俺様勇者と武闘家日記
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第2部
エジンベア
ミオの挑戦状
「うわぁ!! 何あれすっごい大きなお城!!」
「さすが、歴史のある国は違うわネ。お城だけじゃないわ、周辺の建物ですら格式高く感じるもの」
「おい、あんまり浮かれてはしゃぎ回るな。観光で来てるわけじゃないんだぞ」
ユウリのルーラでエジンベアに着いて早々、初めてここを訪れたビビアンとアルヴィスは、二人で歓声を上げていた。それに水を差すようにユウリが窘めるが、二人の耳にはどうやら入っていないようである。
それもそのはず、ここエジンベアの城下町はコンテスト当日というだけあって、建物の至るところにタペストリーや色とりどりの花が飾られていた。それに一週間前に訪れたときよりも、コンテストに関する張り紙が多く貼られているのも目立つ。
エジンベアの入り口に向かうと、一週間前と同じ門番が立っていた。あのときはマギーの消え去り草のお陰で入国拒否にされずに済んだが、今回は正々堂々と通らなければならない。
「今我が国は自国の安全確保のため、入国規制をかけている。……これはこれは、勇者様ではありませんか! どうぞお通りください!!」
ユウリの姿を見た途端、まるで手の平を返したかのように態度が豹変したではないか。そして、その後ろにいるアルヴィスに目を留めると、ぎょっと目を丸くした。だが、それきり何も言わず、続くビビアンの姿にぽっと顔を赤らめる。
ちなみにアルヴィスたちもアッサラームを出る前に一度着替えたのだが、二人とも大人っぽいワンピースを華麗に着こなしている。そのため田舎者と呼ばれることもなく、あっさりと通過できた。
さて、問題は最後に通ることになった私だ。一週間前の私なら、問答無用で田舎者と罵られ、追い出されることになるだろう。私はドキドキしながら門番の横を通りすぎようとした。
「おい! そこの……」
「はっ、はい!?」
門番の呼び掛けに、私は肩を大きく震わせる。恐る恐る振り向くと、門番が近づいてきて、彼の手が私の肩に伸びてくる。
まさか、咎められるんじゃ……!!
ビクビクしながら私は思わず目を瞑った。一同が固唾を飲む中、門番の手が肩に触れた。
「君、肩のところに虫がついてるよ」
そう言うと、門番は私の肩についている、名前も知らない小さな虫を取り払った。
「あ……ありがとうございます」
「君、コンテストの出場者だろ? せっかくの綺麗なドレスに虫なんかついてたら、出場できなくなるからね」
門番は一週間前とは真逆の朗らかな笑顔を私に見せると、すぐにもとの持ち場に戻っていった。と同時に、大きく息を吐く私たち。
「もう! ミオがビクビクしてるから、私までドキドキしちゃったわよ!」
「だって、また田舎者って言われると思ったんだもん!」
「まあまあ。それだけミオにとってトラウマだったんでしょ。でもこれで大丈夫ってことが証明されたわネ★」
そうなんだけど、この一週間の苦労を考えると、心臓に悪くて仕方がない。
「とにかく、城に向かうぞ。もう受付は始まってる」
そうだ、そんなところでいつまでも立っているわけにも行かない。ユウリの一声に、私は慌てて彼の後を追いかけた。
アッサラームではもう日がかなり昇っていたのだが、ここではまだ早朝と呼ぶにふさわしい時間帯だった。どうやら時差と言うものらしい。なので街の外観が賑やかな割に、人通りは少なく感じる。
「ねえ、そう言えばユウリは、この一週間エジンベアで何してたの?」
ビビアンとアルヴィスが周囲の町並みを眺めてはしゃいでいる中、私は前を歩くユウリに尋ねてみた。
「路銀も少なくなってきたからな。周辺の町に聞き込みをして、討伐依頼が来ている魔物をひたすら倒して金を稼いでいた」
「ユウリ一人で!? すごいね!!」
背中越しに答えるユウリに、私は感嘆の声を上げる。
「入国規制のせいか、最近は魔物を討伐できる冒険者が少なくなったらしいからな。おかげで懐に余裕ができたが。……というか、そのぐらい一人で出来なくてどうする」
二言目にはユウリにそう厳しく指摘され、私はそのまま苦笑いして返すしかなかった。
なんて言っている間に、一行はエジンベアのお城の前までたどり着いた。城門を抜けるとすぐに、コンテストの受付会場が目に入る。
「あそこの受付でエントリーできるはずだ」
