イベリス
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第五十八話 東京の紫陽花その八
「他の街以上に妖しい」
「妖しいですか」
「ニューヨークや上海、パリやロンドンにもありますが」
妖しい魅力、それはというのだ。
「しかし東京のそれはです」
「そうした街よりもですか」
「あるのです」
「妖しい魅力がですか」
「そうなのです、ですからこれからもです」
「暮らしていかれたいですか」
「そう考えています」
咲に微笑んで答えた。
「昔から」
「店長さんも東京がお好きなんですね」
「愛しているともです」
「言えますか」
「そうです、大切な人もいますし」
「大切な人?」
「そうです」
微笑んだままの返事だった。
「私にとって」
「そうなんですね」
「どなたかは言えませんが」
それでもというのだ。
「私にとってはかけがえのない」
「そうした人もですか」
「この街にはおられるので」
東京にはというのだ。
「ですから」
「これからもですか」
「この街にいたいです」
「それでこのお店もですね」
「続けていきたいです」
「そうですか」
「いいお店にしていきたいです」
速水はこうも話した。
「是非」
「お店をやるならですね」
「そうです、出来るだけいいお店にです」
「していきたいですか」
「そう考えています」
「じゃあこれからもですね」
「努力していきます」
こう言うのだった。
「是非」
「そうですか」
「そのことについてのご協力をお願いしたいです」
「私もですか」
「ですからここにいてもらっています」
微笑みが優しいものになった、そのうえで言うのだった。
「ですから」
「それでなんですね」
「どうかです」
「これからもですね」
「頑張って下さい」
「そうさせてもらいます」
咲も答えた。
「私も」
「それでは」
「これからもお願いします」
「そうされて下さい、あともう閉店ですが」
「えっ、もうですか」
「今日は実は私に別のお仕事がありまして」
それでというのだ。
「今日中に終わるものですが」
「それが入っているからですか」
「今日はこれで終わりです」
「そうですか」
「ですから今から戸締りをして」
そうしてというのだ。
「帰りますが今日小山さんはよくないカードが出ました」
「どんなカードですか?」
「こちらです」
出たのは塔の正だった、それを咲に見せて話した。
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