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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第2章 天狼島編
  第9話 忍び寄る巨影

グリモアハートの艦は、黒煙をあげながら、天狼島を後にしていた。その艦内。
「まさか…俺たちが敗北するとは…」
「う、うーい、信じられねっす…」
ラスティローズと華院=ヒカルは生気のない声で呟く。
正面の座席には、包帯をグルグル巻きにしたハデスの姿があった。
「っ!ゼレフが目の前にいたのに、大魔法世界が目の前だったのに…!」
ラスティローズがそう呟き終わったその時、艦内に足音が響き渡る。
「誰だ!」
「ここは…」
「君たちのような存在が僕を作りだした」
その声を聴き、ラスティローズと華院=ヒカルは驚愕の表情を浮かべる。
「君たちのような邪念がアクノロギアを呼んだ。そしてそれは、ミラボレアスの、アルバトリオンの糧となってしまった」
声の主の姿がよく見える位置まで近づくと、ハデスも驚いた様子を見せる。
「それは、この時代の、世界の…終わりの始まりを意味する」
声の主は、ゼレフであった。
「もう、その歯車を止めることはできない」
ゼレフが目を開く。その瞳は、赤く染まっていた。それは、ゼレフが力を取り戻したことを意味していた。
「世界はここに、終焉を迎える」
ゼレフの周りに、禍々しい魔力が漂う。
「ゼ、ゼレフ…」
ハデスがそう呟いた途端、ゼレフの魔力はさらに勢いを増し、渦を巻く。
「僕に、命の重さを忘れさせたのは君たちだ。アクノロギアは、三天魔龍は、世界の終わりを告げる。君たちの邪念がそれを呼んでしまった」
「アクノロギア!やつは殺されたのだろう!アレンに!」
ハデスは椅子から立ち上がり、叫ぶ。
「本当に残念だけど、倒しきれなかったんだよ、彼ですらも」
ゼレフは両手を上下へと広げる。
「君たちには、罰を受けてもらうよ」
「ま、まて、うぬにはまだ聞きたいことが…」
「一つは、アクノロギアを呼んだ罪、一つは、黒龍と煌黒龍の復活の引き金を引いた罪、一つは、僕に、命の重さを忘れさせた罪だ」
魔力が艦内を支配する。
「悔い改めよ!」
天地を突くほどの、円柱形の黒き魔法がハデスを襲う。刹那、ハデスは絶命する。
「マ、マスターハデスが…!」
「し、し、し…」
ラスティローズと華院=ヒカルがハデスの死に驚愕する。
「身の程を知らぬクズめ、冥界へ落ちるがいい」
ゼレフは強い口調で言い放つと、何かに気付いたように振り向く。
「…っ、来たか、アクノロギア…」
ゼレフは苦虫を噛んだような表情で呟いた。
「どうやら、もう君には会えないようだ、アレン。…そして…ナツも」
ハデスは艦内の闇の中へと消えてゆく。
「さよならだ、アレン、ナツ…」


