英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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ハーケン会戦~白と灰の翼の出撃~
~カレイジャス・ブリッジ~
「あ………………」
「”狙うは敵軍総大将ヴァンダイク元帥の首唯一つ”って事は、リィン達――――――灰獅子隊のこの大戦での”目的”は……!」
「ヴァンダイク学院長を”討つ”事か……」
「そして”最終段階”とは、”戦場に出てきた学院長を討つ事でそれを知らされたエレボニア帝国軍に絶望させ、降伏させる”ということか……」
「リィン………」
戦場に突撃する灰獅子隊の様子を見たエリオットは思わず呆けた声を出し、不安そうな表情で呟いたマキアスの言葉に続くようにユーシスとガイウスは重々しい口調で呟き、アリサは辛そうな表情で映像端末に写るヴァリマールを見つめた。
「あ、あんた達……!今までの要請でⅦ組――――――エレボニアにいた頃のリィン達と縁がある場所ばかり攻めさせて散々リィン達に苦しい思いをさせた挙句、学院長までリィン達の手で殺させるなんて、どこまでリィン達を苦しめれば気がすむのよ!?」
「フウ……レンが要請を出した訳でもなく、今まで出された灰獅子隊の要請を考えた訳でもないのだから、人聞きの悪い言い方でレンに八つ当たりをしないでよね~。――――――そもそも、今回の要請に関してはメンフィルだけでなく、今までの戦いで灰獅子隊が残した功績を考慮したカシウス中将も”灰獅子隊によるヴァンダイク元帥の討伐”の案を最終的に決断してメンフィル帝国軍にその案を進言したのだから、メンフィルだけでなくカシウス中将も関わっているのよ?」
「な――――――」
「ええっ!?カ、カシウスさんまで……!?」
「そ、そんな……どうしてカシウスさんまでそんな案を……」
怒りの表情で声を上げたサラに対してレンは呆れた表情で溜息を吐いた後にその場にいる全員にとって驚愕の事実を口にし、それを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は絶句し、アネラスは信じられない表情で声を上げ、ティータは信じられない表情で呟いた。
「……多分だけど、カシウス中将は連合に新生軍、そして王国軍の……ううん、”メンフィル・クロスベル連合軍、ヴァイスラント新生軍、リベール王国軍、そしてエレボニア帝国軍の双方の被害を可能な限り抑えるため”にそんな案を考えたんだと思うよ……」
「へえ?」
「”双方の被害を可能な限り抑える為”に何でエレボニア帝国軍の総大将を殺る必要があるんだ?」
悲しそうな表情で呟いたトワの推測を聞いたレンが興味ありげな表情を浮かべてトワを見つめている中アッシュは眉を顰めて訊ねた。
「……恐らくだがカシウス卿は幾ら戦力を上回っていようと、リベール侵攻の為に現在のエレボニアが投入できるエレボニア帝国軍の全戦力を言葉通り”殲滅”する為には自軍も相当な数の死者が出ると想定し、それを避けるために可能な限り早く”エレボニア帝国軍に降伏を認めさせる事実”――――――つまり、総大将であるヴァンダイク元帥の早期討伐を考えたのだろう。」
「アルフィン皇女殿下によるエレボニア帝国軍にリベール侵攻の”大義”はない事に加えて、エレボニアが内戦の件でリベールから受けた恩を仇で返そうとしている事に関する暴露……本格的にぶつかり合う前の火計とメンフィルの機甲軍団による砲撃、そして想定していなかった連合軍と新生軍の登場による地上のエレボニア帝国軍の動揺の連続……更に空の戦力もエレボニア帝国軍にとっては主力になるはずだった戦艦が為すすべもなく轟沈させられてしまって事……そこにエレボニア帝国軍にとっての総大将である元帥閣下の”死”を知れば、幾ら”呪い”によって闘争心に満ちたエレボニア帝国軍であろうとも”完全に心が折れて、降伏の呼びかけに応じる”……恐らくそれがカシウス中将達の考えた”策”なんだろう。」
