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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第128話:2人のパフォーマー

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はシンフォギアのストーリーからは少し外れたオリジナルの話になります。今まで顔を合わせる事の無かった2人の魔法使いが遂に相対します。 

 
「ん~~…………」

 今、颯人はある事に頭を悩ませていた。
 それと言うのも先日、地下の共同溝に出現したアルカノイズへの対応に響・切歌・調の3人が向かった。そこで3人はオートスコアラーのミカと遭遇したのだが、そこで3人共が負傷したのである。
 勿論ただの負傷であれば颯人も頭を悩ませたりはしない。ミカはオートスコアラーの中でもトップクラスの戦闘力を持つと言うし、如何に強化されてイグナイトモジュールを搭載したシンフォギアであっても敗北する可能性は無くは無いだろう。

 問題なのは、響の戦い方にあった。
 まるで八つ当たりするような戦い方でアルカノイズを蹴散らし、ミカへと単身突撃という彼女らしくない戦いをして連携を崩した挙句、ミカからの攻撃を受け負傷。そして彼女をフォローしようとした切歌と調も、思う様に力が発揮できずに敗北を喫してしまったのだ。

 これにより共同溝は大きく破損し、それだけでなくその戦いの結果から切歌と調が仲違いしてしまったのである。
 気になって颯人が話を聞いてみたところ、戦いの最中に響が泣いていたりと様子がおかしかったことを確認。更に未来にも話を聞いてみると、どうやら過去に蒸発した筈の父親と再会し、そこで何らかのトラブルがあったようだと言うのだ。

 戦いはまだまだこれからだと言うのに、家族トラブルや仲違いで能力を十全に発揮できなくなるのは非常にマズイ。しかし切歌と調の2人はともかく、響に関しては完全に家庭内の問題。迂闊に部外者が首を突っ込む訳にもいかないのだが…………

「そうも言っては……いられんよなぁ」

 このまま座して待っても事態が好転する保証はない。であるならば、何らかの行動を起こす必要があった。

 そんな事を考えつつ、颯人は地図を片手に街中を歩いている。頭を悩ませつつ、周囲を見渡して地図に目を落とし、時折地図に何かを書き込んでいた。

「ったく、ウィズもウィズだよな。こっちの苦労も知らずによ……いい加減俺にもデュープ使わせてくれたって良いじゃねえか。ケチなんだから」

 ぶつくさ文句を言いつつ、地図と睨めっこをする颯人。地図上には幾つか線が引かれており、更にはバッテンマークが付けられている。

 そのまま暫く1人地図を手に街中を歩き回っていた颯人だが、流石に何時までも歩き続けるのは疲れるというもの。不意に目に入ったドーナツの移動販売を見つけた彼は、休憩がてら腹ごしらえをとドーナツを幾つか購入し近くのベンチに腰掛けた。

「はぁ~ぁ、全く……考える事が多くて大変だぁねぇ」

 ボヤキながら缶コーヒーを片手で空けつつドーナツを齧る。疲れた体が砂糖の甘さで喜ぶのを感じ、コーヒーの苦みで気を引き締めつつ颯人は地図を見た。
 その地図を見る彼の目は、何時にも増して真剣だ。

――ウィズとアルドが言う通りなら……――

 地図を眺めつつ颯人はドーナツを一つあっという間に完食し、2個目を取ろうと紙袋の中に手を突っ込んだ。
 のだが、そこにはある筈のドーナツが存在せず空っぽとなっていた。

「……は?」

 一体もう1個は何処に行ってしまったのか? まだ食べていない事は確実だし、店員がちゃんと2個入れるところも確認している。にも拘らずドーナツが片方消えている事に、颯人は思わず紙袋をひっくり返して上下に振ったりして消えたドーナツの行方を捜した。

「ハロ~!」

 そんな彼の耳元で誰かが陽気な声を上げた。声のする方を見れば、そこには颯人と同年代だろう帽子を被った男……ソラが笑顔で手を振っているのが見えた。ソラの片手にはプレーンシュガーのドーナツが握られている。
 それは颯人が無くしたと思っていたもう一つのドーナツと同じ物。自然と颯人の目が不機嫌を表す様に細まり、ドーナツとソラの顔を交互に見ながら空の紙袋を潰した。

「君が明星 颯人だよね? 僕はソラって言うんだ。よろしくね!」
「挨拶代わりに他人のドーナツ勝手に取るとは、手癖の悪さは聞いてた通りだな?」
「あれ? 僕の事聞いてた?」
「クリスちゃん達から……それに、奏からも聞いてたよ。世話になったらしいな?」

