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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第111話:折れぬ槍

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はシーンをロンドンに戻して奏達の戦いにスポットを当てます。

この戦闘で、本作独自の設定が炸裂します。もしかするとちょっと納得できない展開と思われるかもしれませんが、そこに関しては次回以降でしっかり説明していきます。 

 
 場所は戻り、ロンドンでは奏と翼、そしてマリアの3人がオートスコアラーの襲撃から車で逃れていた。

 奏と翼、2人の必殺技を生身で喰らったにも拘らずピンピンしていたオートスコアラーに、マリアはこれ以上の戦闘は会場の崩壊を招くと危惧。
 悠然と佇むオートスコアラーに対し、奏がフェイントをかけ翼が『天の逆鱗』の要領で巨大化させたアームドギアを叩き付け下の階に落とした瞬間、マリアが2人の手を引き会場の外へと引っ張っていった。

 会場から出た時は、マリアの護衛兼監視をする米国のエージェントに行動を阻まれそうになったが、緒川のサポートにより脱出に成功。ギアを解除した奏と翼の2人は、とりあえず騒動から離れた事で一息ついた。

「ふぃ~、忙しいったらありゃしない」
『翼さん、奏さん! 一体何が起きているんですか!』

 唐突に緒川からの通信が入る。彼にしても状況を把握している訳ではない為、サポートはしたが何がどうしてこうなったのかは知る必要があったのだ。

「すみません。マリアに考えがある様なので……」
「悪いけどそっちは任せるよ緒川さん」

 何が起きていると問われても、2人だって訳が分からないのは一緒だ。故に、今できる事は状況を整理しつつ体勢を立て直し、その間に緒川に後始末を願う事しかなかった。

 通信を終えると、翼は車を運転しているマリアに改めて問い掛けた。

「いい加減説明してもらいたいところだ」

 あの場で真っ先に逃げる判断をしたのはマリアで、奏と翼はまだ戦う気だった。魔法使いの幹部と言う存在と何度も戦ってきた2人からすれば、オートスコアラーは謎が多いがそれでも戦えない敵と言う程ではなく相手が1人であるなら勝てるのではとすら思っていた。
 それを遮られたのだから、マリアの考えが気にならない訳がない。

「アタシらがあんなのに負けるとでも?」
「……思い返してみなさい。奴の狙いは他でもない、翼と奏とみて間違いない」
「「ッ!」」
「この状況で被害を抑えるには、2人を人込みから離すのが最善手よ」

 マリアの言いたい事は分かる。確かにあのままあそこで戦っていたら、余計に被害が拡がり無関係な者にも被害が出ていた可能性はあった。観客は既に去ったが、会場には何も知らないスタッフが残っている。彼らに犠牲を出さないという保証はどこにもなかった。

 それを考えると、なるほど確かに逃げると言う選択をしたマリアの判断は間違っていないのだろう。

 だが血気盛んな2人は、頭では理解しつつも心では納得していなかった。

「ならばこそ、皆の協力を取り付けて……」
「アタシらが狙いだって言うんなら、アイツは何処までも追いかけてくるだろ? ここで倒すのが一番じゃないのか?」

 倒すべき敵を前に、背を向けるのは納得いかない。そう告げる2人に対し、マリアは儘ならぬものを感じずにはいかなかった。

 そもそもマリアの今の立ち位置は、表向きは聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止める為に潜入捜査を行った米国のエージェント。マリアは正義の歌姫と言う偶像を演じているに過ぎない。
 そうする事が、セレナや切歌、調を守る事にも繋がるのだ。

 つまるところ、マリアの行動には米国からの思惑が一定以上に絡んでくる。その事を考えると、無用な騒動を起こす事には賛同できなかった。

 口惜しさが顔に現れたマリアの様子を見て、薄っすらと事情を察した奏と翼は顔を見合わせそれ以上の駄々は捏ねないようにしようと小さく溜め息を吐き前を見た。

 その視線の先に、一体何時の間に移動したのか路上で剣を手に佇むオートスコアラーの姿が映った。

「マリアッ!?」
「前ッ!!」
「くっ!」

 逃げる為にかなりのスピードを出してしまっている為、ブレーキを踏もうものなら狙い撃ちにされるしUターンする余裕もない。何より彼女はシンフォギアの攻撃を喰らっても平然としている輩だ。
 ならばとマリアは逆にアクセルを踏み、速度で振り切るか轢き飛ばしてでも逃げ切る。

