英雄伝説~西風の絶剣~
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第70話 怪盗紳士
side:フィー
情報を集めたわたし達は情報の交換をしていてその中で幽霊が旧校舎の方に向かったという事が分かった。
その際にエステルが白い影を見てしまい気を失ってしまうという事が起きたが、かえってエステルはやる気を出したようでわたし達は夜の旧校舎に向かう事になったよ。
「いないと思っていたから怖かったのであって実際に見ちゃった以上もう怖がってなんていられないわ!もう二度と人を脅かせないように徹底的に成仏させてやるんだから!」
「あはは……エステルさん、凄いやる気ですね」
「見ちゃったことで逆に火が付いちゃったみたいだね」
なんかテンションの上がっているエステルを見てクローゼが苦笑いをしていた。まあ怖くて気を失っちゃったし少し恥ずかしい所もあるけど気絶させられたことにすっごく怒ってるみたいだね。
「しかし深夜の旧校舎に向かう事になるとは肝試しには持って来いのシチュエーションだね。帝国のある学園にも旧校舎があったけどそこも結構雰囲気があって面白かったよ」
「いいですね~お化けさんの表情もバッチリ写しちゃいますよ」
そんな中オリビエとドロシーだけマイペースにそんな事を言っていた。
「あれが旧校舎です」
「うっ……如何にもって感じね」
「へぇ、お化けが出るっていう場所の雰囲気としてはピッタリだね」
「うんうん、これでこそ肝試しだねぇ」
クローゼに案内されてきた旧校舎はいかにもお化けが出そうな古い建物だった。
「あれ、扉に何か挟まってるよ」
「本当ね、何かしら?」
わたしは旧校舎の入り口の扉に何か細いものが挟まっている事に気が付いた。エステルは近づいて確認するとそれはカードだった。
「何か書いてあるわね……どれどれ?」
エステルはカードに書かれた文字を読んでいく。それは所謂挑戦状でわたし達に怖くないならここまで来いって感じの内容だった。まあ実際は詩的な内容だったけど。
エステルが内容を読み終えるとカードは勝手に燃えてしまった。エステルが火傷していないか心配だったけど何ともないみたいで良かったよ。
「何よコレ!あたし達を馬鹿にしてるのかしら!?」
「ふむ、ご丁寧にヒントまでくれるとは……余程遊びが好きな幽霊みたいだね」
エステルはお化けにからかわれていると思い怒ってしまった。逆にオリビエは期待に胸を膨らませるように笑みを浮かべる。
対照的な二人だね。
「上等よ!絶対にとっつ構えて成仏させてやるんだから!」
「おー」
勢いよく旧校舎に入ったわたし達だったが内部は暗く冷たい空気が漂っていた。たいまつの火だけが怪しく揺らいでいる。
「誰もいないわね……確かさっきのカードには『虚ろなる炎』がどうたらって書いていたわよね?」
「はい、まずはそれを探してみるのが良いかもしれませんね」
「まあ罠の可能性もあるけどそこはわたしに任せて。トラップは慣れてるから」
「なら早速探索を始めましょう!」
そしてわたし達は幽霊の指示通り虚ろなる炎を探すことにした。
罠の可能性も十分あるけどその時はわたしが対応すればいい。トラップの解除はリィンより得意なの、えっへん。
「虚ろなる炎って事は要するに火の事よね?」
「ん、多分そうだね。大広間にはある火といえば……」
「たいまつくらいですね。そういえば何故たいまつが灯されているのでしょうか?ここ最近は旧校舎には誰も立ち寄っていないはずなのに……」
虚ろなる炎を探すがそれっぽいのはたいまつの火だね。クローゼは誰も入っていないはずの旧校舎に何故たいまつの火がともされていることを不思議に思っていた。
「恐らく幽霊の仕業だろうね」
「へぇ~ご丁寧なお化けさんもいたものですねぇ」
「あんた達ねぇ……」
マイペースさをなお保ち続けるオリビエとドロシーにエステルは溜息を吐いた。
