読み終えること
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第一章
読み終えること
いきなりだ、市川明楽は恋人の滝川路子の両親に挨拶に行った時に聞かれた。
「読み終えた小説はあるかね?」
「漫画でもいいけれどあるかしら」
「出来れば長い作品でだ」
「何十巻もある様なね」
「小説だとです」
一皮はまずはそこから答えた、短い黒髪で面長で肉体労働の仕事で日に焼けて逞しい身体の一七六位の背の少年だ、穏やかな顔をしている。
「山岡荘八の徳川家康を」
「全巻読んだか」
「そうしたのね」
「漫画でしたらハンターハンター読んでいます」
漫画の方も話した。
「一巻から」
「そうか、漫画もか」
「読んでいるのね」
「はい」
そうだと正直に答えた。
「こっちは何時終わるかわからないですが」
「まあそれはな」
「作者さん次第ね」
穏やかで四角い顔で白髪のがっしりした体格の滝川啓介も妻で細面で黒髪をロングにしていて目尻に皺が目立つがはっきりした目で睫毛が長く唇も鼻も整っていて中肉中背の今日子もそれはと返した。
「あの作品は特にね」
「ああした作者さんだからな」
「何時か終わればいいわね」
「何時かな」
「けれどあの作品をずっと読んでいるなんて」
「これは立派だ」
夫婦で微笑んで話した。
「これはいい」
「そうね、じゃあまた来てね」
「娘と付き合っていってくれ」
「そうしてあげてね」
「わかりました」
市川は恋人の両親に応えた、この時はこれで終わったが。
その後で路子、母親そっくりだが二十代の外見の彼女に首を傾げさせながらそのうえで尋ねたのだった。
「あの、どうして長編読んでるって聞いてきたのかな」
「あのこと?」
「うん、どうしてかな」
路子に喫茶店で一緒に紅茶を飲みながら尋ねた。
「あれは」
「ああ、あれね」
路子はすぐに答えた。
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