 その勢いで速度を上げたのだが、オートスコアラーの行動はマリアの予想を超えた。

 なんと走る車を手にした剣で真っ二つに切り裂いたのである。

「伏せろ!!」

 オートスコアラーの意図を読んだ奏が叫ぶと同時に、運転席と助手席に座ったマリアと翼はシートのリクライニングを後ろに倒し、奏は座席の下に潜る事で剣を回避。車は見事に上下に真っ二つにされたが、車内の3人は何とか無事だった。

 一瞬でオープンカーにされてしまった車内で、体を起き上がらせた奏と翼はこれ以上逃げるのは困難とギアペンダントに手を掛けた。

「翼!」
「えぇ!」

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」

 シンフォギアを身に纏い、コントロールを失った車からマリアを抱えて脱出する翼と奏。翼がマリアをその場に下ろすと、奏がオートスコアラーに向け突撃する。突っ込んでくる奏を前に、オートスコアラーは僅かに顔を顰めると手にした剣で奏のアームドギアを弾き彼女の後方に飛んだ。
 そこに今度は翼が斬りかかる。大剣に変形させたアームドギアが振り下ろされると、オートスコアラーは奏の時と違いその一撃を剣で受け止めてしまった。

「――剣は剣でも、私の剣は”剣返し”……ソードブレイカー」

 オートスコアラーの呟きに呼応する様に、翼の大剣が砕け散る。距離を取った翼は刀を構えるが、今の不可思議な現象に警戒を強くする。

 一方、奏は今の一瞬で先程のオートスコアラーの表情の意味を理解した。どういう原理かは分からないが、彼女の剣は他の剣に対して何らかの特攻を持っている。であるならば、槍である自分なら彼女にとって相性は悪い。

「こいつはアタシに任せろ!! 翼はマリアを安全なところへ!」
「分かった!」

 槍ならばどれだけ攻撃しようと砕かれる事はないと、奏がオートスコアラーにアームドギアを振り下ろす。槍のリーチを活かして縦横無尽に攻撃を繰り出す奏に、オートスコアラーは心底嫌そうな顔をした。やはり槍が相手だと、正体不明な特殊能力が発揮できないらしい。

 このまま押し切るとばかりに奏がアームドギアを大きく振るうと、オートスコアラーはその勢いと風を操り上空に大きく飛び上がった。

「馬鹿が、無防備だ!!」

 空中では身動きも取れまいと、奏は槍投げの要領でアームドギアを投擲しようと構える。

 だがそれよりも早くに、オートスコアラーが取り出した結晶を周囲にばら撒く方が早かった。

 サイコロサイズの中心が赤い結晶が道路にばら撒かれる。その瞬間、結晶を中心に光が放たれると、魔法陣の様なものが広がりそこからノイズが姿を現した。

「あぁ!? そんな。ノイズ!? どうして!?」
「…………ノイズ?」

 マリアは突如姿を現したノイズに慄くが、奏は何か違和感を感じていた。

 姿を現したモノ達は一見すると確かによく知るノイズだ。だがよくよく見ると、奏達が知るノイズとは何かが違っているように見えた。新種と言う線も考えられたが、そもそもノイズはフロンティア事変の折にバビロニアの宝物庫に放り込まれたネフィリムの爆発で全滅した筈だ。その際に同時にノイズを操る為のソロモンの杖も失われた為、ノイズを意のままに操るなど出来ない筈だ。

 では、オートスコアラーが呼び出したとしか思えないこのノイズ共は一体何なのか?

