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綾小路くんがハーレムを構築する話

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清隆くんのお宅訪問 伊吹編

3月中旬の朝。


AM7:00


あたし、伊吹澪はいつも通りの時間に目覚めた。あたしは目覚ましやアラームなど機械に基本頼らず、体内時計で目を覚ます。


機械であろうと誰かに睡眠の邪魔をされたくないからだ。


伊吹「ん…?」


起き上がった瞬間、異変を感じた。視界が少しボンヤリするっていうか、ちょっとふらつく感じ。


風邪ではないわよね……自分の手を額に置いて確認してみた。


少し熱っぽく感じるけど…これくらいなら別に大丈夫……かな?


伊吹「てか、風邪ごときで学校休むなんて考えダサいし……さっさと動くか。」


あたしはベッドから降りて眠気覚ましの筋トレをやる。これは格闘技を習い始めてからの昔ながらの習慣ってやつだ。


腕立て、スクワット、腹筋をそれぞれ30回2セットずつ軽めにやってから、汗を流すため浴室に向かう。


伊吹「ふー……」


熱いシャワーを一気に身体に浴びせて汗を流す……この瞬間が一番気持ちが良くて好きだ。


浴室から出た後、バスタオルで頭と体を適当に拭いて、下着だけ着けてそのままの格好で冷蔵庫に向かう。2㍑入りのスポドリをコップに分けずにそのまま豪快に飲んだ。


親がこの現場に居てあたしの今の格好を見ていたら服を着ろとかグチグチ口煩く小言を言うだろう。


でも、今は寮で一人部屋。誰か文句を言うやつは居ない。他に誰か見てるわけでもないからあたしは気にしないし、むしろノビノビ自由に過ごせるこの生活は気に入ってる。


朝食代わりのエネルギー飲料を持ってテレビをつけて朝の占いを見る。これがいつものあたしの日常だ。


『1位はてんびん座のあなた!今日は何をやっても上手くいくでしょう♪そして最下位はー……獅子座のあなたで~す。今日1日災難に見舞われるかもしれません~ご注意下さい!』


獅子座のあたしは最下位だった。占いは好きだけど別に全て信じるわけじゃない。ただ、この結果に腹が立った。


伊吹「……今日の占いは全くの的はずれね。」


テレビに向かって皮肉を言いながら、テレビを消した。エネルギー飲料を一気に喉に流し込んで制服に着替えて、部屋を出た。


他の女子なら化粧だの身だしなみに時間をかけて学校に向かうんだろうけど、生憎あたしは気にしない。


だって時間の無駄だし面倒だ。そんな下らないことで時間をかける女の気持ちは全く分からない。


あたしは寮のエレベーターに乗らず、階段を使って下に降りる。軽い運動になるし、人との接触も避けられて一石二鳥だ。


長い階段を降りて、あたしは一人で学校に向かった。



1ーDクラスの教室。


ガヤガヤ……


教室の前まで来ると、中はうるさかった……特に女子。女子というのは集団だと本当にうるさい…。


まぁ、いつもあたしに突っ掛かってきたうるさい眞鍋が居なくなったから少しはマシだけど。教室に入るため、あたしは扉を開けた。すると…


伊吹「……」


あたしは違和感を感じた……。


あたしが教室に入った瞬間、うるさかった教室の中が静まり還ったからだ。普段クラスの奴等はあたしの事なんて気にしない。


それなのにクラスの女子の大半があたしに視線を向けた。その様子はまるで、珍しい物を見たような…そわそわしているような…何とも言えない視線だった。


あたしはその視線を無視して自分の席に足を組むようにして座って、頬杖をついた。


ポツポツと話しの続きをし始める女子たちだったけど…チラチラとこちらに視線を向けてくるのがうざったいことこの上ない。


一体なによ?言いたいことあるなら直接言ってほしいんだけど…


伊吹「はぁー……なんなのよ…」

椎名「おはようございます、伊吹さん。」

伊吹「椎名……何の用?」

あたしに話しかけてきたのは椎名だった。

いつも通り何ともふわふわしている空気をまとってる。

椎名「用なんてないですよ?お友だちの伊吹さんに向けて朝のご挨拶です。」

伊吹「あっそ……物好きね、あんた。」

椎名「どうしたんですか、伊吹さん?いつにもまして不機嫌ですね?」

伊吹「こんなに女子から注目浴びて機嫌が良いと思ってんの?うざったくてしょうがない…」

椎名「確かにクラスの皆さん、伊吹さんに注目してますね……何かあったのでしょうか?」

伊吹「それはこっちが聞きたいくらいなんだけど…」

椎名「私は気になるので聞いてきますね。」

伊吹「はぁ?ちょっ……」

椎名は女子の連中に混ざっていった。あたしの為にわざわざ聴きに行ったんじゃなく、単に自分が興味あるから行ったぽいわね……他人事だと思っていい気なものだ。

まぁ、実際あたしとしても原因は知りたい。こんな物珍しそうに視線を向けられるのは我慢ならないし…

椎名はあたしが注目されてる理由が分かったのか、驚いたような表情をしていた。

そして、椎名はあたしの席に急いで戻ってきた。

椎名「伊吹さん……本当なんですか?」

伊吹「……なにが?」

椎名「清隆くんと映画一緒に行ったって本当ですか?」

伊吹「………………は?」

あたしは間の抜けた声と共にその場でフリーズした。

ちょっと待って……じゃあ、クラスの女子連中があたしを物珍しそうに見てる理由って…

椎名「どうなんです、伊吹さん?本当なんですか?」

伊吹「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!一体誰がそんな事言ってんのよ?」


もし、クラスの女子連中が噂してる事が先日の映画館での出来事だったとしたら綾小路か堀北がバラした事になる。


あの事は秘密だって言ったっていうのに……あいつら絶対ただじゃおかない!!!