 颯人の口から奏の名前が出た瞬間、ソラの顔が厭らしく歪み手にしたドーナツを齧った。自分が買ったドーナツを食べられていく様を見ながら、颯人は紙袋に続き広げていた地図を仕舞った。

「……で? 何の用だ?」
「用が無いと来ちゃ駄目かな?」
「お前、ジェネシスの幹部だろ? そんな奴が用も無く会いに来れるほど暇なのか?」

 颯人から向けられる冷たい視線。しかしソラは全く気にした様子を見せず、ドーナツを食べ終えると口周りの砂糖を拭った。

「ンフフフフッ! 君とは一度会っておきたくてね。だって君と僕は……よく似てるから」
「はぁ?」

 ソラの言葉に颯人が露骨に顔を顰める。こんな奴と自分、どこがどう似ているんだと言わんばかりの表情だ。

「君、他人を驚かせるのが好きなんでしょ? 僕もなんだ。他人が驚く姿ってすっごく面白いよね! 分かる、凄くよく分かるよ!」

 1人上機嫌に話すソラを、颯人は何時になく冷たい目で見ていた。彼のこんな顔は、奏ですら見た事は無かっただろう。と言うより、奏には絶対に見せたくない。

「……奏の事も、驚かしたいから近付いたってのか? あんなホラ吹いてまで?」
「そうだよ? 奏ちゃん……いいよね~! あの子が驚いた顔、凄く良かったよ! 特にさ、君が死ぬかもって聞いた瞬間とか最高!!」

 心の底から楽しそうに笑うソラに対し、颯人の顔からはどんどん表情が抜けていく。それに気付いているのかいないのか、とうとうソラは自ら地雷の上に足を乗せ力を加えた。

「僕あの子気に入っちゃった! ねぇ……彼女、僕に頂戴♪」
「…………ふっ」

 歪んだ笑みを浮かべるソラに対し、颯人は肩を竦めて鼻で笑うと彼にゆっくり近づき肩に優しく手を置いた。

 そして、次の瞬間握り締めた拳でその歪んだ笑みを叩き割る様にソラの顔面を殴りつけた。

「うぐっ?!」

「こいつは警告だ。2度と奏にその面見せるな。次奏の前に出たらこんなもんじゃ済まねぇぞ」

 颯人は未だ嘗てない程の怒りを抱いていた。こんな奴に奏が誑かされ、一度は自分から離れて行った事が許せなかった。
 そして颯人は決意した。何が何でも、この男から奏を守って見せると。

 一方殴り飛ばされたソラはと言うと、颯人に殴り飛ばされたにも拘らずその笑みを崩すことなくまるで吊り上げられたマリオネットの様に立ち上がった。

「クヒ、クヒヒヒヒッ! 大事なんだね、奏ちゃんが? 俄然欲しくなっちゃったよ!」
〈ドライバーオン、ナーウ〉

「取れるもんなら取ってみろ。俺は絶対に奏を離さねぇ」
〈ドライバーオン、プリーズ〉

 互いに向かい合いながらドライバーを装着し、左手に指輪を嵌める2人。睨み合う2人の間から、束の間全ての音が消えた。

「「――――変身!」」

〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
〈チェンジ、ナーウ〉

 刹那の静寂の直後、変身した颯人とソラはそれぞれ手に武器を取り相手に斬りかかった。

「ハッ!」
「フンッ!」

 颯人の武器はウィザーソードガン一つ。それに対してソラは、透とは違い同じ形状の剣2本。ソラは2本の剣を巧みに操り、颯人の攻撃を防ぎつつ反撃の斬撃を繰り出した。

「ハッ! ハッ! シッ!」
「くっ!? んのやろッ!?」

 両手に持った剣を合体させ、鋏の様にした状態で突き出してくるソラの攻撃を颯人はソードモードのウィザーソードガンで受け止める。後ろに下がりつつ勢いを殺した颯人は、身を伏せる事でその一撃をやり過ごし追撃を放とうとしてきたソラの腹に一撃を加えた。

「ハッ!」
「ぐっ?! くっ、やるじゃないか。なら、こんなのはどうかな!」
〈ハイスピード、ナーウ〉

 ソラが魔法を発動させると、彼は目にも留まらぬ速さで動き回った。そのスピードに翻弄され、颯人は攻撃を当てる事が出来ない。

「くそっ!? すばしっこい……ぐぁっ?!」

 相手の姿を捉える事も出来ないまま、颯人は無防備な背中を斬りつけられた。背後からの攻撃にその場で膝をつくと、ソラは颯人の前に悠然と立つ姿を見せた。武器を持つ両手を腰の後ろに回したりして、完全に余裕を見せている。

