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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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9月
第6章 彩れ文化祭
  第125話『2学期』

2学期が始まった。夏休みエンジョイ気分はまだ抜け切れていないし、まだ気温も高くて日差しも強いが、夏が終わったという実感は徐々に感じ始めていた。


「文化祭、かぁ」


1限後の休み時間。クラスのみんなが各々好きなように過ごす中、晴登は窓の外を眺めながら呟いた。

これは今さっき聞いたこと。『文化祭』という漫画でよくある激アツイベントが、10月の初めにこの学校でも催されるらしい。今は夏休みが終わったばかりで9月だから、1ヶ月の間に準備をするのだと。


「楽しみではあるんだけど、目立つことはやりたくないなぁ……」


生まれてこの方文化祭というものを体験したことがないからよくわからないが、基本的にクラスごとに出し物もしくは出店を出す必要があることは知っている。その中でよく聞くのは劇とか喫茶店とか、コミュ障には少しハードな催しだ。そういった類はあまりやりたくない。裏方なら要相談だ。


「内容は明日決めるらしいぞ。お前は学級委員なんだから、多少勝手が効くだろ」

「それはそれでダメだろ……」


ここで、休み時間を一緒に過ごしていた大地がそう提案してくる。
彼の言う通り、明日の午後は何の授業もなく、時間が空いていた。文化祭の出し物を決める時間なら納得がいく。
それにしても、彼の提案は如何なものか。職権濫用というやつじゃなかろうか。


「ブンカサイってハルトのマンガで見たことあるよ! ボク、劇とかやってみたいなぁ」

「え、マジ……?」


次に発言したのは結月。彼女は晴登よりもさらに文化祭に馴染みがない訳だが、そんな彼女は劇に興味を示したようだ。
ついさっき晴登が嫌だと思っていた内容だったので、思わず難色を示してしまう。


「結月ちゃん、晴登にそういうのキツいと思うぜ?」

「え〜。でもハルトが王子様になってるところ見たいなぁ。それでお姫様はボクで……えへ、えへへへ」

「変な笑みが溢れてるぞ、結月ちゃん……」


妄想が口から溢れ出る結月に、大地も思わず苦笑い。漫画で得た偏った知識ゆえのロマンチックな夢を見ているところ悪いが、自分が王子様だなんてとても思えない。結月がお姫様なのはいいと思うけど。


「それで、王子様は何したいんだ?」

「その呼び方やめろよ。さっきも言った通り、目立たなければ何でもいいよ」

「普通だな。そんなんじゃ面白くないだろ。ここは定番のメイド喫茶とかいこうぜ」

「なら別に俺と関係は……待て、何だその目は。俺着る側なのか? 絶対嫌だぞ!」


メイド要素はさておいて、喫茶店なら晴登は裏方でもいいし大丈夫……かと思いきや、大地がニヤニヤとしているのを見て、さておいた要素が目的だと気づき、先に予防線を張っておく。


「メイド服ってあのヒラヒラしてるやつでしょ! ハルトが着たら面白そう!」

「何で結月はそっち側なの!?」

「ほら、2対1だ。どうする?」

「だからやらないって! てか、着るなら結月でしょ!」

「いやボクは似合わないからいいよ」

「そこは遠慮するのね!」


まさか結月まで食いついてくるとは思わず、分の悪い討論となってしまった。大地はともかく、結月は純粋な興味で言ってそうだから憎めないところがある。
だとしても、メイド服と言えば女性が着るものなので、晴登ではなく結月が着る方が道理というもの。外国人顔負けの結月の容姿なら絶対に似合うと思うのだが、本人が乗り気じゃないので実現は難しそうだ。


「でも、ハルトがどうしてもって言うなら……」

「えぇ? けどちょっと気にな──」

「──ねぇねぇ、転入生見た?!」

「うわっ、ビックリした。どうした莉奈? 転入生って何の話?」


晴登が誘惑に負けそうになったところで、どこからともなく現れた莉奈が大きな音を立てて晴登の机に両手をついた。その音に驚きつつも、聞き逃せないワードについて問い返す。


