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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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SAO:アインクラッド~神話の勇者と獣の王者~
  ボスモンスター・テイマー

「な、なんだこれ……」

 アインクラッド第七十四層のボス部屋は、阿鼻叫喚地獄と化していた。

 アインクラッド第一層に本部を敷く巨大組織《アインクラッド解放軍》……通称《軍》のプレイヤーが、何の対策も打たずにボスモンスターに挑戦したらしい。

「何で《軍》が……二十五層で負けてから最前線には出てなかったのに!!」

 セモンが叫ぶ。《軍》……正式名称を、《アインクラッド解放軍》。いつの間にやら正式名称になっていたそのギルドは、本来はプレイヤー達の利益を均等化し、協力してSAO攻略をめざそう、というギルドだった。しかし、いかなる理由かによってその方針は変化、現在の独善的な組織となっている。

 もとは彼らも攻略組の一員だった。しかし、アインクラッド第二十五層でボスモンスターと争った時、彼らは壊滅し、その後は戦力補強の方向に進んで、攻略には出てきていなかったのだが……。

 コハクが呟く。

「そういえば聞いたことがある……。《軍》の内部で現状に異を唱える派閥ができて、最前線に派遣プレイヤーが出てくるって……」
「それがあいつらか……何もあの人数でボスモンスターに挑戦することはないだろうに……!!」

 《軍》のプレイヤー達と戦うボスモンスターは、これまた異形だった。

 体は人のそれだ。鍛え上げられたしなやかな肉体。右手には《斬馬刀》と呼ばれる《片手用大剣》のカテゴリにエクストラ武器が握られていた。

 しかし……特徴的なのはその頭部。

 ――――山羊(ヤギ)だった。そのボスモンスターの頭部は、人のそれではなく山羊のそれだった。

 よくよく見てみれば、下半身もヤギの体だった。長い尾の先には、蛇と思われるモノの頭部がついている。

 俗にいう《悪魔》そのものだった。

 名は、《ザ・グリームアイズ》……輝く目。

「悪魔型のモンスター……見るのは初めてだな」
「これから上の層にはこんなモンスターが多そうね」

 セモンとコハクが口々に感想を述べる。

 部屋の奥では、疲労困憊と言った雰囲気の《軍》の精鋭部隊が、悲鳴をあげながら吹き飛ばされていた。

「何やってる!!早く転移結晶で離脱しろ!!」

 すると、悲鳴を上げていたメンバーの一人が叫ぶ。

「だめだ……!!く、クリスタルが使えない……《結晶無効化空間》だぁ!!」

 《結晶無効化空間》。

 その名が示す通り、そのエリア内ではあらゆるクリスタルの使用が不可能になる。もちろん、転移結晶も。

「なんてこったい……」
「今までボス部屋が無効化空間だったことなんてなかったぞ……!!」


「何をしている……お前たちはこんなものではないだろうが……全員、突撃――――――!!」

 隊長と思しき男が、剣を振りかざして突撃していく。

「馬鹿!!」

 キリトが叫び、それが聞こえなかったのか、あるいは聞かなかったのか……男は、グリームアイズの斬馬刀に叩き斬られた。

 ―――あ゙り゙、え、な……い……

 男はそう言い残すと、爆散し、消滅した。

「――――うわぁあああああ!!!」

 リーダーの死亡。

 《軍》のプレイヤーたちが散り散りに逃げ回り、ひとり、また一人とその命を散らしていく。

「だめ、だよ……こんなの……ダメ――――――!!」

 アスナが腰のレイピアを音高く抜くと、そのままソードスキルで突っ込んでいってしまった。

「アスナ――――!!」

 キリトが背中の剣を抜き、ソードスキルで追いすがる。

「俺達も行くぞ!ハザード!《あれ》の用意だ!コハク、支援頼む!!」
「了解した!」
「命令してんじゃないわよ!」

 セモンも腰の刀を抜きはらう。コハクが背中に担いでいた黄金の長槍を両手持ちで構える。

 そして――――ハザードは、肩にとまらせていた赤い子龍に話しかける。

「行くぞ、レノン」
「ピィ」

 
                     *


 
「おぁああああああ!!」

 キリトの片手剣が斬馬刀を跳ね返す。

「くらえやぁ!!」

 セモンの刀がグリームアイズを切り裂く。

「てやぁあ!」

 コハクの長槍がグリームアイズを突き、すぐに後退して今度は衝撃波を飛ばす。《妖魔槍》のエクストラ効果だ。

「ゴガァアアアアア!!」

 山羊頭の悪魔は怒り狂ったように咆哮すると、斬馬刀を大きく振り上げた。それに、まとわりつくように邪悪なエフェクトライト。ソードスキル――――!!

