フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです
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第2章 天狼島編
第10話 vsアクノロギア
背中から聞こえる仲間の叫びを、アレンは黙って聞いていた。
だが、その叫びの中、一際響く声があった。その声が、エルザの声であることを、アレンはすぐに認識する。
ゆっくりと後ろを振り向く。
激しく揺れる、長い緋色の髪の毛が目に映る。ジェラールに抱きかかえられ、エルザはアレンに向けて手を伸ばしていた。これで、仲間に直接的な危険が及ぶことはない。あとは、なるべく早く、なるべく遠くへ逃げてくれれば、巻き込むこともない。
「ごめんな…さようなら…」
アレンは、そうして小さく呟く。許してもらえるなどとは思っていない。だが、もしも…と、思い、呟いたのだ。
視線をアクノロギアへと移す。
先ほどのアレンの反撃によって崩された体勢は、すでに整っており、静かに鎮座していた。
「先ほどまで感情を剝き出しにしていた割には、ひどく落ち着いているじゃないか」
「…あーでもしねーと、逃げねーからな…」
「ふん、とんだ役者だな、うぬは…だが、全てが演技というわけでもなようだが…?」
アクノロギアは、アレンを挑発するように言葉を放つ。
「もちろん、お前から守るっていうのは間違っちゃいねーよ…だが、何より…」
アレンの身体が、光に包まれる。すると、ラフな服装だったアレンの身体は、黒い防具へと変化する。
――【ナルガX装備】。
「俺の攻撃に巻き込んで、死なせるわけにいかねーだろ?」
背中にも細長い光が生まれる。光が収まると同時に、柄に手を掛け、長い刀を抜刀する。
――無明刀【空諦】。
その長い太刀の切っ先を、アクノロギアへと向ける。
「ほう?その武具の力…足止めではなく、我を仕留めようというのか?傷を負い、魔力も枯渇しているこの状況で?…ふっふっふ、笑わせてくれる」
確かに、アクノロギアの言う通り、背中の傷はまだ完治していない。加えて、魔力に関しても、この装備一式を換装するのがやっとであり、もう別の装備に換装するだけの魔力は残っていない。残りの魔力を考えると、精々、10にも満たないアイテムを引っ張り出すのがやっとだろう。
だが、それでも、アレンは一切怯んではいなかった。
「アクノロギアよ…お前、何か勘違いしてないか?」
そういいながら、太刀を少し下げる。
「なんだ?」
アクノロギアは、怪訝そうに返す。
「俺にとってな、魔力や魔導士としての力なんてものは、おまけみたいなもんなんだよ」
「なんだと?」
「俺は元々魔力なんて持ってなかったし、魔導士でもなかった」
その言葉を聞いて、アクノロギアはこれまでのアレンとの戦いを思い出す。そうして、表情を硬くする。
そんなアクノロギアの様子を見て、アレンは理解したか、と言った目つきで、太刀を構えなおす。
「俺はな、この剣一本で、数多のモンスター、竜を狩ってきた。…モンスターハンターだ!」
アクノロギアは、その言葉に呼応するように、
「ガアアアアアアアアアアアアアア」と大きく咆え、そのまま言葉へと繋げる。
「なるほど、なるほど!武具と、膂力だけで、竜を、我を相手に立ち回っていたということか!!」
アクノロギアは、攻撃態勢に入る様子で、構えなおす。ドゴーンッと大きな音をたて、天狼島が揺れる。
「3度目の正直だ。今日ここで、確実に狩らせてもらうぞっ!!」
アレンが疾風の如く飛び出す。それに合わせ、アクノロギアも、腕を大きく振りかぶる。
「アクノロギアー-っ!!」
「アレーンッ!!!!」
アレンの太刀と、アクノロギアの拳がぶつかり合う。