「「「「なんだとー!」」」」
ナツ、グレイ、エルフマン、ガジルは信じられないといった様子で声を荒げていた。
悪魔の心臓の襲撃に加え、評議員が紛れ込んでいたことが発覚し、S級魔導士試験が中止となったからだ。それゆえ、今年のS級魔導士昇格者はなしということで、抗議の声をあげていたのだ。
…まあ、そもそも、ガジルは候補者でもなんでもないのだが…。
そんな抗議の現場から少し離れた位置で、ラクサスは怪訝な様子で座り込んでいた。
その手はリサーナの頬へと伸びており、両の頬を引っ張っていたのだ。
「にゃ、にゃにしゅんの(何すんの)」
リサーナは頬を引っ張られているせいで、うまくしゃべれない。
リサーナの言葉に反応するように、ラクサスは頬から手を引き、今度は少し強めにリサーナの頭をポンポンと何度も叩く。
「いや、本物なのかなー、と思って」
「本物よ!失礼ね!!」
リサーナは、少し、怒ったような口調で言い返す。
「なんだよ、偽物のリサーナでもいたのか?」
ラクサスが何を言っているのかわからないアレンは、謎の行動をするラクサスに問いかける。
そこで、ラクサスとリサーナ、周りの人も「あっ」と気付いたような表情を見せる。
「あー、そういえば、あんたずっといなかったから知らねーのか…」
「ん?何がだよ?」
アレンが聞き返すも、皆言いにくそうに口を開かない。リサーナが自分のことだからとアレンに説明する。
「えっと、詳しく話すとややこしくなるから、割愛するけど…私、実は数年前に不慮の事故で死んだことになってたの…」
「はぁ??どういうことだよ…」
「えーっと、死んだと思われてたんだけど、実は生きてた…みたいな…」
リサーナはへへっと、少し恥ずかしそうに答える。
「ふーん、世の中には、そんなおかしなことがあるもんなんだなー」
「「「「「お前がそれを言うんじゃねーよ!!!!!」」」」」
ラクサス、リサーナ、フリード、ビックスロー、エバが、息ピッタリに突っ込みを入れる。
「おお、ナイ…ス、つっこ…」
アレンは何かを察したように、言葉が途切れ途切れになる。ゆっくりと手で顔を覆う。
「そ、そうか、だからミラジェーンのやつ、性格が変わって…そういうことだったのか…」
「(((((いや…半分はあんたが原因だけどね…)))))」と、5人は心の中で唱えるように再度、突っ込みを入れる。
「ってことは、性格が逆もど……」「アレーン!!!」
アレンの言葉は終わりを迎えることなく、横から突っ込んできたものに遮られた。
「無事だったんだねーー!!!よかったー――!!!!!」
突っ込んできたのはウルだった。うわあああん、と大泣きしながらアレンを押し倒し、抱き着く。
「いって…おお、ウルか!!久しぶりだなー!…7年も経ってるのに、逆にきれいになってんじゃねーか!!!」
ウルはその言葉に感極まった様子で、アレンの胸に顔を擦り付ける。
ラクサスはため息をつく。アレンの無意識好感度上昇発言に、呆れたように口を開く。
「ったく、思ってもねーのに、女連中にそんなことばっか言ってるから、しつこく付きまとわれんだよ…」
「ああっ!ラクサス、あんた今なんて言っ…って、なんであんたがここにいんのさ!!」
ウルが激高したようにラクサスを睨みつける。
ラクサスは、「だるっ」とそっぽを向いて呟く。
アレンはそんなラクサスを見て、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「余計な一言口にするから、だるいことになるんだよ」
「お前に言われたくねーよ!」
ウルも加わったことで、その後も、ギャーギャーと盛り上がりを見せる。
そんな様子を木の後ろから覗き込むようにして、見つめている人影があった。
「ちょ、ちょっと挨拶するの…怖くなっちゃったね、シャルル…」
ウェンディが困ったように口を開く。
「えぇ!?何に怯えてんの?あんた」
シャルルがはあ…と困り果てた様子でいると、その後ろをエルザが通りかかる。
「色々噂を聞いているだろうが、アレンもラクサスも……っ!」
言いかけたところで、エルザから不穏な雰囲気が漂う。
アレンに馬乗りになって抱き着いているウルが目に入ったからだ。
次第にエルザの目元が鋭く、黒くなっていく。
「や、やっぱり怖いね…シャルル…」
「いや、それとこれとは話が別でしょうが…」
シャルルが言い終えると、エルザはウルとアレンの元へと向かい、何やら言い合いをしている様子であった。
「アレンって人が戻ってきたのはいいけど、なんだかさらに騒がしくなりそうね…」
シャルルはため息をついて、やれやれといった手ぶりを見せた。
また別のところではカナがギルダーツに自分が娘であることを告白し、父と娘の感動の再会?を果たす。
また、エルザとジェラールがラクサスの破門解除について弁明し、破門を継続することを決めているマカロフに、当然だ、とラクサスも納得していたりなど、会話を広げていた。
カグラとウルティアは内陸に戻るため、船の身支度をしている。

