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ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)

作者:闇谷 紅
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五話「走れ、メラゴースト」

「くっ、どっちに行った?!」

 

 自身が明かりを放つ存在であるが故に、暗くなると遠くが見えづらくなる。その辺りを差っ引いたとしても、俺が二人を追いかけ始めたのは、姿形が見えなくなってしばらく経ってからなのだ。

 

「姿を探そうとしても無駄か? けど」

 

 あの場にいても状況が好転する可能性は低い。だから、ただあの二人が去っていった方向へがむしゃらに向かい。

 

「うわっ」

 

 木の枝とぶつかりそうになった俺はとっさにぴょいんと飛び跳ねて、顔面を殴打されるのを防ぎ。

 

「ふぅ、危ないところだった……」

「ふぅ、危ないところだった……」

 

 安堵の息をついてから、はと一音漏らす。

 

「「気のせいで無ければ、声が重なったような……あ」」

 

 口にしてから横を見ると、そこに居たのはオレンジ色をした人魂の魔物、つまりメラゴーストだ。

 

「「俺?!」」

 

 仰け反るようなリアクションをとれば目の前のメラゴーストも全く同じ動きをする。

 

「「と言うことは、分裂したのか。しかも、リアクションに発言内容まで同じということは、中身も俺と見ていいんだよな?」」

 

 考えてから、尋ねてみようとしたが、言うことが悉く重なる。

 

「「まぁ、この反応から見てあっちも俺みたいだ。そして、この身体はドラクエ4の仕様かもしくは4にのみあった特性の一部を持っている、と」」

 

 物理攻撃を無効化出来るかもしれないのも、分裂して自分を増やせるのもこの世界のモンスターの強さで最弱争いをしそうな立ち位置に居る俺としてはありがたい。

 

「「戦いは数って言うし、ひょんなことから分裂するための協力者が出来た訳だし」」

 

 死ぬ気はないが、志半ばで俺が倒れても、分裂した俺が残る。

 

「「が、念の為あと一匹ぐらいは増えておきたいよね」」

 

 幸運にもアバンとポップに追い付けたとしても、普通のモンスターだと思ってあちらが攻撃してくるかもしれないし、戦闘を避けられたとしても同行させてくれる保証はない。

 

「「と言うか、同行させてくれたら奇跡だ」」

 

 その可能性に賭けたくなるぐらい詰んでいるから俺は二人を追いかけたのであって、他に方法があれば別の方法を選んでいる。

 

「「じゃ、始めるか、ぶっ」」

 

 同時に口を開き、繰り出した腕の一撃が互いをぺしっと打つ。

 

「「ぐ、加減が難しい」」

 

 打たれて自分の身体が非力でよかったとは思うが、攻撃が命中してしまったのはよろしくない。メラゴーストの耐久力は駆け出しの冒険者があっさり倒せるほど低いのだから。

 

「「自分同士で叩き合って両方死んだとか、シャレにならないっと」」

 

 今度は俺も向こうの俺も打撃を避けるが、先ほどのぴょいんと跳ねる回避ではない。だからか、分裂も起こらず。

 

「「これ、意外に難しい」」

 

 うむむと俺達は揃って唸る。

 

「「作戦を変えよう。足を止めて殴り合ってたらアバンにも追い付けない。走ってさっきの再現を狙ってみよう」」

 

 唯一の成功例は自分からの攻撃ではないのだ。俺達は同時に頷くと、また移動を再開する。

 

「ぶべっ」

「うわっ」

 

 その結果が解かれたのは、横並びで走っていたからだ。横手から伸びた木の枝は先に増えた方の俺に当たって、それを見たからオリジナルの俺は何とかぴょいんと身を躱せた。

 

「ぐっ」

「「大丈夫か?」」

 

 俺と新たに増えた俺の声が被る。

 

「あ、ああ。何とか。だが、今ので俺は結構ボロボロだわ」

「「そうか、なら新たに増えた俺を残しておく、お前は休んでて」」

 

 せっかく増えたのにここで死なれては何の為に増えたのかわからない。

 

「アバンのところには俺がゆく。首尾よく仲間にして貰えたなら、お前達も仲間にして貰えないか頼みこんでみる」

「「そうか。だが、失敗して勇者が俺達まで倒しに引き返してくる最悪もあるよな?」」

「確かに」

 

 増えた俺達の指摘もまた至極もっともだ。

 

「「故に、ここで別れよう。俺達は保険としてもう一匹か二匹増えてから幾つかに別れる。全滅だけは避けたい」」

「わかった」

 

 俺達の言うことも至極もっともだった。

 

「だが、最後に言わせてくれ。全部俺だと紛らわしい。そこで俺達の間ではアルファベットでお互いを呼び合わない? 古い方から、A、B、Cと言うように」

 

 幸いと言う訳ではないが、現時点で二匹目の俺はそこそこのダメージを負ってヘロヘロで今なら見分けがつく。

 

「「お前の言うことももっともだ、A。けど、別れた先で俺達が増えたらアルファベットが被るよ?」」

「別れた後は数字を増やしていけばいい。Bの増えたモノなら、B1、B2みたいにな」

「「なるほど」」

 

 BとCはポンと腕を打つが、あいつらも俺なのだ。数秒もすれば同じことに思い至っただろう。

 

「それじゃ、お互い生き延びよう」

「「うん」」

 

 こうして俺は生き延びるために増えた自分達と別れたのだった。

  
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