「……まぁいい。こいつら全部倒して、アイツとっちめれば分かる話だ!」

 難しく考える事は後回し。奏と翼は最初驚かされはしたが、諸々の疑問を脇に放り姿を現したノイズの始末に取り掛かった。何よりもこいつらを放置しては、この場で生身のマリアが危険だ。

「おぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁっ!」

 奏と翼は蔓延るノイズ達を次々と屠っていく。最初驚きはしたが、戦ってみればなんてことはない。特別強いという事も無く、以前と同じように簡単に倒せてしまう。
 ただ一つ気になる事があるとすれば、倒した瞬間に明らかに炭素の塵とは違う赤い粒子となって崩壊する事だが。

 次々とノイズを倒していく2人を、オートスコアラーは静かに眺めていた。

「貴方達の剣と槍、大人しく殺されてくれると助かります」

「その様な可愛げを!!」
「求める相手が間違ってるんだよ!!」

 ノイズを倒しながら背中合わせになる奏と翼は、オートスコアラーの呟きに毅然と答えた。

「防人の剣は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた!」
「それに、翼の可愛さは別にあるもんな」
「そういう奏こそ! 颯人さんの前では可愛くなるくせに!」
「ちょっ!?」

「こんな所でする話か!!」

 2人の会話にマリアが思わずツッコミを入れた。その声に2人はリラックスした笑みを浮かべる。

 ノイズの再登場に驚かされはしたが、未だ心は乱れていない。それならば、負ける道理はないと2人はオートスコアラーに向け一気に突撃し、途中に蔓延るノイズを次々と始末した。

”逆羅刹”
”SAGITTARIUS∞ARROW”

 翼が『逆羅刹』で周囲のノイズを刈り取り、奏の『SAGITTARIUS∞ARROW』がオートスコアラーへの道を切り開く。開いた道を翼が突っ切り、オートスコアラーに刃を突き立てようとした。

 その前に、一体のノイズが立ち塞がった。今までに見た事のない、腕部にブレードの様なものを持つノイズだ。そのノイズが、左腕のブレードの様な突起を翼に突き出した。翼はその程度で止められるものかと正面から迎え撃ち、突き出された突起とアームドギアをぶつけ合わせた。

 翼本人のみならず、奏とマリアもノイズが切り裂かれる未来を思い描いていた。
 だが次の瞬間、その予想は裏切られる。

 ノイズの腕部の突起と接触した部分から、アームドギアが赤い粒子となって分解されていったのだ。

「ッ!? 剣がッ!?」

 予想外の展開に、何より自慢の剣が砕かれた事に、翼は思考が停止してしまった。

「翼ッ!?」

 不味いと思い奏が翼の援護に向かうが、その判断は些か遅かった。奏が間に合うよりも先にノイズの突起は翼の剣を砕き、翼の胸元のギアコンバーターをも傷付けた。

 すると信じられない事に、シンフォギアですらも分解され始めてしまったのだ。ノイズの攻撃に対しては、物理的ダメージ以外は無効となる筈のシンフォギアがである。

 あっという間にシンフォギアが分解され、全裸でその場に倒れる翼を奏が守るべくノイズをアームドギアで打ち倒す。奏が翼の周囲のノイズを倒した事で、マリアは倒れた翼に寄り添う事が出来るようになる。

「翼!」
「マリア、翼の容態は!?」
「待って……大丈夫、気を失っているだけよ」
「よし、ならマリアは翼を頼む。アタシはこいつらを!」
「待って! あれは明らかにノイズとは違う、これ以上の戦闘は危険よ!」

 シンフォギアが分解された以上、今までの戦闘の様にはいかない。危険を感じたマリアは奏に撤退を促したが、奏は聞く耳を持ってはくれなかった。翼が倒された事で、奏の頭にも血が上ってしまったらしい。

 マリアの制止も聞かず、奏はオートスコアラーに向け突撃する。その進路を阻むべくノイズ達が奏の前に立ち塞がった。

「邪魔だッ!!」

 何故シンフォギアが分解されたのかは分からないが、あの妙な発光をする部分に絡繰りがある事だけは分かる。その部分からの攻撃だけは受けないようにと、奏は注意しつつ迫るノイズ達を片付けた。

 だが翼が倒れた事で精神が乱れていたのだろう。先程に比べて攻撃に精細さを欠いていた。四方八方から、様々な形で発光する器官が奏に襲い掛かる。

「ちっ、くそっ!?」

 何とかノイズからの攻撃を回避する奏だったが、敵はノイズだけではない。
 オートスコアラーを名乗る女性が竜巻を発生させ、奏に向けて放って来た。

「ハッ!」
「ッ! しま、うわぁぁぁぁぁっ!?」

 一瞬の隙を突かれ、オートスコアラーの巻き起こした竜巻に巻かれて吹き飛ばされる奏。洗濯機の中に放り込まれたように振り回されている内に、その手からアームドギアがもぎ取られる。