刹那、凄まじい轟音と共に、衝撃と波動が天狼島に、海面に、大気に駆け巡る。
それは、木々をなぎ倒し、地面を抉る。それは、天狼樹を傾け、島を揺らす。
それは、海水を押しのけ、大波を生む。それは、暴風を齎し、空を押し流す。
…後に、『フィオーレクライシス』と言われる、8時間にも及ぶ、世界の歴史上最大の、一騎打ちが開戦した。
船の出航の準備をしていたカグラとウルティアは、空を飛ぶアクノロギアの姿を見て、皆がいるキャンプ場へ向かっていた。
途中、船へと逃げるメンバーと遭遇し、その様相が尋常ではないことを認識した。と同時に、一体この先で、キャンプ場付近で何があったのかを察してしまった。皆が、泣きながら走ってくるのだ。予想はつく、だが、聞かずにはいられなかった。
「どうしたの」と聞くと、「逃げろと」と返ってくる。
「なぜか」と聞くと、「アクノロギアがきた」と返ってくる。
「アレンは?」と聞くと、「戦ってる」と返ってくる。
「なんで?」と聞くと、「足止めをしている」と返ってくる。
先に動いたのはウルティアだった。皆をかき分け、キャンプ場へ、アレンの元へ歩みを進める。少し遅れて、カグラも後を追う。
「一緒に…戦わなきゃ」
ウルティアが呟きながら歩く。
ギルダーツが、「ああ、くそっ」と苦悶の表情を浮かべる。
そんなウルティアとカグラを止めるように、リサーナが二人の腕を握る。
「「離して…」」
リサーナは、嗚咽に絶えながら、ウルティアとカグラに声を掛ける。
「っア、アレンがね、逃げろって言ったの、頼むから、逃げてくれって…」
「…そうか、だが私は行く、一緒に戦う」
ウルティアがそう告げ、カグラも同じように言葉を言いかけるが、
「泣いてたの…アレンがね…泣いて、逃げてくれって…うぅ…だから…」
それを聞いた二人は、足が止まり、俯く。そう、それが何を意味しているのか、わかるから。
頬から流れた涙が、地面へと落ちる。
それと同時に、衝撃が、波動が、天狼島を駆け巡る。その圧倒的なまでの波動に、皆が驚く。
「ちっ、始まったか…おい、急ぐぞ!」
ギルダーツが皆を鼓舞し、歩みを再開する。
ウルティアとカグラは、その波動に、暴風に揉まれ、一瞬で理解してしまう。
そんな様子の二人に、ガジルが声を掛ける。
「わかるだろ…俺らが行けば…アレンは戦えない…足を引っ張る…」
「「っく、ぐうっ…!!」」
ウルティアとカグラは、葛藤しながら、震えながら、足先を皆と同じ方へ向け、一歩ずつ歩み始めた。
その後、フェアリーテイルのメンバーは無事に船に乗り込み、天狼島を脱出することに成功する。
天狼島へ向かっていた時の活気は、一切見られない。
息を荒げて座り込むもの、すすり泣くもの、ただ茫然と小さくなってゆく天狼島を眺めているもの、様々であったが、皆の心は同じ感情に、絶望に支配されていた。
そうして暫く、言葉を発するものは、誰一人としていなかったが、甲板の手すりから天狼島を眺めているラクサスが、小さく呟く。
「なあ…」
ラクサスは船にいるものに声を掛ける。
「………」
誰も答えない。だが、ラクサスは、お構いなく言葉を続ける。
「俺たちは、一体…この7年…何してんたんだろうな…」
ラクサスの言葉に、子どものころから、昔から世話になった者全員が悔しそうに歯を食いしばる。
「俺は…あいつを…アレンを超えたくてよー…必死こいて力つけて…フェアリーテイルに牙まで向いて…」
そんなラクサスの言葉に、何人かが表情を取り戻し、大粒の涙を流す。
「今わかったよ…」
「もういい…ラクサス…」
ウルが、涙混じりの震えた声で制止する。
「俺は…アレンを超えたかったんじゃない…アレンと同じ目線に立って…一緒に戦いたかっただけだったんだ…!」