「大正解♪ちなみにこれは余談だけど、今回の灰獅子隊の要請――――――つまり、”ヴァンダイク元帥の討伐”の為に灰獅子隊にロゼとリアンヌママも加わっているわよ♪」
「ええっ!?ロゼさんと”槍の聖女”が灰獅子隊――――――リィン達の部隊に!?」
「そ、そんな……お祖母ちゃんまでリィンさん達と一緒に学院長を……!」
「しかもサンドロット卿まで灰獅子隊に加わっているとは……」
「……今回の戦争にとって正念場となるこの大戦で”獅子戦役”でドライケルス陣営だったロゼと”槍の聖女”をドライケルス帝の生まれ変わりの男の息子であるアイツが率いる部隊に加勢させるなんて随分とエレボニアに対して皮肉な事をしてくれたわね。」
アルゼイド子爵とミュラーの推測に対して笑顔で拍手して肯定したレンは驚愕の事実を口にし、それを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中エリオットは驚きの声を上げ、エマは悲痛そうな表情を浮かべ、ラウラは真剣な表情で呟き、セリーヌは呆れた表情で呟いた。
「そういえば、リィン君はドライケルス大帝の生まれ変わりであるオズボーン宰相の息子だから、ある意味ドライケルス大帝の息子という事にもなるのか……」
「そんでそのリィンが学院長を討つ事でエレボニア帝国軍の連中を絶望させようとしているんだから、そんなリィンに”獅子心帝”を支えたあの二人が両方とも加勢するなんて、エレボニアにとってはこれ以上ない皮肉な事実だな。」
セリーヌの指摘を聞いたアンゼリカは複雑そうな表情で呟き、クロウは疲れた表情で呟いた。
「クスクス、ちなみにだけどミルディーヌ公女もオーレリア将軍にも灰獅子隊が動き出したら、機を見計らって新生軍の指揮はウォレス准将とゼクス将軍に任せて灰獅子隊への合流をして灰獅子隊によるヴァンダイク元帥の討伐に協力する指示を出した上、更に今回の要請のみ特別に星杯騎士団―――それも守護騎士が灰獅子隊に加わっているのよ♪」
「何ぃっ!?」
「星杯騎士団――――――それもよりにもよって守護騎士まで灰獅子隊に加わっているですって!?」
「しかも”黄金の羅刹”まで灰獅子隊に合流するとか、幾ら何でも戦力過剰過ぎなんですけど!?」
レンが口にした更なる驚愕の事実を聞いたその場にいる全員が再び血相を変えている中アガットは厳しい表情で、シェラザードは真剣な表情で声を上げ、ミリアムは表情を引き攣らせて声を上げた。
「そ、そんな……どうして星杯騎士団――――――七耀教会が守護騎士程の教会にとっては重要な戦力をヴァンダイク元帥の討伐の為にリィンさん達の所への派遣を……」
「……多分だけど、ルーレとオルディスでトマス教官とロジーヌがわたし達に協力した件でできたメンフィルに対する”借り”を返す為なんじゃない?」
「そういえば、バルクホルン神父によると教会は”盟約”を一向に結ぼうとせず、古代遺物を活用しているメンフィル帝国との関係があまりよろしくないという話だったね……」
「そんなメンフィル帝国に対して作ってしまった”借り”をそのままにしていたら今後の星杯騎士団の活動に支障が出かねないと判断して、その”借り”を返す為に今回の戦争にとって一番肝心な戦いとなるこの大戦で守護騎士を学院長を討って大戦を早期に終わらせようとする灰獅子隊に派遣したのね……!」
「元々今回の戦争では教会も連合に間接的に協力している話からして、いずれ直接的に強力――――――戦争に教会の戦力を投入する事は予想していましたが、よりにもよって、このタイミングで戦力――――――それも守護騎士を投入するなんて……」
