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イベリス

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第五十八話 東京の紫陽花その五

「菫はナポレオンの様に飾ります」
「ナポレオンですか」
「彼は菫が好きだったのです」
 速水は咲にこのことを話した。
「そして宮殿を飾ってもいました」
「皇帝だから派手好きと思っていましたが」
「確かに派手好きで軍服は飾りましたが」
「菫も好きだったんですか」
「薔薇も好きで」 
 そうしてというのだ。
「菫もでした、それで菫伍長とも呼ばれました」
「そう呼ばれる位好きだったんですね」
「亡くなる時もその手に菫のお花があったそうですし」
「そこまで好きだったんですね」
「はい、あと私はどんな色のお花も好きですが」
 速水は微笑んでこうも話した。
「五色、赤と青、黄色、白それに黒のお花が好きです」
「黒もですか」
「濃い紫とも言えますね」
「黒薔薇とかですね」
「そうした色のお花も好きでして」
 それでというのだ。
「五色揃えるのも好きです」
「それぞれの色のお花をですか」
「チューリップでも薔薇でも」
「最近青いチューリップや薔薇もありますね」
「ですから」
「青のそうしたお花もですね」
「飾ります、チューリップを観ますと」
 微笑んでこの花の話もしたのだった。
「春が来たとです」
「あっ、チューリップって春に咲きますからね」
「梅が咲き桃も咲き」 
 そうしてというのだ。
「チューリップが咲きますと」
「春ですね」
「そして桜も咲けば」
「春ですね」
「そう思えて幸せな気持ちになります」
「春が来たと思って」
「そうなのです」
 こう咲に話すのだった。
「それだけで」
「チューリップもそこにあるんですね」
「そうです、ただ梅や桃や桜が青や紫や黄色では」
「違いますね」
「白や赤、それに桃色や桜色という言葉もありますし」
「そうした色でないとですか」
「こうした花はです」
 咲にどうかという顔と声で話した。
「やはりです」
「青じゃなくてですね」
「その系統の色ではなく」
「本来の色がお好きですか」
「はい、赤系統と言いますか」
「桃色ですね」
「そちらになりますね」
 速水は桜の色も含めて咲に話した。
「言わせて頂くなら」
「梅や桃はそうですか」
「桜も。そして白梅も好きです」 
 この色の梅もというのだ。
「赤や桃色でなくとも」
「そうした色の梅もなんですね」
「そうです、梅を見ると冬の終わりを感じ」
 速水はさらに話した。
「桃で春の訪れを感じて」
「それで桜で春が来たとですか」
「感じます、勿論チューリップも見ますし」
 この花もというのだ。
「菊やタンポポもです」
「色々なお花をご覧になられるんですね」
「どの季節もそうですが」
「春もなんですね」
「春は一番感じますね」
 咲に微笑んで答えた。 
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