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妖精のサイヤ人

作者:貝殻
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第九話:ついにネロ姉の登場!その正体とは…

 
前書き
少しずつペースを取り戻せばな、と思います。
 

 
少年二人はヨーロッパ風な街並みであるクロッカスにて馬車をフィオーレ北方近くまで僅か1日ほど旅で乗り、ある霊峰の近くで降りて徒歩で旅を再開した。
山の獣道を歩き続けて半日くらいで、ラクサスは怪訝な顔で――

「…なあ、お前の姉ちゃん…本当にこの山に住んでいるのか?」

「生まれてからずっとこの山育ちだ。 間違いないさ――あと1時間くらいこのまま歩けば着くぞ」

迷う素振りもなく淡々と自然の中を歩き続くネロ。
時折モンスターに遭遇することがあっても苦戦はなく二人は進み続けた。
かつてネロが旅に出る前であれば苦戦の連続であったが、今までの旅とクロッカス武道会を経験してからか、苦戦することなく、かつての強敵だったバルカンとは余裕をもって対応することができた。
 
だからネロにとって、たった1年の旅で手に入れた強さを実感するいい機会である。

「1時間かよ…じゃあまたお前の姉ちゃんの話の続きをしてくれよ。 ほら、馬車で話していたあの…尻尾の…」

「千切れた話?前に話してた通り、姉さんから‘’もう意味ないでしょうっつー理由で千切れたんだよ」

「尻尾の痕見るか?」と少しだけズボンの臀部の所を手を伸ばしたところでラクサスに「見せんでいい」とツッコまれて止められるサイヤ人。

いきなり友人にケツに証拠があるから見てみと言われていい気分になる筈もなく、というかそこまで尻尾に対して好奇心があるわけじゃない。
ラクサスにとって初めての友達(ダチ)であるネロの姉という存在の方が好奇心の対象であった。

「お前より強いっていうならどこかの魔導士ギルドか衛兵ギルドに所属している可能性あるってじぃじが言ってたしな。そういうの聞いたことねーの?」

ラクサスの問いにネロは思い出す。
そういえばよく姉は自身を置いて数日程家を留守することがあるな、と。
修行を見てもらっている間、時折用事があるとか仕事があると話をしていた。
気になって後を付こうとしたが、何故か尾行の数十秒以内で捕まることがあったということもついでに思い出した。
少なくとも姉自身を蔑ろにするような仕事ではないと説明されたことがある、とネロはラクサスに教える。

「んじゃあウチに入れるときに色々面倒くせーやり取りが必要かもしれねえな」

「ああ…転職かぁ…確かに面倒くさそうだな」

いろいろと手続きとか必要だろうな程度しか考えていないネロとラクサス。
そこにラクサスの祖父であるマカロフが居れば「それだけじゃないわい!!」と声を荒げていたのだろうがが、幸いか不幸かマカロフはいないので注意もなし。

★★★★★★★



1日半の旅にてネロとラクサスは山の獣道を抜けて森の中心、というよりそこだけ明らかに人口的に建てられている小さな一軒家を見つけた。
その建物こそがネロ・ハバードが9年間住んでた家であり、そして親代わりである姉が今も住んでいる場所だ。

「…ちゃんとあったんだな、こんなとこに家が」

「?だから言ったろ?この森に家があるって」

「そうだけどよ…あんな場所を見りゃなぁ…」

ラクサスの脳裏に過るのは雪で覆われ居た森の向こう側、霊峰ゾニアという氷結の世界とも思える地域。

流石にまだ霊峰ゾニアという情報をラクサスは持っていたわけではないが、遠目から見ても過酷とも思える場所だった。

 まだ離れているというのに馬車から降りた所からでも感じる寒さ。
馬車で乗せてくれた商人は「この近くに村はないのに、なんで子供の君たちが?」と問いかけられていたが、その意味を降りた時に知る。
集落も近くにはなく、まだ10キロという範囲以内すら村はないという話を聞いて、馬車から降りた時に肌から寒いと感じた。
この環境の中、ましてや山の中にある森にネロが住んでいた家があると聞いて半信半疑になった。

しかし、目の前の家を見て友の言っていたことは間違っていないと確信した。

「…ん?」

もう日が暮れ始めたからか、家から明かりが点いている。
ということは…今家の中に住人がいるということである。
住んでいたネロはその家の明かりを目にして、感慨深く気分になる。

