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ウルトラマンカイナ

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鉄拳編 ウルトラアキレス&アラシマファイト

 
前書き
◇今話の登場メカ

◇BURKセブンガー
 過去の防衛チームが残した運用データを基に、オーストラリア支部のシャーロット博士が基礎設計を担当した対怪獣用試作ロボット兵器。ドラム缶のようなずんぐりとしたフォルムとウルトラマンカイナを想起させるカラーリングが特徴。試験運用を担当した荒島真己(あらしまみこと)が搭乗する。
 

 
 リーゼロッテを筆頭とするBURKプロトクルセイダー隊の活躍により、シルバーブルーメが撃破された日から、さらに約2ヶ月後。
 地球の命運を背負ったBURKの隊員達とウルトラアキレスの戦いは、より激しさを増しつつあった。

「……今度の戦闘でも、嵐真の奴はかなりギリギリだったな。このままじゃ、いつかブッ倒れちまうぜ……あいつ」
「しかし……BURKセイバー以上の兵器となると、簡単に使用許可が降りないものばかりです。5機のBURKプロトクルセイダーも回収されてしまいましたし、一体どうすれば……」

 連日のように続く怪獣や異星人との戦闘に、アキレスこと暁嵐真(あかつきらんま)は消耗する一方であり――弘原海(わだつみ)隊長と駒門琴乃(こまかどことの)隊員は、彼に休息を与えられずにいる現状に危機感を覚えていた。
 だが、BURKセイバーやBURKプロトクルセイダーの攻撃力では、怪獣に決定打を与えられないことも事実であった。シルバーシャーク砲のような強力過ぎる兵器はその破壊力故に使用手続きも煩雑であり、即応性を要求される多くの現場にはそぐわないことが多い。

「くそッ……! 確かにあいつはウルトラアキレスだけどよ……! 19歳なんて、俺らに言わせりゃまだまだガキじゃねぇか! 良いのかよ、俺達大人がこんなことで……!」
「弘原海隊長……」

 それでも何か策を講じなければ、アキレスの消耗を抑えられないことも事実であった。このままでは地球に平和が訪れる前に、アキレスが先に力尽きてしまう。
 せめてほんの一時でも、彼の疲弊を抑えることが出来れば。弘原海と琴乃が、そんな考えを巡らせていた――その時。

「よぉ弘原海隊長、駒門隊員ッ! 『そんなこともあろうかと』って感じで、良いニュースを持って来てやったぜッ!」
「……荒島君、少しは落ち着きたまえ。どう見てもそんな声を掛けられる空気ではなかっただろうに」
「荒島隊員……!? それに、叶隊員まで……!」

 ブリーフィングルームの自動ドアが開かれ、目の下に隈を作った2人の男が現れる。かつてBURK惑星調査隊の一員として共に戦った、荒島真己(あらしまみこと)隊員と叶亥治郎(かのうげんじろう)隊員だ。
 研究者としての側面も持っている彼ら2人はシルバーブルーメ戦の後、およそ2ヶ月間に渡って地下基地での研究に没頭していたのだが――その2人が、久方振りに地上に現れたのである。

「荒島隊員、良いニュースとは一体何だ……!?」
「おおっと駒門隊員、半径5m以内には近付かないでくれよォ。何しろ今日ばかりは着ぐるみ着てる暇もなかったんだ、あんたの匂いでニュースどころじゃなくなっちまうぜ」
「お、お前なぁ……!」
「地下の研究施設に篭っていたお前達が持って来た良いニュース、って言うことは……シャーロット博士の新兵器が完成したのか!」
「えぇ、その通りです。苦労しましたよ……通常のペースでは、実用可能なレベルまで進めるのに半年は必要でしたから」

 荒島と琴乃が睨み合う中、弘原海の問い掛けに叶は深く頷いていた。荒島と叶はこの2ヶ月間、オーストラリア支部のシャーロット博士から送信された設計図を基に、彼女が考案した「新兵器」を開発していたのである。
 本来ならばどれほど急いだ突貫工事でも、半年は掛かると言われていたのだが。この2人の天才は、たったの2ヶ月でその実用化に漕ぎ着けて見せたのだ。彼らの目の下に出来ている隈が、その苦労を物語っている。

「おぉ……! まさかアレ(・・)がもう戦闘に使える段階に入っていたとは! さすがですね、叶先生!」
「おいコラ駒門隊員、ちょっとは俺も褒めろ! 体張って試験運用してたのは俺なんだぞッ!?」
「……とは言え、急造機には違いありません。フルパワーで稼働出来る時間は、およそ1分間が限界と言ったところでしょう」

