イベリス
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第五十八話 東京の紫陽花その四
「これがね」
「それだけで、ですね」
「何か無意識のうちにね」
「お花に寄せられるんですか」
「どうもね」
そうなるというのだ。
「お花を見たら」
「それで、ですね」
「惹かれて」
そうなってというのだ。
「来てくれるみたいよ。例え見ていなくても」
「お客さん増えるんですね」
「飾っているだけでね」
まさにそれだけでというのだ。
「どういう訳か」
「それってこの109のビルの外にいても」
「そうみたいね」
「それは凄いですね」
「お花はもう自然にね」
青い紫陽花の花を観つつ話した。
「人を惹き寄せるのよ」
「見えない人もですね」
「そうよ、だから飾っておくとね」
「いいんですね」
「それだけで違うのよ」
「お花があるだけで」
「ええ、だからね」
「店長さんも飾られるんですね」
「お好きなこともあってね」
「そうですか」
咲は先輩の言葉に勉強になったという顔になった、そのうえで仕事に入ったのだった。そうしてだった。
その後でだ、咲は速水に笑顔で言われた。
「紫陽花如何でしたか?」
「行った時に飾ってあったお花ですね」
「はい、どうでしたか?」
咲に対して尋ねてきた。
「季節のお花ですが」
「梅雨のお花ですね」
「四月は桜で」
そしてと言うのだった。
「五月は皐月で」
「六月は紫陽花ですね」
「それで、ですから」
「紫陽花を飾られましたか」
「頂いたので。ただ七月は」
ここで速水は微妙な顔になって話した。
「朝顔ですが」
「あっ、朝なので」
「はい、お店は朝からはじめても」
「夜に来られるお客さんが多いですね」
「そうですから」
だからだというのだ。
「それでです」
「朝顔はですか」
「難しいです」
どうにもと言うのだった。
「ですから工夫しています」
「やっぱり飾られてるんですか」
「七月のお花は朝顔が一番好きなので」
速水は咲に微笑んで話した。
「蔦が絡む場所も置いてです」
「そうしてですか」
「夜も観られる様に工夫します」
「そうですか」
「昼顔も飾りますし」
この花もというのだ。
「七月もです」
「お花飾りますか」
「一年の間お花を飾ったことはありません」
一度もというのだ。
「私は」
「冬もですか」
「椿等を置きます」
「椿は冬のお花ですか」
「そしてハウス栽培のお花を飾ります」
「ああ、ハウス栽培もありますね」
「菖蒲や菫や百合も好きなので」
こうした花達もというのだ。
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