「”事実上の決戦となるこのタイミング”だからこそなんだろう。守護騎士程の重要な戦力を派遣した理由は、恐らく灰獅子隊の活動を妨害したのが守護騎士だった為、その”借り”を返す為には同格である守護騎士を灰獅子隊に協力させるべきと判断したんだろうな。」
「それらの動きをわたくし達が把握できたなかったのも、トマス様達が教会からの情報を得られなくなったからでしょうね……それよりも先程から気になっているのですが”リィン様達が本格的に動き始めているにも関わらず、何故レン皇女殿下――――――レボリューションはリィン様達と別行動をしているのですか?”」
信じられない表情で呟いたセドリックの疑問にフィーは自身の推測を口にし、それを聞いたオリヴァルト皇子は複雑そうな表情で呟き、サラは怒りの表情で声を上げ、エレインとジンは複雑そうな表情で呟き、シャロンは真剣な表情でレンを見つめながら指摘した。
「そ、そういえば……」
「あたし達に連合や王国が隠していた情報を随分と教えてくれたようだけど……貴女の事だから、単にあたし達が知らなかった情報を暴露してあたし達の反応を見たかったという理由ではないでしょう?」
「わたし達と話す事でわたし達があの戦場に向かう事を少しでも遅らせる為の時間稼ぎ……?ううん、”月の霊場”でのリィン君達の話だとリィン君達は既に今回の作戦の際のわたし達を足止めするメンバーを決めていたのだから、レボリューション――――――高速巡洋艦の指揮を担当しているレン皇女殿下がそんな非効率な事はしない……!」
「ま、今の状況を考えるとレボリューションを使って学院長達――――――エレボニア帝国軍に更なる痛手を与える為だろうね。」
「……………………」
「この状況でテメェはどんな腹黒い事をするつもりか黙っていないでとっとと言えやっ!」
シャロンの指摘を聞いたエリオットは不安そうな表情でレンを見つめ、シェラザードは真剣な表情で呟き、トワはレンの考えを推測しようとし、フィーは厳しい表情でレンを見つめている中レンは何も語らず静かな笑みを浮かべて黙り込み、その様子を見たアッシュはレンを睨んで怒鳴った。
「………ああ、”やっぱりせめてもの援護をするつもりのようね。”」
「レンちゃん……?」
「オレ達から視線を外して、”何か”を見ている……?」
「恐らく見ているものは端末の情報だと思うが……」
「!おいっ、まだ生き残っていたガルガンチェア――――――エレボニア帝国軍の旗艦が動き出したぞ!?」
その時レンはアリサ達から視線を外して何かを見ながら呟き、その様子を見たティータが不思議そうな表情をしている中ガイウスとアンゼリカは考え込み、何かに気づいたクロウは血相を変えて声を上げた。
~ガルガンチェア1号機・ブリッジ~
「……せっかくのお気遣いを無下にしてしまい、申し訳ございません、元帥閣下。ですが、自分達は帝国軍の一員としてむざむざと多くの戦友たちの死を無駄にした挙句、祖国が敗戦する事実を受け入れる事はできません……!――――――総員、ハーケン門の突破を目指している元帥閣下達の援護の為にこの戦艦を敵軍の注意を惹きつける為の囮とする!何としても元帥閣下達をハーケン門に辿り着かせるぞ!」
「イエス・サー!!」
一方その頃レリウス中佐は軍人達に指示をしてガルガンチェアをハーケン門へと向かわせ始めた。
~カレイジャス・ブリッジ~
「ハーケン門方面に向かい始めたという事は……!」
「戦場の混乱のどさくさに紛れてハーケン門を陥落させるつもりか……ッ!」
映像端末に映るハーケン門へと向かい始めたガルガンチェア1号機の様子を見たアネラスは不安そうな表情で、アガットは厳しい表情で声を上げた。
「――――――いえ、正確に言えば地上からの突破を目指すヴァンダイク元帥達に目を向けさせない為の”囮”をして連合軍や王国軍の注意を自分達に向ける事が目的なんでしょうね。――――――自分達に協力しているとはいえ、民間人を盾にするなんて、さすがは自国の皇女の言葉も無視した卑劣な人達ねぇ?」
