竜のもうひとつの瞳
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第七十九話
しばらく進んでいくと、今度は政宗様と幸村君が激闘を繰り広げている。
まぁ、かち合ったらやるんじゃないかとは思ってたけど、やっぱ思ったとおりにやってたか。
政宗様のストーリーも一通りクリアしてるから、二人の関係性は分かってるしね。
顔さえ見れば戦いたくなるような間柄っていうのもきちんと分かっていますよ。
でも、この状況で説得を試みるのは難しそうだなぁ……。
「貴殿に小夜殿は絶対に渡さぬ!!」
さて、どうしたものか、なんて思っていたところに思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。
今、政宗様に私は渡さない的なこと言ってたわよね?
「ナメたこと抜かすんじゃねぇ!! アンタになんざ絶対に渡すか!!」
……おい、ちょっと待て。雌雄を決しようとしてんじゃねぇのかよ。
何でここで女の取り合いやってんの。馬鹿じゃないの? っていうか馬鹿?
「……つか止めろよ、佐助。見てんならさぁ……こんな戦いで命落としたら間抜けでしょ?」
絶対に近くにいると踏んでそう言えば、佐助が私の目の前に現れた。
全く、このストーカーは一体何をやってんだか。
こんな天下分け目の戦場で女を巡って戦ってるだなんて恥ずかしいじゃないのよ。
「無理無理。人の恋路を邪魔できるわけないじゃん。
つか、真田の旦那が珍しく本気で惚れてんだもん。俺様としても応援したいわけよ」
「幸村君の妾にしようってか。本当、アンタもいい根性してるわね」
やっぱかすがに情報流しておいて正解だった。コイツの恋だけは完膚なきまでに叩き崩してやりたいもんだ。
絶対にこの男の恋路だけは成功させない。恨みを持った女の執念を思い知らせてやる。
「だってさぁ、今のところ独眼竜に軍配が上がってるわけじゃん? 夜にさぁ、独眼竜に抱かれてぐべぇ!!」
かなりの圧力をかけて押し潰してやれば、佐助が変な声を上げて地面に倒れてました。
何かもうちょっと力加えれば、口から内臓飛び出してくるんじゃないかしらねぇ?
「余計なことは言わないの。まだ死にたくなければね」
「……姉上、政宗様に何を」
「……知りたがりは長生き出来ないぞ♪」
完全に小十郎が怯えた顔をしているけど、そんなん知ったことじゃない。
そういう無粋なことをしちゃいけません、という教育的指導だから。周りにもドン引きって顔はされたくないわねぇ……。
重力を解いてやり、私は本隊を離れて拮抗している二人の近くに立つ。
二人が私に気付いて一瞬鋭い目を向けてきたけど、相手が私だと知った途端、驚いた顔に変わる。
結構結構、私だときちんと分かってくれているということは、真剣勝負にかまけているってわけじゃあないってことだし。
私は結構いい笑顔を二人に向けて、ゆっくりと手を翳して崖目掛けて吹っ飛ばしてやりました。
「ぐぼぁ!!」
「げふぅ!!」
二人とも、上げた声が汚いです。結構な身分なんだからさぁ、もうちょっと上品な悲鳴上げてよ。
「二人とも? 雌雄を決する為に戦ってたんじゃないのかしら?」
よろよろと身を起こして私を見ている二人は、完全に戸惑った顔をしている。
きっと私が何も言わなければ、何をするんだと抗議しようとしていたのかもしれない。
だが、流石にもう見逃してやるわけにはいかないのよねぇ……だって、こんなところでそんな戦いされたら伊達家の恥だし。
だから、きちんとここはお説教をしてあげないと。
「こんな天下の大舞台で、一人の女を獲り合って戦そっちのけで戦ってるってのぁ……一体どういう了見だ!!」
完全にキレた私の前に、二人は仲良く肩を並べて正座をして説教を受けている。
この光景には即興で作った連合軍も唖然としていて、小十郎も頭が痛いとばかりにこめかみを押さえていた。
本当ならばここで半日くらいかけてお説教をするところなんだけど、今回はあまり時間も無いので
説教をさっさと切り上げて、戦を止めるから付いて来いと二人に言う。
「ちょっと待て! 戦を止めるって、何を考えてんだ!!」
「そうでござる!! ここは天下分け目の戦場!! 簡単に戦を止めるなどと」
「……そこで馬鹿げた戦いを繰り広げてたのは何処の誰だ。
そんなに地獄の扉の開き方が教えて欲しいのなら、教えてやる。覚悟は出来てるか」
キレた私の恐ろしさは、はっきり言っちゃうと小十郎を軽く凌駕してます。
小十郎だって、私が発してる怒りのオーラに条件反射的に竦んでるしさ。
「……す、すいません」
二人は揃って謝って、全軍こちらに付くように指示をしてくれた。全く、世話焼かすんじゃないわよ。
「……姉上、小十郎の台詞を乱用しないでいただきたい」
「だって凄むにはアンタの台詞が一番効果的なんだもん」
どっからそんな言葉が出てくるのか分からないけど、マジ切れした時には小十郎の言葉が一番ビビッてくれるわけだし。
今度メモしておいて、頭に入れておこう。政宗様とか説教する時には丁度いいかもしれないしさ。
とりあえず全軍が戦いを止めてこちらに付いたところで、佐助が私の前に頭を掻きながら現れる。
「……大将の指示だから味方するけどさ。こっちの総大将は、小夜さんってことでいいのかな?」
「え、そうなの?」
佐助の問いに辺りを見回せば、ほぼ全員にここまで仕切ってて何を言ってるんだ、という顔をされてしまった。
つか、総大将のつもりは全然無かったんだけど。
ってことは、佐助に指示出せる権限が私にもあるってことかしら?
「佐助、ちょっと東軍に行って来てまつさん助けて来てくれる?」
「まつさん? ……あー、前田の奥方かぁ。何でまた」
「詳しいことは後回しだけど、利家さんも東軍で参加してるからさ。
多分まつさん救い出せれば、利家さんはこっちに味方してくれると思うし」
まつさんが捕らわれたから東軍に味方しているとなれば、まつさんを救っちゃえば利家さんが東軍に味方する理由が無くなる。
それに、個人的なことだけど……前田夫婦にはお世話になったしね。
借りを返すには足りないけれど、少しでもまつさんや利家さんの為になりたいもん。
佐助が私の指示を聞いていなくなったのを見て、私は軽く溜息を吐く。
よし、あのストーカーがいない間に上司に報告をしておくか。
「ねぇ、幸村君聞いて~? 佐助がさぁ~」
甲斐に行くと佐助にストーキングされて困るってことと、この前は奥州にまで来て覗き見されてたことを他の皆に聞こえないように伝えておく。
すると幸村君は顔を真っ赤にして、破廉恥でござる、とデカイ声で叫んでいた。
まぁ、周りは訝しがってたけど内容に関しては後で適当に誤魔化しておこう。
佐助が女湯を覗いて喜んでたのを目撃した、とか言っておけばいいか。
「さっ、ささささ佐助がそんな破廉恥を……!! 小夜殿!! 佐助に代わって詫び申す!!
申し訳ござらぬ!! 金輪際、そのようなことはこの幸村がさせぬゆえ」
少し可哀想な気がしたけど、まーいいか。
おばさん発言やら無粋なことをしてくれた礼はこれできっちりしたと思っておこう。かすがにも吹き込んだしね♪
きっと後で佐助が幸村君にぶん殴られるんだろうな、と予想しながら先へと進む事にした。
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