ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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SAO:アインクラッド~神話の勇者と獣の王者~
三人目のメンバー
一度だけ、セモンが本気で喧嘩をしたことがある。
小学校二年生くらいの時だったか。
名前も知らない、同い年の女の子のためだった。混血だというその子は、目の色が赤っぽくて、そのせいでよくいじめられていた。
かかわらなくていい。関係ない。その時の俺は、そう思った。けれど、あいつは違った。
かかわらなくていい、むしろその方がいいことでも、誰かが困っていたら首を突っ込む。セモンは、そんな奴だった。行動力と、ひたすら前向きな精神、そして、それを可能にしてしまうだけの『可能性』――――
そんな全てをもち合わせたあいつは、公園でいじめの現場に乱入して、大柄な男子たちを退けた。体格差は絶望的だった。セモンは小柄だ。少年たちは筋肉質だったり、肥満体質だったり。だが、セモンはたった一人で彼らを叩きのめし、追い返したのだ。
助けられたその子は、
「助けてなんて言ってないでしょ」
と言ってそっぽをむくが、セモンはニッと笑って、
「うまくいったから、いいじゃないか」
と言い返した。
――――なんて奴だ。
その時、自分はそう思った。
何か特別な力があるのか。例えば自分のように、いわば《異能》があるのか。いや、そうは思えない。
あるとすれば、それはセモンという人間自体そのものなのだ。彼という存在自体が、『成功』を導き出すという概念なのだ――――
決して、真似できない。
呆然と立ち尽くす俺に、いつのまにか来ていた父親が言った。
「秋也。お前にあのような者どもとつるむことを、いつまでも許していると思うな。お前はあの兄のようにならねばならんのだ。……茅場の名にかけて」
***
攻略は、かなりスムーズに進んだ。キリトとアスナがスイッチしながら敵を片付けていき、セモンとハザードはかなり暇そうだったし、実際ハザードは居眠りしかけていた。
本当に不思議な奴らだと思う。実力は非常に高い。キリトのレベルも90代だが、この二人に至っては100を超えた大物だ。
セモンの戦闘センスには目を見張るものがあるし、何も考えていないように見えて、結局成功してしまう『勝利を引き寄せる力』とでも言うべき何かがあるのも見逃せない。
――――そういえば。
ハザードを起こしながら、キリトはある思考に至った。
キリトは、ハザードが戦うのを見たことがない。確か彼の武器は、金色の柄をもつ漆黒の大剣だったはずだが、どうしてそれを知っているのかも分からない。いつ、見たのだったか。
彼の方にとまっている小さな赤いドラゴン。あれは《ビーストテイマー》の証である《使い魔》だ。だがキリトはあのような種別のモンスターを見たことがない。一応テイミング可能なモンスターは、大抵暗記していたように思うのだが……。
そんなキリトの思考を、
「ハァァァ……ヤアアッ!!」
という裂ぱくの気合いが遮った。どうやらこの先、一つ部屋があるところからのようだ。
「!! ……今の声は……」
セモンが反応する。
「まさか……? いや、でもなんで……最前線には来てないと思ってたのに!!」
珍しく焦ったような表情を浮かべて、駆け出して行ってしまうセモン。
「お、おい、セモン!!」
「まって、セモン君!」
「……」
次々叫ぶ。ハザードだけが、他の二人とは違う表情をしていた。
キリト達もセモンを追いかける。セモンのレベルはキリトから見れば尋常ではないほど高い115だ。敏捷ではなく筋力値よりのステータスとはいえ、無駄に高いレベルがセモンのスピードをブーストしていた。
やっとセモンに追いついたとき、キリトたちが見たのは、十数匹のモンスターに囲まれたセモンと、不自然なほど軽装備の槍使いの女性プレイヤーだった。
茶色というよりはオレンジブロンドに近い髪の毛の、槍使いの装備は、肩の出た騎士装束……アスナのそれに似ている(ちなみに槍使いのは青色だった)……に、胸部アーマーのみという、片手剣士かと見まがうような軽いものだった。
セモンは刀……《ソード・オブ・クサナギ》―――《草薙の剣》を水平に構えた。すると、刀がオレンジに発光し、ソードスキルがモンスターを切り裂いた。なんと11連撃だ。確か《神話剣》専用ソードスキル、《アラブル・ストリーム》という技だったはずだ。
槍使いのほうは金色の槍を肩に担ぐように構え、槍用斬撃系ソードスキル《ビートソニック》を発動させた。槍が紫のエフェクトライトとともに思いっきりふり払われ……衝撃波が飛び出した。あのスキルにそんな効果はなかったはずだが……。
さらにキリトを驚かせたのはその後。少女が放った槍用のソードスキル……目算で六連撃が、見たこともない軌道を描いたことだ。
一時所属していたとあるギルドで、槍使いの少女と一緒に戦った経験があるキリトは、詳しい、とまでは言わずとも槍系ソードスキルは一応暗記しているつもりだった。
だが今少女が使ったスキルは全くの初見。
刀が疾風の嵐となってリザードマンやガイコツ兵たちを切り刻み、槍が花を咲かせるようにモンスター達を吹き飛ばす。
