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英雄の声

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第二章

「十八世紀までね」
「そうだよ」
「それでカエサルもなのね」
「ワーグナーとかだとテノールが歌うだろうね」
 因幡はこう答えた。
「ヴェルディでも」
「男の人の高音ね」
「その人が歌うけれど」
「昔の作品だとなのね」
「ああしてだよ」
「カウンターテノールの人達が歌うのね」
「そうだよ」
「昔からそうなの?」
「昔は違ったんだ」
 因幡は好美の今の問いにはこう返した。
「カウンターテノールはいなかったんだ」
「じゃあ誰が歌ってたの?」
「女の人、メゾソプラノの人が歌ったり」
 因幡は正直に話した。
「バリトンの人もね」
「歌ってたの」
「そうだったんだ」
「そうだったの」
「ずっとね、元々は」
 因幡は赤ワインを飲みつつ話した。
「カストラートの歌だったし」
「カストラート?」
「うん、その人達がね」
「どんな人達なの?」
 カストラートと聞いてだった、好美は。
 フォークとナイフを手にしたまま首を傾げさせた、そうしてそのうえで因幡に対して答えたのだった。
「カストラートって」
「去勢された男の人達だよ」
 因幡はまた答えた。
「子供の頃にそうして声変わりをしていない」
「そうした人達なの」
「それでね」
「昔のオペラはなのね」
「モーツァルトの作品でもね」
 それでもというのだ。
「そうした曲もあるし」
「カストラートの人の曲が」
「モーツァルトの頃にはいたからね」
「それでなのね」
「ヘンデルでもね、ただね」
 ここでだ、彼はこうも言った。
「ナポレオンがね」
「あの人がどうしたの?」
「ナポレオンがカストラートを禁止したんだ」
「そうだったの」
「人を無理に去勢するのはよくないってね」
 その様にというのだ。
「言ってね」
「それでカストラートがなくなって」
「それでなんだ」
「ああした役はメゾソプラノの人が歌って」
「そう、そしてね」
「今はなのね」
 好美はここまで聞いて納得した顔で頷いた。
「カウンターテノールの人が歌ってるのね」
「そうなんだ」
 実際にというのだ。
「今は」
「そうなのね」
「面白いよね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「今日のオペラはジュリアス=シーザーで」
 好美はタイトルから話した。 
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