最期の祈り(Fate/Zero)
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埋まらない溝
死ね。
え?
死ね死ね。
何だこれは?
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
私は今までこんな強烈な感情を向けられたことはない。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
駄目……誰か
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!
「……して」
side 一夏
「な、何だよこれ……?」
やっとセシリアと解りあえた。その矢先、何か黒い泥のようなモノがセシリアを覆い隠した。
本能的に悟る。
アレは在ってはならないものだ。
間近にいるだけで嫌なものを感じる。
「う、オエッ……!」
思わず、その場に胃の中の物をぶちまけてしまう。
「ぅ……セ、シリア……」
足が動かない。
近くに在るというだけでこんなにも苦しいと言うのに、素肌でコレを感じているセシリアは……
「助け、なきゃ……」
俺が彼女を助けないと。
やっと解り会えたんだ。もっとセシリアといたい。もっとセシリアと喋りたい。もっと、セシリアの事を知りたい。もっと、……
「動けよ……動けよ!?」
なのに、動けない。足どころか、這うこともままらならない。
「動けえええぇぇぇ!!」
それでも動かない。思わず、声が漏れる。
「誰か……セシリアを」
その時、目の前に誰か現れた。
一夏の知っていて、知らない誰か。
――――――――――――――――――――
泥を確認した瞬間、切嗣は屋上から飛び降りた。
「IS、シルバームーン起動」
自由落下に任せながら自身のISを起動させる。
あの泥を確認したした時点で、切嗣は手の内を隠す事は諦めた。若しあれが本当にアレなら、事態は一刻の猶予は無い。
ISの起動により一瞬光に包まれる。その光を割って出たのは、IS専用のスーツを着用し鉄の鎧を纏った切嗣、では無かった。
年齢の低下と共に若干見た目は変わっているが、そこには見間違いようのなく、
嘗て魔術師殺しと呼ばれた「衛宮切嗣」がいた。
その姿は、そもそもが異端だった。
ISの専用スーツの代わりに、以前と同様にくたびれたダークスーツと使い古したコート。肝心の装備も体の、本当に急所となる部分にのみ装甲があるといったものだった。
本当にこれはISなのか?
だが、次の一言で疑問は否定される。
「瞬時加速」
IS独自の機能を使うということはISなのだろう。だが、疑問は残る。
しかし、今の切嗣にとっては些末な問題だった。
『アレ』は放置して良いものではない。可能な限り早く消す必要があった。その為には、例え其が未知なるモノでも使う以外選択肢は無かった。
side 一夏
「きり、つぐ……?」
思わず、目の前の男の名を呼ぶ。
確信が欲しかった。この男が、俺の知る「衛宮切嗣」で無いという確信が。俺は、こんなヤツが切嗣だなんて認めない。見た目の問題じゃない。身に纏った、妙に使い古したコートもどうでもいい。そんなことじゃない。
確かに、アイツも死んだような目をしていた。だが、切嗣は優しかった。そこに居るだけで、周りの人を和ませる位、優しい雰囲気を感じられた。まかり間違ってもこんな、
冷たい殺意を振り撒くような奴じゃなかった。
だから「自分は衛宮切嗣ではない」と否定して欲しかった。
しかしソイツは俺の質問に答える事なく、あの黒い泥に向かって行った。
そして、
ぞぶり
そんな醜悪な音をたてながら汚泥に手を突っ込んだ。
「うっ……ぐぅ……」
顔も歪めながらも何かを掴むように、手を動かし
「あ、あああああぁぁぁぁぁ!!」
その手を引き抜いた。
そこには、セシリアの腕が捕まれていた。
「く……」
汚泥からセシリアがでた瞬間、それは、さっきまでの存在感が幻だったかのように消え去った。
「せ、セシリア……」
何とか這って彼女の元まで行く。
セシリアは無事なのか……
ただ、それだけが知りたくて這う。
「……て」
「!セシリア!!」
今、セシリアが口を動かした。良かった。セシリアは無事だ。
その時、俺は勘違いしてしまった。彼女は全然無事でないことに。
「殺して」
瞬間、俺の体が氷ついた。
―今、何と言った?―
だが、次の切嗣の行動で動かざるを得なくなった。
セシリアを横たえると、立ち上がり銃口を彼女の腹に向けた。
「や、止め……」
本能的に切嗣が次にとる行動を理解してしまい、制止の声を挙げるが……
パンッ
乾いた音と共に、セシリアの体から紅いモノが飛び出した。
side ?
「う〜ん。失敗だったかしらね」
暗い部屋に女性の声が響く。部屋には幾つもの機材があり、その中の一つにパソコンがあった。
「もともと情報の断片の更に劣化版ですから、しょうがないと言えばしょうがないですが……」
パソコンに映る映像を見ながら喋る女性。
「何の話?」
独り言を喋る女性に、別の声がかかる。
「ええ。貴女が回収した『あれ』の模造品(失敗作)の事ですよ」
そう言いと、パソコンの画面を見るように促す。
そこには、セシリアの傷口に手を当て、何か呟いている切嗣がいた。
「幾ら失敗作とは言え、依り代を失った途端崩壊する上に、一介の魔術師程度の魔力で洗い流されるようでは……」
目頭を押さえ、やれやれと呟く。
「ごめんなさいね。わざわざ貴女に回収して貰ったのに、芳しい成果を挙げられなくて」
そう目の前にいる人物の頭を撫でる。
「別に良いよ。もっと面白いモノが見れたし」
ん?と可愛らしく呟き、改めてパソコンの映像に目を向ける。そこには、
雪片弐型を衛宮切嗣に向ける織斑一夏の姿があった。
後書き
とりあえず、補足説明を。
切嗣が最後に使ったのは単発のキャレコです。コンテンダーではありません。
あんなもの人に撃ったら出血多量で死にます。
後、軽くネタばれになりますが、セシリアも今後活躍します。今回の件が致命的な何かに成るということは無いので安心して下さい。
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