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イベリス

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第四十四話 麦わら帽子を買いながらその十四

「だから別にね」
「所沢も田舎じゃないわね」
「充分都会よ、それで東京にもよ」
 今自分達がいるこの日本の首都にもというのだ。
「すぐにね」
「行けるから」
「叔父さん所沢を嫌がっていたけれど」
「埼玉への転勤自体をね」
「そんなね」
「嫌がることじゃないわね」
「そうよ、というかね」
 愛はさらに言った。
「ヤクルト西武にシリーズ二勝一敗でしょ」
「一九九二年は負けたけれど一九九三年と一九九七年は勝ってるわね」
「私達の生まれる前のことだけれどね」
「それでも勝ってるわよ」
 このことは紛れもない事実である、一九九二年と一九九三年は二年越しの死闘であり勝者が敗者に敗者が勝者になった。
「叔父さんもヤクルトファンだし」
「そんな嫌がることないわね」
「叔父さんも落ち着いたのよね」
「もう腹を括ったわ」
「ならいいわ、そのままね」
「所沢で働いてもらえばいいわね」
「埼玉が田舎とかね」
 そうしたことはというのだ。
「もう昭和の頃のお話でしょ」
「昭和って言っても戦前?」
「それ位じゃない?私達が知ってる埼玉は都会じゃない」
「横浜とか川崎とか千葉と同じくね」
「よくメガロポリスって言われるけれど」
 本来はアメリカ東海岸のニューヨークを中心とした地区のことを言われるが日本の東京を中心とした地域も言われることがあるのだ。
「埼玉県もその中にあるから」
「田舎とは全く言えないわね」
「どう見てもそうでしょ」
「そうね、そのこと一回お父さんに聞いてみるわね」
「もうそろそろ転勤でしょ」
「用意は済ませたみたいよ」
「じゃあ聞いてみたらいいわ」
 愛は咲に言った。
「そうしたらいいわ」
「じゃあそうするわね」
「ええ、そうしたらいいわ」
 こう咲に言って咲も頷いた、そうして咲は父が家に帰ったら転勤について今はどう考えているのかを聞くことにした。


第四十四話   完


                    2021・12・23 
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