しかもクラスの連中にまでそれが行き渡ってるなんて……見つけたら八つ裂きにして…


椎名「伊吹さんたちを見かけたのは山下さんと藪さんたちみたいですよ?」

藪「ご、ごめんなさい、伊吹さん…」

山下「この前の休みに藪さんとホラー映画観に行った時、Cクラスの綾小路くんと一緒に居たのが見えたから珍しくない?って皆に話しちゃって…」


あたしが大きな声で言ったもんだからクラスの女子連中は驚いていた。そのあと山下と藪の二人があたしの席に来て弁明し始めた。


てことは、綾小路たちが吹聴したんじゃないのね……危なくあたしの早とちりであいつらに喧嘩吹っ掛けるとこだった。


良く良く考えてみればあいつらがそんな事するタマじゃないわね。堀北鈴音も綾小路も他人にペラペラ話すタイプじゃないし…


しかし、同じクラスの奴にあいつと一緒に居た所を見られるなんて…


伊吹「なるほど……そういうことね…」

椎名「ということは事実なんですね?」

伊吹「まぁ…一緒に居たのは事実よ。」

あたしがうんざりしながらそう言い放ったら、クラスの女子連中が目を輝かした。

女のこういうノリってほんとうざい……あたしも女だけど。

伊吹「はぁ……言っとくけど、あれは綾小路と偶然映画館で会って、隣同士になっただけだから。他に何か質問は?」


あたしは立ち上がって、囃し立てる女子共に向かって威圧的に言い放った。あたしの言った一言で女子連中は興味を無くしたようにあたしから目を逸らした。


ふん……ほんと勝手な連中だ。でも、ようやく腰を落ち着けられる。


と思ったその時……


山下「でもさ、私たちあの時見ちゃったんだよね~。あの伊吹さんが綾小路くんと仲良さそうに腕組んでるところを…」

伊吹「………………は?」


Dクラスの女子たち『『『『『えー!』』』』』


山下のとんでもない爆弾発言によってそれは阻まれた……瞬時にあたしはクラスの女子に囲まれてしまった…


女子1「なにそれなにそれ~♪一体どういうことなの、伊吹さん!」

女子2「綾小路くんと腕組んでたなんて…本当なのー?」

女子3「あの伊吹さんが男の子と一緒に居ただけでも驚愕なのに!腕組んでたなんて……うそでしょー!?」

女子4「ちょっと羨ましいかも…///」

女子5「綾小路くんと伊吹さんが……きゃー!」


山下の言った一言で女子連中はあたしの席に集まるようにして詰めよってきた……


え……ちょっと待って…山下たちはそれも目撃してたってこと?


はぁーーーーーー//////?さいっっっっっあくなんだけど//////!!!


百歩……いや、千歩譲って綾小路と一緒に居たのを見られたのは良しとしても、よりにもよってそれも見られてたなんて…


椎名「伊吹さんそれも本当なんですか?一体どんな状況でそうなったんですか?理由をお教え下さいませんか?」

伊吹「ちょ、ちょっと待ちなさい、あんたたち!!!あれはただの事故で…//////」


ガラッ……


坂上「お前たち何を騒いでるんだ?もう予鈴は鳴ってるぞ?席につけ。」

龍園「……」

石崎 小宮 近藤「「「あぶねぇ、ギリギリセーフ~」」」


椎名の威圧に気圧されていたら、いつの間にか予鈴が鳴っていたらしく、担任の坂上が入ってきた。ついでにバカ3人と龍園も…


女子連中は『え~…』と残念そうな声を出して自分の席に戻っていった。


助かった……こんなにも担任の坂上を頼もしく思ったことはない。それに龍園と石崎のバカたちが教室に居なかったのも救いだ。


しかし、あたしと綾小路の衝撃の事実を聞いた女子連中は興奮が醒めやまないのかさっきからずっとうるさい……


伊吹「はぁー……面倒なことになった…」

あたしは盛大なため息をついて自分の席で項垂れた。
















昼休み。


伊吹「あー…もう、最悪!!!」


あたしは大きな声で愚痴をこぼした。ここは屋上。幸い周りに誰もいないためこれくらい大きな声出したって平気だ。


午前の間は本当にキツかった……休憩時間の度に女子連中はあたしの席に集まって色々話し掛けてきた。


あたしがどれだけ無視を決め込んでも……あれは誤解だと何度も説明しても……囃し立てるだけだった。


そんな状況がずっと続いていたお陰であたしの疲労はピークに達した。昼休みまでつきまとおうとしてきた女子連中から逃げるようにこの屋上にやって来たというわけだ。


伊吹「……あいつらが飽きるまでこんな風に振り回されるわけ?そんなの冗談じゃないんだけど…」


そもそもなんであたしがこんな目に合わなくちゃいけないわけ?


