ウルトラマンカイナ
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特別編 ウルトラカイナファイト part11
「う、うぉああぁっ! か、怪獣や……! 黒くてでっかい怪獣やぁああ!」
「大阪城に何の恨みがあるっちゅうんや!? は、早よ逃げな巻き込まれてまうでぇっ!」
「ウルトラマンエナジー! 大阪城を守ってくれぇえ! あの城は、俺らの魂なんやっ!」
大阪府大阪市、大阪城。その目前に転移して来たブラックキングは、自身を追って来たウルトラマンエナジーとの死闘を繰り広げていた。
蜘蛛の子を散らすように大阪城から離れた市民達は、固唾を飲んで戦いの行方を見守っている。
『デアァッ、ダアァーッ!』
この街の民にとっての象徴である城を破壊することで、自分達の威光を知らしめ屈服させる。
そのためだけに、大阪城を破壊しようとする怪獣の腹に、エナジーは拳打の嵐を叩き込んで行くのだが。その堅牢な甲殻には、師匠直伝の宇宙拳法すらも通じていない。
振り向きざまに振るわれた尾に打ち据えられたエナジーは、そのまま激しく転倒してしまう。咄嗟に防御したはずなのに、尾の衝撃はそれすらも貫通するほどの威力だったのだ。
さらに、追撃とばかりに赤い熱線まで撃ち込まれてしまい。エナジーは為す術もなく、ダウンしてしまう。
『デェ、アァッ……!』
「あぁっ、エナジーでもやられてまうんか……!? どんだけ強いねん、あの怪獣っ!」
「他のウルトラマンは助けに来てくれへんのかっ!?」
苦悶の声を漏らすエナジーの姿を前に、人々の間にも動揺が広がっている。ブラックキングが背後からその首に腕を回し、締め上げ始めたのはそれから間も無くのことであった。
『ダア、ァッ……!』
その膂力は、これまでエナジーが戦って来たどの怪獣よりも凄まじく。首絞めから全く逃れられないまま、カラータイマーは「死」が迫っていることを報せるかのように、激しく点滅し始めていた。
もはや、絶体絶命。この戦いを目撃している誰もが、エナジーの敗北を覚悟していた。だが、その時。
「み、見ろや皆! BURKの連中が来とるでぇっ!」
『……!?』
遥か上空から、凄まじい勢いで急降下して来る爆撃機の編隊が現れたのである。
その機体の垂直尾翼にはBURKの文字だけでなく、五星紅旗が描かれていた。壊滅状態に陥った日本支部に代わる形で、中国支部が救援に駆け付けて来たのである。
――ガッツウイングEX-Jを想起させるシルエットを持つ、4枚の後退可変翼を持った全長30mの荘厳な外観。それはまさしく、中国支部の現役大型爆撃機「BURK烈龍」の機影であった。
先頭を翔ぶその隊長機の後方には、ずんぐりとした深緑の量産型爆撃機「BURK炮龍」が追随している。全長38.5mにも及ぶ大型爆撃機が何機も随伴しているその光景は、中国支部の威光を象徴しているかのようであった。
『中国支部だと……!?』
爆撃機の編隊が急上昇する寸前に放った、大量の爆弾は――1発たりとも外れることなく、その全弾がブラックキングの頭部へと叩き込まれていた。
BURK炮龍の両翼部に搭載された4連装対空ミサイルランチャーの弾頭や、BURK烈龍の機首に装備された単装76mm速射砲の砲弾も間髪入れず撃ち込まれ、ブラックキングの視界を爆炎と硝煙で封じている。
『まだまだァッ! 私達中国支部の恐ろしさは、こんなもんじゃあないわよッ!』
『神虎炸裂誘導弾――全門斉射!』
そして旋回した爆撃機隊が、下部爆弾倉に搭載された「神虎炸裂誘導弾」を矢継ぎ早に撃ち出し、黒き怪獣の顔面へと炸裂させた瞬間――その象徴とも言うべき一角が、ついに破壊されてしまうのだった。