 そして竜巻から解放され、地面に落下する奏にノイズの追撃が突き刺さった。人型のノイズの腕部から伸びた発光する触手が奏のギアコンバーターを引っ叩いて地面に叩き落した。

「あぐっ?!」
「これで、終わり……」

 奏も倒れた事で、オートスコアラーは勝ち誇った顔をした。

 だがしかし、次に予想を裏切られたのはオートスコアラーの方だった。
 ノイズの触手で地面に叩き付けられた奏が、ふら付きながらも立ち上がったのだ。顔はダメージで痛みに歪み、口の端は切れて血が流れているが彼女のシンフォギアは翼と違い分解されていない。

「ッ!? 分解、されない?」

「か、奏、大丈夫なの?」
「ぐっ!? え? あぁ、大丈夫だ。まだ、戦える!」

 口の端の血を拭いながら、奏はアームドギアを構える。今だ戦意を失っていない奏を、オートスコアラーはそれまでとは打って変わって強く警戒した顔で睨み付けていた。

「貴方……何者?」
「は?」
「何故あなたの槍は砕かれないのかしら? 一体何をしたの?」

 何をしたのかなんて、そんなの奏が一番知りたい。何故自分のシンフォギアは翼のように分解されないのかは分からないが、はっきりしている事はただ一つ。奏はまだ戦えるという事だ。
 実際には先程の一撃で全身痛くて体がガタガタだが、翼とマリアを守る為にここで逃げると言う選択は奏の中になかった。

 ボロボロになりながらもアームドギアを構える奏に、オートスコアラーは言い知れぬ危機感を抱いた。この展開は完全にイレギュラー、ここで奏を放置すればいずれ必ず”主”の計画の障害となる。

「……致し方ありません。本来であればここでトドメを刺す事は予定にはありませんが……貴方は少々危険なので、後の禍根を断つ為にもここで始末させていただきます」

 オートスコアラーが剣を構え、ノイズがじりじりと包囲を狭めてくる。奏は迫るノイズ達を前に、震える手でアームドギアを構えて迎撃の構えを取った。

 しかしこの戦いは、予想もしていない所からの横槍により幕を引く事となった。

 突如として奏の前に降り立ったローブを着た女性……アルド。彼女は手にしたハーメルケイン・レプリカで周囲のノイズを次々と切り裂き、懐から取り出した二本の試験管をぶつけ合わせるように放った。試験管がぶつかり合い、中の溶液が混ざり合うと飛び散った溶液が光の礫となりノイズを穿つ。

「ッ!?」
「アンタは!?」
「ここは逃げるが勝ちです」

 突然の奇襲にオートスコアラーも対応が遅れている間に、アルドは奏の手を引いて翼とマリアの元へと向かう。4人で固まった所にオートスコアラーが追加のノイズを呼び出して追撃しようとしたが、アルドは懐から取り出したアンプルの様な物を地面に叩き付けた。

「それは!」

 アルドが取り出した物に見当が付いたのか、オートスコアラーが剣を投擲して彼女の行動を阻害しようとする。が、一歩遅く、剣が届くよりも先にアルド達は足元に浮かび上がった魔法陣の光に包まれその場から姿を消した。

 4人が姿を消した直後、オートスコアラーが投擲した剣が彼女達の居た場所を通り過ぎ橋に突き刺さる。

 物の見事に逃げられてしまった事に、オートスコアラーはその場所を睨み付けていたが次の瞬間には溜め息を吐く様に肩を竦めた。

「まぁ、いいでしょう。剣を手折る事は出来たのですし、それで良しとしましょう」

 そう言うとオートスコアラーもアルドが取り出したのと同じ色のアンプルを取り出し地面に叩き付ける。アルドがやったのと同じ手順でその場から姿を消すと、それに続く様にノイズも姿を消し後には戦闘の爪痕の破壊された橋と燃える車だけが残されるのだった。 
 

 
後書き
という訳で第111話でした。

奏のシンフォギアがアルカノイズに分解されなかったのには、一応この作品独自の理由があったりします。ただ分解を一応免れただけで、ダメージ自体は結構負っています。
そこら辺に関しては前書きでも述べた通り、次回以降に説明していくつもりですのでお待ちください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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