フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
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第8章 冥府の門編
第35話 虚化
キョウカとの戦闘に臨んでいるエルザ、ミラ、カグラ、ミネルバ、ウェンディ、シャルルはそれぞれが魔力を解放し、攻撃を仕掛けていた。アレンとの修行の成果に加え、多数で同時に攻めたことが功を喫し、キョウカとの戦闘は優位に運んでいたが、キョウカの真の姿であるエーテリアスフォームに加え、6人全員が感覚強化による痛覚強化により、徐々に劣勢に立たされる。そして、痛覚強化がさらに強力になったことで、動くだけで激痛が走るようになり、遂には動けなくなってしまう。
「なんだ、たかが10倍の痛覚強化で身動きすら取れなくなったか…」
キョウカは、地面に伏して苦悶の表情を浮かべる6人に対して、含みのある笑顔を向ける。ウェンディとシャルルに至っては、目に涙を浮かべており、その痛みの強さが見て取れる。
「くっ…」
「少し動くだけで、とんでもない痛みだ…」
ミラとエルザが、苦しそうに口を開く。
「やはり、アレンのようにはいかんか…此方を楽しませられるのは、やはりあやつしかおらんな…」
キョウカがくくっと笑って見せると、6人はギロッとキョウカを睨みつける。
「おお、まだそんな顔ができるのか?なら、アレンと同じように、最大である100倍の痛覚を味あわせてやろう…」
キョウカはそう言って、6人に更なる痛覚強化を試みるが、それはキョウカを呼ぶ声によって遮られることとなる。キョウカは後方から聞こえる自信を呼ぶ声に反応しながら、後ろを振り返る。
「どうした?セイラ?なぜおまえがここに…」
キョウカはアレンへの支配を実行しているはずのセイラがこちらに向かってくるのを怪訝い思いながら口を開くが、セイラの尋常ではない様子に言葉を詰まらせる。
「お逃げください!!キョウカ様!!」
「一体どうしたというのだ…」
こちらに向かって走ってくるセイラに対し、キョウカは疑念の声を上げる。
「アレンの…アレンの支配に失敗しました!!」
セイラの言葉に、キョウカとエルザ達は驚愕の表情を浮かべる。それぞれ驚きの意図は違うものの、その目は大きく見開かれていた。しかし、少しして、両者の驚きは、同じものに変異していく。
「なんだと!?其方の魔法でも無理だったと申すか!」
「申し訳ございません…。そんなことより、早くここから逃げましょう!!」
セイラの焦りように、キョウカは動揺を隠せない。
「一体どういう…ッ!」
キョウカはそこまで言葉を漏らすと、セイラの目に小さく涙が浮かんでいるのが見えた。
「あの男は…化け物です!!勝てるわけがない!!!一刻も早く…ガッ!!!」
セイラが悲痛のうちに言葉を漏らすが、それは終わりを迎えることはなかった。セイラの右側に、白い棒のようなものが現れ、右腕へと接触する。少しして、それが何者かの足であることが分かる。その足は、セイラの右腕をポッキリとへし折り、脇腹へと到達する。しかし、その足の動きはそこで動きを止めることはなく、セイラの脇腹に深々とめり込むと、気国に耐えない骨や肉がつぶれる音が響き渡る。刹那、セイラは目にも止まらぬ速さで遠方へと吹き飛ばされていく。
「セイラッ!!」
キョウカの叫びをかき消すようにして、圧倒的な砂ぼこりと、ドガアアアンッ!という音を残し、場は静寂に包まれる。
キョウカとエルザ達は、その白い足の正体を確認しようと目を凝らす。