それもこれも全部綾小路のせいだ!!!あいつがあの時あたしの隣にいなければこんなことには…


いや……それはちょっと理不尽な気がする。


あの時、ホラー映画のラストのシーンにびび……驚いてあいつの腕を掴んだのはあたしだ。それを全部あいつのせいにするのはお門違いってやつだ。


伊吹「はぁー……いったいどうしたいいのよ。なんか頭クラクラしてきた…」


額に手を当てると朝より熱い気がした。でも、そんな事はどうでもいい。今はこれからどう対応するのがいいか……考えないと…


ガラッ……


伊吹「!」


誰も来ないと踏んだ屋上に誰か入ってきた。


まさかクラスの女子たちがここまで追ってきたとか?


念のため、そいつを確認するため扉に近づいた。入ってきた相手は……今、あたしが最も会いたくない男だった。


なんでよりにもよって今のタイミングで…


伊吹「なんであんたがここに来んのよ……綾小路!」

綾小路「それはこっちのセリフだ。お前こそどうしてここに居るんだ?」

伊吹「……あんたには関係ないでしょ!」

綾小路「それもそうだな。」

伊吹「ちょっと!ここに居座る気?早く出ていきなさいよ!」

綾小路はあたしの言い方に慣れたのか、さほど気にする様子もなく、その場でコーヒーを飲み始めた。

綾小路「いや、何でそうなるんだ……ここはお前だけの場所じゃないだろ?」

伊吹「あんたより先にこの場を離れるのは癪なの。あたしはもう教室に戻るんだから先に出てって言ってんのよ!」

綾小路「それはお前の勝手な言い分だろ?俺は関係ない。勝手に独りで出ていったらどうだ?」

この適当にあしらうような言い方……やっぱ腹立つ!

いつも余裕ぶって澄ました顔で見下してる感じが勘に障る!

あたしはイラつきながら、その場でドカッと座った。綾小路より早く出るのは嫌だった。

綾小路「ふぅ……」

伊吹「……」


あたしは横目で綾小路を視た。今のこいつはあたしに背を向けて呑気に景色を眺めながら、コーヒーを飲んでる。


まるで隙だらけ……こいつって案外抜けてる感じあるわよね。今なら寝首を欠くくらいは出来るんじゃないの?


あたしは以前、こいつに私闘を申し込んで負けた。負けた時の条件としてあたしは試験以外でこいつと私闘を禁じられた。約束を破るつもりは無い。


これはただの確認……あたしは静かに近づき、ノールックで回し蹴りを繰り出した!


綾小路「……いきなり危ないだろ?」

伊吹「ちっ……なんで避けられんのよ!くっ……この!」

綾小路からは死角だった筈なのにこいつは軽々と避けた。

あたしは避けられた事実を受け入れられず、なりふり構わず連続で蹴りを繰り出す。

しかし、蹴りは一向に当たらなかった。

綾小路「……急にどうしたんだ?そんなに俺がこの場を去らなかった事が気に食わないのか?」

伊吹「ふん……話しかけられるくらい余裕ってわけ?そういうところがムカつくのよ!」

綾小路は蹴りを避けるだけであたしの蹴りを受け止めようともしなかった。

何なのよ……一方的にこんな状況になったら少しくらい反撃するでしょ、普通。情けでもかけてんの?

こいつがその気になればあたしを制圧するのなんて簡単な癖に……くそ!

綾小路「別に余裕じゃない。今日のお前の動きが単調なだけだ。それより伊吹、勝手な私闘は禁じた筈だろ?」

伊吹「黙ってなさいよ!これは私闘なんかじゃない。ただ、確認で蹴りかかってるだけ!」

綾小路「恐ろしいほど、理不尽な理由だな…それじゃあ、ただの暴漢だぞ?」

伊吹「だったら今のあたしを制圧してみなさいよ!男らしく……さ!」

綾小路「良く分からないが…一旦落ち着け。」

伊吹「はぁはぁ……うる…さい…」

綾小路「……ん?」


あたしの蹴りを見極めていた、綾小路は急に動きを止めた。


その一瞬をあたしは見逃さず、綾小路の顔面めがけて右足を繰り出した。蹴りは間違いなく当てられる!そう思った。


しかし……


伊吹「……!」

綾小路「伊…」


けど……急にその瞬間、あたしの視界は急に暗くなって……


綾小路が何か言いかけていたのを最後にあたしは意識を失った…。

屋上。

綾小路「さて……どうしたものか…」

今、俺は非常に困っていた。今の状況はこの俺でも到底予測不可能だったからだ。

俺はただ、屋上という名の憩いの場でコーヒー飲みに来ただけなんだ。

それなのにこんな事になるなんてなぁ…。

朝の占いてんびん座一位で何をやっても上手くいくって言ってたのになぁ…やはり占いとは存外当たるものではないってことだな。

伊吹「はぁー……はぁー……」

俺は下に視線を向けた。苦しそうな息を吐きながら、俺の腕に収まってるのは先程まで俺を攻撃してきた伊吹だ。

俺とは個人的な私闘を禁じていたのにも関わらず、急に蹴りかかってきたわけだが……その理由は何だ?