1年、ホームシックになることがあったが、それでも精神的に大人だからそれぐらいのことでへこたれるなと自信を抑えた。 まさか中身が二十歳超えているのに姉に会いたくなるとかない。ないったない。
だがこうして家路につくと安心感を抱いてしまう。
ああ、家の中は多少変わったりしているのか、今姉は家で今日の夜食を作ってたりするのか。
姉の手料理が味わえると思うとよだれが出そうになる。
姉と稽古ができると思うと、今度こそ一撃入れることができるか。
姉に友人を、ライバルを紹介したらどんな顔をしてくれるのか。

「…んじゃ、入ろうぜ。オレたちの分の飯、作ってもらわねーとだし」

「おめーよだれ出てんぞ。拭けよ…」

ラクサスの指摘に従いネロは腕のジャージ袖で口に着いた涎を拭き取る。
「ちゃんとハンカチとか使えよ…!!」というツッコミがやってくるか我通じず。それより飯だ。感動?今腹減っているからそんなの後だといわんばかりネロは家の扉に着き、扉のドアノブを回して家の中に入り、腹から声を出した。


「姉さーん!!帰ったベー!!!」

隣から「訛り!?」とラクサスの声を他所に、玄関には既に一人の女性が佇んでいた。

和風の着物を開けたように着込み、男性が理想とするようなプロポーションの美女。
長髪の黒髪にカチューシャを身に着けた美女が茜色の髪を持つ弟を心から嬉しそうに、穏やかな笑みで出迎えていた。

「―――おかえりなさい。待ってましたわ」

透き通るほど美声が小さな口から出る。
弟の髪と似た色の目は優しく―――抱きしめようと両腕を広げた状態でいつのまにかその少年と接触できる距離までに接近していた。

「!!!」

ネロがドアノブを回して訛り声を発したたったの数秒。
その数秒で目の前の女性は既に玄関に立っており、そして瞬きする間に既にネロの前に近づいていた。
その光景を客観的に見ていてぎょっとするラクサスとこれからの光景が瞬時に脳内に奔ったネロ。

(あ、ダメだ逃げられないオワタ―――)

友達の前で恥をかくと理解し、そして悟ったような、諦めた顔を浮かぶ弟にその美女は己のダイナマイトを炸裂させんと少年を抱きしめる―――!!!

「会いたかったですわ…我が愛おしい…弟」

「ふがぁッ!!!?」

ネロの頭は二つの巨山に埋まれる。
漂う姉の匂いと顔面に伝わる今まで幾度もなく味わった柔らかさ。
全て懐かしいと思いながら、そして友人に恥を晒されているネロは―――
窒息しそうになり、小さいころから味わった苦しみに、抵抗もなくただ1分間も最愛の姉に抱擁されていたのであった。



★★★★★★★



「さあ、どうぞお召し上がりください。久方ぶりに腕によりをかけて調理致しましたので、満足の行くまでにご堪能ください」



「「い…いただきまーす…!!!」

場面が変わって、リビングルームと思われる部屋の中に、三人が囲めるほど丁度いい大きさのテーブルの上に盛り沢山とも思える数々の肉と魚、山から採ってきたと思える山菜で作られた料理の数々を片は歓喜に片はドン引きと声を震えながら両手を合わせて食事の挨拶の言葉を口にして料理を口に運ぶ。

「ふふ、どうでしょうか。山から採ってきた甘い実をソースにして山菜へのトレッキングにしました。 以前ネロさまが口にした野菜炒めをもう少し甘くすれば、と挑戦したのですが、如何でしょうか?」


「すっっげえ美味しい!!!!」

「焼き加減にこの食感…なんで味わい深いんだよ…サクサクした感じだけじゃねえ…甘いだけじゃなく辛い…けどすげえ舌に絡み合う…おいしい…っ…!!」

料理の感想をたったの一言にするネロと味わったことがない美味さに動揺を隠しきれず謎の食レポを始めたラクサスの対応にネロの姉は笑みを深めた。

「今からお湯を沸かしてきますので、おかわりが必要でしたら台所からお取りください」

「はーい!!!」

「この野菜炒めだけじゃねえ…このチャーシューと食うとまた味により精密さが溢れてるだと…?」

ネロの姉はその場から離れ、残ったネロとラクサスはテーブルの上にある料理の品品を夢中に口に入れていく。
ただ飲み込むのではなく、しっかり噛み、味を楽しみながら食べるラクサスにただたくさんの料理を一瞬にして空にしていくネロ。
食欲旺盛の少年たちは半日以上食事を口にしていなかったが、だからといって異常ともいえるほどの食欲を湧き上がっていった。

