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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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ハーケン会戦~灰獅子隊、出陣~

同日、AM11:35――――――



~ハーケン平原~



「帝国臨時精鋭部隊――――――”特攻隊”出陣!儂らの目的はハーケン門の突破、並びにメンフィル帝国の大使館の電撃占領じゃ!敵軍や戦友達には目をくれず、ハーケン門を目指すぞっ!!」

「イエス・コマンダー!!」

ガルガンチェア1号から降ろされた巨大な機甲兵――――――”ゴライアス”に乗り込んだヴァンダイク元帥は号令をかけ、ヴァンダイク元帥率いる精鋭部隊――――――”特攻隊”は突撃を開始した。



~カレイジャス・ブリッジ~



「い、今の声って……!」

「学院長………!」

「馬鹿な……!この状況でハーケン門の突破等、あまりにも無謀過ぎる!!」

「何故学院長はこの状況でそんな無謀な事をしたのよ!?総大将である学院長自らが実行するなんて、軍人としてありえない行動よ!」

「!!ま、まさか学院長は――――――」

映像端末に映る特攻隊の様子を見たエリオットは不安そうな表情で、ガイウスは真剣な表情で声を上げ、厳しい表情で声を上げたミュラーはある推測をし、サラは信じられない表情で声を上げ、ヴァンダイク元帥の目的を察したトワは悲痛そうな表情を浮かべた。

「クスクス、ミュラーお兄さんとサラお姉さんの言う通り、あまりにも無謀過ぎる作戦よね~。――――――ちなみにだけど、万が一敵軍の一部の部隊にハーケン門を突破された事態に備えてメンフィル帝国は”ハーケン門側で迎撃している本国からの援軍とは別の更なる援軍をロレント市近郊の街道――――――ミルヒ街道10万人、メンフィル帝国の大使館の近郊の街道であるエリーズ街道にそれぞれ10万人ずつ配置している”上、”最終防衛ライン”であるメンフィル帝国の大使館自体には傭兵として雇ったセリカお兄さん達とジェダルお兄さん達に大使館の防衛戦力として加わってもらっているわよ♪」

「ちょっ!?まだ援軍がいたの!?それも20万人も!」

「しかも最後の最後にセリカの旦那達を配置しているとか、幾ら何でもやり過ぎだろ……」

「そもそも例えハーケン門を突破できたとしても、”魔神”や”神”でもないのに、ハーケン門を突破するまでの間に疲弊したエレボニア帝国軍――――――それも全軍じゃなくて、一部の部隊程度の戦力で10万人ものメンフィル帝国軍相手に突破なんてできないでしょうから、”ロレントに辿り着く事すらも不可能”でしょうね。」

小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンが口にした更なる驚愕の事実を知ったその場にいる全員が血相を変えている中ミリアムは驚きの表情で声を上げ、ジンは疲れた表情で呟き、シェラザードは複雑そうな表情で推測を口にした。



「……レン皇女殿下。貴女は先程”最終段階”と仰いましたが、”ヴァンダイク元帥の今の行動すらもカシウス卿は先読み”していたのですか?」

「あ………」

「確かにあの爺さんの行動すらもわかっていたような口ぶりだったな。」

アルゼイド子爵のレンへの指摘を聞いたセドリックは呆けた声を出し、アッシュは目を細めてレンを睨んだ。

「うふふ…………そこまでわかったのなら、”灰獅子隊が今回請けた要請(オーダー)の内容ももう察する事もできる”でしょうけど、見せてあげるわ。――――――灰獅子隊の要請(オーダー)内容とリィンお兄さんの勇姿を。」

意味ありげな笑みを浮かべたレンは端末を操作してカレイジャスに更なるハッキングをした。するとカレイジャスの映像端末は戦闘配置についている灰獅子隊の面々に号令をかけようとするヴァリマールの場面を映した。

「あっ!」

「”蒼の騎神”や”紅の騎神”に似ている騎士人形……という事はあの騎士人形達が灰獅子隊側の”騎神”……」

「リィン――――――ッ!!」

映像端末に映るヴァリマール達を目にしたエリオットは声を上げ、エレインは初めて目にするヴァリマール達を真剣な表情で見つめ、アリサは端末に映るリィンを見つめて声を上げた。



~少し前・パンダグリュエル・甲板~



「ミュゼ、ご主人様達もそろそろ出陣()るそうよ。そっちの準備は――――――もう、できているみたいね。」

少し前パンダグリュエルの甲板に転位で現れたベルフェゴールは既に”ミルディーヌ公女としての姿から灰獅子隊に参加しているミュゼとしての姿に変え終えたミュゼ”に話しかけた。