「あ、うん。わかった」
ユウリに促され少し心細さを感じつつも、皆の見守るような視線に後押しされ、私は一人受付へと向かう。
「おはようございます! 出場希望ですか?」
「はっ、はい!!」
受付の女性は明るい笑顔で私に書類と羽根ペンを渡してきた。私は書類に目を通し、記入欄に必要事項を書く。書き終わった書類を女性に渡すと、
「ありがとうございました! 出場者の待合室はあちらになりますので、開始時間までお待ちください!」
そう言って受付の向かい側にある大きな広間を指した。そこにはすでに数名の出場者が、椅子に座ったり身だしなみを整えたりしながら待機している。
「あ、ありがとうございます!」
女性にお礼を言うと、私は先にユウリたちのところに戻る。あまりにもあっさりしたエントリーに、私は肩透かしを食らった気分だった。
「大丈夫? 無事に登録できた?」
「うん。なんか一週間前と違って普通に話ができた」
あの時は目を合わせればみんな田舎者田舎者と、口を揃えて言っていたのに。外見やちょっとしたしぐさでも人の認識という物はこうも変わるのだろうか。
「受付できただけでもすさまじい進歩だな。確かに、少なくともお前からあふれ出ていた田舎臭さは消えたようだ」
じろじろと私を眺め見ながらユウリは言った。私は複雑な表情でユウリを見返す。
「なんで素直に『可愛くなった』とか言えないのかしら、この唐変木勇者は」
ぼそりと私の耳元で呟くビビアンの声が、心なしか怖い。初めて出会ったときと比べると、彼女のユウリに対する接し方が大分変わってきているのが見て取れる。
「それで、私たちはどこに行ったらいいのかしら?」
どことなく機嫌の悪いビビアンの代わりに、アルヴィスが誰にともなく問いかけた。すると、
「コンテスト会場は城の中央庭園でやるそうだ。俺たちはこのまま城を出て、庭園の側に設置された観客席に向かえばいい」
なぜかやけに詳しいユウリがコンテスト会場について説明する。城内にある大時計を見ると、今は朝の八時半。開始時間は九時半だから、まだあと一時間ぐらいは時間がある。
「ふうん。だったらまだ時間があるわネ。だったら少し城内を見て回らない? このあたりは一般開放してるんでしょ?」
「賛成!! 他国のお城なんて滅多に見られないものね! ねえねえ、どこ回る?」
「回りたければ勝手に回れ。俺は先に観客席に行く」
黄色い声を上げながらはしゃぎ続ける私たちに向かって突き放すようにそう言うと、ユウリは一足先に庭園へと続く扉へと向かってしまった。
「相変わらずだなあ、ユウリは」
「ふふ、やっぱりあの人の若いころにそっくりだワ♪」
「あー、私やっぱりああいう協調性のない人苦手だわ」
なんてそれぞれ好き勝手なことを言っていると、何やら遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「……リ様ぁぁ!! お待ちになって――――!!」
甲高い声とともにやってきたのは、ピンクのドレスを身に着けた人影だった。と言ってもものすごい速さでこちらに向かって来たので、はっきりとした外見はわからなかったが。
おそらくユウリを呼んでいるのだと思うが、呼ばれた本人の方を見ると、なぜか振り向きもせず走り出している。
そして、足の速いはずのユウリが見る見るうちに追いつかれ、気づいたときには少女はユウリに抱きついていた。
「なっ……、いつの間に!?」
「ユウリ様!! しばらくお会いにならないと思ったら、私の活躍を見に来てくださったんですのね!!」
顔をひきつらせているユウリに対し、頬をピンク色に染めながら目を輝かせて彼にしがみついているのは、ユウリの胸の高さほどの身長の、小柄でとてもかわいい女の子だった。
おそらく年は私より二、三才ほど年下だろう。赤みがかった金髪の縦ロールには、リボンや髪飾りがいくつも飾られている。ドレスもフリルがたくさんついており、かつ上品な色合いのドレスで、愛くるしい顔立ちの彼女にとても似合っていた。
この女の子はいったい誰なんだろう、と疑問を口に出そうとした時、ふいに少女と目が合った。
「あら? この方たちは一体どなた……きゃああぁぁぁっ!!」
私たちを見た途端、いきなり絶叫する少女。いや、正確には、アルヴィスを見たからだ。どうやら、筋骨隆々の戦士風の男性が化粧をして女性用の服を着た姿を見るのは、初めてだったらしい。