「まあまあ……とにかくたいまつを調べてみようよ。ただ罠の可能性もあるからわたしが調べてみるね」
「お願いね、フィー」
さっきカードが燃えたみたいに調べたら炎で焼かれる……なんてパターンもあり得たので取り合えずトラップに慣れているわたしがたいまつを調べることにした。
「あれ?よく見たら火がついていない燭台があるね」
中を確認してみるとそこにはカードが入っていた。これはビンゴだね。
「何か見つけたの?」
「うん、カードがあったよ。呼んでみるね」
カードの内容は『南を向く生徒』を探せって書いてあったよ。すると今度はカードは燃えずに派手な音と共に紙吹雪をまき散らして消えちゃった。
構えていたエステルはひっくり返る程驚いていた。
「も~!なんなのよー!!」
「パターンを変えてくるとはなかなか芸が細かいね」
「お化けを誉めるなー!!」
翻弄されるエステルはお化けを褒めたオリビエに怒った。
「エステルさん、落ち着いてください。とにかく今はその南を向いた生徒を探しましょう」
「そ、そうね。お化けなんかに負けていられないわ!早速その生徒を探しましょう」
「でも生徒ってこんな時間に旧校舎にいるものなんですかね~?もしかしたら過去に旧校舎で死んだ生徒の霊だったりして……」
「止めてよドロシー!お化けなんてあのおかしな仮面をつけた奴だけで十分よ!」
クローゼがエステルを落ち着かせるけどドロシーの余計な一言でまた怖がっちゃったよ。
わたし達はカードに書かれていた南を向く生徒を探すことにした。でも使われていないだけあって汚いね。
「うう……もしお化けだったらどうしよう」
「エステル、さっきまでと言っていたことが違くない?」
「だってあの白い影はなんか見ちゃったら怖いってより腹が立ってきたけど別のがいるなんて聞いていないもん……」
「そんなに変な幽霊だったの?わたしも見て見たかったな」
よほどその白い影の幽霊はおかしな恰好をしていたようだ、かえって興味が湧いてきたよ。
「あっあそこに何か影があるよ~」
「あ、あんですって!?」
ドロシーの発言にエステルは飛び上がってクローゼの背に隠れてしまった。確かに人影があるね、でもアレは……
「エステル落ち着いて。これマネキンだよ」
「へっ……?」
わたしは用心しながら近づくとそれはマネキンだった。ご丁寧にボロボロになったジェニス王立学園の制服を着せているからお化けは中々に凝ってるみたいだね。
「あったまきた!こんなにも馬鹿にされたのは初めてよ!!」
「落ち着いてエステル君、とにかくこの席を調べてみよう」
「向いている方向も南だからカードに書かれていた事と一致しますね」
エステルをなだめながら机の中を確認するとまたカードが入っていた。
「オリビエ、それ読んでみて」
「僕がかい?別にいいけど……ふふっ怖がるエステル君は可愛いなぁ♡」
「いいから早く読んでよ!」
二度ビックリされたエステルは凄く警戒してオリビエにカードの内容を読ませた。その内容は『落ちたる首』を探せとの事だった。
「首……どうせマネキンとか何かの首でしょ?この後カードに何かしら起こるのは分かってるんだからね!」
エステルはそう言うけどオリビエの持つカードには何も起こらなかった。
「あ、あれ……?」
「お化けさん分かってますねぇ~、何度か驚かせた後に敢えて何もアクションを起こさないでこちらを翻弄する……前に取材した手品師の言ってたやり方みたいです」
「な、なによそれはー!!」
ドロシーの言葉にエステルはまた怒ってしまった。ここまでいいように翻弄されているのを見るとお化けも凄く楽しいんだろうなって思ってしまった。
「もう!さっさと落ちたる首とやらを探してお化けをとっちめるわよ!」
そろそろ本気で怒りそうなエステルの勢いに飲まれてわたし達は旧校舎内を捜索していく。そして庭園に倒れて折れた台座にカードが入っていたのを発見した。