「ンフフフフッ! どうしたの? もうお終い? それなら、これから奏ちゃんを迎えに行っちゃおうかな~?」
「ハッ! 冗談……」
〈ウォーター、プリーズ。スィー、スィー、スィー、スィー!〉
〈リキッド、プリーズ〉

 颯人は立ち上がりながら姿をウォータースタイルに変化させると、リキッドの魔法を使用し体を液状化させてソラに突撃した。不定形な姿となって迫る颯人をソラが剣で切り裂くが、液状化した颯人の体には何のダメージも入らない。

「くっ!?」

 堪らず超高速でその場を離れ、距離を取って体勢を立て直したのち再び攻撃に移行するソラだが体を自在に液状化させられる颯人には全くと言って良いほど意味を成さなかった。例え速く動けても、攻撃できない・攻撃が通用しなければ意味は無い。

「今度はこっちの番だ!」

 斬撃に加え銃撃までをも駆使して、颯人はソラを追い詰めていく。しかし相手は敵組織の幹部、この程度で倒れてくれるほど甘い存在ではない。

 一瞬の隙をつきソラが颯人から距離を取る。既にお互い魔法の効果時間が切れている為、これで状況は仕切り直しとなった。

「やれやれ、流石だね。あのウィズから手解きを受けてるだけの事はあるって感じかな? でも分かるよね? 僕、まだ本気出してないって事」

 それは颯人も薄々感じていた事だ。颯人はまだ、話に聞いていたソラの不可解な動きや攻撃を見ていない。
 つまり今までの戦いは、敢えて本気を出さず颯人の力を見定める為の準備体操の様な物という事になる。

 本番はここから…………

「さぁ、行くよ!」

 ソラが流れるような動きで颯人に接近し剣を振るう。それを颯人は防ぎ、反撃を繰り出そうと身構えた。

 その瞬間遂にソラが本気を出した。

「ハッ!」

 ソラが繰り出した一撃は、颯人の防御に防がれる……と思いきや、何とソラの一撃は颯人の防御の目前を素通りした。そして返す刃で放たれた一撃は、防御の為に体勢を固めている颯人の無防備な脇腹を捉えた。

「がっ!? このッ!!」

 一撃入れられはしたが、そんなに大した攻撃ではない。颯人は攻撃を放った直後でまだ体勢を立て直せていないソラにソードモードのウィザーソードガンを振るうが、その一撃も虚空を斬るだけで相手の体を捉える事は出来なかった。

「ッ!?」
「それっ!」
「ぐぅっ?!」

 自身の攻撃や防御は全て空を切り、反対に相手の攻撃は全て直撃してくる。それは以前、洋上の戦いで透がソラを相手にした時の光景の焼き増しのようであった。

 一方的な攻撃を許し、見る見るうちにボロボロになっていくウィザードに変身した颯人。自慢の宝石のように輝く鎧や仮面が傷付いていくのを、対するソラは楽しそうに見ていた。

「アハハハハッ! さぁ、そろそろトドメ!!」

 立つのもやっとな様子の颯人に、ソラが最後の一撃を放とうと迫る。それに対し颯人は悪足掻きの様な一撃を放つが、当然の様に攻撃は空を切り無防備な姿を晒した。そこを見逃さずソラが剣を振り下ろし――――

「――――そこだ!!」

 その直前、狙っていたかのような颯人の一撃が逆にソラを捉えた。

「うぐぁっ?! な、何……?」
「はぁ、はぁ……どうした? 鳩が豆鉄砲喰らったような顔してよ。俺の反撃を喰らった事がそんなに信じられないか?」
「ふん…………そんな破れかぶれのラッキーヒットで調子に……」
「なら試してみるか? ほら、来いよ」

 挑発して指を自分に向けチョイチョイと動かす颯人に、ソラは身を震わせて突撃した。先程と変わらぬ攻撃。颯人が迎え撃つところまで何も変わらず、そしてやはり颯人の迎撃は何もない空間を斬るだけに終わった。