「なんですの!? この方たちは!? しかも女性ばかり!! ひょっとしてユウリ様の愛人たちですの!?」
あ、愛人って……。年の割にとんでもない言葉を知っているなあ。
「冗談じゃないわよ!! 愛人になるならもっと気の利く男を選ぶわよ!!」
ビビアンはビビアンで怒るポイントが少しずれているし。ひとまずここは事情を知っているユウリに話を聞くしかない。
「ユウリ。ちょっと状況がよくわからないんだけど、この子ってユウリの知り合い?」
「いや、この子は……」
「あなたこそ何者なんですの!? ユウリ様を馴れ馴れしく呼び捨てで言うなんて!」
私が尋ねると、歯切れの悪いユウリに代わって、彼の腕にずっとしがみついている少女が答えた。
そう言えば名乗っていなかった。私はハッとなり慌てて自己紹介をした。
「ごめんなさい。私はミオ、ユウリの仲間です」
「仲間!? ということは、ユウリ様と同じで、魔王を倒そうとなさっているのかしら!?」
「は、はい! そうですけど!?」
勢いに押され、思わずこくこくと頷く私。
「何故そのような方がこんなところにいるのかしら? ここは国一番の美しい淑女を決める美少女コンテストの会場ですわよ?」
「えっと……実はそのコンテストに参加しようと思ってまして……」
「えっ!? 本当ですの!?」
目を丸くしながら素直に驚く少女。この辺りは年相応の子供らしい反応をしている。
「まあ……そこそこいい線行きそうですけど、残念ながらわたくしが出場する限り、優勝するのは諦めた方が良いですわ」
一転、眉を下げて憐れむような視線を送る少女。ということは、彼女もコンテストに出場するのだろうか。
「ふうん、随分口の達者なお嬢ちゃんね。そんなに自信があるのなら、名前くらい名乗ったらどう?」
彼女の物言いが癇に触ったのか、冷ややかな視線を送るビビアンに、少女は仕方ないという風に鼻を鳴らした。
「ユウリ様のお仲間なら仕方ないですわね。わたくしの名はヘレン・アナベル・ド・エジンベア。我が国エジンベアの第一王位継承者ですのよ」
『ええええっっ!!??』
ユウリを除く三人の声が一斉にこだました。周りにいたコンテスト関係者や出場者の視線が一瞬こちらに集中する。
「いやいや、待ってよ! 王女様がこんなところにいるわけないでしょ?」
「そうねえ、まさかとは思うけどねえ……」
二人の言うとおり、この子が王女様というのはにわかには信じがたい。でも、このお城の奥の方からやってきたってことは、関係者である可能性が高い。それに彼女が身に付けているドレスやアクセサリーも、私たちが門前払いされたお店ですら見たことのないような、豪華な細工やきらびやかな宝石をあしらったものがほとんどだ。
皆が言葉を続けられない中、一同が半信半疑なのを見越してか、ユウリが口を開いた。
「彼女の言うとおり、この子は正真正銘本物の第一王女だ」
念を押すような一言に、流石の皆も一斉に黙り込む。すると、皆が納得したのを確認したのか、ヘレン王女はずい、と前に出た。
「そうですわ!! そして今日このコンテストに優勝すれば、ユウリ様の婚約者になるのですわ!!」
『は!!??』
今度は四人全員が声を揃える。ダメだ、驚きが多過ぎて頭がついていかない。
「おい、一体どういうことだ!?」
余りにも突拍子もない発言に、ユウリはヘレン王女に向き直り肩を掴んだ。この強引な行動に、彼女は「きゃあ!」と嬉しそうに声を弾ませる。
「ユウリ様、嬉しさのあまり感情が昂ってらっしゃるのはわかりますが、落ち着いてくださいませ」
「いや、別にそう言うわけでは……」
「一週間前、わたくしはあなたに一目惚れしてから、ずっとあなたのお側にいたいと思っていたのです。けれどユウリ様はいずれこの国をお発ちにならなければならないお方。それならば、婚約者というかたちで将来を約束すれば、また再びこの国に来ていただけるかと思い至ったのです」
「待て、何を勝手に……」
「この話をお父様にしましたら、快く了承してくださいましたわ! ですがいきなり貴族でもない他国の方を王宮に迎え入れてしまえば、国民の反感を買う恐れがあると判断したんですの。なので急遽、今回開かれるコンテストに特別ルールを作ったんですわ!」
特別ルール? それってまさか……。
「……その特別ルールというのが、コンテストに優勝したら俺と婚約できるってことか?」