「首っていうからまたマネキンかと思ったけど今度はそうじゃなかったわね。えっと内容は……」
カードには最後の試練に臨めと書いてありエステルが持っていたカードは眩い光と共に消えてしまった。油断していたエステルはまたひっくり返ってしまった。
「……」
「エ、エステルさん?」
「皆、行くわよ」
「ヤ、ヤー……」
さんざん翻弄されたからか等々怒ることなく静かに青筋を立てるエステルにわたしはそう返事をする事しか出来なかった。
―――――――――
――――――
―――
カードと一緒に入っていた鍵を使える場所を探してわたし達は旧校舎の地下に進んだ。
「ん~……?」
「どうしたの、エステル?」
「いや冷静になったらあの謎解き、前にルーアンの市長の家から盗まれた燭台を取り戻す依頼を受けた時にやった謎解きとよく似ていたのよね。特にあの詩的な内容は凄く似ていたわ」
エステルは何か気が付いたようで聞いてみると、依然受けた依頼で同じようななぞ解きをしたとエステルは話した。
「そもそも幽霊がなんでこんな謎解きを強要してくるのよ。カードとかも心霊現象と言うよりは手品みたいだったし」
「確かに実体のない幽霊がそんな事を出来るとは思えませんね」
エステルの言葉にクローゼが同意する。まあ確かに幽霊がやるにしちゃ地味だね、もっとポルターガイストとか金縛りとか旧校舎が火に包まれるとかあってもいい気がするもん。
「ん、どのみちこの先に応えはあると思う。油断はしないように進んでいこう」
「そうね、警戒しながら行きましょう」
元凶はこの先にいるのは確定だ、油断しないように先に行こう。仮に幽霊でもやっつけちゃえばいいんだしね。
そして地下を進んでいくと突然何者かに襲われた。エステルが咄嗟に攻撃するとそれは魔獣だった。
「いきなり激しい歓迎だね!」
オリビエは既にアーツを駆除しておりソウルブラーを放つ。でも魔獣はそれをかわして黒いブレスを吐いてきた。
「させないわよ!」
だがエステルは回転させたスタッフで黒いブレスをかき消した。前まではあんなことはできなかったのに凄いよ。
「そこだよ」
わたしは隙の出来た魔獣を双銃剣でバツの字に切り裂いた。そこにクローゼの放ったアイスハンマーが直撃して魔獣を氷漬けにする。
「金剛撃!」
そこにエステルの渾身の一撃が直撃して魔獣を粉々にした。
「ざっとこんなもんね!」
「ん、やったね」
わたしとエステルはハイタッチをかわす。でもいきなり襲ってくるなんて油断ならないね。
「この先は危険かもしれないし非戦闘員であるドロシーは置いていった方が良いかもしれないね」
「えー!そんな~お化けさんを撮るチャンスだと思ったのに~」
「なら僕も一緒に残るよ。彼女一人だといざという時に戦えないからね」
この先は危険だと判断したわたし達はドロシーを安全な部屋に待機してもらうことにした。護衛としてオリビエが残るというが彼の実力なら問題は無いだろう。
わたしはエステルとクローゼと共に旧校舎の地下を進んでいく。
「出来ればクローゼも残ってほしかったけど……」
「ごめんなさい、フィーさん。でもどうしても何が起きているのか知りたかったんです。大切な学び舎で何者かが何かをしようとしてるのは確実ですから……」
「まあ幽霊だろうと人の手だろうと近くで変な事をされていたら不安よね」
わたしはクローゼにも残ってほしかったが彼女は異変の正体を知りたいと話す。まあエステルの言う事も理解できるし最悪わたしがクローゼを守ればいっか。
「でもこうして地下遺跡を進んでいると西風の旅団の皆に鍛えられていた時を思い出すわね。あの時はゼノさんの作ったトラップに引っかかって酷い目に合ったわ」
「エステルを爆発から守ろうとしたリィンがパーマかけたみたいになったのは不謹慎だけど笑っちゃったよ」
「た、大変な目に合ってますね、リィンさんも……」