 荒島の叫びを完全に無視しつつ、琴乃は叶の働きを称賛する。だが、当の叶自身は突貫工事故の不安要素を実直に告げていた。
 それでも弘原海は、リスクを承知の上でその「新兵器」の運用を視野に入れている。アキレスが消耗しつつある今は、それだけが頼りなのだ。

「そうか……だが、シャーロット博士の設計思想通りならば、嵐真の負担も少しは和らげることも出来るだろう。いつまでもウルトラアキレスにおんぶにだっこ……とは行かんからな」
「私も同じ思いですよ、弘原海隊長。私も荒島君も、そのためにアレ(・・)の開発を進めて来たのですから」

 嵐真と同年代の娘が居る叶にとっても、アキレスの戦闘力に依存しているこの状況に対しては深く思うところがあったのだ。

 ウルトラ戦士の圧倒的な力に頼っているばかりでは、活路は開けない。それにリーゼロッテ達も、常にこの日本に駆け付けられるわけではない。
 日本支部だけでも出来ることは、やり尽くさねばならない。荒島と叶はその一心で、シャーロットから託された新兵器を建造していたのだ。

 そして――その新兵器の「出番」が訪れたのは、この会話から僅か数時間後のことであった。

 ◇

 東京から遠く離れた山岳地帯に出現した、「髑髏怪獣」レッドキング。その巨大な体躯から繰り出される力任せの一撃は、ウルトラアキレスの巨体を容易く吹き飛ばしていた。

『ぐぁああッ!』

 特殊な能力を一切持たず、純粋な膂力のみでウルトラ戦士をも圧倒する髑髏怪獣の剛力。その力に物を言わせたラリアットに吹き飛ばされ、アキレスは岩壁に背を打ち付けている。
 胸部のプロテクターに備えられた長い六角形のカラータイマーは、すでに点滅し始めていた。だが、レッドキングは一切の容赦なく、大岩を持ち上げ投げ付けようとしている。

『くッ……トロイレーザーッ!』

 しかし、アキレスもやられっぱなしではない。頭部のビームランプから撃ち放たれた細い光線がレッドキングの腕部に命中し、髑髏怪獣は思わず大岩から手を離してしまう。
 大岩はそのままレッドキングの足に落下し、予期せぬ激痛に悲鳴を上げる髑髏怪獣は、忌々しげにアキレスを睨み付けていた。ダメージを与えることには成功したが、それ以上に彼を怒らせてしまったらしい。

『くッ……!』

 岩壁に追い詰められ、エネルギーも消耗しつつあるアキレスは、それでも屈しまいとファイティングポーズを取っている。だが、それが虚勢に過ぎないことはレッドキングにも看破されているようだった。
 アキレスを嘲笑うように、髑髏怪獣はじりじりと近付き、彼を追い詰めている。――その慢心こそが、己の敗因になることなど知らぬまま。

『……!? なッ、なんだアレ……!?』

 次の瞬間。遥か遠くから高速で飛来して来た謎の「巨大な鉄人」が、レッドキングに痛烈な体当たりを仕掛けたのである。
 その凄まじいタックルを浴びた髑髏怪獣の巨体は、意趣返しの如く岩山に叩き付けられてしまった。

『BURKセブンガー、着陸します。ご注意ください』

 警告アナウンスの音声と共に、背中のジェットを噴かしながらゆっくりと着地して行く鉄人は、「どんなもんだい!」と言わんばかりに両腕を振り上げている。

 ――その鉄人の容貌は、異様という一言に尽きるものであった。

 ドラム缶のようなずんぐりとした胴体に、眠たげな半開きの双眸。不恰好な両手脚に、ウルトラマンカイナを想起させる赤と白の模様。
 それはまさしく、過去の防衛チーム「ストレイジ」で運用されていた特空機第1号「セブンガー」をベースに急造された、BURKの新兵器――「BURKセブンガー」だったのである。

『……いや本当に何だアレェ〜!?』

 ウルトラマンカイナに代わり、アキレスと共に肩を並べて戦う。その設計思想に基づきシャーロット博士が考案したこの機体を、荒島と叶が急ピッチで建造していたのである。
 その存在を知らされていなかったアキレスこと嵐真は、思わず驚愕の声を上げていた。一方、レッドキングの前に立ちはだかったBURKセブンガーは、外見の割にはどこか頼もしい後ろ姿をアキレスに見せ付けている。

『よう嵐真、助けに来たぜ! ここからは俺に任せなァッ!』
『その声……荒島さんですか!? そのイマイチ覇気の無い面相のロボットは一体……!』
『お前まで酷くない!? ちくしょー、こうなったらこいつの凄さを実戦で証明してやらァッ!』