天狼島から、再三轟音が鳴り響く。
「結局俺は…守られてばっかりだった…」
その言葉を皮切りに、皆の涙が強くなる。
「もう、それ以上…何も言うな…ラクサス…」
エルザが、顔を真っ赤にして涙を零す。
そうしていると、気絶していたマスターに動きがあった。
「うっ…んーっ…」
「マ、マスター…!」
ミラが駆け寄る。
「ミラか…この揺れは…船の上か…」
「…はい…」
ミラが、苦しそうに答える。
「わしは…わしらは…アレンに命を…救われたのじゃな」
「…っはい…」
「わしは…」
マカロフの言葉は、凄まじい轟音に、暴風に、雷鳴に遮られる。
それを感じ取ったマカロフはがばっと立ち上がる。腹部にズキリと痛みが走る。それでもマカロフはふらふらと歩き、ラクサスの隣へ行き、天狼島を見つめる。すでに、拳大の大きさにまで遠ざかっていた。これだけ遠ざかってなお、衝撃と轟音が響いてくる。間違いではない。やはりそうだ。
「アクノロギアと…互角に…渡り合っているというのか…あの怪我で…残り少ない魔力で…」
「じじい…」
ラクサスが呟く。
マカロフは、首にかけたペンダントを見つめる。
そこには、光り輝く花が見て取れる。マカロフはそれをぎゅっと握りしめると、皆の方へ向き直る。
「…アレンは、アクノロギアに勝つ」
ギルダーツが立ち上がり、マカロフに詰め寄る。
「…そりゃ、アレンの奴が万全の状態だったら、そうかもしれねーが…マスターも聞いたろ?アレンの…ハデスとの戦いでの…立ち回りを…」
その言葉を聞き、ハデス討伐組は、すっと顔をおろす。
アレンは、エルザ達をハデスの魔力から守るため、魔力の多くを放出したこと。自分たちに向いたハデスの渾身の一撃から、身を挺して守り、負傷したこと。
「…奴にはもう、アクノロギアを倒すほどの力は…」
ギルダーツが苦しそうに言う。
「ああ、そうか。…倒す、ああ、そうだ、倒す」
ラクサスが呟く。
「…っ!ラクサス!お前まで何を…」
「…おっさん、アレンは、俺たちをアクノロギアの攻撃から守るために逃がしてくれたのは事実だ…だが、もう一つ、アレンは、自分の攻撃に巻き込まないようにと、俺たちを逃がしたんじゃねーのか?」
狙ったようなタイミングで、空に轟音が駆け抜ける。
先ほどよりもさらに強い、船を大きく揺らすほどの暴風と大波に変わる。
「アレンがもし、本当に俺たちを逃がすためだけに戦ってるなら、とっくにこの喧騒は収まってる。もう、30分もたってんだからな」
ギルダーツが目を見開く。
「…アレンは今、俺たちを逃がすためじゃない。奴を倒すために戦ってる」
ラクサスの言葉に、ミラが口を開いた。
「…そうよ、アレンなら…それに、その気になれば、アクノロギアの攻撃を搔い潜って逃げることもできそうだし…」
実際、4年前のアクノロギアとの戦いでは、エーテリオンの直撃を受ける寸前で、何とかアイテムを使い、戦線を離脱できたと、キャンプ場で談話している時に聞いたのだ。
「…それをあえて使っていないということは…」
ウルが言いかけると、またしても轟音が、烈風が駆け抜ける。
「きゃあっ!」「うおっ」
船が大きく揺れ、振り落とされないようにと踏ん張る。
皆がまたしても言葉を失う。この衝撃は何だ?この轟音の元から、天狼島からは離れているのに、反比例するかのように強大になる。それは、アクノロギアが初めは全力ではなかったことを意味していた。もう、ハルジオンの港が見え始めている。
「…そういうことか…アレンは…私たちだけじゃない…」
ウルは、震えるように答えた。そのまま言葉を続け、
ミラは、ゆっくりとハルジオンの港が見える方へ移動する。
「…マグノリアを…王国を守るために…戦ってる…!」
港付近からは、喧騒が聞こえる。活気のあるものではない、悲鳴に似たものだ。