まぁ、今は…

綾小路「どう対処すべきか……だな。」

伊吹と対峙してる時から感じていたが、いつもより動きのキレが無かった。恐らく怪我か体調が悪いかだろうと思ったが……まさか倒れるくらい体調が悪いとはな…。

腕に収まってるから分かるが伊吹の身体は相当熱い……もしかしたら、朝から体調が悪かったのかもな。

単にサボりたくなかったか…それとも風邪なんかで学校を休むなんて真似したくなかったか…伊吹の性格を考えれば、恐らく後者だろうな。

綾小路「……伊吹大丈夫か?」

伊吹「………」

返事がない……まぁ、そうだよな。あの伊吹が攻撃の途中で倒れるくらいだしな。

さて、どうするか?

誰か教師を呼んで介抱して貰うか?いや、この状態の伊吹をここに一人置いていくわけにもいかないし近くにいるとも限らない。

茶柱辺りに連絡をして駆けつけて貰うか?いや、それだと屋上まで来るのに時間が掛かるか……

綾小路「そうなると……選択肢は1つしかないか…」

その選択とは……俺が伊吹を保健室に運ぶということだ。

まぁ、それ自体俺は別に問題はない。女子一人保健室に運ぶくらいの膂力はあるつもりだ。

ただ……連れて行く途中で伊吹が目を覚ました場合どうなる?面倒な事になるのは間違いない。それに伊吹のプライドが許さないだろう…

伊吹「………」

綾小路「いや…そんな事考えてる場合では無いか。……頼むから今は目を開けないでくれ、伊吹。」

















保健室。


コンコン…


綾小路「……失礼します。急患がいるので処置をお願いしたいんですが…」

星之宮「はぁーい、こちらにどうぞ~……ってあら~♪これはどういう事なのかな~綾小路くん?一之瀬さんたちだけでは飽きたらず、今度は伊吹さんにまで毒牙にかけるの?この女たらし~♪」

綾小路「そういう冗談は止めて頂きたいんですが…」

保健室に居たのは俺の苦手な星之宮だ。

Bクラスの担任を担当してるが、普段は保健医だったな。こんな人が保健医で大丈夫なのか……この学校。

星之宮「だぁって~予鈴はとっくに鳴ってるのに~保健室に女の子を連れ込んで来るなんて~先生感心しちゃうわ♪」

綾小路「この非常事態でよくそんな事言えますね…」

星之宮「あら~それは皮肉かしら?先生泣いちゃいそ♪それはともかく、伊吹さんをこっちのベッドに寝かせて貰えるかな?」

綾小路「……解りました。」


若干この人のペースに巻き込まれた事にうんざりしつつ、伊吹を丁重にベッドに寝かせた。


もう分かってると思うが、俺は伊吹を運ぶ決断をした。病人を寒空の下に放っておくわけにもいかなかったし、一刻を争う状態だったしな。


俺は伊吹を俗に言う『お姫様抱っこ』の形で保健室まで運んできた。無人島試験の時に熱で倒れた鈴音の事を思い出したなー……あの時も緊急事態だったが…


俺は、伊吹の事を考えて極力人目につかないよう出来るだけ遠回りしてここまで連れてきた。そのお陰で予鈴はとっくに過ぎてしまった。まぁ、それが結果的に功を奏して誰とも逢わないで済んだからこちらとしては助かったが。


