Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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無印編
第七話 就職先と……
side 忍
衛宮君、いや士郎君が帰り、恭也と共にのんびりとお茶を楽しむ。
だけど結構反則よね。
すずかが一発で堕ちちゃったし。
なんか恭也と似ているような……いえ、あれは恭也以上の天然の女誑しね。
そのことも気にならないと言ったら、まあ嘘になる。
でもなによりも気になることが
「親もおらず、たった一人……か」
そんな長い期間ではないけど士郎君の周囲に関してはある程度調べている。
だけど親はもちろん、友達や知り合いもいないようだった。
そして彼自身、他の魔術師の存在を知らないと言った。
吸血鬼の一族である分、裏の世界でも変わった一族やオカルトじみたことは他より詳しい。
もちろんそっち方面のコネもある。
でも魔術などというモノは聞いたこともない。
「士郎君のことが気になるか?」
「まあね」
恭也の言葉に苦笑しながら頷く。
すずかと変わらないぐらいの歳で仲間もいない。
恭也と正面から立ちあう事が出来る実力に、冷静に交渉もこなす精神力。
どれも子供が持つには不釣り合いのモノ。
だけど彼にはそれが必要だった。
それがなければ生きていけなかったのだろう。
一体どれだけの戦いを超え、地獄を見てきたのだろう。
「そういえば士郎君、学校とかどうする気なんだろうな」
「……そう言われればそうね」
士郎君の話では九歳。
すずかと同い歳だから普通なら小学生。
あまりにも自分達とは違う吸血鬼の事や魔術師のことでそっちまで気が回らなかった。
確か調べた中でも学校には行っていなかったはず。
その他にもこれからの生活資金などまだ知らないことも多い。
今回結んだ契約だってそうだ。
お互いの存在を容認し、戸籍偽造など裏へのパイプ役として月村が協力するということ。
それ以外は何もない。
ただ協力関係を結び、敵ではないというだけ。
もちろん仮に士郎君に何か問題があってもこちらが手を貸す必要もない。
だけどそれだと士郎君が余りにもさみしすぎる。
今までどんなところにいたかなんて知らない。
でもこのまま一人でいいはずがない。
「いい案ね」
自分の思いつきについ笑みがこぼれる。
「……今度は一体何を考えてるんだ?」
「きっと楽しいことよ」
恭也があきれたような顔でこっちを見てる。
なんか失礼ね。
でも士郎君にとっても悪い話じゃないはずだ。
もちろんすずかにとってもね。
side 士郎
月村と協力関係を結んでから一週間もしないうちに忍さんに呼び出された。
あの協力関係はお互いのことを容認しあう程度のものだし、こちらにコネのない俺のパイプ役としての意味合いが強い。
相手も明言はしてないもののそれは理解しているはずだ。
そんな相手から呼び出されるとは思いもしなかった。
もしや結界に何らかの不備が起きたのかとも思ったが、平日の昼間を指定してきたからその線の可能性も低いだろう。
なぜならこの時間であればすずかは学校に行っている頃。
結界の話であればすずかに立ち会ってもらった方が月村家全員に確実に説明ができるのだからわざわざ席を外してもらう必要がない。
そうとなるとすずかには聞かせにくい話ということだろうか?
考えても仕方がないのでとりあえず向かう事にする。
しかし攻撃される心配はないとはいえ、こうして自分の周囲にトラップや攻撃用の武器があるというのは落ち着かないものだ。
屋敷の中に入り、忍さんとお茶を楽しみながら結界に不備がなかったかなどなど簡単な世間話をする。
世間話といってもそれほど会話も続かないので、本題に入らせてもらう。
「で本日の呼び出しは何用かね?
まさか本当に世間話だけではあるまい」
「そうね。そろそろ本題に入りましょうか。
士郎君、あなたこれからどうするつもりなの?」
忍さんの質問の意図がわからず眉をしかめる。
これからどうするつもりか。
まずはこの世界の裏のことがわからなければ先はない。
それ以降のことはなるようになるというかこの世界次第といったところだ。
だがそれが月村に関係があるとは思えない。
「なぜそのようなことを聞く?