ほぼ同時に全モンスターを倒しきった二人は、それぞれに向き合い、言った。
「……助けてなんて言ってないでしょ」
「うまくいったからいいじゃないか」
しかめっ面で言い放った少女と、にかっ、と人懐っこい笑みと共に即座に答えるセモン。
直後、二人同時に吹きだして、笑い始める。
「久しぶり。全然変わってないのね、セモン」
「傷つくなぁ。俺も強くなったつもりだぞ」
今度は微笑む少女を見て、キリトとアスナは困惑する。
「お、おい、セモン……」
「あの……その人は?セモン君の知り合い?」
セモンはキリト達の方に向き直り、満々の笑みで言った。
「紹介するよ、キリト、アスナ。元・ギルド《聖剣騎士団》メンバー、ユニークスキル《妖魔槍》の使い手、コハクだ」
*
《聖剣騎士団》。
それは、セモンとハザードのコンビ名だったはずだ。
そう言われてみれば、セモンとハザードのHPバー上部には、所属ギルドを示す『ギルドタグ』が記されていた。アスナはここに白地に赤い十字のマークがしるされているし、キリトもかつてはここに『月夜の黒猫団』というギルドのマークが描いてあった。
セモンとハザードのギルドタグは、刀と二本の大剣が重なり合ったマークの後ろに、白い円卓が描かれたもの。
そして、コハクと呼ばれたプレイヤーのHPバーにも、そのロゴマークが描かれていた。
「しっかし驚いたな。コハクも最前線来てたなんて」
「別にいいでしょ! 私だって暇なら来るわよ」
「いや、ずっと下の階層で傭兵やってるって聞いてたから、意外だっただけだよ。元気だったか? 心配してたんだぞ」
「う……そ、そっちこそ危険な目にとか合ってないでしょうね」
大声で言い合いをしているセモンとコハク。コハクが噛みつき、セモンがいなす。そんな印象を受ける会話だが、なんとなくお互いに相手を思いやる雰囲気を醸し出している。同じギルドの仲間だった、というから、中もいいんだろうか。
そんな二人をしり目に、ハザードがぼそりと呟く。
「……本当はセモンが心配で来たんだろうに……」
「へ……?それって……」
アスナが反応する。ハザードは深く頷くとつづけた。
「コハクはセモンが好きだ。セモンは覚えてないだろうが、俺達にはリアルで面識がある。セモンは俺と、あと一人の三人だけだと思っているがな……」
「へぇ……」
このあたりでキリトは聞くのを止めた。彼らのリアルの話に首をつっこむのは、なんとなく気が引けた。それに恋愛沙汰ならアスナの方が得意だろう。
「たまにあいつを見かけることがあった。ごまかしているし、こっちも気付いてないふりをしてるし……というかセモンに至っては本当に気付いていない。たぶんセモンが心配で様子を見に来たんだろうよ……昨日のアスナみたいに」
「―――――!?!? ……ばれてた?」
「バレバレだ。気付いていないキリトがおかしい。……しっかし毎回コハクの奴、どこから情報もらってるんだか……」
なんか聞き捨てならない事が聞こえた様な気がするが、とりあえず無視する。
「とにかく無事で良かった。なぁ、しばらく一緒にいかないか? 俺達も人手が欲しかったところなんだ」
「……そ、そんなに来てほしいなら……ついて行ってあげてもいいわよ、別に」
やっと言い合いが終わったらしいセモンとコハクは、キリト達の近くに歩いてきた。
「コハクのユニークスキル《妖魔槍》は、槍スキルで衝撃波を飛ばす能力があるんだ。彼女がソロプレイできるのもこのスキルのおかげ」
「失礼ね。私はこのスキルがなくても強いわよ。あなた達の助けなんていらないくらいに」
コハクは釣り目気味の目でキリト達を睥睨した。その眼はオレンジ色だった。
すると、呆れたようにハザードがぼそりと言った。
「……十九層でゴースト系モンスターと戦えなくてセモンに守ってもらってたのはどこのどいつだっけか?」
「――――――!?!?!? ハザード!?居たの!?」
「いたぞ。本当に気付いていなかったのか……」
「おいコハク、まさか《索敵》切ってたとか言うんじゃないよな!?」
漫才が始まった。
言い合うセモン、コハク、ハザード。それに混じっていけずに、苦笑するキリト&アスナ。
「っていうか何でそんなこと……ってそんなことやって……」
「ああ、あのときか。可愛かったな、あの時のコハク」
「セモンまで! やめなさいよぉ! っていうか可愛いって、ちょ……この馬鹿っ!!」
ダメージを与えない程度にセモンをぶつコハク。
「いてっ!」
「……仲がいいんだな」
完全に置いて行けぼりになったキリトが呟いた。
するとセモンは笑って、
「まぁ、仲間だしな」
と返した。
その、直後。
「うわぁぁぁぁぁ……」
悲鳴が轟いた。
「!?」
「!!」
「今の……」
「プレイヤーの声だ!この奥だぞ!」
キリト達はダンジョンの奥へと走って行った。
だんだん、グラフィックが『重く』なっていく。
そして進んだ先には……
「これは……!」
巨大な扉……ボス部屋があった。
そしてその内部では、今まさに地獄が降臨したところだった。
後書き
次回は74層ボス攻略になります。クラインの出番はありません。
2014年12月17日、修正しました。
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