「うっ、やるわね。きれいな顔して」
「おいおい、それは俺が言う言葉だ」
「とにかく・・・負けないわよ!」
捨て台詞を残しフィーは飛び去っていく。ハイハイと手を振り見送るアーサーは内心思った。
(なかなか面白いやつだな)
だが数秒後に山賊の断末魔とフィーの声が聞こえてきた。
「アーサー、これで五分五分よっ!」
(負けん気の強いやつだ)
「エルウインド!」
アミッドがアンダースローの要領で投げた風が山賊に直撃する。腹に撃ち抜かれ山賊は大地に伏す。
「どうする?残るはお前一人だが」
すっかり気負わされ壁に背につく山賊を前にアミッドは冷たい声で言った。山賊の仲間は既に何人か死体になり転がっている。
「降伏するなら命は助けてやる。ただし二度と村人たちを苦しめないという条件付きだがな」
「く、くそ・・・・・・・・・」
山賊の背は完全に壁についた。アミッドが迫ってくるように感じられた。
「ち、畜生おおおおおおおお!」
自暴自棄になり斧を振り被りながら向かってくる山賊をアミッドは冷静に見ていた。
「馬鹿が」
渾身の一撃を難無く交わすと山賊の左耳のすぐ側に左手のひらを当てた。
「エルウインド!」
風球が山賊の頭を消し飛ばした。頭部が消えた山賊はそのまま倒れ込み動かなくなった。
「必ずこうなるとわかっていたのにな」
その時、後ろから三人の山賊が現れた。
「また死にに来たか」
アミッドが風を放とうした時上から大きな影が舞い降りてきた。
「!?」
その影はたちまち三人の山賊を鉄の槍で突き倒してしまった。少し驚くアミッドに影は振り向いた。
「あたしにも美味しいとこちょうだいね」
「フェミナ」
アミッドの驚いた声を聞きフェミナはにっこりと微笑んだ。
アーサーたち四人が村に侵入した山賊を蹴散らしていた頃、別の村では村の大路でアスベルが数人の山賊を相手に戦っていた。
「グラフカリバー!」
アスベルの右手が横に切り払われると大きな鎌鼬が現れた山賊の一人を両断した。その隣ではカリンが細みの槍で馬上で振り回し数人の山賊を相手にしている。
「負けないわよ!」
その細い腕からは信じられないほど力強く素早い突きが繰り出され山賊を次々と倒していく。
アスベルの目の前の山賊をグラフカリバーで倒した時カリンは自分に襲いかかる山賊をすべて倒していった。ふと隣にアスベルの方を見た時アスベルの背中に斧を叩きつけようとする山賊がいた。
「アスベル君、危ない!」
だがカリンが悲鳴をあげるよりより早くアスベルは背中への一撃を振り向きもせず交わし山賊の首のすぐ横を手刀で払った。
「グラフカリバー!」
斧を振り下ろしたままの姿勢で、山賊は動かなくなった。やがて山賊の首がゆっくりと地に落ちると切り口から鮮血が噴き出し身体も地面に倒れた。
膝を付きながらも手で服の砂を払いながらアスベルは立ち上がった。そしてカリンの方を見て言った。
「どうしたんですか?カリンさん」
少し驚いたような顔である。
「あ、別に」
と言葉を残すだけであった。外見に似合わぬ強さに驚いていたのはカリンの方だった。
「覚悟なさい!」
ミーシャが天馬を急降下させ民家を襲おうとしていた山賊に鋼の槍を振り下ろす。西瓜のように叩き割られ倒れる。
「この女、死にやがれ!」
仲間を殺された山賊が斧を下から振り上げた。ミーシャは、斧を持つ手首を切り飛ばし返し手で袈裟斬りにした。
「そんな攻撃!」
血走った眼で襲いかかる山賊たちを切り伏せミーシャは彼らを見据えた。その直後、民家の上から山賊が飛び降りてくる。そのままミーシャを一撃で打ち殺すつもりだ。
「やらせない!」
飛び上がると同時に槍を横に一閃させた。ミーシャが民家のすぐ上で天馬を山賊を振り向かせた時山賊は胸を真っ二つにされ地面に落ちていった。
二つの村のちょうど中間点でスルーフは他のメンバーを待っていた。プリーストであり戦闘の魔法が使えないためそこでみんなを待つと同時に手にするリライブの杖で離れた仲間の傷を癒やすことが彼の仕事である。
