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イベリス

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第七十三話 何の価値もない思想家その二

「愛ちゃんや友達と遊んで部活に行ってアルバイトもな」
「していいのね」
「ずっといい勉強になるからな」
「そうなのね」
「本当にあんな奴の本や言ってることはな」
「意味がないのね」
「そうだ、だからお父さんは言わないぞ」 
 絶対に、そうした言葉だった。
「吉本隆明の本を読めとはな」
「言わないのね」
「言う筈がない」
「お母さんもその人知ってるけれど」
 母も山かけ蕎麦をすすりつつ話した。
「読んだことないわ、それで読まなくてもね」
「何ともないのね」
「これでも学生時代本は読んできたのよ」
 そうしてきたというのだ。
「お母さんもね」
「どんな本読んできたの?」
「あんたみたいに漫画とか娯楽の小説もで」
「当時はラノベって言わなかったの」
「お母さんはあまり言ってなかったわ」
 実際にというのだ。
「もう定着していたけれど」
「ライトノベルって言葉も」
「けれどね」
 それでもというのだ。
「お母さんはそう呼んでたの」
「そうだったのね」
「それで純文学もね」
 こちらもというのだ。
「読んでたわ、けれどね」
「それでもなの」
「思想書は読まなくて」
「吉本隆明もなの」
「読んだことなかったわ、けれどよ」
「困ったことはないの」
「武者小路実篤を特に読んだわ」   
 純文学の本の中ではというのだ。
「けれどね」
「それでもなの」
「困ったことなんてね」
 吉本隆明を読んだことはなくともというのだ。
「全くね」
「ないのね」
「ないわよ、全くね」
「そうなのね」
「だからあんたもね」
 咲の目を見て言った。
「別によ」
「吉本隆明は読まなくていいのね」
「これが武者小路実篤なら言うわよ」
「読みなさいって」
「一冊でもね」 
 そうするというのだ。
「そうしえるわ」
「けれど吉本隆明は」
「お母さんは元々思想書は読まないから」
 だからだというのだ。
「読んだことないわ」
「それで困らないのね」
「別にね」
 まさにという返事だった。
「一度もそう思ったことはないわ」
「そんなものなのね」
「思想書と言ってもね」
「じゃあ純文学は」
「そっちは読みなさい」
 絶対にという言葉だった。
「あんたもね」
「そうなのね」
「色々な人の色々な作品をね」
「中学の時から読んでるけれど」
「これからもよ」
 純文学の作品はというのだ。 
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