そこには、顔の右上半分を白い仮面が多い、先ほどの足含め、身体の節々が白い鎧のようなものに覆われた人物がいた。
「ま、まさか…」
「あれは…」
キョウカとエルザが、驚愕の表情を浮かべてその人物を見る。少し異質な魔力に変異している者の、その魔力には見覚えがあった。更に、仮面に隠されていない顔、加えて体格から、その人物が何者であるのかを認識するのに、そう時間はかからなかった。
「ア…アレン…さん?」
ウェンディが小さく呟くと同時に、虚化によって暴走したアレンは、コキッと首を曲げ、その向きを天へと変える。瞬間、圧倒的な方向と共に、津波のような魔力が解放される。
『ギュオオオオオオオオオオッッ!!!!!』
その圧倒的な、それでいて邪悪な魔力は、冥界島を駆け巡り、暴走虚化アレンの周りの地面を割り、辺り一帯の岩を含め、あらゆるものを破壊する。
キョウカはその圧倒的なまでの力に、足の力が抜け、尻もちをつく。エルザ達は驚きのあまり身動きが取れず、加えて恐怖で涙を浮かべている。
咆哮と魔力放出を一通り終えた暴走虚化アレンは、ゆっくりと視線を下へと向ける。そして、その視線をキョウカの元へと合わせる。
「ひ、ひっ…」
暴走虚化アレンと目が合ったことで、キョウカは涙を滲ませ、小さく後ずさりする。しかし、腰が完全に抜けてしまっているために、思うように身体を動かすことができない。恐怖で思考が正常に働かないなか、何とか身体を動かそうとするも、キョウカの意識は一瞬で途切れることとなる。何故キョウカの意識が途切れることとなったのか。少し離れたところからキョウカを見ていたエルザ達にはその理由が見て取れた。
アレンが、瞬間移動のように一瞬でキョウカの元へと移動し、キョウカの頭を踏み砕いたのだ。アレンに踏みつぶされたキョウカの頭は、ペシャンコに潰され、真っ赤な血の池を地面に作り出す。その血の池に、点々と、キョウカの脳髄や脳みそ、潰れかけの眼球などが散らばっている。頭を踏み砕かれたキョウカの身体は、ピクピクと痙攣を繰り返していた。
「ア…アレン…」
「なっ…」
「うっ…」
ミラ、カグラ、ミネルバが、その惨劇を見て、呻き声のような、悲鳴のような声を上げる。
『ガアアアアアアア…』
アレンは徐々に痙攣を小さいものとするキョウカの身体を見ながら、呻き声を漏らす。キョウカが一瞬にして死亡したことにより、エルザ達にかかっていた感覚強化魔法が解かれ、痛みの感覚が正常に戻る。それを感じ取った6人は、アレンの動向を見守りながら、ゆっくりと身体を起こした。それと同時に、キョウカの痙攣が止まったことで、アレンはその視線をエルザ達へと向ける。
視線が自分たちに向いた瞬間、エルザ達はピタッと身体を強張らせ、固める。恐怖はもちろんある。状況を察するに、アレンは正常ではない。恐らく虚化という改造により、完全に普段の意識を保っていない。
だが、それだけではなかった。恐怖による身体の硬直ではない。もっと別のものが6人の身体を支配していた。これはなんだ?…まるで身体全体を縛るような圧倒的なオーラ…。気迫のようなものが6人に身動きを取ることを許さなかった。
そんな6人に、アレンはゆっくりと足を踏み出し、近づいてゆく。その姿を見て、6人は更に恐怖を滲ませる。
「アレン…さん…」
ミネルバの涙声により、他の5人も声を絞り出してアレンに声を掛ける。
「アレン!私だ!エルザだ!!」
「虚なんかに負けないでっ!」
「っ!目を覚ませ!アレン!!」
「アレンさん!!」
「アレン!!」