私のこれからの行動が月村に直接関係があるとは思えない」
「そうね。確かに月村には関係ない。
どちらかというと貴方のことが気になっての個人的な質問だもの
士郎君。あなたこれからの生きていくためのお金や学校はどうする気なの?」
ここにきてようやく忍さんが心配していることが理解できた。
確かに宝石や金の延棒を売ればお金は出来るが万が一に備えて使いたくないのが本音だ。
だが小学生の身ではまともに働けるはずもないし、いまさら学校というのも考えていない。
いやそれ以前にこの身体の年齢でいえば八歳から十歳程度。
自分自身でも曖昧で正確な年齢がわからないので、すずかと同じ九歳と説明したがそれは大した問題ではない。
もし今の肉体年齢で学校に行くとなれば間違いなく小学校。
こちらの方が問題だ。
それだけは勘弁願いたいというか嫌だ。
それに最近になって精神的な面で少し幼さが出てきているなと感じるところがある。
恐らくは子供に戻った身体に精神が若干引っ張られているのだろう。
だからといって小学生になろうなどとは微塵も思わないし、小学生になって何か得るものがあるとも思えない。
「学校には行く必要性を感じてませんので、資金に関しては裏の仕事でも稼ぐことは出来ます」
だが忍さんの次の言葉で俺の考えは若干揺らぐことになる。
side 忍
「そうね。確かに月村には関係ない。
どちらかというと貴方のことが気になっての個人的な質問だもの
士郎君。あなたこれからの生きていくためのお金や学校はどうする気なの?」
案の定というか士郎君は私の心配ごとをすぐに理解したみたい。
だけど
「学校には行く必要性を感じてませんので、資金に関しては裏の仕事でも稼ぐことは出来ます」
私の気持ちは分かっているんでしょうけど、学校等には行く気はないのね。
ここまであっさり言われると説得は難しい。
だけどまだ手はある。
「でも一応、学校に行かない?
行ってくれたらアルバイトの斡旋ぐらいできるわよ」
士郎君の表情が一瞬わずかにだけど揺らいだ。
士郎君ならわかるはずだ。
裏に関わる仕事をすればするほど悪い意味で顔と名前は売れていく。
腕が立つ、銀髪の子供となれば、余計に目立つ分なおさらだ。
しかも、裏の仕事に関われば、自然と敵は出来る。
士郎君が魔術師という秘匿するべき立場もあるんでしょうけど、士郎君の言葉の端々から顔が売れることを嫌っているのは気が付いていた。
それに表の仕事なら無駄に顔が売れることもほとんどない。
士郎君にとってもこれは好条件のはずだ。
「当主よ。それはいささか卑怯ではないか?」
「そう? 小学校に行くだけで少ないながらも資金を確保できるんだから悪くない条件でしょう?」
士郎君が悩んでいる。
あともう一押しかしら。
アルバイトの斡旋にはかなり興味を持ってくれたみたいだけど、学校に関してはかなり渋っている。
特に学校を小学校と言った瞬間に眉がピクリと反応してた。
そこまで小学校が嫌なのだろうか?
「それに学校に行かないと将来、基本的な知識を持たなくて恥かくわよ?」
「一応、大学レベルの学習は習得している」
あれ?
なんか予想外の返答が
というか大学レベル?
「……大学レベルという事は外国語の知識は?」
「英語とドイツ語、スペイン語、アラビア語、中国語、その他の主要な言語は使える」
……この子は本当に小学生なのだろうか?
下手をすればというか私や恭也より頭がいいんじゃないの?
うん。押し込もう。
説得は無理だ。
「小学校に入ってくれたら、希望の職を用意するわ。
もちろん給料も一般人レベルだしたっていいわよ」
斡旋するバイト先は決まっていたのだけど、そこら辺は月村の力技でどうにかしよう。
とりあえずは小学校に入れることが第一目標よね。
後はそれからだ。
side 士郎
「英語とドイツ語、スペイン語、アラビア語、中国語、その他、主要な言語は使える」
と言ったらものすごく驚いた顔をされた。
確かに九歳の子供がそれだけの知識を持っていたら驚くだろうな。
ちなみになぜこれだけ俺の知識レベルが上がったかというと、はっちゃけ爺さんの修行の一環である。
「わしの弟子ならばそれぐらい出来ねば話にならんからな」
の一言で勉強という名の地獄が始まった。
一問間違えば拳が飛んできて、二問間違えば魔弾が飛んできて、三問間違えば魔弾の雨が降り、それ以上間違えば宝石剣の斬撃が襲いかかる。
命がけの勉強であった。
二度としたいとは間違っても思わないが、それにより俺の頭は鍛え上げられたのだ。
なんか思考がずれたから戻そう。
俺の思考がずれた間、忍さんもなにか考え事をしていたようだが何か頷き
「小学校に入ってくれたら、希望の職を用意するわ。
もちろん給料も一般人レベルだしたっていいわよ」
ととんでもないことをおっしゃった。
……なぜこの人はなぜそこまでサービスする?