「はい。ベルフェゴール様も先程はお疲れ様でしたわ。」

「うふふ、別にあの程度、私からしたら大したことないけどね。」

「フフ、”戦艦を容易に破壊する事が大した事ない”なんてエレボニア帝国軍もそうだけど、エマ達も”エレボニア帝国軍とは別の意味で聞きたくなかった”でしょうね。」

ミュゼに労われて答えたベルフェゴールの答えを聞いたクロチルダは苦笑しながらベルフェゴールを見つめた。



「ま、それもまた”人”だから仕方ないけどね。――――――それよりも、あの魔女を放置しておいていいのかしら?どうせこの後ご主人様達の邪魔をしに来るんじゃないの?」

「ええ、元々ヴィータお姉様をヴァイスラントの”客将”と迎える約束の一つとして、”紅き翼に加勢にいくまでの間の妨害はしない”という内容もありますから必要ありませんし、”そもそも今回の件に関してはヴィータお姉様を含めたⅦ組に協力する元結社の関係者達への対処に関して私達が考える必要すらありませんので。”」

「!?その口ぶり……どうやら今まで私達を見逃してきた連合も今回の件に関しては見逃さないつもりのようね?」

クロチルダの言葉に肩をすくめたベルフェゴールはミュゼに訊ね、訊ねられたミュゼは答えた後意味ありげな笑みを浮かべてクロチルダを見つめ、ミュゼの言葉を聞いて血相を変えたクロチルダは真剣な表情でミュゼを見つめた。

「ふふっ、ご安心ください。”約束”はちゃんと守っていますから、”ヴァイスラントは当然としてメンフィル・クロスベル連合軍、そして王国軍の関係者達もヴィータお姉様達が紅き翼と合流するまでの間の妨害は一切行いませんわよ?”――――――それではお願いします、ベルフェゴール様。」

「了解。」

そしてミュゼは笑顔で答えた後ベルフェゴールの転位魔術によってその場から去り、リィン達の元へと転位し

「……………………」

ミュゼ達を見送ったクロチルダは真剣な表情で考え込んでいた。



~ハーケン平原・灰獅子隊側~



一方その頃、灰獅子隊を地上に降ろし終えたレヴォリューションが再び空へと浮上し始めている中ミュゼがベルフェゴールの転位魔術によってミュゼの為に空けられていた機甲兵―――ケストレルβの傍に転位した。

「―――――お待たせしました、リィン少将。”予定通りこの戦場でのヴァイスラント新生軍の総主宰ミルディーヌ公女としての役目を終えました”ので、ここからは”灰獅子隊に所属しているミュゼ・イーグレット”として参戦させて頂きますわ。」

ミュゼは自身が操縦する機甲兵――――――”ケストレルβ”に乗り込んだ後既にヴァリマールに乗り込んで待機しているリィンに通信をした。

「―――――わかった。」

「ミルディーヌ……今回の戦い、本当に貴女までケストレル――――――機甲兵の操縦士として”兄様や私達と要請(オーダー)内容であるエレボニア帝国軍の総大将を討つ”事に参加する必要があるの?ヴァイスラントを率いる立場である貴女自身がそんな危険を犯す必要はないと思うのだけど……」

「そうね……それこそ、アルフィンさんのように”準起動者”として私達に力を貸してくださるだけでも、十分過ぎると思いますが。」

ミュゼの言葉にリィンが静かな表情で頷いた後エル=プラドーに乗り込んで待機しているエリスは心配そうな表情で通信でミュゼに指摘し、ヴァイスリッターに乗り込んで待機しているエリゼはエリスの意見に頷いた後軍馬に騎乗しているクルトの後ろに乗って待機しているアルフィンに視線を向けて答えた。

「お二方とも、心配して頂きありがとうございます。ですが、”この戦いを乗り越えた後の事”を考えるとオーレリア将軍が間に合わなかった時の事に備えて念のためにもヴァイスラントを率いる私自身もリィン少将やエリス先輩達と共にリベール侵攻軍にしてエレボニア帝国軍の総大将――――――ヴァンダイク元帥の討伐に直接戦闘による貢献をした方が、メンフィル・クロスベル連合の戦後の私達ヴァイスラントに対する”配慮”も更に大きくなると思われますので。両帝国は”実力主義”の上、特にメンフィル帝国は”リィン少将という例”も考えますと”どのような理由があろうとも、メンフィルに協力して成果を挙げ、メンフィルの信頼を得た人物は正当に相応の評価をする”傾向に見えますし……」

「そうだな……俺の急速な出世や”黒の工房”の関係者だったアルティナの処遇を任せてくれた事も全て、陛下達に今までの戦果を正当に評価して頂き、相応の立場――――――”少将”待遇で”灰獅子の軍団長”を任せて頂いた件を考えると、ヴァイスラントを率いるミュゼが俺達と共に学院長達と直接戦うだけでも、陛下達はミュゼの連合への貢献は非常に重要である事を理解してくださるだろうな。」