エステル達とそんな会話をしながらも油断せずに地下遺跡を進んでいく。幸いトラップなどは無く魔獣にさえ気を付けていれば問題は無かったよ。
そして地下遺跡の奥にたどり着いたわたし達は広い空間に出た。
「誰かいるわ!」
その空間の奥に何やら白いマントを羽織った人物が立っていた。
「あれってあたしが見た幽霊にそっくりだわ!」
「ん、でも気配はあるし足もちゃんとあるよ」
「……あの!貴方はココで一体何をしているんですか!」
エステルは自身が見た幽霊にその人物が似ていると話すが、わたしは気配もあるし実態も感じるのでそれが人間だという。クローゼは意を決してその人物に声をかけた。
「フフフ……ようこそ、我が仮初めの宿へ。歓迎させてもらおうか」
そのマントを羽織った人物は男だったらしくこちらに振り向いた。
でも前から見るとやっぱりおかしな恰好をしているね、白い服にマントに杖、そして仮面……なんか前にリィンと見に行った帝国の劇場に出てた登場人物に似てる。
「あんたが幽霊の正体なの!?人間なのか幽霊なのかはっきりしなさいよ!」
「如何にも、あの影の正体は私だよ。このショーは楽しんでもらえたかね?カシウス・ブライトの娘、エステル・ブライト」
「お前、エステルの名前を……!」
「彼女だけじゃない。猟兵王ルトガー・クラウゼルの義理の娘フィー・クラウゼル、そしてこのリベール王国の姫君であるクローディア姫……こうしてお会いできて光栄だよ」
「わ、私の正体まで……!?」
このクローゼの正体まで簡単に言い当てたってことは間違いなく唯の変人じゃないね。もしかして……
「結社の人物?」
「フフッ、まずは自己紹介と行こうか」
わたしがそう呟くと仮面の男はマントを広げながら自己紹介をし始めた。
「執行者NO.X《怪盗紳士》ブルブラン……『身喰らう蛇』に連なる者なり」
「み、身喰らう蛇!?」
わたしの予想通りこの仮面の男……いやブルブランはわたしたちが追っていた結社の関係者だった。まさかこんなに早くに出会うなんて想定してなかったよ。
わたし達は瞬時に武器を抜いて戦闘態勢に入った。だがブルブランは余裕そうな態度を崩さず静かに笑いだした。
「そう殺気立つ必要はないさ、私は諸君と争うつもりは毛頭ない。何故なら私はここでささやかな実験をしていただけなのだからね」
「実験?それって今ルーアンで目撃されている幽霊の事?」
「そうさ、この『ゴスペル』を使ってね」
ブルブランの背後には何かの機械がありそこにはクーデター事件で使われていた導力器ゴスペルが置かれていた。
ゴスペルが光るとブルブランの横に二人目のブルブランが出てきた。でもそのブルブランは半透明で透き通っていた。アレが幽霊の正体だったんだ。
「あれってあたしが見た幽霊そのものだわ!」
「ん、空間に自身の姿を映像として写してるんだと思う。でもそんな技術は聞いたことがない」
「この機械は我々の技術で生み出した空間投影装置だ。これだけでは目の前にしか投影できないがゴスペルを使えば離れた場所に自由に投影できるのだ」
空間に姿を投影する装置を結社が作った……相当な技術力を持っていそうだね。
「その機械を作ったって……じゃあアンタがリシャール大佐にゴスペルを渡して色んな人を操っていた犯人なの!?」
「残念ながらそうじゃない、あのやり方は私の美学に反するのでね。ただそれを実行した人物と繋がりがあるだけさ」
「じゃあクーデター事件にはやはり結社が絡んでいたという訳ですね……」
エステルはブルブランにクーデター事件に関与していた人物なのかと聞くが、彼は首を横に振った。でもそれを実行した人物と繋がりが話すと言い、クローゼはあの事件の背後に結社がいた事を再確認する。
「このゴスペルは実験用に開発された新型でね、今回の実験では非常に役に立ってくれたのだよ」
「実験って皆を驚かす事が実験だったの?だとしたら結社って暇人の集まりなんだね」