先ほどのネロは姉とのスキンシップをラクサスに見られて自害してしまいたくなる恥じらいがあったが、自分を抱擁していたであろう姉の口から「もう夕餉の支度は済ましています。手を洗ってからリビングにきてくださいね」と言われてすぐさま臨機応変に迅速に動いた。
同じように呆けていたラクサスを連れて手洗いをすまし、ネロ自身が旅立ってから何も変わっていない家具を目にしながらもリビングに着いてからこの展開である。

しかもサイヤ人のネロが満腹になれるまでの数々の料理をしていたことから、まるで事前に帰ってくると知っていたといわんばかりの大量の料理の用意にラクサスは疑問を浮かんでいたが、食事を口にしたら疑問がマグノリア地方まで吹き飛ばされ、頭の中は食レポ状態になったわけだが。


少年たちが満腹になる頃には、もうテーブルに乗っていた料理も、用意されていたおかわりがなくなったあとだった。
満足そうな顔をする少年二人は腹いっぱいになっているおなかを抑えながら、やっとこさ正気に戻る。

「…なぁ、聞いてもいいか」

「…おう」

「…事前に帰ってくるって伝えていたのか?」

「…伝える手段がねえから無理。 多分、山に着いた瞬間に気づいて用意してくれたと思うんだけど」

「…マジ…?」


マジマジ、と信じられない芸当ができるとネロ自身の姉の規格外さを肯定する様をラクサスは何とも言えない表情をしてしまう。
ラクサス自身、実力者といえば思い浮かぶのは祖父と父、そして父より強く祖父に認められる程の強さを持つある男を思い浮かぶが、その思い浮かんだ実力者たちでさえここまで感知能力が高いと聞いたことはない。

ライバルの姉はそのライバル自身でさえ、まだ勝てないと言わしめるほどの強者なのは馬車の中で聞いた。


曰く、何度攻撃を実行しても掠り傷もできない。
曰く、知識がとてもある。
曰く、1年前までは指一本で集められた魔力の球で何度も一撃でダウンされてきたと。
曰く―――10倍までに力を上げても姉の顔色を変えることができなかったと。

聞いてると胡散臭さが滲み出るものだが、目の前のライバルは全くその気がないということを目を見れば理解できた。
姉自身の実力を語るときのネロ・ハバードの目は――悔しいという感情に溢れていたのだから。


「ただ強いだけじゃなくて、感知能力が高いとか一体何の魔法を主体にしてんだよおめえの姉ちゃん」

「魔法…なんつーか…今まで話していた内容と比べると反則に近いんだよな」

反則に近い魔法、それは破壊力が高い魔法か。
或いは物理攻撃とかが通じないような魔法か。
又は目に捉えきれない程の速度を出す魔法か。


(わたくし)の話題をするのは構いませんが、その話題の主である本人を除け者にするのはどうなのでしょうか」

ラクサスが頭の中で謎姉の魔法を考察していると誰も座っていなかった席に、いつのまにかその姉本人が椅子の上で静かに座っていたことに少年たちが声を掛けられるまで気づかなかった。
まるで瞬間移動でもしてきたんじゃないかという目で二人の少年が姉を見ているとその本人がまたも静かに口を動かす。

「それで、ネロさま。 そちらの男の子は誰なのでしょうか…。一応お客様の様なので席を許しましたが」

ネロの姉がこの家で二人を家に入れてから初めて、ラクサスに見て再び弟に目線を寄越し微笑みながらネロを見つめる。
目線を向けられたネロはにやりと笑い、自慢げに友人を姉に紹介する。

「コイツはラクサス。 大人の魔導士より強くて、オレの生まれて初めてのライバル!!」

「オ、オイ…ゴ、ゴホン…」

どこか照れくさそうにネロから自分の三人所を聞くラクサスだが、一度だけ気を取り直すように咳をし、椅子を引いて立ってから友達の家族に初めての自己紹介を始めた。

「は、初めまして…オレはラクサス…だ…あ、じゃなくてです…?」

「…嗚呼、慣れない敬語じゃなくて気軽に話していただいてもかまいませんよ」

「そ、そうか?…ラクサス・ドレアー!魔導士ギルドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入って、んでネロとダチだ。よろしく!!」

まだ恥ずかしさがなくならないが、それでも頑張って友の姉である人物に自己紹介を遂げるラクサス。
ダチであるネロ本人も今世で初めて己の姉に友人を会わせたからか、少しだけ照れ臭そうである。
しっかりしろ精神年齢大人。

そしてネロは姉に目線をやれば今まで見たことのないような――そう、作り物の笑顔浮かべた表情でラクサスを見つめていた。
見つめられているラクサスはそれに違和感がない。
それはそうだ、初めて会う人間の表情などすぐさま理解できるはずもなければそれに悟るほどラクサス・ドレアー本人はまだ場数も踏んでいない。
それに気づいているのは共にその姉と9年間一緒に過ごしてきたネロ本人だけである。

