Fate/WizarDragonknight
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エピローグ
「何……!?」
少女は、突然の物音に驚いた。
敷き詰められた私物の袋。
それを書き分けて、蒼い人物が部屋に転がり込んできた。
一瞬その正体を探ったが、顔を上げたその仮面に、安堵の息を吐いた。
「トレギア?」
「ああ、マスター……」
蒼い、異形の人物。
トレギアの名を持つ彼は、ふらつき、私物の袋を跨りながら近づく。
「どうしたの? トレギア?」
「マスター……悪いが、少し手を出してくれないか?」
トレギアは少女の返答を待つことなく、その右手を掴んだ。
トレギアとの楔である令呪が刻まれたその手。その手首に、みるみるうちに新たな黒い刺青が刻まれていく。
「これは……?」
「令呪だよ。以前私が別のマスターから奪ったものを、少し作り変えたものだ」
「……? トレギアがいるのに、どうしてわざわざ新しいものを?」
「まあ、気にするな……」
トレギアは顔を抑えながら、呪い殺したような声で続ける。指で顎を撫で、
「少し……腹が立っただけだ」
「それじゃあ、行こっか」
清香の言葉に、コヒメは頷いた。
「うん。ハルト、かなみ。ありがとう」
コヒメはぺこりと頭を下げた。
あれから数日。清香の入院から、刀剣類管理局に美炎と清香、そしてコヒメの所在が明らかになることとなった。可奈美がいることを隠し通すためにも、彼女たちは刀剣類管理局に戻るほかない。
「……あ! 電車」
それは、可奈美以外の刀使たちを見滝原から引き離す車両。
静かにドアが開き、中から乗客が降りてくる。
「それでは衛藤さん。松菜さん。お世話になりました」
「お世話になりました」
清香とコヒメがお辞儀する。
美炎は言葉に詰まりながら、それに続いた。
「ほのちゃん。私とコヒメちゃんは、先に行ってるね」
美炎の肩を叩いた清香は、先に電車へ行く。コヒメも美炎の顔を覗き見ながら、清香に続いた。
だが、美炎の前に流れていくのは沈黙。言葉も見つからず、二人はただ黙っていた。
やがて、電車の発車ベルが鳴り響く。
「「あ」」
それに対し、可奈美と美炎は同時に声を上げた。
やがて互いに言葉を見つけられず、美炎が先に口を開けた。
「そ、それじゃあ、また……」
「待って美炎ちゃん!」
今まさに、発とうとする美炎へ、可奈美は呼びかけた。
振り返った美炎へ、可奈美は抱き着く。
「か、可奈美!?」
「……一緒に戦えて、嬉しかったよ」
可奈美は、ぎゅっと美炎の体を抱きしめる。
驚いていた美炎は、やがて可奈美の肩を叩く。
「うん。わたしも、嬉しかったよ」
美炎は、静かに可奈美を抱き返す。
「でも、本来美炎ちゃんは聖杯戦争なんかに関わるべきじゃない。美炎ちゃんの戦いは……」
「うん。分かってる。わたしは、コヒメを守るために戦う。そのために、今は戻る。それでそこから、コヒメが大丈夫だって説明するから! 分からないことだって、諦めたくない」
「うん。きっと、コヒメちゃんが私たちとの懸け橋になれば、それこそヤマタノオロチ……ううん。ツクヨミとの共存だって出来るかもしれない」
「その未来は……きっと、煉獄さんだって望んでいるはずだよね」
やがて二人の刀使は、どちらともなく、拳を突き出す。
握った拳。それを突き合わせる。
それはまさに、可奈美にとって全ての始まり。岐阜羽島駅の改札口で美炎と交わした約束そのものだった。
「じゃあ、戻るね。可奈美」
「うん……」
「あ、でもわたし、もう参加者じゃないから……見滝原を行き来できるようになったんだよ。だから、助けが必要だったらいつでも呼んで!」
「うん……! わかった! がんばる! あと、帰ったらまたやろうね、立ち合い!」
