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ウルトラマンカイナ

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特別編 ウルトラカイナファイト part10

「東京が戦場になってるってニュースは何だったんだよ!? 神戸(ここ)にまで怪獣が出て来てるじゃねぇかっ! に、逃げろぉおおっ!」
(よう)ちゃん、ねぇ曜ちゃん! 早く逃げないと、踏み潰されちゃうよっ!」
「だって……だってあの船にはお父さんが、お父さんがぁっ!」

 兵庫県神戸市、神戸港。その近海に出現したエレキングの巨影に、神戸の人々は悲鳴を上げて逃げ惑っている。
 フェリーの船長を父に持つ少女は、親友に手を引かれながらも懸命にその場に留まろうとしているのだが――非情なるテンペラー軍団の怪獣には、人の心など通用しない。

「よ、曜……母さんを頼んだぞッ!」

 船長としての責任を果たすべく、全ての乗組員が退避するまで船内に残り続けていた少女の父は。今まさに、フェリーもろとも踏み潰されようとしている。

『ジュア……ァァッ!』
「ウ……ウルトラマンザインッ!?」

 それを間一髪阻止したのは――この場に駆け付けていた、ウルトラマンザインであった。驚愕する船長の頭上でエレキングと組み合ったザインは、激しい水飛沫と共に、怪獣の巨体を沖側へと投げ飛ばす。

『この船も街も……地球人達の科学と努力の結晶だ! その価値も分からんケダモノ如きが、気安く触れてくれるなッ!』

 そして起き上がる間も与えず、馬乗りになりながらチョップの連打を見舞うのだった。神戸で生まれ育った椎名雄介としての魂が、その手刀に怒りのパワーを乗せている。
 だが、いつまでも防御に徹しているエレキングではない。しなる大きな尾に背中を打たれ、ザインはすぐに転倒してしまった。

『ジュウ……アァッ!』

 そこから間髪入れず首に尾を巻き付けられ、締め上げられていく。その力はあまりに凄まじく、ザインは立つことすらままならず片膝を着いていた。
 額のビームランプはすでに、激しく点滅し始めている。エネルギーの限界が、近づきつつあるのだ。

「ザイン、負けないで! お願い、お父さんを助けてぇっ!」
「……!? ねぇ見て、あれっ!」

 すると。その戦局を中突堤から見守っていた少女の祈りと叫びが、届いたのか。
 突如、第3突堤の方向からキャタピラの轟音が鳴り響いたかと思うと――無数の戦車隊が群れを成して、突堤の端に雪崩れ込んで来たのである。

 その車体にはいずれもBURKの文字が刻まれているのだが、日本支部のBURK戦車隊はすでに壊滅している。そう、この戦車隊は日本支部のものではなく――救援に駆け付けてきた、ロシア支部のものなのだ。

『ロシア支部……! まさか彼らが動くとはな……!』

 意識が混濁していく中、思いがけない援軍の登場に気付いたザインは。エレキングが戦車隊の砲撃に怯んだ隙を突き、尾の拘束から脱出しようとする。
 だがエレキングは、そうはさせじと自らの尾に強烈な電流を流し、ザインの首から全身へと強烈なショックを与えるのだった。

 それはエレキングにとって、必殺の一撃だったのだろう。だが、ザインにとっては違っていた。

『……甘いな、エレキング。専任分析官たるこの俺が、何の算段もなしに貴様のところに来たと思うか?』

 電子回路のような身体の模様に電流が迸り、額のビームランプに眩い輝きが灯る。ザインはダメージを受けるどころか、むしろエレキングの電流によってさらにパワーアップしていた。
 電気属性の持ち主であるザインは、エレキングが電流を放って来るタイミングを伺い続けていたのである。この瞬間に訪れた、絶好の勝機を得るために。

『ジュアアァッ!』

 高まった力を全開にしたザインは、電気を放出したままの尾を掴み、再びエレキングの巨体を投げ飛ばしてしまう。そして矢継ぎ早に、頭部の宇宙ブーメラン「ザインスラッガー」を投げ付けるのだった。

 アキレスラッガーをも凌ぐその切れ味は、エレキングの身体を紙切れのように切り裂いて行く。首すらも容易く刎ね飛ばしてしまったのは、その直後であった。

『……さすがは、この長きに渡る戦乱の元凶。テンペラー軍団の一角、ということか』

 だが、まだ終わりではない。満身創痍のエレキングは首を斬り落とされたというのに、まだ両手を伸ばしてにじり寄っている。ここまで痛め付けられてもなお、ザインに襲い掛かろうとしているのだ。
 さながらゾンビのようなその姿は、死してもなお殺戮と闘争を望む彼らの獰猛さを、言外に物語っているかのようであった。

『お前は……どう生きても、今のようになるしかなかったのかも知れんな。ならばせめてもの手向けとして、お前に相応しい「最期」をくれてやる』

 その姿に、哀れみすら覚えるようになったザインは。完全なる「死」を以て「救済」とするべく、最大火力の必殺技を放つ決断を下すのだった。
 スペシウムエネルギーを充填させた両手の拳を前に出した彼は、手を開いて二つの光弾を出現させる。

『ザイナ――スフィアァアッ!』

 その光弾を一つに集約させ――ザインは。自らの力で顕現させられる限りの、「最強の光弾」を撃ち出すのだった。
 眩い電光を纏って翔ぶ、必殺の一撃。その球体は瞬く間にエレキングを貫き、内側からの大爆発を引き起こして行く。

「か、勝った……ザインが勝ったぁあ!」
「やったあぁあ! ザイン、ありがとおぉおおっ!」

 少女達をはじめとする神戸の人々から歓声が湧き上がったのは、その直後であった。
 天を衝くようなその爆炎を目の当たりにすれば、誰もが理解できるのだ。この戦いは、ウルトラマンザインの勝利に終わったのだと。

「……見事な一撃でした。さすがは4年前、我らの母なる大地を救った英雄……ウルトラマンザインですね」

 決着を見届けていた、戦車隊の隊長を務める金髪の美女――イヴァンナも。潮風にポニーテールを靡かせながら、背筋を伸ばしてザインに敬礼している。その真摯な面持ちには、彼女の生真面目な人柄が現れていた。
 だが、今のザインには市民達の歓声や、隊長の敬礼に応えている暇はない。1分1秒を争う事態である以上、この場に長居するわけには行かないのだ。

『……予測よりも手こずってしまったな。カイナ兄さん、今行きます! ジュウアァッ!』

 ザインは両手を広げて素早く大空へと飛び出し、力の限り加速しながら東京へと引き返して行く。
 自分達にとっての「長兄」を、テンペラー星人の猛攻から救うために。
 
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