いや、それ以前に
「……そこまでして俺を小学校に入れたいですか?」
「もちろん」
即答ですか。
ここまで来るとどうやってでも俺を小学校に入れようとしそうだ。
「それに戸籍を作る上でその年だと、どうしても義務教育っていうのに引っかかるしね~」
「うぐっ」
この世界にも義務教育は存在するらしい。
ああ、逃げ場が減っていく。
さすがに諦めねばならんか
「わかりました。行きますよ」
「本当!!」
忍さんのうれしそうな顔を見て、一瞬後悔した。
大丈夫だよな?
割烹着の悪魔と似た雰囲気を持つこの人を信用していいのか若干悩むがたぶん、おそらく、生命には関わることがないと思っている。
もとい、心より願っている。
「ただし! 俺の希望の職があった場合のみです」
俺の言葉に神妙に忍さんが静かに頷く。
希望の職を用意すると言っていたが限度はあるはずだ。
この条件を付ければ、うまくいきさえすれば小学校は回避できる。
もっとも本当にどんな職種でも用意されれば小学校に行くしかないのだろうけど。
しかし、自分で言った事なのだが、希望の職種か。
何があるだろうか?
今までのバイトや仕事の経験なら居酒屋を含めた飲食店のアルバイト。
バイクと車の整備。
バイクは雷画爺さんの頼みでよくやっていたし、戦場では車やバイクなどの乗り物は貴重であり、修理して使うなんて当たり前だったから自然と身についた。
後は執事ぐらいか。
「飲食店系のウェイター、車やバイクの整備系、あとは執事ぐらいです」
俺の言葉に一気に忍さんの顔が笑顔になる。
ええ、そりゃもう全て私の計画通りと嗤う割烹着の悪魔のような満面の笑み。
個人的には見たくもない悪魔の笑みだ。
もしかしたら…………いや、どうやら地雷を踏んだようだ。
「それなら問題はないわね。はい」
と小学校の入学手続きを差し出された。
書類には『私立聖祥大学付属小学校』と書かれている。
ってすでに用意してたのか。
それも私立の小学校ってどんだけ手が回るんだ?
とそんなことにあきれている場合ではない。
「待て! 俺の職は」
「それなら問題ないわよ。士郎君の職はすずかの専属執事だから」
………この人は、今何と言った?
すずかの専属執事?
月村すずか、月村家当主である月村忍の妹。
あの子の専属執事?
「いやいやいや! 技能も聞かないでそんなんでいいのか!」
協力関係を結んだとはいえいきなり自分の妹のそばに俺を置くか?
そもそも技能や経験を一切聞いてもいない。
「じゃあ、執事の経験はあるの?」
「む、イギリスで貴族の執事の経験がある」
「それなら問題ない……じゃ………な…………い?」
あれ? 忍さんが固まった。
どうかしただろうか?
普通に執事の経験を言っただけなのだが
「……今のは本当?」
「このようなことで嘘を言ってどうするのかね?
ふむ。おやつにはいささか早いがケーキでも作らせてもらおう」
さすがに技能を信用されないのはなんか納得いかない。
「それはいいけど」
「ならば厨房と材料を借りるぞ。ノエルさん。
すみませんが先日借りた執事服、また貸していただけますか?」
「は、はい。こちらです」
ソファーから立ちあがりノエルさんと共に厨房に向かう。
その光景を忍さんはぽかんとした顔で見送っていた。
それほど驚くようなことだろうか?
ちなみに厨房に向かう途中でファリンさんと会ったので今からケーキを作ることを教えると
「わ、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」
と尋ねられ、特に断る理由もなかったので
「俺は構いませんよ」
と笑顔で承諾する。
それにしても初めて会ったときはオドオドしていたというか、警戒された感じがあったのだが、いや今でもそれはあるのだが、その俺について来るとは意外だ。
俺が作るお菓子に興味があるのだろうか?