エルザ、ミラ、カグラ、ウェンディ、シャルルが悲痛の叫びをあげる。それを聞いたアレンはまたも一瞬で姿を消す。その様に驚いていた6人であったが、突如エルザの前に現れ、エルザの首根っこを掴み、宙釣りにしたことで、更なる驚きを見せる。
「ぐっ…はっ…」
「エルザッ!!」
エルザはアレンに首元を掴まれ、加えて圧倒的なまでの力に息ができずにもだえ苦しむ。そんなエルザの様子を見て、ミラが思わず叫ぶ。
「アレンさんっ!!ダメです!!エルザさんです!!」
「やめてっ!!アレン!!」
「頼む…」
「なんで…こんなことに…」
「うっ…うう…」
ウェンディ、ミラ、ミネルバ、シャルル、カグラが再度苦しそうに言葉を発する。
「がっ…ア、アレ…ン…」
エルザは何とか声を絞り出し、アレンへと言葉を掛ける。刹那、アレン腕の力が一瞬弱まる。
それを感じたエルザは、目を見開きアレンを見つめる。
「…え…える…える、ざ…」
アレンの声を聴き、エルザは更に目を見開き、目尻に涙を浮かばせる。虚に侵された声ではない…。聞き覚えのある、愛おしいアレンの声であった。
「そ、そうだ!エルザだ!!目を覚ませアレン!負けるな!!」
エルザの再三の声掛けに、エルザの首から腕を外す。エルザはごほっと苦しむ表情を見せるが、すぐにアレンへと視線を戻す。
アレンは苦しそうに両腕で頭を抱えていた。
「ぐあああああああああっっっ!!!!」
「アレン…!!」
アレンの叫び声に、ミラは涙をボロボロと流して号泣する。他の5人も同じようにアレンの様相を見つめていた。すると、アレンの顔を覆っていた仮面にピシッとヒビが入る。そのヒビを見て、目を見開いた6人であったが、更にそのヒビが節々の白い鎧のようなものにも広がっていく。直後、仮面や鎧は激しく音を立てて砕け散り、アレンの素顔が、身体が露になる。
仮面がはがれたアレンの左目に生気はなく、右目は閉じられていた。アレンはゆっくりとその身体を前向きに倒していく。
「ッ!アレン!!」
倒れこむアレンを見て、一番近くにいたエルザが、抱きしめるようにして受け止める。他の5人も、そんなエルザとアレンの元へと駆け寄る。
エルザは、アレンを抱きしめ、体勢を整えると、すぐさまアレンの胸元へと耳を摺り寄せる。そして、耳に神経を集中させてある音を探る。
―ドクンッー
エルザが探していた音は、幸運にも耳に届く。
「ッ…生きている…」
エルザの声に、他の5人も涙を流してアレンへと駆け寄った。
ウルキオラとの戦闘を行っていたヒノエやミノト達は、一方的な蹂躙とはならず、かろうじて戦闘にはなっていた。だが、ほぼ全力で戦闘に当たっていたヒノエ達は、すでに息絶え絶えと言った様子で、苦悶の表情を浮かべていた。
「もう限界か?」
「はぁ…はぁ…」
戦闘の疲れを感じさせないウルキオラの発言に、フェアリーテイルのメンバーは驚きを隠せなかった。
「くっ…ここまでとは…」
「はい、姉さま…。予想以上です…」
ヒノエとミノトが悪態を付くようにウルキオラを見つめる。
「くそっ…剣すら抜かずに…」
「遊んでるってわけか…」
ジェラールとリオンも、ウルキオラの余裕のある立ち振る舞いに言葉を吐き捨てる。
「まさか、全力だとおもったか?哀れなことだ…ッ!」
ウルキオラはフェアリーテイルのメンバーを挑発するような発言をするが、何かを察したように後ろを振り返る。その様子に、皆が怪訝な表情を浮かべる。
「…とりあえずは成功か…だが…」
『…ギュオオオ…』
ウルキオラが呟くと同時に、聞きなれない叫び声が響く。加えて、圧倒的で邪悪な魔力のオーラがヒノエ達の元に届く。その様相に、皆が冷や汗を流しながら驚きを口にする。