わたしは実験をしていたというブルブランに皮肉を言う。そんな悪戯心で今回の事件を起こしたとは思っていないけどね。
「手厳しいね、西風の妖精。だがそれは私が話す事ではない、私はこの装置のデータを取れと言われただけだからね。幽霊騒ぎは選挙で熱くなっていた人々を和ませようとした私なりの余興だよ」
「その余興で騒動が起きかけたんだけどね……でも結社の関係者をこのまま逃がすわけないよ。捕まえて知ってること全部話してもらうから」
わたし達はそう言ってブルブランに武器を構えた。
「……フフッ」
「何がおかしいのよ!?」
「いや、こうして武器を構える姿を見ると益々その美しさと気高さが伝わってきてね。つい笑みを浮かべてしまったのだよ」
「なんの話?」
エステルとわたしはブルブランの言葉の意味が分からずに首を傾げた。
「そもそも私が今回の計画に参加したのは二人の人物に相見えたかったからだ。その一人がクローディア姫、貴女だよ」
「わ、私ですか!?」
ブルブランはクローゼに会いたかったと話す。やっぱり変態なのかな……
「市長逮捕の時に見せた貴方の気高き美しさ……それを我が物にするために私は今回の計画に参加したのだ。あれから数か月―――この機会を待ち焦がれていたよ」
「えっと……」
突然の告白にクローゼは何も言えなくなってしまった。やっぱり変態だね、こいつ。
「ちょっと待ってよ!市長逮捕って……ダルモアの事件の時よね?あんた、その場にいたって事!?」
「フフ、私はあの事件の時陰ながら君たちを観察していたんだ。こうやってね……」
ブルブランはそう言うと一瞬で姿を変えてしまった。それは執事のような恰好をした男性の姿だった。
「あ、貴方はダルモア家にいた執事の……!?」
「そう、私だったのだよ」
「思い出したわ!ルーアンの依頼で盗まれた燭台……その場に残されていたカードに書かれた怪盗Bっていうのはあんただったのね!」
クローゼはその姿を見て驚いていた、どうやらダルモア家の執事の人に変装していたみたいだね。
エステルは準遊撃士だったころに怪盗Bって奴から盗まれた燭台を取り返したって前に聞いたことがあるけど、その怪盗Bがブルブランだったって訳か。
「怪盗とはすなわち美の崇拝者、気高きものに惹かれずにはいられない。それが物であろうと人であろうとね。姫、貴女はその気高さで私の心を盗んでしまったのだよ。他ならぬ怪盗である私の心をね……」
貴女は大切な物を盗んでいきました、それは私の心です……って事?勝手に巻き込まれたクローゼが可哀想……
「おお、なんという甘やかな屈辱!如何にして貴女はその罪を贖うつもりなのか?」
「あ、あの……そんなことを言われても困ります」
クローゼは本気で困惑していた。
そりゃそうだよ、いきなり私の心を盗んだ罪をどう贖うのかなんて聞かれて答えられるのなんてオリビエ位だって。
「見喰らう蛇は放っておけないけどそれがクローゼを狙ってるって言うなら猶更よ!あんたはここであたしがやっつけてやるわ!」
「ん、友達を狙う変態はやっつけるべき」
「エステルさん……フィーさん……」
結社全体の狙いではないだろうけどこのブルブラン個人の狙いはクローゼなのは間違いないね。なら友達として放っておけないよ。
「やれやれ、姫との時間を邪魔するとは無粋な連中だ。『彼』がいたなら相手をしてもよかったが……今回はここの守護者に相手をしてもらおうか」
ブルブランがそう言って指を鳴らすと奥に会った扉が開いて四足歩行の魔獣が現れた。しかもその魔獣は前に地下遺跡で見た機械みたいな魔獣だった。
「な、何よコイツは!?」
「甲冑の人馬兵!?」
どう見ても仲良くできそうにないね。戦うしかないか。
「クローゼ、援護をお願い。エステル行くよ!」
「分かったわ!」
わたしとエステルはそう言って人馬兵に向かっていった。人馬兵は巨大な剣を叩きつけてきたがわたしとエステルは左右に跳んで回避する。
「アナライズ!」
