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イベリス

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第四十五話 考えは変わるものその十五

「その人は」
「そうした子供のままな」
「お婆さんになったのね」
「何も学ばないで努力しないでな」
「ただ自分勝手に遊ぶだけで」
「何も築いてこなかった」
 一切、そうした言葉だった。
「まさにな」
「それで八十年近く生きて来たの」
「死んでからもいいことは言われていない」
「しかも餓鬼になってるの」
「そうだ」
 実際にというのだ。
「もうな」
「無惨なことね」
「そう思うならいいな」
「ええ、私も気をつけるわ」
 牛乳を飲みながら父に答え自分に誓った。
「変わるわ」
「普通は何かと変わるからな」
「その人は特別なのね」
「さもないと餓鬼にはならない」
 そこまで酷くならないというのだ。
「とてもな」
「そうなのね」
「だから人間として底を割ってな」
「餓鬼にまでならないとなのね」
「そこまでいいものを一切学ばなくてな」
「悪いままでいられないのね」
「修行と言うが特別なものじゃないんだ」
 それは特にというのだ。
「その辺りにもあるものなんだ」
「そうなの」
「そうなんだ、学校に行ったり仕事をしてもな」
「そして普通に遊んでも」
「あらゆることが修行になるんだ、本を読んでもな」
 こちらもというのだ。
「色々なことをしてな」
「修行になるのね」
「そして変わっていくんだ」
 人間としてそうなっていくというのだ。
「そうしたものなんだ」
「別に難しくないの」
「お父さんはそう思う、座禅を組んだり滝に打たれることも修行だけれど」
「お寺とかでするわね」
「しかしな」
「普通に学校に行ったりアルバイトしてもなのね」
「色々勉強になって変われるからな」
 だからだというのだ。
「修行なんだ、それとな」
「それと?」
「よく変わるのも悪く変わるのもその人次第なんだ」
「そうなの」
「そうだ、だからどうせ変わるならな」
「よく変わることね」
「それを目指してくれよ」
「そうするわね」
 咲もそれはと答えた。
「私も、じゃあこの一杯飲み終わったら」
「勉強か」
「そうしてくるわね」
「頑張れよ」
 父は飲みながら優しい声で告げた、そうしてだった。
 咲はその一杯を飲み終えると自分の部屋に戻って予習と復習に入った。この日も充実した日々を過ごせたと満足もした。


第四十五話   完


                 2022・1・1 
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