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仮面ライダーAP

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第11話 好きにしやがれ

「おおおぉおッ!」
「はあぁぁぁあッ!」

 至近距離でのインファイトに特化している仮面ライダーギムレット。その暴君と真っ向から殴り合えるUSAを中心とする「第2陣」の戦いは、一瞬の油断も許されない装甲の削り合いであった。
 ライトブルーカラーの「ルパンガンナー」を想起させる「ダイヤガンナー」。そのエネルギー銃での援護射撃に回っているGNドライブのサポートを受けながら、USAは先陣を切るようにギムレットと拳をぶつけ合っている。さらに彼の攻撃の「隙」を埋めるように、スピードに秀でたターボが牽制の拳打を放っていた。

 ダイヤガンナーでの射撃もターボの打撃も、ギムレットの装甲を打ち砕く決定には至らない。それでも彼らの攻撃により生まれる「隙」が、高い攻撃力を誇るUSAに絶好のチャンスを与え続けているのだ。

「速攻だ……! 速攻でケリを付けるッ!」
「USAの活動停止まで、残り50秒……! 正信、ターボの回転率を高めたまえ! スーツが暴発する、ギリギリまでッ!」
「もうやってますよッ! 例え暴発したって、俺は絶対に止まりません! こいつを倒すまではァッ!」

 唯一ギムレットとパワーで張り合えるUSAは、この中で最も稼働時間が短い。そんな彼が力尽きる前に勝負を決めるには、少ないリソースを「防御」に割かせないようにする必要がある。持てる全ての力を「攻撃」にのみ注がなければ、USA達に勝ち目はないのだから。

「チィッ、鬱陶しい奴らだぜ……ぐおッ!?」
「その言葉、我々の奮戦を称える賞賛として受け取ろう! 正信、共に決めようぞッ!」
「了解ッ!」

 USAとターボを同時に相手しながら、GNドライブの援護射撃も片腕で跳ね除ける。そんな離れ業を繰り返しているギムレットにも、勝利に繋がる「隙」は必ずあるはず。
 その可能性に賭けたGNドライブは、USAのパンチがギムレットの鳩尾に入った瞬間、ダイヤガンナーを腰に仕舞いながら地を蹴り宙に舞い上がる。ターボもギムレットが突き出して来た拳の上に飛び乗り、「必殺技」の体勢に入っていた。

「我が執念の一撃、受け取ってくれたまえッ!」
「先輩の無念は、俺が晴らすッ!」

 ダイヤモンドの輝きを纏い、高速回転しながらドロップキックを放つ「ブリリアントドロップ」。足裏に備わるエンジンの出力を最大限に高め、回し蹴りを打ち込む「ストライクターボ」。
 その一撃に全てのエネルギーを注ぎ込んだ彼らの覚悟が、ギムレットの顔面に炸裂する。白銀の仮面に亀裂が走ったのは、その直後だった。

「ぐおぉおッ! こ、の……野郎共がァアッ!」
「がはぁあッ!」
「うぁああッ!」
「幸路、正信ッ!」

 僅か一瞬でも、意識が飛ぶほどの衝撃。それを自分に与えたのが、所詮は生身と侮っていた人間達だという事実に驚嘆しながら。ギムレットは逆上に身を委ね、全力を使い果たしたGNドライブとターボを裏拳で薙ぎ払う。

 激しく吹っ飛ばされ、変身を解除されてしまった幸路と正信は、満身創痍の姿で地面を転がっていた。最後に残ったUSAは2人の身を案じつつも、傷付いたギムレットとの一騎打ちに臨もうとしている。

「……とうとう、一対一(サシ)になっちまったなァ? 在日米軍さんよ」
「お前ほどのタフガイなら、もっと正しく生きていける道もあっただろうに……残念だぜ」

 稼働時間はすでに、残り20秒を切っていた。間違いなく、次が最後の攻撃となる。それは、彼と対峙しているギムレットも察していることであった。

「光栄なお言葉だが……見ての通り、俺ァ馬鹿だ。禍継みてぇに口が回るわけでもねぇし、天峯ほど頭が切れるわけでもねぇ。ただ暴れることしか能のねぇ輩さ」
「そういうお前が生きていくための受け皿が……ノバシェードだったと?」
「ハッ、好きなように思えよ。誰が何を抜かそうが、結局は勝者が『真実』を作る。旧シェードの時だってそうだったじゃねぇか。テロリストを始末するための組織は、いつしかテロリストそのものにされていた……。お前ら人類はこれからもそうやって、体のいいサンドバッグを作り続けてりゃいい」
「なんだと……!」