そして魔獣のデータを解析する。どうやら土と水に弱いみたいだね。
「クローゼ、こいつは水系のアーツが有効だよ!」
「分かりました!」
クローゼは水系のアーツが得意なのでここはわたしとエステルで時間稼ぎをしよう。
人馬兵の振るう剣を足場にして奴の顔に張り付き顔に銃弾を撃ちこんだ。怯んだところにエステルが金剛撃で追撃をする。
でも流石に固くそこまでダメージは与えられていないみたいだね。なら脆い部分を狙うとしよう。
再び上段から振るわれた剣を横にステップで移動して回避する。攻撃は激しいけど動きは鈍いみたいだね。
「はっ!」
連続で斬り付けてきた人馬兵の攻撃をエステルがスタッフで逸らして隙を作る。そこに再びわたしが飛び掛かって今度は腕の関節に手榴弾を詰め込んだ。
激しい爆発と共に人馬兵の右腕が地面に落ちた。これで連続攻撃は出来ないね。
でも油断はしないよ、こういう奴は奥の手を隠し持ってるものだからね。
わたしとエステルが同時攻撃をしようとすると人馬兵は動きを止めて胸から紫色の竜巻を放ってきた。やっぱり奥の手を持っていたか。
「フィー、行くわよ!」
「ヤー!」
エステルの合図と共にわたしはジャンプする、そしてバットのように構えたエステルは勢いよく振るった。
わたしはそのスタッフに押してもらい一気に加速する。
「サイクロン・リッパー!」
回転しながら風のアーツを発動して竜巻と化したわたしは紫の竜巻を打ち破って人馬兵の胴体を斜め一閃に切り裂いた。
「皆さん、離れてください!」
アーツのチャージを終えたクローゼの声にわたしとエステルは人馬兵から離れた。
「コキュートス!」
辺り一面に冷気が漂い巨大な氷塊が地面から生えて人馬兵の全身を貫いた。
「とどめ……シャドウブリゲイド!」
でもまだ油断はできない、完全に破壊するまで攻撃を続けるよ。わたしは7人ほどの分け身を生み出して人馬兵の全身を切り刻んだ。そして7人一斉に手榴弾を投げつけて大きな爆発を炸裂させた。
「奥義・太極輪!」
追撃でエステルが回転しながら人馬兵に突っ込んでいった。怯ませた後に人馬兵の周りを高速で動き回って闘氣の渦に閉じ込める。そして渾身の一撃を振り下ろして人馬兵を粉々に打ち砕いた。
「はぁ……はぁ……どうよ!」
「ん、いっちょ上がり」
そこまで苦戦することなく勝てたのはわたし達が強くなったからだね。まあロランス少尉にはまだまだ追いつけていないけど。
「ほぉ……これは驚いた。『彼』の妹である西風の妖精は兎も剣聖の娘はそこまで大したことはないと聞いていたが……フフ、人の言葉などやはり当てにならないか」
「何を余裕ぶってるのよ!次はあんたの番よ!」
余裕の態度を見せるブルブランにエステルはスタッフを突きつける、でもわたしはブルブランが言った一言が気になりエステルを止めた。
「エステルちょっと待って……今彼の妹って言ったよね?もしかしてお前が相見えたいって言っていたのってリィンの事?」
「如何にも!私がこの計画に参加したもう一つの理由……それは西風の絶剣と呼ばれる君の兄『リィン・クラウゼル』の物語をこの目で見届けるためさ!」
「リィンの物語……?」
わたしの予想通りこの男のもう一つの目的はリィンだった。でもリィンの物語を見たいってどういう事?
「西風の妖精よ、君は長い年月を西風の絶剣と共に過ごしてきたのだろうが……実はわたしの方が先に彼と出会っていたのだよ!」
「嘘、リィンは最近何も隠さなくなって昔の事も教えてくれた。その中にお前の事なんて一言もなかった」
「当然さ、出会ったとはいえど相まみえたことはない。何故なら……」
ブルブランはそう言うとまた姿を変えた。その姿はまるで猟兵のような恰好だった。
「猟兵……?もしかして戦場で出会ったって事?」
「残念ながらそれは違う、私がこの姿をしているのはある像を盗むためだったのさ」
像を盗むために猟兵に変装した……?どういうこと?