ハルジオンの街にも、この衝撃が届いている。そしてそれが、マグノリア、王国内陸に届くのは容易に想像ができた。
最後の最後に、壮絶な勘違いを生み出していたフェアリーテイルのメンバーであったが、その勘違いが、この先勘違いとして認識されなかったのは言うまでもない。
時は少し遡り、フェアリーテイルに紛れ込んでいた評議員、メストもとい、トランバルト。
トランバルトは、フェアリーテイル潜入をリリーやシャルルに見抜かれ、加えて悪魔の心臓の七眷属が一人、アズマの襲撃にあう。
天狼島にゼレフがいることを発見し、追跡していたが、ゼレフの口からアクノロギアの名を聞く。ゼレフは、悪魔の心臓の行動が、アクノロギアを呼び寄せたことを一人呟いていたのだ。戦慄する。アクノロギアが生きていた。それも、この天狼島に来る…。
トランバルトは、即座に評議員拘束部隊のラハールに連絡をとり、ラハール率いる評議会の艦に乗り込み、事情を説明する。
「ア、 アクノロギアだと!!」
ラハールは、恐怖を顔に滲ませながら、トランバルトの報告を受けた。
トランバルトは、甲板に座り込み、頭を抱えて震えている。
「生きて…いたのか…あの状況下で…」
4年前、フェアリーテイルのアレンがアクノロギアとの壮絶な戦いを繰り広げていたことは知っていた。いや、それを知らないという者の方が少ないだろう。
アクノロギアの出現。アレンという男の強さ。そして、評議員の罪…。
当時、あの一戦を知らぬものは、フィオーレ王国にはいないとも言えるほどである。
それほどまでに、伝説と言われた戦いである。
アレンがアクノロギアを互角に戦い、追い詰め、弱っているところに評議会がエーテリオンを打ち込んだのだ。
完全に殲滅できていたと思っていた。ラハールはぐっと歯を食いしばる。
「て、撤退だ!今すぐ天狼島から離れろ!!」
ラハールは艦内にいるものすべてに通達する。
「トランバルト、お前は落ち着くまで少し休め。私は、魔法通信で今すぐ評議会に報告する」
フィオーレ王国、首都クロッカス、玉座の間。
落ち着いた雰囲気の空間である。間には衛兵や国王など、誰が見ても玉座の間だと理解できる趣を呈していた。
最初に異変に気付いたのは、桜花騎士団のアルカディオスであった。
「…ん?」
そんなアルカディオスの様子に、現国王、トーマ・E・フィオーレが声を掛ける。
「どうした?アルカディオス」
「国王様…いえ、気のせ…ッ」
直後、ゴオッ…という大きな音と共に、玉座の間が揺れる。
「きゃあっ!」
その揺れに、音に王女、ヒスイ・E・フェオーレが悲鳴をあげる。揺れに耐えようと、座っている椅子の端を掴む。
「ひ、姫様!」
国防大臣のダートンが支えようと近寄るが、揺れに足を取られ、床に手をつく。
玉座の間に控えている他の騎士なども轟音と揺れに驚き、困惑している。
轟音と揺れは数秒で収まる。「止まった…」と騎士たちが呟いているのを聞きながら、アルカディオスはバルコニーに飛び出す。首都クロッカスを見下ろすようにして、外の景色を眺める。絶句する。先ほどまで、快晴で風も殆ど吹いていなかったが、太陽は黒い雲に覆われ、自然の風とは違う、不気味な様相を見せる風がアルカディオスの肌を撫でる。ブオッと突風が吹く。
「こ、これは、一体…」
アルカディオスと同じように、ヒスイ王女もバルコニーに躍り出て、外を眺める。国王やダートンも少し遅れて外の様子を伺う。
だが、驚くべきは、先ほどの音や不気味な風ではなかった。
南東の方向、空が、異様に黒い。加えて、赤黒い、雷のような凄まじい閃光が、南東の空を支配していた。距離にしておよそ数百キロは離れている。だが、それほどの距離が離れているにもかかわらず、音が、揺れが、風が、閃光がこの王城に伝わる。
