イベリス
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第五十五話 速水の食事その二
「私はどちらも好きです」
「高い安いの問題じゃないですか」
「高くとも口に合わないものもあります」
「それで安くてもですか」
「口に合うものもあります」
そちらもというのだ。
「そうですから」
「だからですか」
「私は値段ではなくです」
「舌ですか」
「それで決めます」
自分の口に合うかどうかでというのだ。
「そうしています」
「そうなんですね」
「日本の甲州ワインも好きでして」
「そうですか」
「あとはポルトガルのポートワインも」
こちらもというのだ。
「好きです」
「色々お好きなんですね」
「ワインは好きですから」
その為にというのだ。
「それで何かと」
「そういうことなんですね」
「左様です、ただ小山さんはまだ未成年ですから」
「飲んでは駄目ですよね」
「それでも飲まれていますね」
咲を見て微笑んで話した。
「左様ですね」
「おわかりですか」
「感じで。時折土曜日に来られた時にお酒の香りを感じますので」
「匂います?」
「微かに。お酒を飲みますと」
そうすればというのだ。
「空気が違いますので」
「だからですか」
「わかります」
こう言うのだった。
「私も」
「そうですか」
「はい、ですが私は薬には言いますが」
「絶対に駄目ですね」
「煙草も吸いません、ですが」
それでもというのだ、事実速水からは煙草の匂いは一切しない。咲も彼が煙草を吸った場面は見たことがない。
「お酒はです」
「いいんですか」
「飲み過ぎには注意して下さい」
速水は咲にこう言いはした。
「くれぐれも。ですが」
「それでもですか」
「飲むこと自体にはです」
「言われないですか」
「お酒は過ぎれば毒になりますが」
それでもというのだ。
「程々ならお薬です」
「酒は百薬の長ですね」
「そうですから」
だからだというのだ。
「お酒はです」
「いいですか」
「ですから」
「程々にですね」
「飲まれて下さい」
こう言うのだった。
「そうされて下さい」
「わかりました、それにおおっぴらにはですね」
「飲まれないで下さい」
「そうします」
速水の言葉に素直に頷いた。
「これからも」
「そうして下さい、しかし麻薬はです」
「絶対に駄目ですね」
「お酒はお薬にもなりますが」
「麻薬は毒にしかならないですね」
「ああしたものに手を出して長生きが出来るでしょうか」
果たしてとだ、速水は咲に問うた。
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