自慢の角を、見下していた地球人の兵器にへし折られてしまった怪獣は、悲鳴を上げてエナジーの拘束を緩めてしまう。その一瞬が、「敗因」であった。
『……おい。いつまで俺の上にいるつもりだ?』
僅かな隙を突いてブラックキングの拘束を外したエナジーは、背を向けたまま勢いよく後方に頭を振る。アイスラッガー状のトサカが、ブラックキングの喉首に突き刺さったのはその直後だった。
アキレスラッガーやザインスラッガーとは違い、エナジーのその部位には取り外し機能がない。
だが、外れる仕組みではないということは――その分だけ、刃物として頑丈という意味でもあるのだ。それこそ、ブラックキングの外殻さえ貫通できるほどに。
『何が「ブラックキング」だ、紛い物の僭王風情が。……貴様のような不逞の輩が、この城を壊そうなどとは片腹痛いッ!』
のたうち回るブラックキングの首を掴まえたエナジーは、傷口目掛けて再び拳を叩き込んでいく。外殻ごと抉られた部位にさらなる衝撃を与えられ、漆黒の怪獣はたまらず横転してしまうのだった。
死に瀕するほどのダメージを負っている今の状況でも、エナジーの眼は全く死んでいない。かつては師匠との「特訓」において、生身のまま何度もジープで撥ねられたこともある彼にとっては、「死」以外は「誤差の範囲」に過ぎないのである。
『貴様の外殻はスペシウム光線すら通さんと聞くが……これはどうかな?』
そして、痛みに苦しむブラックキングが、ようやくその巨躯を起こした時には。すでにエナジーは、必殺光線の発射準備を完了させていた。
右腕を斜め上に伸ばし、左腕を横に倒し。右腕の肘に左腕の指を当てるという、独特の体勢。人々がその構えを目の当たりにした瞬間、彼らはこの戦いの終焉を悟るのだった。
『エナジウム……光線ッ!』
眩い輝きを帯びた、破壊の閃光。その一条の煌めきは、甲殻を剥がされている傷口から喉奥へと突き刺さり――黒き怪獣の巨体を、内側から木っ端微塵に吹き飛ばしてしまう。
誰の目にも明らかな、ウルトラマンエナジーの完全勝利であった。
「エナジーが……エナジーが勝ったでぇえ!」
「よっしゃあぁあ! エナジー、おおきにっ! 今度タコ焼き奢ったるでぇえっ!」
その勇姿に拍手と歓声を送る市民を一瞥した後。エナジーは空を仰ぎ、中国支部の爆撃隊と視線を交わす。
『なかなかやるじゃない、ウルトラマンエナジー! ……まっ、中国支部最強のエースパイロットであるこの私が付いてるんだもの! 当然の結果ってところかしらっ!』
『やれやれ、ナビゲーターの僕達が居てこその戦果だというのに。いつものことながら、ワンマンな隊長様には困ったものだね』
『う、うるさいなー! カッコ良く決まったところなんだから、水差すんじゃないわよ劉静っ!』
編隊の先頭を翔ぶBURK烈龍に搭乗していた、黒髪を三つ編みリングに纏めている爆乳美少女――凛風は、勝ち気な笑みを浮かべてエナジーに敬礼を送っていた。
一方。彼女の副官として、BURK烈龍の機体後部にある指揮官席に座していた「男装の麗人」――劉静は、そんな隊長の自信過剰な振る舞いに苦笑を浮かべている。こうして凛風が調子に乗るたびに、彼女をはじめとする部下達が釘を刺しているのだ。
『……兄さん達やアーク達も、そろそろ決着を付けた頃だろうな。少し飛ばして行くか……デアァッ!』
このような状況でなければ、ほんの少しは彼女達のように勝利の余韻に浸れたのだろうが。今は、カイナの元に駆け付けテンペラー星人を討つのが先決。
エナジーはすぐさま、両手を上に突き出して空へと飛び立ち、人々に見送られながら大阪を後にするのだった。爆撃機隊の隊長である凛風の、熱い視線を背に浴びて。
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