キャンプ場では、多くの者が椅子に腰かけ、リラックスした様子で過ごしていた。そこには、ようやくウルとエルザから解放されたアレンの姿もあった。
「ア、 アレンさん、傷の方は大丈夫なんですか?」
アレンの隣に座っていたウェンディが、緊張した様子でアレンに声を掛ける。
「ん?ああ、痛みも大分引いてるよ、頑丈さと回復力だけは誰にも負けねーからよ!」
と言って、ニコッと笑う。エルザさんの言う通り、とても優しい人でウェンディは安心していた。
「あと、攻撃力と防御力と魔力とスピードもな」
グレイが続けざまに答える。
「それ、ようは全部ってことじゃねーか」
ガジルが呆れたように口を開く。
「お、漢―――!」
エルフマンがいつもの口癖を叫ぶ。
そんな会話を気にも留めていないアレンは、ウェンディに向き直る。
「てか…さ、」と言葉を一度止める。
アレンの真剣な眼差しに、「な、なんですか?」とウェンディは一瞬固まる。次の瞬間、
「俺のケガの心配してくれるのか?ウェンディちゃんは!!あー、ほんとに可愛いねー!!!」
アレンは突然、ウェンディをぎゅっと抱きしめる。
急に抱き着かれたウェンディは「えええー-!ど、どうしたんですかぁ!!」と顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
それを見たシャルルとガジル、リリーも「んん!?」といった感じで驚いていた。
「あ、あはは、始まったね、アレンの子ども好きが…」
レヴィが呆れたようにそんな様子を見守る。
「…そういうところも、変わっていないのだな」
テントの柱を背にして立っているリオンも、同じように呟く。
「なんか…想像してた人柄と大きなずれがあるんだが…」
ガジルも呆れたように言った。
「んー、健気で可愛いねー、ウェンディちゃんは!」
アレンはウェンディの頭を撫で終えると、脇の下に手を入れ、高い高いをし始める。
ウェンディは全然状況をつかむことができず、ひたすらあたふたしていた。
そんな風にしていると、二人以外は固まったように「あっ」と何かを察する。
次の瞬間、「ドカアッ!」とアレンの前に水の入ったコップが置かれる。衝撃で少し水がこぼれる。
「はい…アレン…」
水を持ってきたのはミラだった。表情は笑っておらず、何やら目に怒りを含んだ様子であった。水を置くと、そそくさと別のテーブルへ移動していた。
「お、おう、ありがとう…?」
アレンはミラを見ながら、ウェンディを椅子におろす。
「…なんだ?なんかミラのやつ怒ってないか?」
コップを持って、水を口に運ぶ。
「はぁ、鈍感さも、誰にも負けないのね…」
「ん?どういうことだ?…白猫ちゃん」
「シャルルよ!!」
ウェンディとアレンの座る椅子の間で、シャルルは声を荒げる。
「なんというか、ギルドに加入して間もない俺にもわかるんだが…」
リリーは頭を悩ませている様子だった。
「お、なんか頭よさそうじゃん、黒猫くん」
「「リリーだ!」」
ガジルとリリーが同時に声をあげる。
「ああ、すまんすまん…」
アレンは笑いながら平謝りする。
「でも、なーんか、この感じ、ほんとにアレンが帰ってきたって実感するね!」
リサーナが嬉しそうに声をあげる。
それを皮切りに、周りの皆も自然と笑顔になっていた。
そこへ、ソラノとユキノが近づいてくる。しかし、2人の足取りは、途中で止まる。
衝撃的なものを見つけてしまったからである。
ソラノが幻滅したような表情で口を開く。
「…グレイ…何に座ってるんだゾ…」
「あ?何って、椅子に決まってんだろ…ってうおー、いつのまに!!」
「ゼレフを逃がしたジュビアには、グレイ様の椅子がお似合いですわ!!」