スルーフは双方の村を交互に心配するような顔で見ている。結構時間が経っているが、誰も帰ってこないからである。だがそれは杞憂だった。
二つの村から四騎の天馬がスルーフの方へ来る。そのうち三騎の後ろにはもう一人乗っている。全員無事だった。
「すまない、遅くなった」
フィーの後ろに乗るアーサーが言った。
「急ぎましょう」
スルーフはそれを攻めるまでもなく言った。そして僧侶とは思えぬほど身のこなしでミーシャの天馬の後ろに飛び乗った。
四騎は全速力で三番目の村に向かったところは山賊の数が最も少なく一番遅かったため最後にしたのだ。やがて八人はあることに気づいた。
「何かあまり荒らされてないみたい」
カリンが言った。
「確かに。もっとやられてると思ったけどな」
アミッド顎に手を当て訝しげに言う。
「村の人たちが頑張っているのかもしれないけど山賊の連中がまだ村の中にいるのは間違いないと思うけどね」
フィーが村を見据えつつ言った。アーサーもそれに続く。
「どっちにしろここは」
「行くわよ!」
ミーシャが決めた。四騎はそのまま村の上に進んだ。上から見て村はまったく荒らされていなかった。見ると井戸の辺りで人が集まっているり剣撃と罵声が響いている。
「行きましょう」
四騎がそこへ行くとそこで何やら二つに別れて争っていた。一方彼女たちが先ほど戦っていた山賊たちの仲間のようである。それぞれ粗末な斧に古い革鎧を身に着けている。既に十人ほど倒されている。それでもまだ十人位が残っている。
もう一方は僅かな四人であった。三人が前に出て、三人のうち二人は鉄の剣と鋼の剣を構え持ち、もう一人は彼女の名が刻まれた剣を構え持っている。そして後ろにいる一人を援護するように陣を組んでいる。
中央の一人は細身の男で山吹色の上着に紫色のズボンと茶色のブーツを身に着けている。茶色の髪は少し漏れたような感じである。茶の瞳はやや切れ長でつり上がっており、どこかずる賢そうな印象を与える。
右側にいるのは鋼の剣を持つ男で白いズボンと胸の開けた濃紫のシャツの上に丈の長い黒い服を着ている。
左側にいるのは白いズボンに丈の長い緑色の上着を革のベルトで止め、茶の革鎧を着けた小柄な少女である。短めの黒髪と瞳は幼さが残りながらも整ったその顔を気が強そうにしている。
後ろにいるのは波がかかった緑の髪と澄むんだ緑の瞳をした美しい女性である。丈の長い黄緑の法衣に同じ位丈の前が大きく開いた薄緑の服の上にフードの付いた白のマントを羽織っている。手にした杖から彼女がプリーストであることがわかる。
「どうやら本気でオレに逆らうつもりらしいな」
中央の男が剣を構えながら怒気少し含めて言う。
「じゃあ仕方ねえ、死んでもらうぜ」
男は山賊たちへ突っ込むと、左右の二人もそれに続いた。三人はそれぞれ形は違うが見事な剣技である。中央の男は素早い動きで鉄の剣を器用に振り相手の死角に潜り込み急所を突く。ややトリッキーな剣術である。
左の少女はまだ未熟さが残りながらも一本気な剣技であり一人また一人と確実に倒していく。特にすごいのが右の男は水が流れるように無駄のない動きで敵を交わし流星の如き速さで剣を一閃させる。十人ほどいた山賊たちはたちまち一人も残らず斬り伏せられた。
「へっ、黙ってオレに従っていりゃ死なずにすんだのにな。ん?」
中央の男がフィーたちに気づいた。
「お~い!そこの姉ちゃんたち降りてきな」
四騎は広場に降り天馬から降りた。
「さてと、お前さんたちは一体何者だい?」
やや軽い口調で中央の男が問うた。
「すみません。覗き見をするつもりじゃなかったんです」
フェミナが申し訳無さそうに言う。それに対し男は肩をすくめた。
「おいおい、別に殺そうとか金を巻き上げようとかいうつもりじゃないんだ。見たところあんたたちはペガサスナイトに魔導師、あとそこの白い服の兄ちゃんはプリーストってとこか。こんな田舎に何をしに来たのかって聞きたいんだ」
