暴力男

　　　　　　　　　　　　　　　暴力男
　菅野亨一は学校の教師をしている、中学校で彼は非常に恐れられていた。
「何かあるとすぐに殴るからな」
「それも何発も何発も」
「一旦殴りだしたら止まらないしな」
「蹴るし床の上で背負い投げもするし」
「菅野怒らせるなよ」
「すぐに怒るけれどな」
　生徒達はこう話してだった。
　菅野を心底恐れていた、だが。
「あんな奴いなくなれ」
「いつもいつも殴って蹴りやがって」
「威張り散らしやがって」
「怒鳴って罵ってきてな」
「俺達を馬鹿だアホだとかばかり言いやがって」
「生徒を何だと思ってるんだ」
「機嫌が悪いと特に殴るしな」
　生徒達は眉を顰めさせて話した。
「何様なんだよ」
「あんな暴力教師何でいるんだよ」
「ヤクザかよ、あいつ」
「暴力ばかり振るいやがって」
　誰もが彼を忌み嫌っていた、彼の暴力に恐怖する以上に憎悪を感じていた。
「早くいなくなれ」
「クビになれよ」
「この学校から消えろ」
「何であんな奴が教師やってんだ」
「ヤクザになっちまえ」
　こう言って避けていた、だが菅野は常にふんぞり返って校内を闊歩して暴力を気の赴くまま振るっていた。
　それは家でも同じで。
　妻の久美子、黒髪を長く伸ばして面長の顔で黒く濃い眉にはっきりとした目と赤い唇にほっそりとした身体の彼女にもだった。
　機嫌が少し悪いと何十発も殴って蹴って罵った、そうして。
　久美子の身体も心も傷付いていった、むしろ学校で誰彼なしに暴力を振るわれている生徒達よりもだった。
　彼女の傷は深く多くなっていた、それでだった。
　彼女の友人達は密かに話した。
「何か久美子おかしいわね」
「結婚してからね」
「前はあんなに明るかったのに」
「今は電話でもラインでも一言だけで」
「その言葉も暗いし」
「何か絶望してるみたいね」
「この世自体に」
　彼女達の間で話した。
「絶対に何かあったわね」
「ええ、結婚してからああなったからね」
「ご主人に問題あるかもね」
「学校の先生でしょ、ご主人」
「そうよね」　
　自然と菅野の話にいった、そうして。
　一八〇程の背で百キロを優に超える肥満体に色黒の身体で細い鋭い目とパーマをかけたその彼の話になったのだった。
「何かご主人見るからによね」
「柄悪そうよね」
「実際学生時代かなり悪かったのよね」
「喧嘩ばかりして部活で後輩いじめて」
「無茶苦茶してたっていうし」　
「大学はスポーツ推薦だったらしいけれど」
「素行相当悪かったっていうわね」
　話は次第に近付いていっていた。
「大学でもね」
「後輩の人達を何かあるといびって」
「交際相手にも暴力振るってね」
「そんな人だから」
「久美子にもいつも暴力振るってるかもね」
「交際している人にもだったら」
「有り得るわね」
　菅野の久美子への暴力に気付きだした、それでだった。
　彼女達はこっそりとだった。
　彼女の両親のところに行って話した。