ジュビアは顔を赤らめながら声高らかに言った。
グレイはバッと立ち上がると、
「だ、だから、俺にはそんな趣味はねえって!!」
そんな様子を見ていたアレンは、グレイに近づき、そっと肩に手を添える。
「…グレイ…俺がいない間に…とんでもない性癖を身に着けてしまったんだな…っ」
「だからちげーって!!!」
アレンは「一体、お前に何があったというのだ…」というような様子でグレイを宥める。
そんなアレンの様子に、グレイはさらに頭を抱える。
だが、アレンはここである言葉に引っ掛かりを覚える。
「…ん?ゼレフ?…なあ、そこの青いお嬢さん」
「ジュ、ジュビアですわ…」
ああ、わりい、と言いながら、アレンは言葉を続ける。
「ゼレフがこの島にいるのか?」
「は、はい、ですが、取り逃がしてしまいまして、もうこの島にはいないかと…」
「そうか…それで、グレイにお仕置きをされていたということか…」
「そうですわー!」「だからちげーって言ってんだろ!」
アレンの畳み掛けに、あーもーと頭を掻きむしっているグレイだが、すでにアレンの関心はそこにはなかった。
「(あいつがこの島に…そうだ、あいつは不死って言ったな…100年後のこの時代にいるのも当たり前か…でも、一体なぜこの島に?)」。と考えていると、
「あ、あの…」
ユキノが意を決したように、アレンに声を掛ける。
「ああ、わりい、どうしたん…?」
アレンは声の聞こえた方へと向く。銀髪の二人を見て、なーんかどっかで…と何度も瞬きしながら考えこむ。だが、答えはすぐに出てきた。
「っ!もしかして、前に盗賊に襲われてた、ソラノとユキノか!!いやー、二人もおおきくなったなー!」
そういって、アレンは例にもれず、二人の頭を撫でる。
アレンが自分たちを覚えてくれていたと知ると、二人は少し涙を浮かべながら笑う。
「やっぱり、覚えててくれたんだゾ!」
「うれしいですぅーー」
二人がアレンのことを思っていたことを知る周りの者は、皆、安心したように笑っていた。
アレンは二人の頭を撫で続けていたが、何かに気付いたようにその手を止め、バッと空を見上げる。
そんなアレンの姿に、ソラノとユキノ、周りの皆が全員、驚いた様子を見せる。
アレンが二人の頭を撫でているのを、嫉妬を込めた視線でしーっと見つめていたミラが、怪訝そうに声を掛ける。
「…まさか、いや、そんなはずは…だが、これは…」
アレンは狼狽えている様子に、皆は心配する。普段、というより、7年前の記憶ではあるが、アレンが何かに狼狽える、などということは滅多にないからだ。
「ちょ、ちょっと、どうしたんだゾ…?」
ソラノが弱弱しい声でアレンに声を掛ける。ソラノは、自分が何かしてしまたのかと、心配になったのだ。だが、それが全く違うことに、すぐ気づくことになる
――ゴガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
次の瞬間、耳を劈くような轟音が全員を襲う。皆が反射的に耳を塞ぐ。
「きゃー-!」
ミラが悲鳴を上げる。
「な、なんだ!」
グレイが驚いたように声をあげる。
アレンは動揺する。
「(間違いない、この声は…くそ、ここにはフェアリーテイルの皆が…仲間が…)」
グレイとリオンは、轟音に顔を歪ませながらも、そんなアレンの様子を心配そうに見つめていた。
「ド、ドラゴンの鳴き声…」
ウェンディがそう呟くと、皆が目を見開く。
「っ!くそっ!」
それと同時に、アレンが言葉を吐き捨て、走り出す。
「ア、 アレンッ!」
ミラはそんなアレンの後ろを追いかける。その様子を見て、他の者も顔を見合わせ駆けだした。