「なんだ…この叫び声…それに魔力は…」
「この魔力…まさか…」
「アレン…さん…?」
ラクサス、ウルティア、ルーシィ狼狽したように言葉を発した。
「どうやら、虚化が完了したようだな…」
ウルキオラの言葉に、ヒノエ達はひどく怯えた様子を見せる。
「だが、制御できずに暴走しているな…」
ラクサスは、ウルキオラの言葉を噛みしめながらゆっくりと立ち上がる。
「そこをどけ…ウルキオラ…」
ラクサスは、一刻も早くアレンの元へと向かおうとウルキオラに言葉を放った。
「…どかせてみろ…」
そんな思いを感じ取ったウルキオラは、それを遮るようにして口を開く。
ラクサスとウルキオラは、睨みあうようにして佇む。少し遅れて、ラクサスの意図を感じ取った他の皆も、再び魔力を込めながらウルキオラへと対峙する。
「なるほど…どうやら、まだ戦う意思はあるようだな…」
ウルキオラはそんなフェアリーテイルのメンバーを一瞥し、斬魄刀の柄へと手を伸ばした。
エルザ達は、意識を失っているアレンを背負いながら、足早に冥界島を駆けていた。エルザに背負われたアレンを、ウェンディは移動しながら治癒魔法で回復させる。そして、その回復が抉られた右目に差し掛かった時、ウェンディの表情はひどく曇った。
「ッ!ダメです…私の力では、抉られた目を治すことは…」
一抹の希望にかけたエルザ達であったが、予想通りの結果に険しい顔つきになる。
「…目玉が残っていれば、まだ何とかなったかもしれませんが…」
ウェンディは苦しそうに言葉を発すると、ミラが悔しそうに、強く両目を閉じる。エルザ、カグラ、ミネルバ、シャルルもひどく落ち込んだ様子を見せる。
エルザは、自身の中に渦巻く負の感情に蓋をしながら、ゆっくりと口を開く。
「…ッ。とりあえず、アレンを一刻も早く安全なところに運ばなくては…」
「でも、ギルドはもう…」
「それに、マグノリアの街も魔障粒子に侵されておる…一体どうしたら…」
エルザの発言に、ミラ、ミネルバが動揺したように言葉を発した。
「ああ、だが、なんとかして…ッ!」
エルザは頭をフル回転させながら考えるが、その考えは、大きな岩壁を曲がった際に見た光景により、中断されることになる。
「あ、あれは…」
「ヒノエ!ミノト!…それに皆!!」
カグラ、シャルルが驚きの言葉を口にする。ヒノエ達大勢のフェアリーテイルの魔導士が、何とか立っていたり、苦しそうに地面に伏している姿を見たのだ。
「ほう?まさかそっちから来るとはな…」
エルザ達は、その不快で畏怖を覚える声がした方向へと視線を向ける。
「あ、あなたは…」
「ウルキオラ…」
「こやつが…」
「アレンを虚化させた男…」
「ッ!皆をやったのもお前か!」
ウェンディ、ミラ、ミネルバ、エルザ、カグラが激高したように声を発する。
「久しいな、女。まさか自ら地獄へ舞い戻ってくるとは…」
ウルキオラはミラとウェンディに向けて言葉を発する。
「ッ!あなたの目的は何ですか!!」
「冥府の門でもないあなたが、なぜアレンを狙うの!」
「貴様らに話すことは何もない…アレンを寄こせ」
ウルキオラの発言に、エルザ達は目を見開いて驚きを表す。
「…断る」
エルザが低く唸るのと同時に、ミラ、カグラ、ミネルバが魔力を込めて反抗の意思を示す。そんな会話を聞いてか、ラクサスが苦しそうに言葉を発する。
「相手にするな…アレンと一緒に…逃げろ…」
「こいつには…勝てない…」
ラクサスの言葉を補うようにして、ウルティアも口を開く。