「知らないの? 2組に新しく来た女の子よ! すっごく可愛いの!」

「2組っていうと、優菜ちゃんのクラスか。可愛いと聞いちゃ黙ってられんな。ちょっと見に行くか」

「なら俺も行こうかな」


転入生、それも可愛いと言われれば、特に意図はなくても一目見てみたくなるのが人の性である。大地につられて晴登も席を立つと、


「おっと。どうしたの、結月?」

「……別に」


そんな晴登の袖を、結月の細い指がクイッと引っ張る。見ると、彼女は何か言いたげな表情をしているが、それ以上は何も言ってこなかった。


「? ほら、結月も行こう?」

「……うん」


結局、何がしたかったのかよくわからないまま、晴登は結月も連れて転入生を見に行くことにした。







「え〜っと転入生は……あ、あの子よ!」

「え、あの子!? マジで可愛いじゃん!」

「へぇ〜……って結月、痛い痛い!」


2組のクラスに着いて、窓際の方で目的の美少女を発見する。しかしここからは横顔しか見えず、しかも魔導祭の時に"晴読"で目が悪くなった影響が少し残っているせいでよく見えないのが残念だが、クラスの人たちに囲まれて笑顔を浮かべているのはわかる。
……と、そこまで見たところで、腕に抱きついている結月の力が増す。


「皆さんも天野(あまの)さんが気になりますか?」

「あの人、天野(あまの)さんって言うんだ」

「凄く元気な子ですよ。クラスにもすぐ打ち解けましたし」


教室の外から様子を眺めていた晴登たちの元に現れたのは優菜だった。微笑をたたえ、天野という名の転入生がクラスの人たちと馴染む様子を見ている。
そういえば、彼女もこのクラスの学級委員だったか。新しい仲間がきちんと輪に加われるかは気になるところだろう。


「せっかくですから皆さんとも仲良くして欲しいですけど……今はまだダメそうですね」

「ううん、また来るよ。ありがとう優菜ちゃん」


せっかくなら紹介してあげようと優菜は思い立つが、まだ転入生の回りにはクラスメイトが群がっている。今すぐには無理だろうということで、大地がそう言って、ひとまずは退散することに決めた。


「……?」


そうして2組を後にしようとしたところで、不意に転入生と目が合った気がした。ほんの一瞬、こちらを一瞥したのだ。
廊下からこちらを見る他クラスの人がただ気になった。彼女からすればそれだけのことのはずだが、何だろうこの感じ。既視感とも呼べる違和感を覚え、晴登は不思議と彼女から目が離せなくなる。


「どうしたのハルト?」

「え、いや、何でもない……」


しばらく転入生のことを見ていると、腕を組んだままムスッとした表情で結月がこちらを見てくるので、ひとまずその場は誤魔化した。


「にしても、この時期に転入って珍しくないか? まだ中学1年目だぜ?」

「親の都合とかそんなんでしょ」


自分の教室に戻る道中、大地が放った疑問に莉奈がそう返した。
確かに、親が転勤するから転校するというのはよくある話だ。決して珍しくはない。


「親の都合、か……」


ただ、「親の都合」と聞くと、晴登の頭の中に思い浮かぶ人物がいた。普通の人と見た目が少し異なる彼は両親に逃げられて、今も一人暮らしを続けている。人様の家庭事情だからあまり深く首を突っ込むのは良くないと思うが、そのままでもいいのだろうかと、ついお節介を焼きたくなってしまう気持ちもあった。