「ハザード!今だァアアアアア!!」

 セモンが後方のハザードに向かって叫ぶ。

「応!――――来いッレノン!!」

 叫ぶ。

 周辺の時間が止まったように、全てが遅くなる。

 ハザードを中心に、真っ赤な魔方陣が展開する。それは子龍を飲み込み、だんだん、だんだん輝きを増して―――――

「ゴァアアアアア!!!」

 ズシン!!と、盛大な地響きとともにそこには、巨大な紅の龍が出現していた。

 大きさはグリームアイズとさほど変わらない。それがあの子龍であったとは、だれが想像できただろうか。

 彼の龍の名は《ザ・バーニングバーン・ドラゴン》。《ザ》の名はボスモンスターの証。レノンの正体は、とある階層の隠しフィールドボスだったのだ。


「行けっレノン!!」
「ゴガァアアア!!」

 ハザードの号令で、レノンがその両腕をふるう。鋭いかぎづめが、グリームアイズの体を切り裂く。

「ぐるぅうう」
「ゴぁああああ!!」

 レノンがグリームアイズを引き倒し、業炎のブレスを放つ。グリームアイズが悲鳴を上げる。レノンの《劫火の吐息(バーニング・ブレス)》には、継続的にダメージを与える効力があるのだ。


「キリト!キリト!!」
「はっ!」

 呆けたようにそれを見ていたキリトに、セモンが呼びかける。

「キリト!なんか隠し玉があるんだろうお前!だったら早く使え!!レノンは……出現していられる時間に限りがあるんだ!!」
「な……」

 よくよく見れば、ハザードのHPが少しずつではあるが減って言っているのが見て取れる。そういうことか――――――。

「……わかった」

 キリトはメニューウィンドウを操作すると、メイン使用スキルを変更。同時に、新たな剣を背中に呼び出す。


 純白の剣。名は《闇を払うもの(ダーク・リパルサー)》。

 それをじゃりぃいいん!!と音高く抜き放ったキリトは、山羊頭の怪異に向かって猛然とダッシュした。

「うおぁああああああ!!」


 体勢を崩したグリームアイズをねらい、キリトの二刀が炸裂する。

 
「スターバースト……ストリーム……ッ!」

 1、2、3……13、14、15、16。

 十六の連撃が、まるで流星群のように降り注ぐ。

 ユニークスキル、《二刀流》。かつてアインクラッド第五十層攻略直後に出現した、二刀を操るスキル。

 その上位剣技が、ボスモンスターの体を穿っていく。


「ぁああああああ!!」
「ゴワァアアアアア!!!」

 いつしか、絶叫していたのはキリトだけではなくなっていた。

 グリームアイズは、ぴしりと動きを止めたかと思うと、その体を無数のポリゴン片に四散させた。

 
 同時に、レノンが再び赤い魔方陣に包まれ、子龍の姿になる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「おつかれ、キリト」
「ああ……」


 そのまま、キリトが倒れてしまった。


「キリト君!!」

 アスナがキリトを抱き起すと、すぐにキリトが目を覚ました。

「馬鹿っ……あんなに無茶して……」

 アスナがキリトに回復ポーションを飲ませている間に、ハザードが《軍》の生き残りたちに声をかける。

「お前ら、自分たちだけで本部に帰れるな?たったあれだけの人数でボス戦に挑戦することは二度としないように上に報告するんだ。分かったな」
「は、はい……。あの、ありがとうございました!」

 全員が足早に部屋を出ると、そのまま転移結晶で離脱していった。

「ったく……で?キリト、さっきのあれはなんだ?」
「……エクストラスキルだよ。《二刀流》。一年前くらいのある日、突然スキルウィンドウに出現してたんだ。入手条件は不明……」

 セモンの問いに答えるキリト。

「――――ユニークスキル、か」

 ハザードか答える。

「ああ、多分、な……」


 《ユニークスキル》。

 それは、数多の上位スキル――――《エクストラスキル》の最高峰と呼ばれるいわば《専用スキル》のことだ。

 エクストラスキルは、『出現条件がはっきりしていないスキル』の総称のことで、《刀》や《体術》、《薙刀》に《斬馬刀》などもこれに含まれる。その習得条件は多種多様で、クエストの報酬だったり、特定下位スキルを馬鹿の様に修行していると出現したりする。

 そのほぼすべてが十人以上の習得者を確立させているが、その中でたった一人、多くても二人しか習得者が現れないと目されているスキルが《ユニークスキル》だ。もちろん、システムに規定された名前ではない。最初にこのスキルを獲得した男が、自らのスキルを称して使い始めた名前だ。

 現在、公に明らかになっているユニークスキルは、キリトの《二刀流》を含め6つ。そして明らかになっていない物を含めると十五に迫ると言われている。

 セモンの《神話剣》や、コハクの《妖魔槍》もその一つだ。


 そして今日大衆に明らかになった、ハザードのユニークスキル。

「ハザード、ボスモンスターは、普通はテイムできないよな?あれは、いったい……」
「俺のスキルの能力だ。名前は《獣聖》。能力は、簡単に言えば『フロアボス以外のあらゆるモンスターを、一度だけテイムできる』、と言うものだ」

 キリトは驚きに目を見開いた。

 フロアボス以外のあらゆるモンスター……すなわちそれは、フィールドボスやクエストモブすら自分の仲間にできるということだ。その能力がいかに強力なのかは、フィールドボスモンスター達の侮れないパワーが証明している。

「……さて、俺達はそろそろ上の階層をアクティベートしに行くぜ」
「ああ……たのむ」

 セモンが上の階層へと続く階段に向かう。ハザードもそれを追いかける。

「ちょ、ちょっとセモン!待ちなさいよ!!」

 コハクが槍を背中に収めると、二人に続いて駆けて行った。



                     *



「―――――《二刀流》、か。十一個目のユニークスキルが、ついに明らかになったね」 
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