ドラゴンの轟音が鳴り響くなか、アレンは一心不乱に駆ける。
アレンには、確証があった。もう、2度も命のやり取りをしているのだから。
空を見渡せる、開けた場所へ走る。
途中、木々の脇からギルダーツやマスター、ラクサスにナツなどが姿を現し、アレンを追うようにして、走る。
空が開ける。足を止める。アレンに衝撃が走る。できれば、間違いであってほしかった。何か別の、危険度の低い飛竜種かなにかであってほしかった。
だが、その淡い希望は、空に浮かぶ、黒い翼に搔き消される。
「アレン!さっきの叫び声は…ッ!」
アレンに追いついたナツは、アレンに声を掛けながら、空を見上げる。驚く。
「ナツー、どうしたのさっ!ああっ!」
ハッピーが少し遅れてやってくる、そして空を見上げると、同じように驚いた様子を見せる。
続々とフェアリーテイルのメンバーがアレンのいる場所へと集結する。
「な、なんだ、あれ…」
グレイは目を凝らしながら声をあげる。
「で、でけーぞっ!」
エルフマンが畏怖を抱いた声をあげる。
――ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
更に大きな轟音が響き渡る。
「ッ!…まさか…」
ジュビアが怯えたように目を見開く。
「ドラゴン…そんな…」
ジェラールが小さく呟く。
「一体、なんなの…ッ!ああっ!」
ルーシィが呟くと同時に暴風が吹き荒れ、天狼島を襲う。
「ま、まじかよ…」
ガジルが震えるような声で答える。
「黒い…ドラゴン…」
ウェンディが怯えながら呟く。
「…アクノロギア…」
ナツが驚きを表情に現しながら小さく言い放った。
少し遅れて、ギルダーツとマカロフが到着する。
「あれが、そうなのか…黙示録にある黒き竜…三天黒龍の一角、アクノロギア…か…」
マカロフの言葉に、アレンは答える。
「ああ、そうだ…やはり、生きていたか」
「おまえ…イグニールが今どこにいるか、知ってるか!?あと、グランディーネとメタリカーナも!!」
ナツは大声で黒竜に話しかける。
「よせ、ナツ!」
ギルダーツはナツの肩を掴みながら、激高したように言い聞かせる。
「奴を挑発するな、お前もわかっているだろう、俺がどうしてこの身体になったのかを!それに、奴は人間なんかに口を聞きやしねー!あいつは、俺たち人間を虫けらとしか思ってねーんだ!!」
「ッ!くっ!」
ナツは悔しそうに目線を下げる。
「いや、そんなことはないさ…まあ、虫けらってのは間違ってないがな…」
アレンはギルダーツの言葉を返すように、小さく呟く。
「アレン?何を言って…」
――ゴアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
アクノロギアの方向により、ギルダーツの言葉が遮られる。
――ドゴオオオオオオオオオオオオンンン!!!!!!!!
と轟音を立て、アクノロギアがアレンの前に、天狼島へと、降り立つ。
その余りの轟音に、抱き合い恐怖するもの、腰を抜かして尻餅をついているもの、半歩退き身を固めているものなど、様々であった。
アクノロギアの着陸による轟音と暴風、砂ぼこりが収まると、アレンは意を決したように口を開いた。
「よお、久しぶりだな…アクノロギア…4年ぶりか?」
アレンはアクノロギアに聞こえるよう、ゆっくりと確実に声を掛けた。
「おい、アレン、何呑気に話しかけてんだ!!消耗してる状態じゃ、いくらお前でも勝てねぇ!」」
ギルダーツの叫びに反し、アクノロギアは落ち着いた様子でアレンを見つめた。
『やはり、生きていたか、アレン・イーグル…我を、脅かすものよ』
「「「「「「「「「「ッ!!!!!!」」」」」」」」」」
アレンの問いかけに、静かに答えたアクノロギアに、皆驚きの表情を見せる。
「何しにここに来た?」
アレンは低く、唸るように言い放った。
ギルドの皆は、特に、女性陣は、今まで聞いたこともないようなアレンの声に、驚きと畏怖を覚えた。
『ふふ、それが分からぬうぬではないだろう?』
アクノロギアがそう言い放ったところで、アレンが苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。
ナツにはその言葉の意味が理解できなかったが、意を決したように腹から声を絞り出した。
「お、おい!お前!イグニールと…ッ!」
ナツが声を発したところで、アクノロギアはコキッと首を動かすと、目にも止まらぬ速さでナツに腕を振るった。
それを瞬時に感じ取ったアレンは、一瞬でナツの傍に駆け寄り、蹴り飛ばす。ナツは蹴り飛ばされた衝撃で後ろへ大きく吹っ飛ぶ。と、同時に、アレンはランスの盾のみを換装し、アクノロギアの腕を受け止めようとする。
刹那、ありえない轟音が鳴り響き、風圧で辺り一帯を吹き飛ばす。それは人も例外でなく、砂ぼこりと共に、吹き飛ばされる。