「かつてある村に黄金で作られた女神の像が存在した、その像には不思議な力があって魔獣を遠ざける力があったのさ。私は是非とも美しい像をこの手にしたく私の試練を受けてくれそうな聡明な人間を選別していた」
「あの面倒な謎解きの事ね……」
ブルブランの話の中に出てきた試練に心当たりのあるエステルがげんなりとした様子を見せる。
「だが無粋にもその村を猟兵が襲ったのだ。辺りは血と火薬の匂いに包まれて阿鼻叫喚の地獄……まったく無粋な奴らだったよ。私の邪魔をするなど……だから私は計画を変えて一刻も早くその黄金の女神像を回収することにした。美しき美を守るためにね」
「……それがリィンと何の関係があるの?」
「私は無事に女神像を回収して帰還しようとした。だがその時に目にしてしまったのだ、リィン・クラウゼルが小さな少女を守るためにその身を修羅に変え猟兵達と戦う姿を!」
「ッ……!!」
わたしは最初ブルブランが何を言いたかったのか分からなかったけどリィンの事を聞いてソレがかつてエレナと言う人を失ったというリィンの過去に出てきた村だと分かった。
「……お前いくつから怪盗なの?そんな昔にリィンを見たって事?」
「フフ、私は生まれた時から怪盗紳士さ。その時に見せた悍ましくもある意味美しい姿に私は魅了されてしまったよ、その日から私は彼を密かに追い続けた、結社の一員となってからもずっと彼の事を注目していた」
「……」
「愛する者の死、強さを渇望しそれを追い求める日々、数々の強敵との死闘……特に剣帝に一撃を与えた時など歓喜のあまり身を震わせてしまったよ……彼こそまさに物語の主人公!私は見たいのだ、彼の行く末を!それを人々に語り継いでいく事のが私の使命!この出会いはまさに運命だ!」
リィンの事をまるで小説を読んでいる第三者が勝手な意見を言うみたいに好き勝手に話すブルブラン、それを聞いたわたしはらしくないと思いつつも怒りを抑えることが出来なかった。
「ふざけないで……リィンが物語の主人公?リィンはしたくてあんな経験をしてるんじゃない!エレナって人を失った時も、わたしを守るためにD∴G教団に捕まった時もリィンは苦しみ続けた!今だってそう、鬼の力に体を乗っ取られるんじゃないかと不安で仕方ないはず……それを何も知らないお前が楽しそうに語るな!」
わたしは武器を構えてブルブランに向かっていった。
こんなことは普段は絶対にしない、でも許せなかった。リィンの苦しみも悲しみも何も知らないくせに好き勝手に話すこの男がどうしても許せないの……!
「フフ、意外と熱く語るではないか、西風の妖精。君はもう少し物静かな少女だと思っていたが……出来ればもう少し君と彼について語り合いたいところだが時間が押しているのでね」
わたしの攻撃をかわそうともしないブルブラン、そして攻撃が当たるその瞬間、ブルブランは霧のように姿を消してしまった。
「しまった、これは……!」
目の前の存在が本物のブルブランでない事に気が付くが、すでに遅かったらしくわたしの背後に現れたブルブランは燭台によって照らされて生まれたわたし達の影にナイフを突き刺した。
「な、なにこれ……!?」
「動けません……!」
エステルとクローゼも動きを封じられてしまったらしい。
「影縫い……実際に使える人がいるなんて思わなかったよ」
「フフ、私の手にかかればこの程度の事は造作もない」
「油断した、まさかいつの間にか幻影と入れ替わっていたなんて……」
「驚いたかね、この装置は近くなら本物と見分けがつかないほど精巧に投影をすることが出来るのだよ」
だから気が付かなかったのか。
いやいつもなら違和感を感じたはずだ、怒りで頭が真っ赤になってたから気が付かなかったんだ。こんなの猟兵として失格だ。
「ピュイイイッ!」
そこにジークが現れてブルブランに攻撃を仕掛けた。でもブルブランはそれを回避してジークの影にナイフを刺して動きを封じてしまった。
「現れたな、小さきナイト君。君の騎士道には敬意を表すが邪魔はしないでもらおう」
そしてブルブランはクローゼに近づいていく。
「クローディア姫、これで貴女は私の虜だ。どんな気分かね?」
「見くびらないでください。例え体の自由を奪われても心までは貴方に取られたりはしません!」
「フフ!そう!その目だよ!気高く清らかで何物にも屈しない強い決意の眼差し!その輝きは今まで手に入れてきた美しき物達に負けないほどの高貴さを放っている!私はそれが欲しいのだ……!」
ブルブランはそう言ってクローゼに手を伸ばす、このままじゃクローゼが……!
「感謝するぞ、ジーク。そなたのお蔭でその者の気を逸らすことが出来た」
その時だった、誰かの声がしたと思ったら地面を砕くすさまじい衝撃が走った。それによって影に刺さっていたナイフが吹き飛んで体の自由が戻ってきた。
「真・地裂斬!」
再び放たれた地を砕く衝撃波をブルブランは回避する。この技は間違いない、私の大切な親友……
「ラウラ!」
「遅くなってしまってすまない、フィー」
そう、そこにいたのはラウラだった。来てくれたんだね、嬉しいよ……!
