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安石国の樹

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第四章

「私はあの時のです」
「石榴の木であったか」
「そうなのです」
「だからあの時漢まで連れて行って欲しいと申し出たのか」
 張騫はこのこともわかった。
「そうであったか」
「はい」
 その通りという返事だった、女は答えてからさらに話した。
「恩義を感じお慕いしていますので」
「そうであったか」
「それで種に移り密かに同行していましたが」 
「匈奴に襲われた時だったな」
「あの時にはぐれたので」
「匈奴に襲われた時だな」
「あそこからです」
 砂漠で張騫が何とか匈奴の襲撃から逃れた時からというのだ。
「ここまでです」
「私を追ってか」
「ようやくここで追い付きました」
「そうであったか」
「それでこれを」 
 ここまで話してだ、女は。
 懐からあるものを出した、それは。
「種だな」
「はい、あの時失くされた」
「持って来てくれたか」
「これをここに植えられればです」
 女は張騫に息も絶え絶えの声で話した。
「石榴の木が生えてです」
「花も咲くか」
「そうです、是非植えられて下さい」
「わかった」
 張騫は女の言葉に頷いた、そうしてだった。
 女から種を受け取って城門の傍に撒いた、すると。
 そこから見る見るうちに青々とした葉を見せている木が生えてだった。 
 あの赤い花を見せた、女はそれを見届けてから張騫に話した。
「私は何時までもこちらにいてです」
「花を見せてくれるか」
「そうさせて頂きます」
「そうか、では私はな」
「見て頂けますね」
「そうさせてもらう」
「有り難きお言葉。それでは」
 女は張騫の言葉を受けるとだった。
 にこりと微笑み姿を消した、張騫は供の者達と共にだった。
 全てを見届けそのうえで帝の下に参上し全てを石榴のことも話した、すると。
 帝は大月氏とのことは叱責したが西域のことがわかったことと名馬のことはよしとして彼に褒美を与えた、その後で。
 張騫にその石榴の木のところまで案内させてその赤い花を見つつ彼に言った。
「この花、大切にせねばな」
「はい、よい花です」
「まことにな、だからこそ何があろうともな」
「この花は大事にしていくのですね」
「そうしていこう」 
 帝がこう言ってだった。
 石榴の木そして花は長安の宝となった、その宝は今もこの街にあって一人に赤く美しい花を見せているという。


安石国の花   完


                 2022・4・13 
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