各々が悲鳴をあげながら、体勢を整える。あまりにも一瞬の出来事に、皆、動揺を隠せず、状況把握に時間を要する。
「何を勘違いしたのか…虫けら風情が…我の言葉を遮るとは…」
一番初めに状況を理解したのはエルザであった。
「アレンッ!!」
エルザは、アレンがアクノロギアの攻撃を受け止めたことを察すると、アレンのいた場所へと走る。吹き飛ばされた距離が思ったより長く、迷うように少し戸惑う。視界が開ける。
「な、なんだ、これは…」
先ほどまで、後方一帯は木々が生い茂っていたはずだ。だが、木々は見当たらず、辺り一面、土にまみれていた。そして、更なる衝撃がエルザを待っていた。
ある範囲の地面が、いや、大地がひっくり返っていたのだ。目を疑った。だが、文字通り、アクノロギアが腕を振り下ろしたその場所は、完全に地面が上下逆さまになっていた。
圧倒的なパワー、暴力を見たフェアリーテイルのメンバーは足が竦み、震えが止まらずにいた。
その様子を見て、ギルダーツが激を飛ばす。
「馬鹿野郎!ビビってる暇はねーぞ!!早く立て、船へ向かって走れー!!」
しかし、それでも皆の身体は動かない。特に、ナツは瞳孔が開きっぱなしで、焦点が合っていない。
「…おい…アレン…?」
ナツは抉れた地面を見つめながら、弱弱しく声を発する。
他の者も皆、ナツと同じように、正常な判断と行動ができない。
だが、この後響き渡る声に、全員が幾ばくか、正気を取り戻す。
「フェアリーッ!!テイルー!!!!!!」
その声と共に、抉れた瓦礫の中から、アクノロギアの腕が飛び出す。アレンが盾ではじき返し、アクノロギアの腕を退けたのだ。
余りの力に、アクノロギアは体勢を崩し、少し後ろへ後退する。
アレンの叫び声を聞き、フェアリーテイルの目に生気が戻る。
「俺が時間を稼ぐ!!!!!10分、いや、15分は持ちこたえる!!!!!!全速力で船に乗り込み!!この島から離れろー――――!!!!!!!」
…初めてであった。アレンが、腹の底から叫んでいるのを、皆初めて聞いた。
稼ぐ?…逃げる?…何を言っているのだ…。それは、アレンを…置き去りにしろと…犠牲にしろということか?…皆の頭にはグルグルと、アレンの言葉と自分の解釈が渦巻く。
「…アレンッ!足止めならこのわしがやる!!お前は、お前は、絶対に死んではならん!!!じゃから、お主も逃げ……ッ」
マカロフが、アレンに代わって身代わりになろうと声を発していたその時、マカロフの腹部に、何かがめり込む。
マカロフは、自分の腹を襲った衝撃の正体を見極めるため、視線を下におろす。
腹には、アレンの盾が、めり込んでいた。
アレンを見る。アレンが、こちらを向いているのが分かった。視線をアレンの腕へと向ける。
その腕には、先ほどまであった盾はなく、自分の腹部にあるそれが、その盾であることが分かった。そして同時に、その意図も。
「ア、 アレン…お…ぬ…」
マカロフは、意識を刈り取られ、その場に倒れこむ。
ガシャンッ…カラン…と、盾が地面へ落下する音だけが響き渡る。
「ア、 アレン…一体、何を…」
ミラがアレンに問いかけるように小さく呟く。
だが、アレンはその問いに答えることなく、再び大声を出す。
既に、アクノロギアは体勢を整え始めている。
「ラクサーーーーーーーーーーーーースッッ!!!!!!!!」
ラクサスは、目を見開いてアレンを見つめる。
「マスターを連れて!!!船へ走れー――っ!!!!!」
その叫びを聞いて、ナツがアレンに歩み寄りながら、激高して声をあげる。
「アレン!!!てめぇ!!!!!ふざけたこと言ってんじゃねーぞっ!!!!!皆でフェアリーテイルに帰るんだ!!!!!!!お前だけ残してっ!!!!逃げれるわけねーだろーっ!!!!!!」
ナツの声を聴き、皆、決心したように、おのが魔力を込める。
それを感じ取ったアレンは、「ぐぐっ」と歯を食いしばる。
「わかんねえのかっー――――――――!!!!!!!!!!!!」
アレンの大声に、ナツは怯んだように歩みを止める。
アレンは一切振り返らず、叫び散らす。
「てめぇらじゃっ!!!!!足手まといなんだよっ!!!!!!!!!」
アレンの、この上ない、暴言に…皆は感じ取ってしまった。アレンは今日この日まで、ギルドメンバーを侮辱するような発言は一切したことがなかった。いつも優しく、暖かく、まるで、太陽のように、皆を包み込んでいた。先の言葉が本心ではないことは、皆、一瞬で理解できた。だからこそ、アレンの発言が何を意味するのか、理解してしまった。
「っ!お、俺は滅竜魔導士だ!!アレンと一緒に戦う!!!だから…っ!!!!!」
ナツはアレンの肩を掴み、無理やり振り向かせる。一言、俺も強くなったんだ、と。アレンの力になれるんだ、と。そう、言ってやろうと思った。だが、言葉を発することができなかった。ナツがアレンを無理やり振り向かせたことで、アレンの顔が、後ろの皆に見えるような形となった。…絶句する。