「まさかとは思うが…お前らに決定権があるとでも思っているのか?」
フェアリーテイルの会話を遮るようにして、ウルキオラが魔力を解放する。それは、圧倒的な力を放ち、その場にいるものを地へとたたきつけるような力へと変化する。
「くっ…」
「なんだ、この魔力は…」
「う、動けない…」
ミラ、カグラ、エルザが地面へとその身を預けながら、顔だけをウルキオラへと向けて怯えたように口を開いた。
「遊びは終わりだ…貴様らが抵抗する意思も持たぬよう、俺の本当の力を見せてやる」
ウルキオラはそう言うと、手に持った斬魄刀をゆっくりと持ち上げて自身の肩の位置まで振り上げる。
「アレンを寄こさなくいい。一人ずつ確実に殺して…最後に連れていく…」
ウルキオラの言葉に、再度苦悶の表情を見せるフェアリーテイルのメンバーであったが、この後に起こった信じられない様相に、驚きのモノへと変わる。
「鎖せ…黒翼大魔」
刹那、圧倒的な魔力がウルキオラの周りに発生する。その魔力は、黒緑色の様相を見せると、雨のように辺り一面へと広がっていく。
「なんだ…これは…」
「黒い…雨?…」
「いや、違う…」
「一粒、一粒に膨大な魔力を感じる…これは…」
「魔力の雨だ…」
「なんという…」
「ありえない…」
エルザ、ミラ、ウルティア、ラクサス、ジェラール、ミネルバ、カグラがウルキオラのいた場所を見つめながら小さく口を開いた。圧倒的な魔力に身体を振るわせながら、皆がゆっくりと身体を起こし、立ち上がる。エルザは、アレンを背中から降ろし、守るようにして抱きしめる。
次第に魔力の雨はやみ、ウルキオラの全貌が視界に映る。その様相を見て、皆が驚愕の表情を見せる。
「く、黒い…翼…」
「それだけじゃない…服装も、頭の仮面も…変形しているぞ…」
リオン、カナがウルキオラの姿を見ながら言葉を発した。
「動揺するなよ…構えを崩すな…意識を張り巡らせろ…一瞬も気を緩めるな…」
ドスの効いたその声に、ラクサスは身構えるようにしてウルキオラを見つめる。自身の心臓が、これまでにないほどに高鳴る。思考が今までにないほどに掻き乱れる。
身体はウルキオラの動きを察知しようとしているが、脳は『今すぐに逃げろ』と指令を出している。そのチグハグがラクサスの思考をかき乱していたのだ。他の者も皆、同じ気持ちなのか、小鹿のように震える足で、何とか立っている様子であった。
ラクサスは瞬きすらせず、ウルキオラを見つめる。だが、一瞬も目を離さなかったはずであったにも関わらず、視界からウルキオラが掻き消える。
その様相に驚く暇もなく、ラクサスの右腕が弾け飛ぶ。
「は…ッ」
ラクサスは、吐息を漏らすように声を発するが、左足、右足、左腕、胴体、そして、首と次々に弾け飛ぶ。
「ぐああああああああああっっっ!!!!!」
自身の身体に起こった惨劇に、今までにない悲鳴をあげる。
「何を怯えている?」
ラクサスは、どこからともなく聞こえたその声に、目を覚ましたかのような感覚を覚える。刹那、小さく涙が目尻に溜っているのが分かった。
「(はぁ…はぁ…なんだ、今のは…)」
ラクサスは自身の手足の感覚を確かめながら思考を巡らせるが、その思考が紡ぎを迎えることはなかった。
「…10人程度か…」
「なっ!」
ウルキオラの言葉と同時に、辺りを見回したラクサスは、驚きの声を上げる。
「う、うっ…」
「はっ…」
「あっ…」
「うー…」
殆どの者が、その目を虚ろにして、痙攣していたのだ。辛うじて意識を保っていたのは、ラクサス、ヒノエ、ミノト、エルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ジェラール、リオン、ウル、ガジルのみであった。