「あの方向は…ハルジオンの方角か?」
ダートンが驚いた様子で口を開くと、玉座の間に、衛兵が1人走りこんでくる。
「国王陛下!…大変でございます!」
「どうしたというのだっ!」
衛兵は2回ほど大きく息を整え、国王に向かって声を張る。
「アクノロギアですっ!!天狼島に…アクノロギアが出現しましたっ!!!!!」
玉座の間に、衝撃が走る。
「天狼島に、アクノロギアだとっ!!バ、バカなっ!!!やつは、フェアリーテイルのアレンもろとも、エーテリオンで消滅したはずだろっ!!!!」
国王が返答する前に、アルカディオスが激高して答える。
「評議会からの報告で、詳細は不明です。それにより、天狼島からの暴風で、近辺の街や村は建造物損壊など被害多数。特に、港町ハルジオンは高潮の被害も出ております!さ、さらに…」
衛兵は言葉を詰まらせる。
「まだ何かあるのですか?」
ヒスイ王女が言葉を詰まらせる衛兵に、詰め寄るように声を掛ける。
「同じく天狼島にて、フェアリーテイルの…アレン・イーグルが、応戦しております」
皆、目を見開き、口を大きく開けて驚く。
「なんと…⁉あの男が…生きておったのか⁉だが、なぜ…」
ダートンが後ずさりしながら言う。
「それに関しても詳細は不明です。ですが、評議会からの確かな情報です。加えて、評議会、並びにフェアリーテイルマスター、マカロフドレアー両者より、アクノロギアがこのフィオーレ王国本土に攻撃をしてくる可能性が高いとの報告を受けております!!」
「そ、そんな…」
ヒスイ王女は衛兵の報告を聞き、両手で口元を抑える。
「…アレン・イーグルが敗れれば、アクノロギアの矛先が…直接…この国に…」
国王が消え入るような声で呟く。
アルカディオスが南東の空を見つめる。
「…皮肉なものだな…。評議会が、王国が、あの男を見捨てたというのに…。あの男は、見捨てずに戦っているということか…」
「っ!あの日、エーテリオンを投下すると強硬したのは評議会じゃ!」
ダートンが声を上げて反発する。
「ですが、その決定に従い、投下を静観していたのは事実」
「お、王女様…」
ヒスイ王女がゆっくりと瞼を閉じる。
「…過去の失態を悔やんでいる暇は、今はありません。我々は、我々にできることを…ダートン…」
「…、承知いたしました」
ダートンは王女の言葉を受け、非常事態宣言を発令する。
ハルジオン並びに近辺の街や村の避難勧告。全魔導士ギルドに対し、協力要請。王国兵による救助活動や、評議会との連携を図るなど、対策を講じ始めた。
フェアリーテイルのメンバーがハルジオンの港についてすぐのこと。
耳を劈くような轟音に荒れ狂う暴風。更には高潮まで発生し、港町ハルジオンは甚大な被害を受けていた。
轟音は港町の人々に恐怖を与え、暴風は家屋をなぎ倒し、海水が街を飲み込んでいく。
フェアリーテイルのメンバーは、ハルジオンの人々と共に、比較的被害の少ない街の北方へと避難する。現状、この場所は大きな被害を被っていない。天狼島の方角の空を眺める。
赤黒い雷が間隔をあけて発生している。それに合わせ、轟音と衝撃ともいえる暴風も収まることがない。
マスターは、連絡用ラクリマを用いて、評議会と王国に報告をしている。ミラも同じく、フェアリーテイルに連絡を取り、状況を説明していた。
時を同じくして、マグノリアの街にも天狼島の余波が届いていた。不気味な風に、時折襲う突風。外に備え付けてある荷車や、小物が飛ばされてゆく。加えて、ゴオッといった不快な音も響いていた。町の住民は、一段と黒い南方の空を見上げ、不安な様子で状況を見守っていた。
フェアリーテイルにいるマカオは、ミラの報告を受け、信じられない様子で声を張り上げている。周りにいるものも、驚いた様子でミラの言葉を聞いていた。