「な……まさか、あの戦艦に民間人が乗船しているの……!?」
「それもエレボニア帝国軍に協力している民間人だと……?」
「い、一体どんな人達が……」
「エレボニア帝国軍に協力……”民間人”………――――――!まさか………イリーナ会長とシュミット博士があの戦艦に乗船しているのかい……!?」
レンが口にした驚愕の事実を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中エレインは厳しい表情で声を上げ、ジンは真剣な表情で考え込み、セドリックが困惑している中察しがついたオリヴァルト皇子は信じられない表情でレンに訊ねた。
「ご名答♪」
「!!」
「そ、そんな……!?あの戦艦に母様が……!?」
「しかもシュミットの爺ちゃんまで乗船しているって、一体どういう事~!?」
オリヴァルト皇子の推測にレンが笑顔で肯定するとシャロンは目を見開き、アリサは表情を青褪めさせて声を上げ、ミリアムは信じられない表情で声を上げた。
「イリーナ会長は『夫が戻っているかどうかの確認』、シュミット博士は『1番弟子の仕上がりの確認』という理由で”それぞれ二人に接触したメンフィルの諜報部隊によるエレボニア帝国軍からの脱走の誘いを2度も断った”のだから、”そういう事”なのでしょうね。」
「………ぁ………」
「会長………」
「え、えっと……シュミット博士の”1番弟子”という方は一体誰の事なんですか……?」
「……アリサ君の父君――――――フランツさんだよ。」
「そいつは………」
やれやれと言った様子で肩をすくめて呆れた表情で答えたレンの話を聞いたアリサは呆け、シャロンは辛そうな表情を浮かべ、ティータの疑問に重々しい様子を纏って答えたアンゼリカの答えを聞いたジンは複雑そうな表情を浮かべ
「レン皇女殿下がお二人が現在あの戦艦に乗船している事を存じているという事は、連合軍や王国軍が意図的にエレボニア帝国軍の旗艦への攻撃を避けていた理由はお二人が乗船していたからだったのですか……」
アルゼイド子爵は重々しい様子を纏って推測を口にした。
「二人の性格を考えたらエレボニア帝国軍がどれだけ劣勢な状況であるかを理解したらさっさとエレボニア帝国軍との関係を”切る”と思ったんだけど、まさかそんな感情的な理由でエレボニア帝国軍に協力しているなんて、ちょっと意外だったわ。――――――ま、こうなってしまった以上レン達も”エレボニア帝国軍によるリベール侵攻を防ぐ為に非情にならなければならない”ようだけどねぇ?」
「ま、まさか……」
呆れた表情で答えた後意味ありげな笑みを浮かべたレンの口から出た不穏な言葉を聞いてある事を察したマキアスが不安そうな表情を浮かべたその時
「!艦長、カレイジャスに向けて新たな通信が来ています!相手は………”アルセイユ”です!」
「”アルセイユ”だと!?」
「も、もしかして”アルセイユ”も新型のステルス装置でこの戦場に潜んでいたんでしょうか……?」
「―――――どうやらそうみたいね。」
新たな通信が発生し、それに気づいた通信士を務めている士官学院生が報告し、それを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中ユーシスは驚きの表情で声を上げ、エマが推測を口にしたその時ステルス装置を解除して戦場の空に姿を現したアルセイユに気づいたセリーヌが静かな表情で呟き
「すぐに繋げてくれ。」
「御意。―――スクリーンに転送を。」
「イエス、キャプテン。」
オリヴァルト皇子の指示に頷いたアルゼイド子爵が指示をすると映像端末にはユリア准佐の顔が映った。
「貴女は確か王国親衛隊の……」
「……ユリア准佐。」
ユリア准佐の顔を見たガイウスは目を丸くし、ミュラーは複雑そうな表情でユリア准佐を見つめながら呟いた。