「ラウラ!?いつ来てたの!?」
「ラウラさん!ありがとうございます!」
「久しいな、エステル。そして礼は不要です、クローディア姫」
エステルとクローゼも自由になったらしくこっちに駆け寄ってきた。
「油断するとは愚かな!」
ブルブランは再び影にナイフを刺そうとするがわたしは動じなかった。なぜなら……
「なにっ!」
ブルブランが持っていたナイフは銃弾によって弾かれた。
「フフッ、真打登場だね」
「オリビエ!」
そう、ラウラと同じでオリビエも来てくれていたことが分かっていたからだ。
「私のナイフを打ち落とすとは……君は何者だ?」
「僕の名はオリビエ・レンハイム。美しさを追求する美の探求者さ」
「ほう、この私を前にして美の探求者を名乗るとは身のほど知らずだな」
「フフッ、それはこちらのセリフさ。様子を伺っていた時に話を聞いていたけど君はリィン君に魅了された者だと言っていたが……僕から言わせてもらえれば3流もいい所だよ」
「なんだと?」
オリビエとブルブランは何だかよく分からない言い合いを始めた。
「リィン君は主人公なんて呼ばれる存在じゃないさ。優しくて傷つくと分かっていてもそれでも誰かの為に行動してしまう……そんなどこにでもいるただの少年だ。例え異能の力を持っていたとしてもね」
「何を言っている……彼は英雄になるべくして生まれた存在だ。そして英雄とは他人とは違う素質を持つ者だけがなれる一握りの存在、彼はサーガとなる存在なのだ。実際に彼は私に様々な物語を見せてくれた、ただの凡人がそのような輝きを放てるわけがない」
「リィン君はそんな強い存在じゃないよ、一人じゃ直に傷ついてしまう脆い存在……でも助けたいと思ってしまう愛しい子なのさ、だから僕はリィン君を見守りたいって思ったんだよ。僕だけじゃなくフィ―君やラウラ君、エステル君にクローゼ君……個人で差はあれどリィン君の力になりたいって思わせる何かを持っているのがリィン君の魅力なのさ。そう、リィン君の魅力とは『愛』だ!」
「ッ!?」
「他人のために体を張ることが出来るリィン君だからこそ僕達も力になりたいと思える……それこそまさに愛、それがリィン君の輝きだよ」
オリビエ……やっぱり貴方は良い人だよ。まだ数か月の付き合いでしかないのにそこまでリィンの事を想ってくれるなんて……
決めた、わたしはオリビエを信じるよ。例え帝国のスパイでもオリビエはわたしの仲間だよ。
「……フフッ、まさかこんなところで美をめぐる好敵手に出会えるとは思ってもいなかったよ。オリビエ・レンハイムと言ったね、君に敬意を表して私も名乗ろう!執行者NO.X《怪盗紳士》ブルブラン……この名を覚えておきたまえ」
「ならば僕も改めて名乗ろう。僕の名はオリビエ・レンハイム、愛を求めて旅する漂白の詩人にして狩人さ」
なんか変な友情を結んだみたいだね、リィンとシャーリィみたいな関係かな?
ブルブランは高速で装置の元に行くとゴスペルを取り外した。
「こんなに愉快な時間を過ごしたのは久しぶりだ。礼を言わせてもらうぞ、諸君」
「逃がさないわよ!」
「今宵はこれで終わりにしよう。次に相見える時を楽しみにしているよ、特に西風の絶剣によろしくと言っておいてくれたまえ、妖精」
「待て!」
わたし達はブルブランを捕まえようとしたが、ブルブランはまるで魔法のように消えてしまった。
「き、消えた……」
「し、信じられません……」
「わたしがしっかりしてれば……」
エステルとクローゼはブルブランが消えてしまった事に驚いていた。わたしは怒りで我を忘れて奴の術中に嵌ってしまいクローゼを危険な目に合わせてしまった事を反省する。
「……とにかく今はこのことをすぐにギルドに報告した方が良いよ。そういえばドロシーは?」
「彼女なら一旦学園に戻ってもらったよ。その際にラウラ君と合流したんだ」
「そうなんだ」
なるほど、その時にラウラとオリビエは合流したんだね。
「ラウラとはいっぱい話がしたいけど今はそうもいかないね」
「そうだな、リィンがいないことが気になるがまずはすべきことをするとしよう」
久しぶりにラウラに会えたからいっぱいハグしたかったけど今はこのことをギルドに報告することを優先しよう。
「リィンは大丈夫かな……」
わたしは幽霊船の調査に向かった想い人の無事を願った。
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