最終的には、ミラたち天狼島組はハルジオンで戦いの行方を見届け、落ち着きを見せたら再び天狼島へ行き、アレンを救出。残存組は、マグノリアの街の巡回。必要に応じて援助を行うことで、話し合いは着地した。
連絡用ラクリマの接続が切れると、ジェットが苦悶の表情を見せる。
「くそっ!あの花が光りだしたから、アレンが生きてたってさっきまで皆で喜んでたのに…」
「アレンが…俺たちが、一体何したっていうんだ!」
マックスが机を叩いて怒りを露にする。
ガタンッとマカオが勢いよく立ち上がる。
「そんなこと言っててもしょうがねーだろっ!とりあえず、ミラに言われた通り、街に出るぞっ!」
マカオの言葉を聞き、数名のメンバーを残し、街へ繰り出した。
アレンとアクノロギアが戦闘を開始し、すでに5時間が経過していた。両者一歩も引かぬ戦いで、血で血を洗う、壮絶な戦いが繰り広げられていた。
両者が激突するたびに、大気は震え、衝撃を生み出す。圧倒的な力のぶつかり合いは気候をもゆがめ、天狼島上空には赤黒い雷が発生し、絶え間なく閃光を発し、鳴り響く。
それにより、天狼島は大きく損壊していた。天狼樹は大きく傾き、元々一つの島であった天狼島の大地は、3つに割かれていた。
砂ぼこりを掻き分け、アレンの太刀とアクノロギアの拳が衝突する。
ゴギャアアアアアアアアンっという衝撃音と共に、両者が距離を取って向かい合う。
両者ともすでにかなり疲弊しており、呼吸も荒い。
「おいおい、前に戦った時より…ちょっと強くなってねーか?」
アレンが悪態をつくように言い放つ。
「お互い様だ…。うぬの太刀筋にも、精度が上がっている」
アクノロギアも、言葉を返す。
「まあ、さすがにもう3度目だからな…なんとなく動きがつかめてきてるよ…」
「ほう?そうか…だが、それは我も同じこと!!」
アクノロギアは言い終えると同時に、アレンを薙ぎ払うように尻尾を振るう。
アレンは右側に太刀を縦一線に構え、尻尾を受け斬る。
「どうやら、回避速度が低下しているな。さすがに疲弊したか?その武器では、防御するのは難しかろ」
その言葉通り、アレンは数十メートル押し動かされ、全力で踏ん張っている様子であった。
しかし、体勢を整えると、アクノロギアの尻尾を払うようにして太刀を振りぬく。
「ガアッ!!」
アクノロギアが苦悶の声を上げる。尻尾をアレンから剥がすと、綺麗な太刀傷ができていた。
「…またしても我の身体に傷を…」
「不用心だな…アクノロギア…忘れたか?俺は一度、お前の尻尾を切り落としてるんだぜ?」
アレンは言うことを聞かなくなり始めている身体に鞭を打ちながら太刀を構えなおす。
先ほどの攻撃の影響もあり、ナルガ装備も損傷が激しい。
「…ふふふ…やはりうぬは危険だ…だが、何より…我を楽しませてくれる!!!」
アクノロギアが拳を繰り出す。アレンはそれをすんでのところで回避する。
アクノロギアが距離を取るように、後ろへ飛翔する。
「まだ、倒れてくれるなよ…」
「へっ、その言葉、そのままお前に返してやるよ!」
アクノロギアが、溜めのないブレスを放つ。溜めがないとはいえ、その威力は凄まじい。天狼島を割ったのもこの技であり、アレンですら無事では済まない威力を誇っている。
アレンは太刀を背中側に回し、アクノロギアの咆哮に合わせて技を放つ。
「円月」
太刀を振り下ろす。アクノロギアの咆哮とぶつかり合う。ミサイルでも撃ち込まれたような轟音と衝撃が響き渡る。暫く鍔迫り合いとなったが、斬撃と咆哮が両者ともにはじけ飛ぶ形で、土砂埃が視界を支配した。
既に天狼島から脱出して、6時間が経った。
エルザ達天狼島組は、今もなお、目を離すことなく天狼島の方角を眺めている。