まあ、俺の言葉にファリンさんの目が輝いているのだから気にしないでおこう。
思考を止めて、ノエルさんとファリンさんと三人で厨房に向かう。
そして、辿りついた月村家の厨房。
さすがだ。
綺麗に整理整頓された厨房。
「今服をお待ちしますので」
ノエルさんがそう言って厨房から出ていく。
ならば俺は下準備をしておこう。
下準備といっても別に調理をするわけではない。
この厨房のどこに何があるかを把握して、頭に叩き込んでいく。
場所の把握ができなければ、作業効率が落ち、無駄な時間が生まれる。
そんな仕事で満足できるはずがない。
やるからには完璧に
それこそ執事
そして、厨房の中の物の位置を把握し終わったとき、ちょうどノエルさんが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます。
あとこのエプロン借りますね」
厨房の隣の部屋でノエルさんが持ってきてくれた執事服に着替え、エプロンを身につける。
さあ、戦闘準備は整った。
始めようか。
side ノエル
衛宮士郎様。
はじめに出会ったときはお嬢様の敵になるかもしれない危険な相手という認識でした。
そして、今日が二回目の出会いとなったのですが、最初のイメージが吹き飛ばされました。
執事服を持って厨房に戻ってきた私を出迎えたのは猛禽類のような鋭い眼で厨房を見つめる衛宮様の姿。
そして、執事服とエプロンを身につける。
衛宮様が初めてこの屋敷を訪れた時も感じたことですが、
執事服にまったく違和感がないのです。
それこそ着慣れているかのように。
さらに驚愕したのがケーキ作り。
ケーキはシンプルなイチゴのショート。
でもその手際は素晴らしい。
作業には迷いもなく、いつもこの厨房を使っていると錯覚するほど
ファリンもその光景に目を丸くしている。
「あ、あの士郎君はいつからそんなにケーキとか作れるようになったんですか?」
「ああ、親父がね。こういった家事が苦手でやってたら自然とね」
ファリンの言葉に軽い感じで衛宮様が返事をしているけどそんなレベルではない。
どこかで修行していたといっても不思議ではないレベル。
それを当たり前のように言う衛宮様に内心苦笑していた。
side 忍
厨房の方に向かった士郎君をお茶を飲みながらのんびりと待つ。
正直な話、士郎君がどれくらいのレベルなのか判断がつかない。
まあ、半分以上はすずかの為だし、執事としての能力はあるに越したことはないけどなくても問題はないのよね。
それにイギリスで貴族の執事の経験があるとか言っていたけど、向こうの出身なのだろうか?
あの年で貴族の執事をしているっていうなら履歴書でも書かせたらびっくりするような経歴が出てきそうだ。
そんなことを考えていると
コンコン
ドアがノックされた。
ノエルかしら?
「どうぞ」
と私の返事を受け、ドアが開く。
それと同時に私は固まった。
それはなぜか。
ドアから入ってきたのは三人。
私が予想した通りノエルもいた。
そして、なぜかファリンも一緒だった。
でも一番驚いたのはノエルとファリンの前を歩きながらカートを押す執事の少年、衛宮士郎
「失礼致します」
テーブルのそばにカートを止め、ナイフを取り出す。
その時初めてカートの上にある綺麗にデコレーションされたイチゴのショートケーキと紅茶のポットとカップに気がついた。
「ノエルさん、忍お嬢様のカップを下げてください」
「はい。かしこまりました」
士郎君の指示でノエルが私が先ほどまで口をつけていたカップを下げ、
士郎君はケーキをカットする。
いや、それ以前にノエルに自然と指示を出しているあたり士郎君の方が子供なのに偉く見える。
それも違和感がないのだからとんでもない。
そんな事を思っている間にも士郎君は着々と準備をこなしていく。
カットしたケーキを丁寧に皿に、カートで運んできたカップに紅茶を注ぐ。
歩き方もそうだったけど、全ての動きが洗練されている。
「お待たせ致しました」
私の前に音もたてず、カップとケーキの皿を置く。
そして、静かに私の後ろに控える。
一口紅茶を飲み、ケーキを口に運ぶ。
紅茶の香り、ケーキのなめらかな生クリーム。
全てがピッタリとマッチした二つ。
全てがノエルの上を行く。
これだけの紅茶もケーキもなかなかお目にかかることは出来ない。
「はあ、私の完敗。
士郎君、すずかの専属執事としてよろしくお願いしますね」
「かしこまりました。忍お嬢様」
私の言葉に、士郎君は静かに礼をする。
全てが完璧な執事。
これは完全に私の負けだ。
そして、月村家に新たな執事が誕生したのである。
後書き
少し時間があったので予定外更新決行!
たまにはこんな日もあるのです。
ではでは
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