「――――――こうして実際にお会いするのは西ゼムリア通商会議以来になりますね、ミュラー少佐。ミュラー少佐もそうですがオリヴァルト殿下にⅦ組の諸君、それにアネラス君達も今まで無事で何よりです。」
「現在我が国の者達がリベールに侵攻しようとしている状況でもなお、私達を気遣ってくれてありがとう。それで私達に何の用かな?」
静かな表情で答えたユリア准佐の挨拶に答えたオリヴァルト皇子はユリア准佐に問いかけた。
「うふふ、そんなの決まっているじゃない。――――――”アルセイユはこれからⅦ組の関係者――――――イリーナ会長が乗船しているエレボニア帝国軍の旗艦の撃墜の為の攻撃を開始するから、せめてもの義理を果たす為にそれを教えに通信した”のよ。」
「…………………………」
「………ぇ………」
「ア、”アルセイユがイリーナ会長が乗船しているエレボニア帝国軍の旗艦を撃墜する”って……!」
「というか”アルセイユ”の兵装で”戦艦”を撃墜できるとは思えないんだけど~?」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの答えに反論がないかのようにユリア准佐は目を伏せて黙り込み、レンの答えを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中アリサは呆然とし、エリオットは信じられない表情で声を上げ、ミリアムは疑問を口にした。
「確かに”アルセイユだけ”なら、ガルガンチェアの撃墜は難しいでしょうね。――――――だけど、そこに”アルセイユに並ぶ機動力に加えて既存の兵器の攻撃を防げる魔導障壁を備え、エレボニア帝国の正規軍の空挺部隊を全滅に追いやる事ができる火力があるレボリューション”が加わればどうかしら?」
「も、もしかしてレンちゃん達――――――”灰色の翼”だけリィン君達と別行動をしていた目的は……!」
「”わざと残していたエレボニア帝国軍の旗艦に動きがあった場合、連中の作戦を成功させない為にエレボニア帝国軍の旗艦をアルセイユと協力して撃墜する為”かっ!!」
意味ありげな笑みを浮かべたレンの問いかけを聞いた事情を察したアネラスは不安そうな表情で、アガットは厳しい表情で声を上げた。
「大正解♪」
「―――――そこに付け加えさせてもらうが、”アルセイユ”も3年前の”異変”後更に改良を重ねた事で元々備えつけてある兵装の火力は以前の2倍はある上、新たに迎撃レーザーとミサイルポッド、防御用に導力障壁の機能も備えつけている。……さすがに異世界の技術――――――”魔導技術”も取り入れている”灰色の翼”には劣るだろうが、少なくても王国軍が保有している飛空艇の中では最高火力を保有する飛空艇だ。」
「た、確かに”アルセイユ”が改良されていた話は知っていましたけど、まさか新たな兵装まで取り付けていたなんて……!」
「恐らくその改良の件に関してもカシウスの旦那の”先読み”が関係していると思うが………やれやれ、旦那は一体いつの時点で”アルセイユ”に更なる改良が必要である事を判断したんだ?」
アガットの指摘にレンが笑顔で肯定した後ユリア准佐は静かな表情で答え、ユリア准佐の話を聞いたティータは不安そうな表情で声を上げ、真剣な表情で呟いたジンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「さてと。ガルガンチェア1号機を撃墜する旨をオリビエお兄さん達に伝えた事だし、グズグズしていたらガルガンチェア1号機がハーケン門を超えるかもしれないからそろそろ”白と灰の共闘”を始めましょうか、ユリア准佐?」
「承知。リベールの国民達を……そして女王陛下達を守る為に、どうかよろしくお願いします。」
意味ありげな笑みを浮かべたレンの言葉に対してユリア准佐は静かな表情で答え