星之宮「あらら~……随分熱があるみたいね~?この様子だと朝から調子悪かったんじゃないかな~伊吹さん。」

綾小路「そうですか…俺は伊吹と同じクラスじゃないので、詳しくは知りませんが…」

星之宮「でも、綾小路くんは伊吹さんを抱えてここに来た。……一体どうして?その経緯を先生知りたいな~♪」

俺は伊吹をベッドに寝かせた後、伊吹が目を覚ましても逃げられるよう、扉の前に移動した。

星之宮は伊吹の症状を手際よく確認しながら俺に質問してきた。

正直に話したとして一体何に利用されるか解らないな……今は言葉を濁しとくのが良さそうだな…。

綾小路「伊吹はそういうのを嫌うと思うので、俺の口から言うのは止めときます。」

星之宮「残念ね~♪で・も・随分と伊吹さんのことを理解してるみたいね?」

綾小路「……」

星之宮「うふふ♪伊吹さんの処置は、しっかりやっておくから安心してね?綾小路くんは教室に戻って授業を受けて来なさい。」

真剣な表情で伊吹の処置をしている様子を見ると後は任せても大丈夫そうだ。

普段とは偉い違いで俺は驚いた。ギャップってやつだな。伊達にこの学校で教師をやってないってことかもな。

後は教室に戻るだけだが…

綾小路「解ってます……星之宮先生に1つだけお願いがあるんですが、いいですか?」

星之宮「なぁに?言っておきますが……エッチなお願いはダメよ~?先生と生徒でそんなことは~…きゃー♪」

一瞬でもこの人を見直した俺が馬鹿だった……

いや、これが平常運転だな。この人の場合。

綾小路「俺が伊吹をここまで運んできたことは伏せておいて貰えませんか?」

星之宮「あら?どうして?」

綾小路「簡単に言えば、俺は伊吹に善く思われてないからです。俺がここまで運んできたのを知ったら、伊吹は嫌な気持ちになると思うので…」

星之宮「そうなの?私にはそんな風に思わないけどな~♪」

あんたは俺たちの今までの事情を知らないから言えるだけだろ……

適当な事をあまり言わないで貰いたいんだが…

綾小路「とにかく、そう言うことでお願いします。」

星之宮「事情はよく知らないけど……分かったわ。」

綾小路「……ありがとうございます。」

本当にこの人に頼んで大丈夫なのか……一抹の不安を抱えたが、今は授業に戻った方が良さそうだ。

伊吹はともかく、授業をサボるわけにはいかない。

俺は保健室から出ようとしたら…

星之宮「あ!待って、綾小路くん。放課後、伊吹さんの荷物を持ってきてくれる人に声かけておいてくれる?この調子だと、午後の授業は厳しいと思うから。」

綾小路「分かりました……それでは失礼します。」

星之宮「お願いね~♪」

俺は笑顔を振り撒く星之宮を無視して保健室を出た。

伊吹の荷物持ってくれそうなクラスメイトか……伊吹が仲良さそうな女子はひよりくらいか?ひよりなら絶対の安心感があるし、後で連絡しておくか。

俺は授業に遅れた言い訳も考えながら、教室に戻った。


放課後の保健室。

伊吹「んー……ん?あたし、いつの間に寝て…」

星之宮「あら?伊吹さん目覚めたのね~。ここは保健室よ?」

伊吹「保健室……どうしてあたしがここに…」

まだ寝ぼけてるせいかあたしは聴かれた事を素直に言い返した。

ちょっと頭がボンヤリしてて……あまり今の状況を呑み込めてないわね…これ。

星之宮「それは綾小……んん!と、とにかく!今、身体拭くもの用意するわね~♪」

伊吹「あの……」


先生はあたしが質問する前にカーテンを閉めて準備し始めた。今のって……確かBクラスの担任よね?呑んだくれでいい加減なイメージが強いんだけど…保健の先生もやってたんだ。


今の時間は3時半過ぎ……ってことはもう放課後じゃない!?


この時間まで、眠りこけるなんて……いくら熱があったとしても不覚だ。


星之宮「はぁーい、お待たせ~♪それじゃ、汗拭くから上脱いでくれる?」

伊吹「……」

突然カーテンが開き、そう催促された。あたしも流石に汗かいたままは嫌だったから、これも素直に聞くことにした。

上だけ脱いで、渡されたタオルで自分で拭いた。

星之宮「あらぁ~よく鍛えてあるわね~伊吹さん。引き締まってて魅力的よ~♪」

伊吹「あの……自分で拭けるんだけど…」

星之宮「いいから、いいから!伊吹さんは安静にしてなきゃ♪」

伊吹「……」


背中の方は星之宮が拭いてきた。大きなお世話だったけど、面倒なので何も抵抗しなかった。冷たいタオルのお陰か、落ち着いて来たので頭の中で記憶を整理した。


確か……昼休みは屋上に居て…


その後あいつに会って……それで…


あれ…………?


ちょっと待って………それならどうしてあたしはここで寝てたんだ?


え……………?ってことは……


あたしをここに連れてきたのって……いや、間違いなくあいつしか考えられない状況だったわけで……いや、考えたくないけど…



コンコン…



伊吹「!!!」

星之宮「はぁーい♪……伊吹さん悪いけど、ちょっと待っててね?」


あたしが頭の中で色々考えていたら、ノックが鳴って驚いた。星之宮はあたしにそう告げてカーテンを閉めた。


ある程度、汗を拭いてから制服を着た。あたしはその後、倒れこむようにしてベッドに寝込み、額に手を当てた。


あー……最悪だ。


自分だけに迷惑が掛かるならまだしも、他人に迷惑を掛けるなんて……


星之宮「伊吹さん!お友だちがお見舞いにきたわよ~?」

は?友だち?

あたしは一応、起き上がってカーテンを開けた。

そこに居たのは……

椎名「伊吹さん、体調の方は大丈夫ですか?クラスの代表でお見舞いに来ましたよ♪」

伊吹「椎名……」

椎名「これ、伊吹さんの荷物です。今日は私たちと一緒に帰りましょう。それに、今日はつきっきりで私が伊吹さんの部屋で看病しますからよろしくどうぞ♪」

伊吹「は、はぁ?急になにいってんの?」

椎名があたしの荷物を持って保健室にやってきた。

大方、担任の坂上が椎名にあたしの荷物とお見舞いを頼んだんだろうと思った。

それより……今、なんて言った?あたしの部屋で看病するとか言ってたわよね?