アレンの目から、涙が、流れ落ちる。

皆の顔に、今までにない驚愕の表情が生まれる。アレンの涙など…初めて見た。
「…たのむ…にげろ…」
アレンを知っている者からすれば、それがいかにありえないことなのか、理解できないものはいなかった。
アレンの涙を、悲痛の、小さな声を聴いて、二人の男が決心する。
ラクサスはマスターを、ギルダーツはナツとカナを抱えて走り出す。
「おい、ギルダーツっ!何を!!」
「離せっ!ギルダーーツッ!!」
カナとナツがギルダーツを振りほどこうと暴れる。そんな2人を制止ながら、走り出す。
二人の姿を見て、グレイ、リオン、フリード、エルフマン、ジェラール…それぞれが、自分の足でアレンの元を去れないであろう仲間を抱える。
グレイがウルを…。
「グレイ、離せっ…!やめろぉ…」
師匠の悲痛の叫びに、グレイは雄叫びをあげながら走る。

リオンがユキノを…。
「降ろしてっ!私も一緒にっ!」
声にならない感情を表しながら、リオンは走る。

フリードがソラノを…。
「ダメだゾッ!これからはずっと…」
アレンの覚悟を、ラクサスの決断を見て、俺も、と足を動かす。

エルフマンがミラジェーンを…。
「エルフマンっ!離してっ!!…離せっ!!!」
姉の叫びに、ごめん、ごめん、と言いながらエルフマンも走る。
その後ろをリサーナが、大粒の涙を落して走る。

…ジェラールは、エルザを…。この二人が、集団の最後尾であった。
「ジェラーーールッ!!離せー-!!くそっ!!!アレー―ンッ!!!!!」
エルザは腹の底から叫んだ。ジェラールの肩から手を伸ばす。
アレンはエルザの方を向き、微笑む。エルザもそれに気づき、目を見開く。
「ご…ん……さ…う…ら…」
エルザはさらに涙を流す。声は聞こえなかった。だが、口の、唇の動きで、何を言っているのか、わかってしまった。
「っぐ…ぐううう!!!…アレーーーーンッッ!!!!!!!!!!!!!」
天狼島に、大海原に、大空に、悲痛の叫びが轟いた、それは、アクノロギアの咆哮よりも、大きく、遠くへ、轟いた。
 
 

 
後書き
お世話になっております。
今回も、読んで頂きありがとうございます。
読んで頂けた方の中にはお分かりいただけた方もいるかもしれませんが、天狼島にて、7年間の凍結はありません。
そのため、天狼島編以降は、ストーリーの流れが変わってゆきます。
ですが、天狼島編以降に登場するキャラや闇ギルド、もっと言えばアルバレス帝国などは、きちんと登場させるつもりです。その上で、原作とは流れを変えつつ、モンスターハンターのモンスターなどを登場させていこうと考えております。
また、7年間の凍結なしに伴いまして、登場人物の年齢等を改変する予定です(具体例を挙げると、スティングとローグ)。
その辺も踏まえまして、今後も応援して頂けると幸いにございます。
また、本日か明日中に、各話の前書きや後書きを記載していこうと思います。ここまで駆け足でやってきましたが、少し詳細な設定など整理できたらと考えております。合わせてご理解いただければと存じます。
 
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