「え~と・・・・・・」
「ええ~っと?」
アスベルが下を俯きながら言いかけようとする。男がそれにつられる。
「僕たちはセリス様の解放軍に入るためにここへ来たんです」
「解放軍?ティルナノグの?」
「はい」
「へえ・・・・・・」
男が何か意地悪そうな笑みを浮かべた。
「奇遇だねえ、オレたちと同じだ」
「え!?」
八人が目を丸くした。
「まずは名乗ろうか。オレはリフィス。元はイザーク軍にいたが嫌気が差して辞めてたまたま出会ったシヴァと一緒にイザーク軍相手に盗賊をやっていた」
右の男を親指で差しながらリフィスは話を続ける。
「オレは何年かやってるうちに子分が増えてオレはそいつらの頭になった。今村に襲った連中がその一部だこいつらはオレたちが留守にしている間に村を襲ってたから斬ってやったぜ。見たところあんたらにもやられたらしいな」
血潮の付いた槍や剣を一瞥して話を進めた。
「このオレとシヴァは船でレンスターに渡ってフリージ相手にレジスタンスをやっているエーヴェルって人に会いに行った。この人のこと知っているかな」
「ええ。『フィアナの女神』って」
ミーシャが答えた。
「なら話が早い。オレもシヴァもあの人にはフリージ軍相手に仕事する時結構世話になっててな。仕事のついでに例を言いに行ったんだ。そこにその人がいた」
後ろにいる女性を指差した。
「サフィっていうターラのプリーストさんだ。何でもその街を治めてるリノアンって人がフリージの支配から抜け出したいらしくてその人の頼みで街を救ってくれる勢力を探しているらしい。それでエーヴェルさんが言うにはティルナノグのセリス公子が良いらしくてそこへ行くことになった」
井戸の水を飲みリフィスは言い続ける。
「けど女の子一人じゃ危ないだろ?それにオレはこの人の健気さに打たれた。助けてやろうも思ってな。一緒に解放軍に行こうと決心したのさ。なあ?シヴァ」
「ああ」
シヴァは無表情で頷く。
「そしてオレは波が荒くなる前にレンスターを発ってイザークへ行こうとしたらエーヴェルさんに止められたんだ。娘も連れて行ってくれってな。それがこの娘マリータだ」
左の少女を指差した。
「何でも幼い頃親父さんに連れられて旅をしていたらしいが、目を離した隙に奴隷商人にさらわれ、コノートの街で鎖に繋がれて売り物にされているところをエーヴェルさんが助けて養子にしたらしい。一緒に解放軍に連れて行ってほしいってな。オレは断った。世話になっているエーヴェルさんの頼みでマリータを連れて行くことにした。それで大急ぎでイザークへ戻ってきたら今倒れてるこいつらが村に襲いかかるとお脱炭でやっつけたらそこにあんたたちが来たってわけだ」
「へえ、そうだったの」
「そういうこと」
「で?あんたたちはどうする?オレたちは残った子分たちを集めてそれから行くが」
「私たちはすぐに行くつもりですが」
「そうか、解放軍はガネーシャにいるからな。後はそっちに向かえよ」
「ありがとうございます」
アスベルは例を言った。
「じゃあ元気でな。解放軍でまた会おう」
ガネーシャの方へ飛んでいく一行にリフィスたちは手を振った。一行もそれに返した。
「ねえ、あのリフィスって人の話だけど・・・・・・」
「何?」
「絶対に嘘が入ってるわよ」
「サフィさん見る眼違ってたじゃない。多分あの人のことが好きなのよ」
「ふうん、けどいいんじゃない?」
フィーは素っ気なく言った。
「根は悪い人じゃないみたいしね。それに戦力になるんだったら問題ないわよ」
「うーん、それもそうね」
「行きましょう」
「ええ」
一行は翼の速度を速めた。その下には山々と碧い湖よ河が広がっていた。
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