それはちょっと勘弁なんだけど…

伊吹「別にそこまで重症じゃないし……看病なんて必要無い。さっさとあたしの荷物を置いて帰れば?」

椎名「ダメです♪伊吹さんの事だから無茶をするに決まってます!監視役が必要です!」

伊吹「監視って……あんたね…」

星之宮「あらあら~うふふ♪椎名さんが一緒なら安心ね~それじゃあ、後は椎名さんにお任せしようかしら?」

椎名「はい、お任せ下さい♪」

星之宮「じゃあ~これお薬ね♪熱はだいぶマシになったようだけど、油断してはダメよ?今日はちゃんと暖かくして寝ること!いい?伊吹さん?」

伊吹「は、はぁ。」

星之宮「私は職員室に戻るわね。まだお仕事が残ってるから♪それじゃあ、伊吹さんお大事に~」

星之宮はあたしに処方した薬を椎名に渡して、保健室から出ていった。

てか……後は生徒に託すってのは保健医としてどうなの?いい加減というか、マイペースっていうか…。

伊吹「……」

椎名「……」


椎名は先生が居なくなった後、終始無言であたしに笑顔を向けている……


何だか分からないけど、なんとなく無言の圧力に見えた。


私はあなたが一緒に帰ると言うまでここを動きませんよ?みたいな…


あー……もう、分かったわよ!こう言えばいいんでしょ?


伊吹「……分かったわよ!一緒に帰ればいいんでしょ、帰れば!」

椎名「分かっていただけて何よりです♪では……3人で帰りましょうか。」

あたしは少し伸びをしてからベッドから下りた。

立ち上がっても、立ちくらみは無かった。ふー…一時より、だいぶマシにはなったわね。

良かっ……ん?

伊吹「……は?3人?」

椎名「はい♪今、彼は保健室の外で待ってますよ?」


彼……ってことはもしかしなくとも…


あたしは保健室を恐る恐る確認するようにに出た。椎名も後に続いて保健室を出た。


すると、保健室から少し離れたところ腕を組んだまま立っていたのは…


伊吹「……」

綾小路「……」


綾小路だった。まぁ、こいつしかありえないとは思ったけど……なんでここにいんのよ!?屋上の事もあるから物凄く気まずいんだけど…


綾小路はあたしと目を合わせた瞬間、無表情なのは相変わらずだけど、バツの悪そうな何とも言えない表情をしてる気がした。


どうやら、綾小路もあたしと同じ気持ちのようね…


椎名「では、清隆くんは伊吹さんの荷物をお願いします♪」

綾小路「……あぁ、分かった。」

伊吹「ちょっと、椎名!なんでこいつも一緒なのよ?」

椎名「まぁまぁ、伊吹さん。そんなに興奮なさらず。熱が上がってしまいますよ?」

伊吹「あんたね…!」

椎名「今は伊吹さんのお部屋に向かうのが先決です。話しは後ほど♪」

伊吹「……は、はぁー?ちょっと待ちなさいよ!」
















あたしの部屋。

伊吹「はぁー……ほんとにあんたらも入るの?」

椎名「はい、もちろんです♪ダメと言われても押し掛けますよ?」

伊吹「……なんでもいいけど、なんも面白いもんなんてないし風邪が移っても知らないから。」

椎名「大丈夫です。その場合は清隆くんに看病して貰うので♪」

綾小路「あのな……」

伊吹「ふん……」

あたしの部屋で押し問答を続けていても時間のムダだし、とりあえず入るか……誰かに見られたら面倒が増えるだけだし。

カギを開けて、あたしが入った後に続いて椎名が部屋に入った。

椎名「お邪魔しますね、伊吹さん♪……あら?清隆くん、どうしたんですか?」

綾小路「……俺はここで帰る。伊吹、これ荷物だ。」

伊吹「あっそ……」

綾小路は荷物をあたしに返してそう言った。

ここまでして貰ってなんだけど……それは正直助かる。

これ以上、気まずい空気になるのはゴメンだ。しかし椎名が……

椎名「待って下さい、清隆くん!まだ帰っちゃダメです。清隆くんにはやってもらう事があるので♪」

綾小路「いや……男の俺が安易に女子の部屋に入るわけにも…」

椎名「いいから入りましょうね♪伊吹さんお邪魔します。」

椎名は綾小路の背中を無理矢理押して入るのを促した。てか、あたしの断り関係なしなの…?

もう、なんでもいいわ…とりあえず、早く横になりたい。

伊吹「……あたしは寝るから。後は勝手にしてくれる?」

椎名「はい♪伊吹さんは寝てて下さい。私がお粥作りますね!」

伊吹「はいはい……勝手にして…」

椎名「あら?私としたことが材料を買ってくるのを忘れました♪今から買いに行ってくるので清隆くん、伊吹さんの事お願いしますね?では。」

綾小路「お、おい……」

伊吹「え?ちょっ…」


バタン……


椎名は、わざとらしい三文芝居を見せて風のように去っていった……綾小路とあたしを置いて…


はぁーーーーー!?椎名のやつ一体なにしに来たのよ?


