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生きる資格

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第二章

「もうよ」
「いいっていうの」
「普通でね」
「そうなのね」
「ええ、普通に暮らして普通に生きる」
 天はさらに言った。
「もうそれこそがね」
「いいのね」
「そうよ、だからね」
 それでと言うのだった。
「あんたは自分を卑下することはないわよ」
「普通だから」
「もうそれがいいからね」
 だからだというのだ。
「普通に会社で頑張ってるでしょ」
「今度資格取るわ」
「その勉強もするでしょ」
「ええ、だったらね」 
 それならというのだ。
「充分よ、だからね」
「自分を卑下しないで」
「生きていけばいいわ」
「そんなものね」
「そうよ」
 こう言ってだった。
 天は楓のコップにビールを入れて飲ませた、今は二人で仕事を終えて憩いの時を過ごしていた。この日から暫く後にだった。
 楓は親戚の法事に出た、この時にだった。
 父の兄である叔父の一人を見たが。
 叔父はそろそろ薄くなってきたやや薄い色の黒の髪の毛にやや屈んだ姿勢でむくみが見られる顔、眼鏡の奥に不満そうな目を見せていた。
 その叔父を見てだ、楓は父に尋ねた。
「叔父さん生きてたの」
「ああ、生きてたんだよ」
 四角い顔で細い目で黒髪を七三分けにしている一七〇位の背の彼は娘の問いに難しい顔でこう返した。
「家なくしただろ」
「ずっと働いてなくて奥さんのヒモでね」
「それで偉そうにしてたな」
「資格も何も持ってないのにね」
「その辺りの高校出ただけでまともに働いたことなくてな」
「立場もないのにね」
「長男だから甘やかされてな」 
 その結果というのだ。
「そうなってな」
「働かないで何もないのに偉そうで」
「それで奥さんに逃げられただろ」
「ずっと奥さんにお世話になっていたけれど」
「遂に奥さんに愛想尽かされてな」
 その結果だったのだ。
「出て行かれたな」
「何しても感謝しなくてね」
「料理も作らなくてな」
「それで作ったお料理には文句ばかりで」
「それで偉そうに言っていてな」
 そうしてというのだ。
「遂に愛想尽かされたな」
「何も出来ない癖にそうでね」
「しかも奥さんが出てもこれまでお世話になったことにも感謝しないで」
 そしてというのだ。
「働いてなかったのに食べさせてもらっていてな」
「爪切りまで持っていったとか言ったのよね」
「そうだ、爪切りまでお世話になっていたのにな」 
 それでもというのだ。
「全く感謝しなくてな」
「爪切りまでお世話になる甲斐性なしでね」
「そこまで言う器の小ささとだ」
「それを人に言う無神経さがね」
「酷かったがな」
「そうよね」 
 楓は法事の場でふんぞり返っている叔父を見つつ父に話した。 
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