「ウェ、ウェンディ…シャルル…」
「レヴィ…」
「しっかりしろ、ルーシィ…」
エルザ、ガジル、ジェラールが震えるように声を発するが、皆の表情に生気が戻ることはない。
「まさか、一人として立っていることすらできんとはな…」
ウルキオラはそう言って、ゆっくりと歩みを進める。ラクサスはウルキオラを見つめながら怯えた様子で再度思考を張り巡らせる。
「(今のは一体なんだ…幻覚…なのか…)」
ラクサスが考えていたのと同時期に、意識を保っている他のメンバーも自身に、皆に何が起こったのかを考え始めた。
「(今のは魔法じゃない…まさか…魔力だけで…)」
「(精神が屈したというのか…)」
「(強いとか弱いとかじゃない…)」
「(次元が違う…)」
「(…怖い…)」
エルザ、カグラ、ウルティア、ウル、ミラがそれぞれに思考を張り巡らせていると、ウルキオラが一人の人物の前で歩みを止め、頭を鷲掴みにして引き上げる。
「まずはお前だ…女…」
ウルキオラが鷲掴みにした人物を見たミラが、酷く困惑した様子を見せる。
「リサーナ!!!」
ウルキオラは、鷲掴みにした掌から、緑色の緑光を発生させる。先ほどその力、魔法を見ていたラクサス達が、ひどく怯えた様子で口を開く。
「虚閃か…ッ!」
「まずい…このままじゃ…消し飛ぶぞッ!!」
「や、やめろー!!」
ラクサス、リオン、ウルティアが叫ぶが、ウルキオラは意に介さず虚閃を放つために魔力を込める。
「お願い!!やめて!!!」
ミラは懇願するようにして声を張り上げる。そんなミラに、ウルキオラはじろっと視線を移す。
「女…貴様は敵に懇願してばかりだな…一ついいことを教えてやろう…」
ウルキオラの言葉に、ミラはぐっと悔しそうな表情をする。
「カスは死に方も選べない」
「ッ!…お願い…やめて…」
ミラは涙をポロポロと流しながら口を開く。そんなミラの様子を見て、他のメンバーは呪い殺すような表情と視線をウルキオラへと向ける。
刹那ウルキオラは虚閃をリサーナに向けてゼロ距離で放とうとする。
「やめろーー!!!!」
「いやーっ!!」
ジェラールとミラが悲痛にも似た叫びをあげるが、無慈悲にも虚閃は轟音を轟かせ炸裂する。その直前、ウルキオラは大きく目を見開く。それは、ジェラールたちの叫びに反応したわけでも、虚閃の発動によるものでもない。もっと、別の者に対する驚きであった。
それと同時に、先ほどまで抱きしめていたはずのアレンが消失していることに、エルザは気付く。周りをキョロキョロと眺めながら、アレンを探し、声を上げようとする。だが、それよりも先に、探している相手の声が聞こえたことで、それは意味をなさなかった。
「ふぅ…間一髪…ギリギリだったな…」
アレンは、リサーナを抱えながらやれやれと言った様子で口を開いた。直後、先ほどまでののほほんとした雰囲気が一変。アレンはウルキオラの絶望的なまでの魔力を押しのけるようにして魔力を解放する。
「…中々のスピード…そして魔力だな…」
ウルキオラはリサーナを抱えるアレンへと視線を向け、言葉を発した。アレンが魔力を解放したことにより、抱えているリサーナや精神が屈し、生気がなかったものが次第に正気を取り戻す。
「この魔力は…」
「ッ…アレンさん!」
ラクサス、ソラノが顔に希望を滲ませながら声を発する。
「うぅ…アレン…」
ミラがリサーナを救ったアレンを見て、更に涙を流す。皆も、仲間を失うという緊張と恐怖から解放され、大きく息をしている様子が伺えた。