初めまして(・・・・・)

姉が発するその声音はネロと会話していた時の柔らかさと違い、しかし不快を与えないごく自然に感じられるような凛とした声でただ自己紹介をはじめたのだった。

(わたくしは)――」

ネロとラクサスはただ、この女に会って話をして…少しだけ手合わせが可能だったのならそれもやって、一緒にラクサスの所属する魔導士ギルド’’妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行くだけだった。

「このネロ・ハバードの最愛の姉――」


最終的には何の問題も蟠りも作らず、ただよくある日常的な終わりを行おうとしただけであって。

セイラ(・・・)。セイラ・ハバードと申します。」


涼しく感じさせる優しい月の光という存在であった姉のセイラが、ネロにとって最初で最悪な絶望の月へ変わるまで――。

’’家族’’という絆に罅が入るまで僅か1日。

 



 ★★★★★★★







「それでさ、ラクサスが使う雷の特効が速くてパワーもすげえんだぜ?おかげで傷が癒えるのが早いオレでもまだまだ治らないし」

「なに言ってんだよテメエ…普通あんなにもろ直撃されたら倒れるモンだろ!だっつーのに全然倒れねーしどんだけしぶといんだよ」

「ネロさまは打たれ強いですからね」

「ラクサスはそう言ってるけどよ、オレよりラクサスの方がタフなんだよ。 オレとラクサス、あの時は同レベルだったしオレの方が攻撃当ててたはずなのにずっと立ってるんだ」

「そうなのですか?凄いでs――」

「ああん??誰がずっと殴られていたって??オレの方がヒット数多いに決まってンだろ。 こっちとら雷で破壊力と移動があの時のオマエより上だし??それに今朝だってオレが勝ちだったろ!!」

「あの時はあの時だろ!!それに今朝だってちょっと調子が悪かっただけだし~?次はオレが勝つもんね―!!」

「い―や!オレが勝つね!!」

「オレだ!」

「オレだ!!」

「あの」
「オレだ!オレだ!!オレだ!!!」

「オレだオレだオレだ!!オレオレだ!!」
「あn―――」



「「オレだ―ッ!!!」」


「………。」



「よーし!こうなったらもう一回だ!決着つけてやる!!」

「決着も何も全勝はオレだ!!」




「―――お二人とも、お静かに」



「ヒェッ………」


「御身体を綺麗にしたら寝る準備してくださいませ。その間ホットミルクを淹れておきます」

「「ハ、ハイ…」



いつか終わる穏やかな日々。
しかしネロが体験したその晩はとても楽しく、忘れられない思い出なのだ。

ネロ・ハバードは想う。

あの時一緒に笑っていてくれた姉の笑顔は、きっと本物でもあったのだと。




























 
 

 
後書き

 ※蛇足であるが、二人が徒歩での移動をし始める半日前に一度手合わせをしており、その時傷が癒えてきたネロが負けたり、ラクサスが慣れない’’滅竜魔法’’を使って疲労したりしたけど、程々にしてそのまま目的地に行きました。

※セイラの感知能力
高いというわけでもなければDBワールドみたいな気の感知でもない。ただ単に心配でストーカーしていただけである。

※セイラの料理の腕が高い理由
努力した結果、弟を満足させるまでに至った。
例えば今までの日常の中に食べ終わった後のハバネロに味の感想を聞いた後に工夫したり、弟の舌に合うように勉強した。

※セイラの魔力
裏があります。次の話のあとがきまでお待ちください。

※ネロとラクサス
ネロは何気に今世初に親に友人&ライバルの紹介。何気にライバルの紹介とか何で恥ずかしがっている。
今作のラクサスは人生初めて友人の家族との対面で緊張中。けどなんたか姉の自己紹介に寒気が走った様子。




  ★☆次回予告☆★

ハバネロ「何気なく一晩を過ごしたオレとラクサス」
雷竜「本題に入る前に寝てしまったから朝、ウチのギルドへ誘おうとするんだけどよ」
セイラ「お断りします」
ハバネロ「ギルドの誘いを断ったその本意を尋ねようとしたらオレが今まで聞いたことのない冷たい姉の声」
雷竜「そして事が起きだす」

「「次回、妖精のサイヤ人」

「第十話:動き出す宿命…始まった悪意による絶望」

ハバネロ「なんで…なんでそうなるんだよぉーッ!!」

セイラ「まだ見てくださいね」


 
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