――今度こそ!!――

 しかしまたしてもソラが一撃加える前に、颯人が割り込む様な一撃をお見舞いした。

「ぐぁぁっ!? な、何故? 君、僕の動きが見えてるのか?」
「あぁ……それ、アイソレーションだろ? クリスちゃんと透の話を聞いてピンときた」

 アイソレーションとは色々な場で使われる言葉だが、この場合に限って言えばパントマイムなどのパフォーマンスで使われるものの事を指す。体の各部分を単独で動かす動きの事であり、プロのパントマイマーやストリートダンサーがこれを駆使するとあたかもそこに見えない壁が存在したり、前に向けて歩いているのに後ろに向かって進んでいるように見えるのだ。

 ソラが駆使しているのも正にそれで、彼は戦いの中で相手の目を錯覚させることで攻撃や防御のタイミング・距離感を狂わせていたのである。透は特に動体視力が優れているので、ソラのアイソレーションはとても効果的に作用していた。

「まさか、僕の動きが見破られるなんてね……」
「俺を誰だか忘れたか? 奇跡の手品師の息子、明星 颯人だぞ。この程度のパフォーマンス位俺だって知ってる」

 そう言いながら颯人はさも当然の様にムーンウォークでソラから距離を取った。

「さぁ、これでタネは割れたぜ。そろそろ決着といこうか」
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉
「フフフッ、ハハハハッ!」
〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

 互いに武器を捨て、必殺の一撃を放つ。

「ハァァァァァァッ!!」
「ヤァァァァァァッ!!」

 放たれた飛び蹴りがぶつかり合い、力が拮抗し激しい火花を上げる。だがそんな状態が長く続く訳も無く、行き場を失ったエネルギーは2人の間で弾け大きな爆発となって2人の体を吹き飛ばした。

「ぐあぁぁっ?!」
「がはぁぁっ!?」

 吹き飛ばされ地面に叩き付けられ、その場で変身が解ける颯人とソラ。痛む体に鞭打って立ち上がった2人の体はボロボロで、どれだけ激しい戦いをしたのかが伺える。

「はぁ、はぁ……くそ」

 もう颯人に変身するだけの魔力は残っていない。それはソラの方も同様で、今の一撃にかなりの魔力を使ってしまいもう立っているだけでやっとと言った様子であった。

 そんな状態でも、ソラは笑う事を止めなかった。

「ぜぃ、ぜぃ……フフフフフッ、今日はここ迄みたいだね」

 そう言ってソラが視線を向けた先には、こちらに向けて走って来る1台の車が見えた。恐らくこの騒ぎを聞きつけ、S.O.N.G.が駆け付けたのだろう。
 この状況では戦えないからと、ソラは大人しく引き下がる事を選択した。

「それじゃあ、今日は楽しかったよ。また今度遊ぼうね!」
〈テレポート、ナーウ〉

 一方的にそう告げると、ソラは颯人の前から一瞬で姿を消した。まだ転移するだけの魔力は温存していた強かさに、颯人は小さく舌打ちをした。

「颯人!?」

 そんな颯人の耳に、最愛の奏の声が響いた。車から降りて駆け寄ってきた奏は、傷だらけの颯人の様子に心配そうな目を向ける。

「颯人、大丈夫か!? 旦那から颯人がジェネシスの魔法使いと戦ってるって聞いて、それで――――」

 取り合えず颯人が無事な様子に安堵する奏。両肩に手を置き安堵の溜め息を吐いてくれる奏の姿に、颯人は居ても経ってもいられず彼女を抱きしめた。

「わぷっ!? ちょ、颯人?」

 突然抱きしめられ奏が困惑するが、颯人は構わず彼女を強く抱きしめた。その姿からは絶対に離さないという強い意志を感じる。

 奏はそれだけで、颯人に何があったのかを大体察し何も言わず彼の背中に手を回した。

「奏……お前は絶対、俺が守るからな」
「うん……信じてるよ。颯人」

 奏からの返答に、颯人は漸く肩から力を抜いた。

 そしてその状態で彼が顔を上げると、遠く離れた所でソラがこちらを見ている事に気付いた。目を細め、思わず先程よりも強く奏を抱きしめる。

 その様子を見て、ソラは今度こそ姿を消した。しかし颯人はそのまま暫く、まるでソラが再び来ることを警戒するかのように奏を抱きしめ続けるのだった。 
 

 
後書き
という訳で第128話でした。

遂に颯人とソラの邂逅と相成りました。ここで言っておきますと、本作のソラは原作と嗜好が異なっていたりします。まぁ禍々しさはそこまで変わらないですが。

颯人とソラの戦いは今回は引き分けと言う形で終わりましたが、両者は今後もぶつかり合う事があるかもしれません。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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