「ア…アレン…」
リサーナは驚きつつ、顔を少し赤らめながらアレンを見つめる。
「悪いな…助けるのが遅くなっちまって…」
アレンはリサーナに優しく笑い掛けながら口を開く。リサーナはそんなアレンの様子をみて、感極まったと言わんばかりに涙を流し、抱きしめる。
「怖かった…怖かった…」
「…もう大丈夫だ…」
リサーナを優しく抱きしめ、アレンは小さく声を掛ける。そして、ゆっくりと地面へと降ろし、立ち上がる。
「よう、地下牢獄以来だな…ウルキオラ」
「…アレン・イーグル…まさか、こんなに早く意識を取り戻すとはな…」
アレンは落ち着いた雰囲気で、それでいて怒りを含んだ口調でウルキオラへと語り掛ける。
「少し見ない間に翼が生えてるぜ…それが刀剣解放ってやつか…」
アレンはウルキオラから与えられた情報を思い出しながら言葉を発する。
「…それで、ゴミを守って、その後どうするつもりだ?」
「ゴミじゃねえ、仲間だ」
ウルキオラの言葉に、アレンは短く答える。
「まさか、俺と戦うつもりか?」
「さあ、どう思う?」
アレンはそう呟きながら、双剣【セイントエスパーダ】を換装する。その言葉に、ウルキオラは小さく笑って見せる。その表情に、アレンだけでなく他の者も目を見開く。皆、ウルキオラの表情が変わるのを初めて見たためだ。
「貴様は戦わずとも理解しているはずだ…。俺の力を…ましてやこの解放状態の俺の力を…」
「ああ…刀剣解放前なら同等だったかもしれねえが…解放状態のお前の魔力は俺を超える…厳しいだろうな…」
アレンの発言に、フェアリーテイルのメンバーは苦虫を噛み砕いたような表情を見せる。アレンの実力を、身近でそれも長く見てきたエルザやラクサス達でも、その力の差を理解できるほどであった。だが、勝てない程ではない…。アレンならきっと…。その願いも込め、アレンへと鼓舞の声を掛けようとしたが、それは遮られることになる。
「…今の俺なら…な」
「…なんだと?」
ウルキオラは、アレンの含みある語尾に、怪訝な表情を浮かべる。瞬間、先ほどよりも強い魔力がアレンの周りに漂う。それは、封じていた魔力を、力を解放するかのようなものであった。
「ッ!まさか、貴様…」
ウルキオラは少しだけ目を見開いて驚きを見せる。その圧倒的な魔力に、ウルキオラの魔力にも肉薄するかのような魔力に、他の皆も驚きの様子を見せる。
「力の解放が…お前だけの専売特許だと思ったら大間違いだぜ…ウルキオラ・シファー…」
アレンは先ほど解放して見せたウルキオラと同じように、双剣を肩の位置まで上げ、その切先をウルキオラへと向ける。
「はぁ…本当は三天黒龍を…アルバトリオンとミラボレアスと戦う時まで隠しておきたかったんだがな…」
アレンはそう言って、掲げていた双剣をゆっくりと自身の元へとよせ、双剣を重ねるようにしてクロスさせる。
「だが…大切な仲間を守るためだ…そうも言ってられねえだろ…」
「貴様は…一体…」
ウルキオラは珍しく狼狽した様子でアレンを眺める。
「よく見ておけ…そして、言いふらすような真似…するんじゃねえぞ!!!」
双剣はキイーンと高い音を立てて、左右に大きく振られる。
「卍!!解ーーーー!!!!!!!!」
刹那、無尽蔵にあふれていた魔力が、一瞬制止したかと思うと、アレンを中心にして規則性を持つようにして、まるで竜巻のような様相を見せて天高く、地這いずるようにして巻き上がった。
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