「ま、待って……!あの戦艦にはシュミット博士と母――――――イリーナ会長が乗船しているんです……!」
「二人の”保護”もそうだが、ハーケン門に向かい始めているガルガンチェア1号機は私達が何としても喰い止める。だから、ガルガンチェア1号機への攻撃は待ってくれ……!」
「――――――遊撃士協会もこの件に介入させてもらうわ!エレボニア帝国軍の旗艦に”民間人”が乗船している事実が判明した以上、協会規約第2項『民間人に対する保護義務』の遂行の為にアルセイユ並びにレボリューション――――――いえ、”エレボニア帝国軍と敵対している全ての勢力”にエレボニア帝国軍の旗艦であるガルガンチェア1号機への攻撃を控える事を要請するわ!」
二人の会話の様子を見たアリサは表情を青褪めさせて声を上げ、オリヴァルト皇子は真剣な表情で声を上げて二人の行動を止めようとし、シェラザードは真剣な表情で声を上げてレン達の行動を止めようとした。
「うふふ、やっぱり遊撃士協会お得意のその規則を持ち出したわね。シェラザードお姉さん達遊撃士協会はともかく、オリビエお兄さん達はどうやってガルガンチェア1号機――――――”戦艦の進軍”を阻止するつもりなのかしら?先に言っておくけど、『騎神達とカレイジャスを活用してガルガンチェア1号機の注意を惹きつけて、その間にガルガンチェア1号機に潜入して二人を保護して、更にガルガンチェア1号機のブリッジを制圧してガルガンチェア1号機の動きを止める』みたいな内容だったら、即却下よ。」
「ど、どうしてですか………!?」
「作戦内容として、今アンタが言った方法ならあたし達なら可能でしょうが!?」
レンの冷酷な答えを聞いたセドリックは信じられない表情で訊ね、サラは怒りの表情で指摘した。
「確かに”作戦内容としては問題ないわよ。”――――――だけど、それを実行するのが貴方達”紅き翼”の為、王国軍、連合軍、そして新生軍として”信頼できる要素がない”から却下よ。」
「”作戦を実行するのが紅き翼(オレ達)だから、信頼できる要素がない”とはどういう事だろうか?」
「ハッ、大方ルーレとオルディスの俺達の介入を根に持っているからだろうが……!」
レンの説明を聞いて問い返したガイウスの疑問に対して鼻を鳴らして答えたアッシュはレンを睨んだ。
「違うわよ。冗談抜きで時間があまりないから簡潔に答えてあげるわ。”レン達が貴方達を信頼できる要素がない理由”は3つあるわ。一つ目は貴方達にガルガンチェア1号機がハーケン門に到着する前にブリッジを制圧し、ガルガンチェア1号機を止める”実行力”がない事よ。」
「……要するにわたし達の戦力でガルガンチェア1号機のブリッジを制圧できないとそっちは判断しているって事?」
レンの指摘を聞いたフィーは真剣な表情で訊ねた。
「ええ。そもそも常識で考えたら戦力の大半が”士官学院生”で、後は僅かな数の遊撃士と達人クラスの使い手だけで、多くの軍人達が乗船している”戦艦”を止められる訳がないでしょう?しかもイリーナ会長達の保護やガルガンチェア1号機の注意を惹きつける為に戦力を割く必要はある上貴方達にとっての切り札である”騎神”も戦艦の制圧には充てられないし、おまけに”時間制限”まであるのよ?これらのどこに客観的に見て”紅き翼が早期にガルガンチェア1号機を制圧する実行力を証明できる要素”があるのよ?」
「それは………」
レンが口にした理由に対して反論できないアンゼリカは複雑そうな表情で答えを濁した。
「二つ目の理由は貴方達は貴方達の全戦力をイリーナ会長達の保護とガルガンチェア1号機を止める事に充てられない事よ。――――――どうせ、貴方達の事だからリィンお兄さん達の”目的”を阻止するつもりなんでしょう?何せ”紅き翼が今まで介入してきた大義名分は紅き翼の身内、もしくは関係者の保護”なんだもの。」
「リィンさん達の”目的”………”学院長の討伐”ですか……」