恐る恐るユウリが尋ねると、ヘレン王女は気持ちいいくらい素直に大きく頷いた。
「一般の方が優勝したらお父様から好きなものを一つもらえるってことですけど、わたくしが欲しいのはユウリ様ですから! ユウリ様と結婚できれば、あとは何もいらないのですわ!」
そこまで言って、ヘレン王女は自分で言ったことに恥ずかしがりながらも、ちらちらとユウリの方を見ている。一方のユウリと言えば、普段の強気な様子とはほど遠く、呆気に取られていた。
普段の強気な姿勢とは違って、彼のこんなおとなしい姿を見るのは初めてだった。
「助け船を出すわけじゃないけど、ちょっとやり方が強引じゃないかしら」
ヘレン王女の声が響く中、ぽつりとそう言ったのは、ビビアンだ。
その異論に反応したのか、ユウリから離れたヘレン王女がまっすぐにビビアンの方を見る。
「あら? もしかして焼きもちですの?」
「絶対違うから。そうじゃなくて、相手の意思も聞かずに一方的にそういう人生の大事なことを決めちゃって良いのかしらって聞いてるの」
いつになく厳しい口調でビビアンは言い放った。普段アルヴィスとはしゃいでいる彼女とは雰囲気がまるで違う。
「あなたもユウリ様と結婚したいのかしら? だったらそうおっしゃれば良いのに」
「だーかーらー!! 違うって言ってんでしょ!!」
全くお門違いの返答に憤慨するビビアンの肩を、後ろからアルヴィスがポンと叩く。
「ビビアン。子供相手にムキにならないの。それに、彼女のように王族や貴族同士の結婚ていうのは、自分の意思が尊重できるとは限らないのよ」
「え?」
「自分の家の地位を守るため、好きでもない人、もしくは会ったこともない人と突然婚約することなんてザラにあるのよ、こういう世界では。所謂政略結婚てやつね」
そう言って、寂しそうにヘレン王女を見下ろすアルヴィス。その姿は、かつてユウリのお父さんと共に世界を旅していた頃があったように、私たちの知らない彼の側面が垣間見えた気がした。
「けど、だからってユウリくんの気持ちも蔑ろには出来ないわよね。だって彼は貴族でもなんでもないのだから」
その言葉に、自然と皆の視線がユウリの方に注がれる。だが今の彼は、普段の自信に満ちた様子はどこに行ってしまったのか、ヘレン王女にただ振り回されて困惑しているようにしか見えない。はっきりと口に出してはいないが、少なくとも婚約と聞いて喜んではいないのはわかる。
「何を言ってますの? 第一王女との結婚なんて、世の殿方なら嬉しいに決まっておりますでしょ? なんたって、次期女王であるわたくしの夫であり、王配となれるのですから!!」
ただ一人気づいていないのか、自信たっぷりにそう言い放つヘレン王女。おそらく彼女……というかこの国の人たちの価値観がそういう風に出来ているのだ。王族との結婚と言うだけで、きっとそれは歓喜するべきであり、名誉なことなのだろう。
だけど、今のユウリの様子を見ると、それとは余りにもかけ離れている。そんな彼をこれ以上見るのが辛くて、思わず私は口を開いた。
「でも、優勝しないと婚約できないんですよね? 王女様には申し訳ないですが、優勝するのは私なので、ユウリとの婚約は諦めて下さい」
『!!』
途端、周囲の雰囲気が一瞬で凍りつく。
「まあ……。あなた、大人しそうな顔をして、随分余裕ですのね」
同時に、先ほどまでの年相応の愛らしい笑顔をした王女の表情に、陰影が差した。微笑んではいるが、目は笑っていない。その挑発的とも取れる笑顔に、怖れと同時に使命感のようなものを感じた。口に出してしまった以上、ここで引くわけには行かない。
「私も、この日のために頑張ってきたんで。絶対に、王女様には負けませんから!!」
まるで叩きつけるかのようにそう言うと、王女様も負けじと私を睨み付ける。
「ふっ、受けて立ちますわよ!! ライバルはそのくらい強気でないと張り合いがないですものね!!」
そう私に言い放つと、再びヘレン王女はユウリに愛くるしい笑顔を見せ、
「ではわたくしはこれから受付に行きますわ。ユウリ様、わたくしの活躍、見ててくださいまし!」
そう言って、王女は颯爽と受付の方へと向かっていったのだった。
「……ふう、嵐が去ったわね」
ビビアンが、疲れた顔で呟いた。と同時に張り詰めていた空気が和らぐ。
「お疲れ様。それにしても、お姫様に喧嘩を売るなんて、ミオってば、なかなかやるわネ☆」