「……っ! うん……! あ、じゃあもう一回、再戦の約束、しよう!」
美炎の言葉に、可奈美は笑顔を見せる。
「うん! 約束!」
可奈美のその声に力がこもる。
「今度、また試合しようね!」
やがて、発車時間となる。
車両の窓から手を振るコヒメ、美炎。お辞儀を返す清香。
ハルトの前で、可奈美が走っていく。
「必ずだからね! 絶対、また、試合しようね!」
「うん! 約束したからね!」
窓を開けて、美炎も手を振る。
やがてホームが途切れても、可奈美は電車が見えなくなるまで、手を振り続けていた。
ヤマタノオロチの封印跡地。
そこに、帽子の青年は訪れていた。
「へえ……ここが、例の怪物がいた……」
ソラ。
ハルトと因縁浅からぬ彼は、ぐるりと地下空間を見渡す。
マグマがあった箇所も完全に冷めきっており、人智の及ばない深さのそこには、すでに明かりもない。ファントムの体でもなければ、きっと何も見えなかっただろう。
目的地は一つだけ。
修復された社と、その底にある、今はただの古井戸の形をしたそこへ、ソラは足を近づけた。
『君はなぜここに来たんだい?』
「いいじゃん。折角君のお友達から、こんなのもらっちゃったんだから」
ソラはそう言いながら、手にした黒いそれを手玉する。
懐中時計を思わせる、手のひらサイズの黒い機械。かつてハルトが、アサシンのマスターと戦った時も重要なアイテムとなったものと同種である。
『モノクマか……彼はどうやら、君を好いているようだ』
「嬉しいね。でも生憎。僕は聖杯戦争に参加するつもりはないんだ」
ソラはそう言いながら、フロアの中心……自然に発生した社に立ち入る。
その足元に、静かに黒いアイテムを置いた。すると、その表面には、まさに時計のように針が浮かび上がる。
『へえ。でも、モノクマが声をかけたということは、君にはそれなりに叶えたい願いがあるということではないのかい?』
アイテムが読み込みをしている間も、キュゥべえの問いかけは続く。
暇つぶしだと考えなおしたソラは頷く。
「あるよ? でも、その願いを叶える方法ももう見当ついている」
『……? そんな簡単な願いなのかい?』
「ああ」
ソラはにやりと笑みを浮かべた。
「君だって知ってるでしょ? 賢者の石がどこにあるのか」
『……それこそ、聖杯戦争に参加するのがもっとも手に入りやすいと思うけど』
「それじゃ面白くない」
やがて読み込みが終了したそれは、その絵柄を変えた。
「そんなことよりも。聖杯戦争を見て、楽しみたい。かき乱したい。あと、僕が動いたら彼がどんな顔をするか見てみたい。だから、これをもらったんだ」
機械の内部がそのまま描かれたものから、赤い蛇の顔へ。
それは。
『ヤマタノオロチ』
そのガイダンスボイスを鳴らした時計を、ソラは掴み上げる。すると、封印の中から、ヤマタノオロチの力がどんどん吸い込まれていった。
「だから。また、遊ぼう? ハルト君……」
口角を吊り上げたソラ。
その笑い声だけが、地下空間に響き渡っていった。
次回予告
「私は許さない……!」
「見ろよほら、哀れだろ? あんたのせいだよ。アンタに負けたから……だからあたしはこんな顔になった。だったら! あたしとおんなじ顔にしてやんよ!」
「ということは、次はわたくしが最期の時を迎えるのでしょうか?」
「トレギアの中から氷川紗夜の生命反応が検出されているんだけど!?」
「祭祀礼装が……解かれた!?」
「この惨状……人が暴れたってレベルじゃないよね?」
「話が通じる相手じゃない! ここは、戦うしかないよ!」
「これで最後にしようか……ハルト君……いや、ウィザード!」
「君を退屈から、救いに来たんだ」
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