「……確かにヴァンダイク元帥は今は軍属ですが、トールズの皆様方にとっては今でも”学院長”――――――つまり、”トールズの関係者”ですものね……」
「はい……今のわたし達の戦力だとイリーナ会長達の保護を含めたガルガンチェア1号機の進行阻止か学院長の討伐の阻止……”どちらかを確実に成功させる為にはどちらかは諦める必要があります”……」
「戦力を中途半端にすれば、どちらも失敗する事は目に見えているな……」
レンの指摘を聞いたエマは辛そうな表情を浮かべ、複雑そうな表情で呟いたシャロンの言葉にトワは辛そうな表情で頷き、ミュラーは複雑そうな表情で推測した。
「そして最後の理由は”責任能力がない事”よ。」
「ボク達に”責任能力がない”ってどういう事~?ボク達みんな、”紅き翼”の一員として活動する責任の重さは理解しているよ~。」
レンが答えた最後の理由を聞いて疑問を抱いたミリアムは眉を顰めて訊ねた。
「いや、レン皇女殿下が仰っている事はそういう事ではなく、”もし我々にガルガンチェア1号機の件を任せた結果、ガルガンチェア1号機にハーケン門を突破させてリベール侵攻を許してしまった場合、我々がその事に対する責任――――――要するに万が一失敗した場合、王国や連合にガルガンチェア1号機にハーケン門を突破させてしまった時の損失を賠償する能力”がない事を仰っているのだろう。」
「”光の剣匠”さんの言う通りよ。”紅き翼”もそうだけど、遊撃士協会の人達も万が一自分達が失敗した事でガルガンチェア1号機によるリベール侵攻を許し、その結果リベールの国民達が被害を被った場合、レン達連合の件は置いておくにしてもリベールに対してどう責任を取るつもりなのかしら?先に言っておくけど、『帝国正規軍は民間人を虐殺するような人達じゃない~』とか、『リベール侵攻軍を率いている学院長は帝国正規軍にそんな酷い事を絶対にさせない~』みたいな、貴方達本意の自分勝手な推測で客観的事実にはならない理由は連合は当然として王国も納得しないわよ。」
「そ、それは………」
「………ッ!」
「そもそもエレボニア帝国軍は13年前の”百日戦役”でリベールの国民達を虐殺している事に加えて、この戦争では”焦土作戦”という戦争に勝つ為に自国の国民達まで犠牲にしようとした”前科”があるから、他勢力からすればエレボニア帝国軍を信用する要素なんてないわね……」
「…………………………」
ミリアムの疑問に対してアルゼイド子爵が答えるとレンがその答えを肯定した後更なる指摘をし、レンの指摘に反論できないトワが辛そうな表情で答えを濁し、サラは悔しそうな表情で唇を噛み締め、エレインは複雑そうな表情を呟き、帝国正規軍の軍人であり、更に帝国正規軍の信用を貶める原因を作った身内がいるエリオットは辛そうな表情で顔を俯かせて黙り込んだ。
「そういうテメェらは”責任”ってヤツを取れるのかよ!?」
「当然よ。―――というか、そもそもこの”大戦”こそがレン達メンフィル――――――いえ、メンフィル・クロスベル連合並びにヴァイスラント新生軍がリベール王国を”自分達の戦争に巻き込んだ責任を取る為にリベールに協力している上、王国軍最高司令官であるカシウス中将の立案を全面的に採用している”じゃない。しかもレン達メンフィル帝国軍に関しては万が一ハーケン門を突破された時に備えて、エレボニア帝国軍が最優先に占領する可能性が高い都市であるロレント市の近郊の街道に20万人もの戦力をリベールの許可を取って配置している上、ロレントの件とは関係ない話だったからさっきは言わなかったけどハーケン門から直接行けるロレント市以外のもう一つの都市――――――ボース市の街道にも5万人の戦力を展開しているわよ。――――――勿論、”どれもリベールに一切の対価を求めず”にね。そのお陰で、この大戦に参加していないリベールの残りの戦力はロレント、ボース両地方の市民達の避難誘導に集中する事ができているのよ?」
