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イベリス

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第四十五話 考えは変わるものその十三

「そうしてくれよ」
「わかったわ、私だってね」 
 咲も父の目をじっと見て答えた。
「そんな人になりたくないから」
「性悪の子供のまま歳を取りたくないな」
「人間やっぱり成長しないと駄目よね」
「ああ、どんどんよくならないとな」
 それこそというのだ。
「やっぱりな」
「駄目よね」
「その人は何も成長しなかったんだ」
「子供のままお婆さんになって死んだのね」
「遊ぶだけでな」
「子育てもしないで」
「だから子供さん達にも嫌われていた」
 実の子達であったがというのだ。
「死んでからもいいことは言われていない」
「それは凄く嫌よね」
「咲もそう思うな」
「死んだらね」
「よく言われたいな」
「惜しい人だったとか。そう言われたいわ」
「誰だってそうだな」
 父も同じ意見だった。
「せめて悪く言われたくないものだ」
「そうよね」
「けれどその人はな」
「死んでからそうなのね」
「もっと言えば生きている時からだ」
「悪く言われてたの」
「皆から嫌われていた」
 そうだったというのだ。
「これがな」
「まあお話聞いてたら相当性格悪かったわね」
「行いもな」 
 こちらもというのだ。
「本当に自分だけだった」
「最低と言うか」
「有り得ないな」
「そこまで酷いわね」
「そんな人もいるんだ」
 世の中にはというのだ。
「世の中上には上がいるがな」
「下には下がいるのね」
「人間の底を割ってな」
 そのうえでというのだ。
「餓鬼にまでなったな」
「餓鬼なのね」
「犬畜生と言うな」
「それも相当酷い言葉よね」
「畜生道とも言うからな」
「それも酷いわね」
「しかし犬はちゃんと心があるだろ」
 父はこのことを言った。
「確かな」
「モコは犬よ」
 他ならぬとだ、咲はケージの中のモコを見つつ答えた。モコは今はその中で丸くなって気持ちよさそうに寝ている。
「けれどね」
「いい娘だな」
「賢くて愛嬌のあるね」
「優しくてな」
「凄くいい娘よ」
「生きものはそうだ、実は人と変わらない」
「そうよね」
 咲もその通りだと頷いた。
「犬にしろ猫にしろ」
「生きものはな」
「だから大事にしないといけないわね」
「そうだ、しかしな」
「餓鬼は違うのね」
「人間として底を割ってな」
 まさに下の下まで至ってというのだ。 
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