ミラもフェアリーテイルへの連絡を終え、マグノリアの状況を皆に伝えた後、共に空を見つめる。
皆は言葉を交わすことなく、ただひたすらに、空を見つめている。
そんな雰囲気を壊す怒号が後方の家屋から聞こえる。
「ふざけるなーっ!!!」
既に避難した住民の家屋をかり、評議員や王宮と連絡を取っていたマカロフの声であった。
その声を聴き、皆が振り返る。
「なんだ?なにかあったのか?」
「さあな」
グレイとナツが軽く会話をする。
その直後、家屋からマカロフが出てくる。
「マスター、何かあったのか?」
カグラが怪訝そうにマカロフに声を掛ける。
「…奴らが…評議員の奴らが天狼島に…エ、エーテリオンを投下すると…決定しおった」
皆の顔に、衝撃が走る。そして、すぐにその表情は怒りへと変わっていく。
「しょ、正気ですか!マスター!!」
エルザが震えるように声を上げる。
「また、打ち込むのか…アレンの…もとに…」
リオンが拳を握りしめる。
「まじかよ…」
グレイが息を漏らすように告げる。
「そんな…」
ミラはそう言い残すと、フラッと体勢を崩す。
「ミラ姉っ!」
倒れこむミラを、リサーナが受け止める。
「選択肢としては候補にあがるだろうが…選ぶなよ…」
ラクサスが怒りを含め、ゆっくりと言葉を発した。
「…じゃが、王国側が…国王陛下とヒスイ王女が事前に評議員にエーテリオンの使用を控えるよう、取り合ってくれていたようじゃ」
その言葉を聞き、皆の顔に光が戻る。
「それじゃあ…」
ウルティアが言葉を続けようとしたが、マカロフに遮られる。
「じゃが、それでも評議員の決定は覆らなかった…」
「なんだよ!意味ねーじゃねーか!!」
ナツが天を衝かんばかりに叫ぶ。
「…いや、意味ならある」
「…評議員が何か条件を受け入れたのか?」
ジェラールが静かにマカロフに答えた。
「ああ、評議員はすぐにでも撃ち込む算段だったが、王国側の要求もあり、日没直前まで猶予すると決着した。王国側も、それ以上は要求できんかったんじゃろう」
「あと4時間…撃つことに変わりねえなら、なんの保険にもなりゃしねー」
ガジルが悪態をつく。
ナツが無言でその場を離れようとする。
「どこへ行く気じゃ、ナツ」
マカロフが止めるように声を掛ける。
「決まってんだろ。評議員に乗り込んで、止めさせんだよ」
「今から行っても、評議員の場所まで5時間はかかる。無駄足じゃ」
エルザが、首から下げた、マカロフから預かっていたペンダントを眺める。評議員などとの連絡の際に、常にアレンの様子を把握できるよう、エルザが預かっていたのだ。
先ほどから、少しずつではあるが、光が弱まりを見せている。光量は輝いていた時と比べると、半分ほどにまで落としている。
「アレン…」
アレンが消耗しているのは明らかであった。
エルザの一言に、横からペンダントを覗き込んで確認している者も含め、強く顔しかめた。
後書き
アクノロギア、さすがに強化しすぎじゃね?そんな遠くまで被害出る?という感じですが、ご容赦ください(王国を巻き込みたかった)。また、イメージですが、王国の大きさを縮小しています(笑)。
俺つえー感半端ないですが、完全に作者の趣味です。はい。ごめんなさい。
また、天狼島編以降、アレンの活躍もそうですが、フェアリーテイル個々の活躍も多く描いていこうと思います。…というか、少しアレンの影が薄まるかも…?
また、各話少しだけですが設定紹介を書いてみました。まだ未完成ではありますが、必要に応じて目を通していただけると幸いです(わかりきっていることも書いています)。
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