 テロのない世界を願ってシェードを創設していながら、徳川清山(とくがわせいざん)による人体実験を把握出来ていなかったこと。事実が明るみになり旗色が悪くなるや否や、「対テロ組織」として生み出されたはずのシェードを「テロリストそのもの」として糾弾したやり口。
 人類が重ねて来たそれらの「業」をあげつらい、嘲笑するギムレットの言葉に、正信は血みどろになりながらも眉を吊り上げる。だが、彼が反論しようとする前に、ギムレットは「最後の一撃(スワリングライダーパンチ)」を放つ体勢に入っていた。

 もはや、どんな言葉も不要。彼の構えが、何よりも強くその姿勢を物語っている。USAもそんなギムレットの意向を汲み、「渾身の一撃(ライダースマッシュ)」を放つべく身構えていた。

「さっきも言っただろう? 俺ァ口なんて回らねえ。(コレ)でしか語れねぇ。……だが、それでいいだろう?」
「あぁ。……構わないぜ、俺は」

 稼働時間はもう、10秒しか残っていない。だが、それで「充分」であった。
 2人は同時に地を蹴り、残されたエネルギーの全てを、己の右腕にのみ集中させていく。練り上げられ、凝縮された「力」の奔流は、眩い輝きを放ち続けていた。

「……ぉおおぉおおッ!」
「スワリングゥウッ!」

 踏み込んだ地が裂け、両者の雄叫びが天を衝き。振り抜かれた鉄拳が、空を裂き轟音を立てる。

「ライダァァァァアッ! スマァアァァッシュウッ!」
「ライダァァァァアッ! パァァァァァァンチィッ!」

 やがて、交差する互いの拳は。双方の腕を掠め、倒すべき仇敵の顔面に炸裂した。
 強烈な衝撃音が響き渡り、両者の仮面が同時に砕け散る。上杉蛮児とジャック・ハルパニアの素顔が露わになったのは、その直後であった。

「ぐ、ぉお、あッ……!」
「が、ぁあぁッ……!」

 この瞬間、USAのスーツは活動限界を迎え、ただ重いだけの鎧と化してしまう。それと同時に、ギムレットの変身も強制解除されていた。互いの拳をぶつけ合った男達は、力無く膝から崩れ落ちてしまう。
 もはやどちらにも、戦える力は残っていない。それどころか、指1本すらも動かせない状態となっていた。

 だが、それで構わないのである。決着なら、もう付いているのだから。

「……まだ、足りんか?」
「ハッ……馬鹿、言えよ」

 ジャックの言葉を鼻で笑い、やり切ったと言わんばかりの貌で空を仰ぐ蛮児の眼には、もう抵抗の意思はない。そんな彼の様子を見下ろしながら、正信は粛々と手錠を取り出していく。
 今さら、無駄な問答をすることもない。この場での「対話」ならすでに、「拳」で語り尽くしているのだから。

「……気は済んだ、ということでいいな? 上杉蛮児、ノバシェードのテロに関与した容疑でお前を逮捕する。これからは馬鹿だろうが阿呆だろうが、口で語ることも覚えてもらうぞ。法廷の前でくらいはな」
「そうかよ。……好きにしやがれ」

 しかし、これからはそうはいかない。そんな厳しい言葉をぶつけて来る正信を見上げ、蛮児は観念したような笑みを溢すと、手錠による拘束を受け入れていく。
 その様子を静かに見守っていた幸路は、爽やかな微笑を浮かべながら。彼の健闘を称えるかのような声色で、独り呟いていた。

「好きにしているさ。僕達は、いつもな」

 そして、イグザード達も見守る中。上杉蛮児の太く逞しい両手首に、手錠の輪が嵌められた瞬間。
 彼も武田禍継と同様に、「人」としての裁きを待つ身となるのだった。
 
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