「え!? いや、別に喧嘩を売ったわけじゃ……」
「そうね! 私も聞いててスカッとしたわ!」
アルヴィスがウインクしながらそう言うと、続いてビビアンも私の背中を叩きながら言った。
「あのときは口が勝手に……。それにユウリも何も言わないし、なんか一言言いたくなって」
そう言ってちらっとユウリの方を見ると、彼は気まずそうに私から視線を逸らした。
「なんかユウリ、いつもはもっとはっきり言うのに、今回は随分おとなしかったね。どうかしたの?」
「確かに。あたしと話してるときと全然態度違うじゃない」
ビビアンも不思議に思っていたのか、私と同じ意見を言う。
そして一瞬の沈黙のあと、ため息混じりにユウリは答えた。
「……昔から、ああいうタイプの女性は苦手なんだ」
「ああいうタイプって……ヘレン王女みたいな子?」
「ああ。俺の故郷のアリアハンにも王女がいたが、彼女に似ているんだ。……その人に言い寄られてからだ、ああいう女性に苦手意識を持つようになったのは」
「えっ!? そうだったの!?」
見た目だけならユウリは、美男子コンテストがあれば優勝できるくらいの容姿を持っている。確かに人の話を聞かない……つまりユウリの言動に影響されない性格の人にはモテるのだろう。
「でもヘレン王女、すっごく可愛かったよね。あんな可愛い子でも、苦手なの?」
「容姿は関係ない。性格が合わないだけだ」
ああ、だからユウリはアッサラームにいたバニーガールにも靡かなかったんだ。
「そう言えば、ユウリだけイシスの女王様のところに行ってたときがあったよね。あの人は大丈夫だったの?」
ふと、イシスにいたときのことを思い出した。あのときはなぜかユウリは疲れたような顔をしていた気がする。
「……あのときも、似たようなことを女王に言われたな」
「ええっ!? もしかして結婚の約束してたの!?」
「……そんなところだ。丁重にお断りさせてもらったが」
そっかあ。あのときは気になってたんだけど、ユウリに怒られたせいか、記憶の片隅に追いやってたんだよね。あれ、ということは、女王様も意外に人の話を聞かない性格??
あんな絶世の美女に好意を持たれていても、彼にとっては苦手な人だと言うことに、私は驚きを隠せなかった。けど、ユウリがそう言う人に対して苦手意識を持っているとなると、モテると言うのも良いことばかりじゃないのかもしれない。
「なるほど。ユウリくんはそういう女性に好かれやすいタイプなのね。難儀な性格だわ」
アルヴィスも同情するように頷く。
「この前会ったときは、国王との謁見の際にお互い自己紹介をした程度だったが、まさかこんな形で王女と再会するとは思わなかった」
この前って、私がマギーのお店に行ってたときだったよね? その頃からヘレン王女は、ユウリのことが好きになってたんだ。
ビビアンに夢中になったナギもそうだったけど、一目惚れって本当にあるんだなあ。
「うーん、まあ要するに、ミオが優勝すればいいんでしょ? だったら私たちに出来ることはただ一つ。ミオを全力で応援するのみよ!」
「そうね。そもそもそのつもりでアタシたちも来たんだし、お互い頑張らないとね♪」
「二人とも……。うん、そうだね! 頑張るよ!!」
二人に後押しされ、私は俄然やる気が漲ってきた。
時計を見ると、すでに九時を回っている。
「あ、もうこんな時間!! そろそろ私、行くね!」
「頑張って!!」
「気をつけてネ! 途中で転ばないでよ!!」
二人の声援に背を向けると、私は気合いをいれて待合室へと向かう。
すると、突然後ろから手首を掴まれた。
「ユウリ?」
私を引き留めたユウリは、少し言いにくそうにしながらも、視線をまっすぐにこちらに向け、
「……お、応援するから、必ず優勝してくれ」
そう小さな声で言った。こんな風に私を頼る彼の姿を初めて見たからだろうか、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「うん、もちろんだよ!」
私はにっこりと笑顔で返す。そのあとすぐに私は会場へと向かったので、彼がどんな表情をしていたのか知るよしもないが、きっと彼やビビアンたちは応援してくれるだろう。皆の期待を背負い、私は意を決してコンテストに挑むのであった。
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