意味わかんない……


綾小路「……」

伊吹「……」


てか、気まずいんだけど……なにこの状況?あり得なくない?


何で自分の部屋で息苦しい思いしなきゃいけないのよ……ったく。


流れ出る沈黙に先に話しかけたのは綾小路だった。


綾小路「あー…やっぱり俺は帰る。ひよりはああ言っていたが……俺なんかと一緒に居るのは嫌だろ?」

伊吹「……」

今のあたしには何とも返し難い言葉を言われた。

いつものあたしなら100%即答で頷いていただろうけど…

綾小路「それに俺と居るところを誰かに見られたら、今より面倒なことになるだろうからな……」

伊吹「それもそうね……え?」

綾小路「じゃあ俺はこれで…」

伊吹「ちょっ、ちょっと!」

綾小路「ん?」


今、綾小路はなんて言った?


今より面倒なことってことは……綾小路はあたしの今の状況を知ってるってこと?


あたしは綾小路を引き止めて聞こうとした瞬間…


伊吹「は、はっくしゅ。」

綾小路「……」

伊吹「……//////」

タイミング良く、くしゃみが出てしまった……

何でこのタイミングでくしゃみ出るのよ、あたし//////!!!

綾小路「……大丈夫か?」

伊吹「別に大丈夫よ//////!」

綾小路「早く横になったほうがいいんじゃないか?まだ本調子には程遠いんだろ?」

伊吹「う、うるさいわね//////!分かってるわよ!でもあんたに聞きたいことが山程あんの!」

綾小路「……それは今度聞いてやるから今は休め。」

伊吹「それは無理ね。今聞かなきゃ、すっきりしないし。」

綾小路「あのな…」


綾小路はあたしが食い下がる様子を見て困惑しているようだった。


でも、これは譲れない。あたしだって別にこんな奴と一緒に居たいなんてこれっぽっちも思わない。


ただ……色々確認したい事があるだけ。それだけだから。


綾小路「ふぅー……分かった。聞きたいことがあるなら出来る限り答えてやるから落ち着け。」

伊吹「ふん……解ればいいのよ。じゃあ、さっさと入って。」

綾小路「……お邪魔します。」

綾小路は結局あたしの根気に負けたような形で承諾した。

玄関先に居た綾小路はあたしの部屋に入った。

脱いだ靴を一々揃えるなんて几帳面な奴。

伊吹「寝室入って待ってて。あたしは着替えてくるから。言っとくけど……勝手に物とか触ったらぶっ飛ばすから。」

綾小路「…分かった。」

綾小路にしっかり釘を差して、あたしは洗面所に向かった。

制服を脱いで部屋着用のTシャツとホットパンツに着替えてからキッチンに向かう。

冷蔵庫から、スポーツドリンクと缶コーヒーを取って綾小路が居る寝室に向かった。

伊吹「……これ、飲めば?」

綾小路「急に投げるな……危ないだろ?」

伊吹「別にこれくらい危なくないわよ。」

あたしは綾小路に缶コーヒーを投げて渡した。

危ないとか言いつつ、余裕で取ったから少しイラっときた。

もっと強めに投げ込めば良かったわね……

あたしはベッドの縁に座ってスポーツドリンクを飲んだ。

綾小路「全く……それで、俺を引き止めてまで聞きたいことはなんだ?」

伊吹「……さっきあんたはこれ以上一緒に居ると面倒なことになるって言ったわよね?」

綾小路「あぁ、言ったな。」

伊吹「それならあたしが今、どういう状況になってるか知ってるってことでしょ?それは何でか知りたい。」

綾小路「ひよりから聞いた。」

伊吹「ふーん…」

綾小路「と言うより、色々尋問されたんだ……凄い剣幕でな。」

椎名「なるほどね……」

椎名が綾小路に話したのか。それなら納得だ。

椎名は綾小路に色々聞いたのかも知れないわね……あたしと綾小路相当聞きたがってたし…

綾小路「ひよりから聞いたが……映画館で俺と一緒に居たところを山下たちに見られたそうだな?」

伊吹「そうよ。ほんと最悪なんだけど!!!」

綾小路「厄介なところを見られたな……それで、お前は不機嫌だったんだな?大方、クラスの連中に冷やかされてイライラが募り俺で鬱憤を晴らそうとした…ってところか?」

伊吹「……」

こいつは冷静にそう分析してそう言った。

あたしは何も言い返せなかった。

ムカつくけど……全てその通りだったから。だからあたしは…

綾小路「無言は肯定とさせて貰うぞ?」

伊吹「悪かったわね……あんな真似して。」

綾小路「別に謝らなくてもいい。直接危害を加えられた訳じゃないからな。」

伊吹「それはそれで腹立つんだけど……まぁ、いいわ。もう1つだけ聞きたいことがある。」

綾小路「……なんだ?」

体調が悪かったことを差し引いてもあの時あたしは全身全霊で蹴りかかったっていうのに……素直に謝った言葉を返して欲しいわね…。

まぁ、それは置いといて……ここからが本題だ。

最後にこれを確認しないと、すっきり出来ない。少し深呼吸をしてから…