今は友達として彼の学校生活を支えているが、いずれはそのことに向き合う時が来るのかもしれない……なんて、考えすぎだろうか。






「……暇だね」

「……暇だな」


放課後になり、魔術室に集まった晴登と伸太郎は2人でため息をつく。晴登が部長になってから初めての部活動だというのに、一言目が「暇」では示しがつかない。


「まぁ部長たちがいた頃から暇ではあったけども」

「もう部長はお前だぞ? 呼び方変えねぇと」

「あ、そっか。じゃあ黒木先輩と辻先輩? なんか慣れないな……」


関係性が変われば、呼称も変わってしまうというもの。全然口に馴染まないこの呼び方も、これからはやっていかなければならない。そのうちまた間違えると思うけど。


「そういや結月はどうした? 何か用事か?」

「いや、それが……今朝なぜか結月の機嫌を損ねちゃったみたいで、部活に行かないって言われちゃって」

「お前のことなら何でも全肯定の結月がか? 非常事態だな」

「そんな大袈裟な……」


口ではそう否定してみるが、あながち間違いでもないかもしれないと晴登自身も思ってしまうほど、結月の全肯定ぶりは凄まじい。だからこそ、今回の一件は悩みどころである。


「心当たりは?」

「1限目の休み時間に、転入生を見に行こうとした時かな。何か言いたげにしてたんだけど、結局よくわかんなくて」

「あ〜そりゃお前──」


晴登が思い当たる節を述べると、伸太郎は何かに納得したような表情を浮かべる。しかしそれは決して、心当たりの意味を理解したのではなく、


「何も言われてないなら、わかんねぇな」

「でしょ? 何でだろう……」


残念ながら晴登と同様に、原因がわからないことに納得していた。
テレパシーでも使えれば結月が思っていることを理解できたのだろうが、生憎そういった魔術は持ち合わせていない。口に出してくれないのだから、わからないのも当然である。


「女心は複雑って言うけど、実際めんどくせぇな全く」

「俺はまだ結月のことを全然わかってあげられてないってことなのかな……」

「うっ、そんなに落ち込むなよ。逆にお前らでも喧嘩するんだなって俺は安心したぜ」

「安心?」

「全然特別なことなんかなくて、普通だってことだよ。まぁ、俺には普通が何かもわかんねぇけどな」


伸太郎は肩を竦めて、自嘲気味に言った。彼に恋人がいるという話は聞いたことないから、わからないとはそういう意味だろう。
しかし恋人との普通の付き合い方なんて、経験があってもなくてもよくわからないと思う。晴登自身、今までが普通だと思っていたから、喧嘩しているこの状況を異常と捉えてしまっていた。気にしすぎなのだろうか。


「じゃあ、こういう時の普通の解決法って何だろ?」

「何で俺に訊くんだよ。でもそうだな……結局、直接話し合うのが一番じゃないか?」

「そうだね……うん、そうしよう! ありがとう、伸太郎!」

「……っ、よせって。大したこと言ってねぇから」


伸太郎の提案に感謝すると、彼は頬をかいて視線を逸らした。わからないと言いながら、ちゃんと答えを考えてくれる辺り、やっぱり彼は優しい。仏頂面さえ改めれば、クラスの人気者になれると思うのに。


「それで、今日の部活はどうすんだ? 結月どころか、2年生の先輩すら来てないけど」

「う〜ん、正直魔術部って普段何してるのかよくわかんないしなぁ」

「おい、部長がそれ言ったらおしまいだろ」


そうは言われても、本当にやることがわからないのだから仕方ない。風香に教えてもらったトレーニングでもしていようか。それとも、


「何かイベントとかあると面白いんだけど──」


そう、淡い期待を口にした時だった。


「こんちは〜!!」


大きな声と共に、ドアが大きな音を立てて開け放たれた。
びっくりして見てみると、そこに立っていたのは、短い茶色の髪を後ろに結った、笑顔が眩しい少女である。うろ覚えだが、その顔には見覚えがあった。


「確か転入生の……天野さん、だっけ?」

「はい! うち、天野 (とき)って言います! この部活に入部希望です! よろしくお願いしまーす!」


少女はそう元気に言い放ったのだった。


──イベントの始まりである。 
 

 
後書き
気づけば前回の更新から1ヶ月経っていたので、急いで更新しました。ハッピーハロウィン、どうも波羅月です。え、もうハロウィン終わった? そんな……。いやでもまだこの物語のハロウィンは終わってない……!

ということで、以前6章まであと数話とか何とか言ったと思いますが、少し変更して今回から6章に入ります! 突然のことですがお許しください。理由は特にないです。強いて言えば都合が良いからです()

内容は章タイトルの通り『文化祭』! 魔術から離れてようやく学校らしいイベントになりました。加えて『転入生』! これも新学期にふさわしいイベントでしょう! うーん学校らしい! これでこの物語が学園モノであることを思い出せます。最近物騒な話が続いたので、彼らには羽を伸ばしてもらうことにしましょう。伸ばした後は……まぁその話はいずれ。

6章は5章ほどの長編にはならないと思いますが、せっかくの機会なので普段焦点が当たらないキャラに注目できたらいいなと思っています! 張り切って行きましょう!
それでは今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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