 外観の評判が今一つであることに怒りを剥き出しにしているパイロットの荒島は、その矛先をレッドキングに向けていた。彼が操縦する鉄人は、のっしのっしと髑髏怪獣ににじり寄って行く。
 一方、立ち上がったレッドキングも怒り心頭といった様子でBURKセブンガーに迫ろうとしていた。やがて両者は真っ向から取っ組み合い、力勝負を始める。

『……!? す、凄い……!』

 その決着が付いたのは、僅か数秒後のことであった。アキレスをパワーで圧倒していたレッドキングが、あっさりと押し負けてしまったのである。
 アキレス自身が戦う前からすでに消耗していた点を差し引いても、BURKセブンガーの馬力がずば抜けていることは明らかであった。少なくとも純粋なパワーにおいては、ウルトラマンカイナに匹敵していると言える。

『……どりゃああぁあッ! これがBURKの……人類の底力だぁあぁあッ!』

 そして、腕力だけでレッドキングの巨体を持ち上げて見せたBURKセブンガーは。その勢いのまま、一気に投げ飛ばしてしまう。
 吹っ飛ばされた髑髏怪獣はまたしても岩山に顔面から突っ込んでしまい、悲鳴を上げてのたうち回るのだった。それでもレッドキングは戦意を失うことなく、立ち上がろうとしている。

『嵐真、荒島! BURKセブンガーは1分間しか持たねぇんだ、さっさとケリを付けちまえッ!』
『2人とも、頼んだぞッ!』

 そこへ上空から急降下を仕掛けて来た2機のBURKセイバーが、両翼下部からミサイルを発射していた。その弾頭が起き上がったレッドキングの顔面に命中し、かの髑髏怪獣を大きく怯ませている。
 弘原海と琴乃による決死の急降下爆撃が、レッドキングの反撃を阻止したのだ。

『……荒島さんッ!』
『おうよッ!』

 その隙に並び立ったアキレスとBURKセブンガーは同時に頷き合うと、一気に髑髏怪獣目掛けて突っ込んで行く。

『はぁあぁあぁあッ!』
『でぇりゃあぁあッ!』

 やがて、両者がレッドキングとすれ違った瞬間。逆手に構えられたアキレスラッガーの刃が髑髏怪獣の首を斬り落とし、BURKセブンガーのボディブローがその胴体を貫通して行くのだった。

 何としても仕留めるという絶対の信念を帯びた、同時攻撃。その全てを受けたレッドキングの骸は大きくよろめき、ついには轟音と共に倒れ伏してしまうのだった。

『う……ぐぉっ……!』
『荒島さんっ!?』
『へ、へへっ……ざまぁ見やがれ。俺達の……BURKセブンガーの勝利だぜッ……!』
『……えぇ、そうですね。俺達の……勝ちです』

 そこでとうとう力尽きてしまったのか、全身から黒煙を噴き上げたBURKセブンガーの機体が大きくよろめき、アキレスにその身を預けていた。
 そんな機体の中で不敵な笑みを浮かべる荒島の言葉に、アキレスこと嵐真は深く頷いている。上空を飛んでいる弘原海と琴乃も、コクピットの中から親指を立てていた。

 ――ウルトラ戦士達の強大な力に比べれば、人類の戦力など微々たるものかも知れない。だが、彼らは決して万能の神ではない。
 彼らといえど、たった独りで戦い抜くことなど出来ないのだ。故にBURKの隊員達はその命を賭して、ウルトラ戦士達とその肩を並べているのである。
 地球の平和は、地球人の手で掴み取ってこそ価値のあるものとなるのだから――。

 ◇

「回路が全部焼き切れてるゥ!? ちくしょうシャーロット博士め、設計ミスもいいところじゃあねぇかッ!」
「君の無茶な操縦が原因で回路がショートしたのだろうが! もう少し機体にも気を遣いたまえ!」
「スンマセンっしたッ!」

 ――その後。機体に掛かる負荷の軽減よりも、アキレスの援護を優先した荒島の強引な操縦により、BURKセブンガーの回路は戦闘に耐え切れずショートしてしまったらしい。

 叶の叱咤に荒島は頭を下げるばかりだったが、もはや手遅れだったらしく、BURKセブンガーはこの一度の出撃で機能停止に陥っていた。急造機故の脆さが、回路の耐久性に現れてしまっていたのだろう。
 かくしてBURKセブンガーの活躍は結局、この時限りになってしまうのだった。だが、今回の援護により体力の消耗を抑えられたおかげで、アキレスは次代のウルトラマンザインに地球防衛のバトンを繋ぐまで、辛うじて戦い抜くことが出来たのである。

 例え1回限りでも。BURKセブンガーと荒島の尽力が、次のウルトラマンへと未来を繋いで見せたのだ。それが人類にとって必要不可欠な道のりであったことは、後の歴史が証明している――。
 
 

 
後書き

 
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