仮面ライダーAP
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第9話 銀狼の目醒め
イグザードのスーツはケージやオルバスのように、高出力の代償として稼働時間が短くなっている。
それに加え、装着者の肉体に掛かる負担も大きいという、かなりピーキーな仕様なのだ。故に少しでも「中身」の寿命を縮めないように、機体には出力をある程度セーブするための「リミッター」が設けられているのだが。
『リミッター3、リミッター2、解除』
「はぁあぁあッ!」
「ハハァッ! なかなかやるじゃねぇか、ガッツがある奴は嫌いじゃねぇぜッ!」
熱海竜胆という男はこの時すでに、そのリミッターを「解除」していたのである。彼ほどのタフネスがなければ、10秒も保たずに気絶してしまうほどの負荷であった。ベルトから「解除」の報せが響くたびに、イグザードのパワーとスピードが飛躍的に高まっていく。
そんな捨て身の突撃が生む、絶大な威力の鉄拳。その衝撃の乱打を胸板で受け止めながら、シルバーフィロキセラは哄笑と共に触手を振るっていた。
お互い、防御など考慮していない。先に相手を倒した方が勝ちという、極めてシンプルな世界での、削り合いが繰り広げられている。
「残念だなァ? てめぇも改造人間だったなら、俺ともイイ勝負が出来てたかも知れねぇのによ」
「……俺達の限界が、この程度だとでも思ってんのか? イイ勝負ってのは、これから始まるんだぜ」
強者の余裕、のようにも見えるが。実際のところは、イグザードの全力はこれが限界だろう、という甘い見立てを根拠にしているだけであった。
そんな彼の鼻を明かすべく。イグザードは、遠距離からの援護射撃に徹していたオルタに指示を飛ばす。
「静間ッ!」
「了解ッ!」
その隙が命取りになると、教えるために。イグザードの指示を受けたオルタは、手にしているエクスブレイガンを瞬く間に変形させた。
「ガンモード」でのエネルギー弾の連射を中断し、「ブレードモード」での接近戦に切り替えていく。
「あァッ……!?」
「……バカめ」
単純な飛び道具だと判断し、飛んで来るエネルギー弾全てを触手で叩き落としていたシルバーフィロキセラは、意表を突かれていた。一瞬で武器としての性質が変貌したエクスブレイガンの光刃に、反応が追い付いていなかったのである。
「ぐ、ぬぅッ……!?」
「警部、仕掛けるなら今です!」
「あぁッ!」
「ブレードモード」に切り替わったエクスブレイガンによる斬撃で、シルバーフィロキセラの胸元に火花が散り。その場所から広がる亀裂が、軋む音を立てていく。
そこへイグザードが渾身の正拳突きを叩き込んだ瞬間、シルバーフィロキセラの大柄なボディは激しく転倒してしまうのだった。
「て、てんめぇら……ぬぅッ!?」
「俺達人間を侮り過ぎた……それが貴様の敗因だ。せいぜい、この『痛み』から学ぶがいい」
予測を超えるイグザードとオルタの猛攻に、先ほどまでの余裕を失った銀色の怪人は、苛立ちを露わに立ち上がろうとする。その怒りにより生まれた「隙」が、狙い目であった。
エクスブレイガンの銃口からエネルギーネットを発射したオルタは、標的の拘束を確認すると。エネルギーを纏ったブレードを構え、一気に接近していく。
「ぐおあぁあッ!?」
「警部ッ!」
「おうッ!」
やがて、すれ違いざまに放たれた光刃の一閃で、シルバーフィロキセラを斬り付けた瞬間。イグザードもオルタの「レイスラッシュ」に続き、己の必殺技を放とうとしていた。
大きく弧を描いて、真上に振り上げられた蹴り脚が。シルバーフィロキセラの身体を衝き上げ、天高く舞い上げていく。
「おらァッ!」
「ぐうッ!?」
『リミッター1、解除』
その白銀のボディに走る亀裂が、より大きく広がった頃には。墜落して来る怪人を迎え撃つべく、イグザードは最後の「リミッター」を解除していた。
彼がこれまで外してきた枷はまだ、全てではなかったのである。仮面ライダーΛ−ⅴの「オーバーロード」にも引けを取らない、超高出力状態での「必殺技」。それが、仮面ライダーイグザードの真価なのだ。
「これが真の『全解除』だ……! 遠慮なく味わいなァアッ!」
落下して来たシルバーフィロキセラに炸裂する、渾身の回し蹴り。「イグザードノヴァ」と呼ばれるその一撃は、すでに限界に達していた白銀の生体装甲を、粉々に打ち砕くのだった。
「ぐぉあぁああーッ!?」
銀色の破片を撒き散らしながら激しく転倒し、血だるまの敗残兵と化して行く上杉蛮児。都市迷彩の戦闘服を纏う屈強な大男は、誰の目にも明らかなほどに満身創痍となっていた。
その光景を見届けたイグザードとオルタも、緊張の糸が切れたように片膝を着いている。レイスラッシュとイグザードノヴァの威力に賭けた強襲は、まともに立てなくなるほどの消耗を伴うものだったのである。
「はぁ、はぁッ……!」
「こ、れでッ……!」
それでも、確かな手応えはあった。ギガントインパクトにも一度は耐えたシルバーフィロキセラの生体装甲は、今や完全に打ち砕かれている。鎧のダメージを無視し続けていたことが祟り、上杉蛮児本人も重傷を負っている状態だ。
ギリギリの勝負となったが、辛うじてこちらが競り勝った。この場に居る3人の誰もが、そう信じていたのだが。
「……ハハァッ。やるじゃねぇか、お前ら。今のはちょっとばかし……死ぬかと思ったぜ」
「……!」
ふらつきながらも立ち上がって来た上杉蛮児の姿に、その「甘さ」を思い知らされてしまうのだった。彼は額から滴る鮮血も拭わず、なおも好戦的な笑みを浮かべている。
改造人間故なのか、生来のものなのか。いずれにせよ、常軌を逸したタフネスには違いない。しかもその腰には、禍継が装着していたものと同じ「変身ベルト」が顕れている。
「……禍継の野郎が負けた理由も、今なら少し分かるかもな。確かにこりゃあ、ナメては掛かれねぇ連中だ」
「な、なんだと……!?」
「あのベルト、まさか奴は……!」
使うまでもないからと、戦いを楽しむためだけに封印していた「力」。それを改造人間たる自分の中に取り込むことによって発現する、「力」のカクテル。
「……変、身」
その歪な混沌すらも愉しむかのように。蛮児は怪しく嗤い、ベルトのレバーを倒してしまう。そのベルトを起点に広がっていく銀色の閃光は、彼の巨躯を瞬く間に飲み込んでしまうのだった。
「……ッ!」
その輝きの中から現れた仮面の戦士に、イグザード達は息を呑む。仮面ライダーGに酷似しつつも、原型機の赤い部分が銀色に彩られているその姿は、蛮児本人の荒々しさからは想像も付かないほどの煌めきを放っていた。
「んあァ〜……いい具合に『力』が混ざり合ってんなァ。お前ら、あの世で誇っていいぜ? 俺の『変身』を拝めるのは……お前らが最初、なんだからなァ」
そんな「倒すべき仇敵達」の様子を目の当たりにしている、上杉蛮児こと「仮面ライダーギムレット」は。バキバキと拳を鳴らしながら気怠げに首を捻り、完全なる「抹殺」を宣言する。
一見、隙だらけな振る舞いのようにも見えるが。その仮面の大きな複眼は、3人の獲物を鋭く捉えていた――。
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