伊吹「あのさ……あんたが…あたしを保健室まで運んでくれたんでしょ//////?」

綾小路「……」

あたしは綾小路に目線を向けて質問した。ただ、聞いただけなのに気恥ずかしく思ったのは何でか分からない。

多分、熱が治まってないからだと思う。そういうことにしとく。

そんなあたしを他所に綾小路は無言であたしを見つめたまま何も答えない。

伊吹「で、どうなのよ?」

綾小路「あー……そうだ。」

伊吹「そ、そう……」


やっぱり、そうよね……あの状況ならこいつしかあり得ないんだし…


自分から聞いておいてなんだけど……恥ずい//////


いや、屈辱?あーーーもう!色んな気持ちが入り乱れて良く分かんない//////!!!


綾小路「その……お前に確認も取らずに勝手な真似して悪かったと思ってる。だが、お前は熱で気を失っていて事は一刻を争うと思って…」

伊吹「あんた急に焦ってんの?」

綾小路「いや、怒ってないのか?」

あたしの反応を見て怒ってるとでも思ったのか、綾小路は焦ったように話してきた。

こいつも焦ったりするのね……意外だ。

伊吹「……別に怒ってないわよ。てか、怒るわけないでしょ。」

綾小路「そう……なのか?」

伊吹「わざわざ保健室まで運んでくれた奴を怒るなんて真似しないわよ。言わせて貰うならそうね……あんたは大馬鹿ってことね。」

綾小路「怒ってないと言ったわりに随分辛辣だな…」

伊吹「だってそうでしょ。普通、理不尽な理由で自分勝手に蹴りかかってきた相手を助けるなんてよっぽどお人好しじゃない?」

そうよ……普通あり得ない。そんな状況になった敵を助けるなんて真似するなんて…

あたしが同じ立場なら助けようなんて気持ちは湧かない気がする。

むしろ、ざまぁみろとか思うのが当然だ。

綾小路「そうか?」

伊吹「そうかって……あんたね…」

綾小路「普通、顔見知りがああいう状況になったら助けるだろ?女子が相手なら尚更放ってはおけないしな。」

伊吹「……//////」


こいつって……やっぱり、おかしいと思う。こんなこっ恥ずかしい事さらっと言うところも…


あたしを女扱いするところも…全部バカげてる。


けど……


今は不思議と嫌な気持ちは湧かなかった。


綾小路「俺、何か可笑しな事言ってるか?」

伊吹「うん。やっぱりあんたってバカだと思う。」

綾小路「あのな…」

伊吹「でも……」

綾小路「ん?」


借りを作ったままなのはあたしらしくないから……


ちゃんと口に出して言おう。


この言葉を。


伊吹「保健室まで運んでくれて…ありがと//////迷惑かけて悪かったわね。」

綾小路「あぁ……どういたしまして。」

伊吹「は、話しはこれで終わり//////!後は勝手……」

椎名「ふふ♪どうやら仲直り出来たようですね?良かったです。」

伊吹「な!!!あんたいつからそこに…」

あたしが綾小路に礼を言ったタイミングで椎名が現れた。

こいつもしかして……話しを聞いてたんじゃ…

椎名「今、帰って来たところですよ?きちんとお買い物してきましたよ♪」

伊吹「……あ、そう。ここはあんたの部屋でも何でもないけどね。」

椎名「そんな冷たいこと言わないで下さい。おいしいお粥を作りますから♪」

買い物袋をこれ見よがしに見せつけてくる椎名にイラっときたが、話しを聞かれていたわけじゃなかったことに安堵した。

綾小路「じゃあ、俺は……ひよりも来たし帰るとする。」

椎名「帰るなんて言わないで清隆くんも伊吹さんを看病しましょうよ♪」

伊吹「い、いいから//////!早く帰りなさいよ!じゃあね、綾小路//////!!!さっき言った言葉は最初で最後だから。」

綾小路「あ、あぁ……分かってる。じゃあ、お大事に。ひよりもまたな?」

椎名「仕方ないですね……分かりました。その代わり私が風邪引いたら看病お願いじすね、清隆くん?」

綾小路「……分かった。それじゃあな。」


バタン……


椎名「それでは、私はお粥作りに専念するので伊吹さんはどうぞ寝てて下さい!キッチンお借りします。」

伊吹「はいはい……」


綾小路が帰り、キッチンに向かった椎名も寝室から出てようやくあたしはひと息ついた。


ふぅー……災難続きの1日で疲れた……占いもバカに出来ないかも…。


ただ、あいつが相手だったからまだ良かったかも……って、変な意味じゃないから//////!!!


あたしは良く分かんなくなって布団を一気に頭にかぶった。今、こうなってるのは熱のせいだから……きっとそうだ。


あたしはそう思い込んで無理矢理目をつぶって寝た。夜に目覚めた時にはすっかり熱も下がって元気になったんだけど……椎名は結局、あたしの部屋に泊まった。余談だが椎名が作ったお粥はスゴく美味しかった。
 
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