「……ッ!」
「ま、まさかボース市方面にもメンフィル帝国軍が展開していた上、既に王国軍がロレントとボースの市民達の避難誘導をしていたなんて……」
一方レンに反論したアッシュだったが答えを濁す事なくすぐに答えた文句のつけようがないレンの答えに反論できず、悔しそうな表情で唇を噛み締め、アネラスは複雑そうな表情で呟いた。
「それと遊撃士協会の諸君は”民間人の保護”の為に、王国へ侵攻しようとする戦艦への攻撃を控えろと主張しているが……我々”軍人”からすれば、レン皇女殿下の話――――――メンフィル帝国軍の諜報部隊が集めた情報を考慮すれば戦艦に乗船している民間人――――――イリーナ会長達は”自分達が乗船している戦艦は戦闘によって撃墜される可能性があると理解した上で乗船している事に加えてエレボニア帝国軍に協力していれば、当然エレボニア帝国軍と敵対している勢力に命を狙われる覚悟”をしているように見える。そして王国の存亡がかかった戦いでそのような覚悟を持って敵軍に協力している者達を気にかける余裕は我々王国軍にはない。たった二人の……それも敵軍に協力している民間人の命と女王陛下達や王国に住まう多くの国民達の命……比べるまでもないだろう。」
「ユリアさん……」
「待って……お願い……」
静かな表情で答えたユリア准佐の指摘を聞いたティータは複雑そうな表情を浮かべ、アリサは懇願するかのような表情で呟き
「それじゃ、レン達はこれで失礼するわ。念の為に先に言っておくけど、もしレン達に攻撃したら”本気でカレイジャスやそっちの騎神達を撃墜対象に認定して、カレイジャスやそっちの騎神達も攻撃するわよ。”その時は”最後の警告”だけはしてあげるから、その警告を聞いてもレン達への攻撃を続けるのだったらティータだけは本人が拒否しても無理やり逃がしてあげなさいよ。」
「自分もこれで失礼します。――――――どうか、冷静に考えた上で”自分達がこの状況で何を成す事ができるのかの判断”をして行動して下さい。」
「止めてぇぇぇぇ――――――ッ!!」
レンとユリア准佐がそれぞれ通信を切るとアリサは悲鳴を上げた。
~レボリューション・ブリッジ~
「―――――これより”白き翼”と連携してガルガンチェア1号機の撃破をする。せめてもの慈悲に敵艦の武装を全て無力化した上で敵艦に降伏を勧告し、それでも降伏に応じなかったら敵艦を全武装による一斉砲撃で撃破するわ。総員、敵艦の動きは当然として”紅き翼”の動きにも注意しなさい!――――――”灰色の翼”レボリューション、出撃!!」
「イエス・マイロード!!」
カレイジャスとの通信を切ったレンは号令をかけ、レンの号令にブリッジにいる軍人達は力強く答えた。
~アルセイユ・ブリッジ~
「―――――これより”灰色の翼”と連携して敵艦を撃破する。総員、何としても敵艦をハーケン門に届かせるな!――――――”白き翼”アルセイユ、出撃する!」
「イエス・マム!!」
同じ頃ユリア准佐も号令をかけ、ユリア准佐の号令にブリッジにいる王国親衛隊員達は力強く答えた。
そしてそれぞれ出撃したアルセイユとレボリューションはガルガンチェア1号機を挟み込むように移動した後ガルガンチェア1号機への攻撃を開始し、更に本陣で待機していたクロスベル帝国軍の戦艦の一隻がガルガンチェア1号機に向かい始め、更に連合本陣の後方からステルス機能を解除した事で姿を現した星杯騎士団の守護騎士専用の飛行艇―――――天の車の『玖号機』が連合本陣の空を通り抜けてガルガンチェア1号機へと向かい始めた―――――――!
後書き
今回の話の最後でもうおわかりかと思いますが、次回でようやく特務支援課が登場します(汗)
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