冥王来訪
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ソ連の長い手
欺瞞 その2
ホワイトハウスにCIAは秘密報告書を提出した
相次いだハイヴの消滅は、複数の情報からゼオライマーの全方位攻撃と類推される事
やがて地上のハイヴが無くなれば、米ソの奇妙な関係は雲散霧消
軍事バランスの変化はやがては欧州大戦の危機をはらんでいると言う内容であった
「ソ連に対し甘言を弄すれば、朝鮮動乱の如くなりかねん」
『アチソン防衛線』
1950年1月12日、朝鮮戦争勃発半年前にD.C.の記者クラブで、当時の米国務長官の発言
『我が国は、フィリピン・沖縄・日本・アリューシャン列島の軍事防衛線に責任を持つ。それ以外の地域は責任を持たない』
同発言を奇貨居くべしと、スターリンは秘密指令を平壌のソ連傀儡政権に伝達
北緯38度線を大部隊を持って突破し、南朝鮮を侵略
首府・京城を落城、僅かな時間で釜山まで後退させた
40年近く前の苦い記憶を悔やんだ
「日本の手緩い対応を鍛え直しますか……」
米ソ間の間で顔色を窺う日本政府の対応を非難した
「黄人共の諍いで済めばよいが、サンフランシスコやロサンゼルスまで飛び火することは避けねばならん」
押し黙っていた大統領が、ふと告げる
「化け物退治の副産物で、良い物が有る」
その発言に周囲が騒がしくなる
大統領の方へ、閣僚達の顔が向く
CIA長官が、口を挟む
「まさか新型爆弾の見通しが立ったのですか」
大統領は、彼の問いに応じる
「ロスアラモスに於いて、新元素に対する臨界実験がすでに大詰め段階に入っている。
本年中に仕上がったとしても、実験成功発表は来年に行う」
椅子に凭れ掛かる
「BETAを焼くついでに、シベリアで実証実験を行えるよう手はずを整えてくれればよい」
彼等の反応を見ていた、副大統領が応じる
「ハバロフスクを原野に戻す……、中々刺激的な提案ですな」
男は、CIA長官の方に向ける
「ボーニング社の新進気鋭の設計技師、ハイネマンを呼び出せ……。
『曙計画』を通じて、ミラ・ブリッジスと懇意な間柄だったと聞く」
日本帝国の軍民合同戦術機開発研修プロジェクト・『曙計画』
合同研修チームが米国に派遣され、そこでミラ・ブリッジスと篁祐唯は知り合った
もし、ゼオライマーが現れなければ、彼等の辿った運命は違ったであろうか……
ふと、その様な事が頭の片隅を過る
一瞬、目を閉じた後、再び視線を男の所に戻した
「奴を通じて、ブリッジス……、否、篁夫人に連絡を入れろ」
右手を伸ばすと、卓上にある小箱を目の前に引き寄せる
「何故その様な事を……」
小箱は、スペイン杉で出来たヒュミドール
鍵を開け、蓋を、右手で押し上げる
薫り高いバハマ産のタバコ葉の匂いが周囲に広がっていく
「ゼオライマーのパイロットの上司は、彼女の夫の篁だ。
上手く米国に誘い出す糸口にしたい」
静かに蓋を閉めると、左手に持ったシガーカッターで吸い口を切る
「ソビエトは彼を誘拐しようとして失敗した。
上手く行くかは分からぬが……、遣らぬよりはマシであろうよ」
CIA長官は男の提案に不信感を抱いた
何故、この期に及んであれほど否定していたゼオライマーに関する話を持ち出すのかと……
「副大統領、お聞きしたいことがあります」
CIA長官は男の顔を見つめる
「今回の翻意の理由は何ですか」
黒縁眼鏡の奥にある瞳が合う
「出所不明の文書が持ち込まれた話は聞いていよう」
懐中より、細長い葉巻用のマッチを取り出すと、机の上に置く
箱から抜き出した軸木を勢いよく、側面の紙鑢に擦り付ける
「ソ連公文書の形式で書かれた怪文書、約数百冊……。
秘密裏に東ドイツ国内、ベルリン市内に核戦力を持ち込む話……。
シュタージの主だったメンバーがKGB工作員であったことが記されていた」
燃え盛る火を見つめながら、葉巻をゆっくり炙る
「また、我が方が用意した間者が裏付けを取った。
結果から言えば、駐留ソ連軍の小火器や戦車保有数まで正確……。
独ソ双方の資料を突き合せた結果、寸分違わず書かれていたこと。
以上の事を考慮すると、ソ連公文書の蓋然性が高い」
数度、空ぶかしをした後、念を入れて葉巻に着火する
紫煙を燻らせながら、長官の方に視線を移した
「君には、飯と一杯食わされたよ。
こんな隠し玉を用意してまでゼオライマーに惚れ込んでいたのだから……。
誓紙迄認めた事だ……、この件は君に預ける。
機密費で存分にやり給え」
猶も怪訝な表情を浮かべる長官に対して、苦笑しながら答えた
彼の心中は穏やかではなかった
自分の知らぬ間に、何者かがKGBの秘密文書をホワイトハウスに持ち込んだのだ
数百冊の単位で……
常識では考えられぬ手法を用いねば、その様な事は無理だ
其の事を思うと動悸がして、空恐ろしくさえなる
「分かりました。手抜かりの無きように進めます」
そう言うと着席した
後書き
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