「「兄様………」」

ミュゼの答えを聞いて頷いた後一瞬だけクルト達のように軍馬に騎乗しているセレーネの後ろに乗って待機しているアルティナに視線を向けたリィンは静かな表情で答え、リィンの様子をエリスとエリゼはそれぞれ心配そうな表情で見つめた。



「リィン様。天使部隊以外の”空”の部隊全ての戦闘配置についた事を確認した。」

「同じく天使部隊並びに地上部隊全て戦闘配置についた事を確認しました、リィン少将。」

「わかった。……今回の作戦、二人に最も負担をかける事になってしまって、本当にすまない。」

するとその時ベアトリースとルシエルがそれぞれ飛行でヴァリマールに近づいて報告し、二人の報告を聞いて頷いたリィンは二人に謝罪した。

「謝罪の言葉は不要だ。私はリィン様と契約した時から、どのような厳しい内容の命令であろうと必ず遂行する事を心から決めている。それに君と契約している使い魔達の中では新参者である私が”主”である君に長き戦争の勝敗を決定づける事になる肝心な戦いに頼ってもらえる事は”飛天魔”として心躍る話だ。」

「同じくわたくしにも謝罪の言葉は不要です、リィン少将。正念場となるこの大戦、必ずやこのルシエルが力となり、リィン少将の悲願を叶えてさしあげます。大軍勢同士がぶつかり合っている中――――――それも味方軍が優勢の状況で精鋭部隊を率いて敵軍の総大将目掛けて奇襲する――――――灰獅子隊の”参謀”に任命して頂いたわたくしの”知”を持ってすれば、灰獅子隊にとっては容易い戦場となる事を証明してさしあげましょう。」

「二人ともありがとう。後は”斑鳩”と”追加協力者達”の到着を待つだけだな……」

「―――――私達の方もいつでもいけるよ、弟弟子。」

二人の心強い言葉に感謝したリィンがある事を思い出して呟いたその時チョウと”身の丈程ある大剣を背負い、法衣を身に纏った赤毛の女性”と共にヴァリマールに近づいたシズナがヴァリマールに話しかけた。

「斑鳩はレヴォリューションで移動した”灰獅子隊(おれたち)”と違って連合本陣から徒歩による移動で来たばかりなのに、すぐに出陣して大丈夫なのか、シズナ?」

「ふふ、斑鳩の猟兵達はそんな貧弱(ヤワ)な連中じゃないよ。―――むしろ、”準備運動にすらならないかな。”依頼もまだ達成していないのに報酬も全額支払ってもらった上”斑鳩”の名を東ゼムリアに轟かせる為もそうだが、可愛い弟弟子の成長の為にも報酬以上の働きはさせてもらうつもりだから、大船に乗ったつもりでいるといい。」

リィンの問いかけに対してシズナは不敵な笑みを浮かべて答え

「そうか……シズナがそこまで言うんだったら、遠慮なく斑鳩の活躍を期待させてもらう。―――――それで、貴方達が陛下達の話にあった”追加協力者達”の方々ですか?」

シズナの答えに頷いて答えたリィンはチョウと赤毛の女性に視線を向けて問いかけた。

「ええ。――――――お初にお目にかかります。黒月(ヘイユエ)の長老が一人、”ルウ家”にお仕えしているチョウ・リーと申します。お会いできて光栄です、”灰色の騎士”殿。私としては、”灰色の騎士”殿とは戦後機会があれば是非よいビジネス関係を結びたいとも思っておりますので、どうか今後ともお見知りおきお願いいたします。」

「は、はあ……?えっと、そちらの方は”星杯”の紋章のペンダントと法衣姿から察するに”星杯騎士団”の方ですか?」

恭しく頭を下げて挨拶をした後笑顔を浮かべて話しかけるチョウの様子に冷や汗をかいて困惑しながら答えたリィンは女性に視線を向けて確認した。

「ああ。――――――星杯騎士団(グラールリッター)守護騎士(ドミニオン)第四位”烈火の真焔”セリス・オルテシアだ。”至宝”が関係しているその人形達を軍事利用しまくっている上、戦後も教会に渡すつもりもないテメェ()メンフィルとよろしくするつもりはないが、副長達が贔屓しているトールズのガキ共に協力している”蛇”達の”抑え”を担当しているリオン共々”任務”はちゃんと果たすから、テメェも要請(オーダー)とやらをちゃんと果たせよ、”灰色の騎士”。」

「(聖職者とは思えない口の悪さだな……)ええ、元よりそのつもりです。」

女性――――――星杯騎士団を率いる守護騎士の一人、”烈火の真焔”セリス・オルテシアはリィンの問いかけに頷いた後ヴァリマールを睨んで指摘し、セリスの口の悪さにエリゼ達と共に冷や汗をかいたリィンはすぐに気を取り直して答えた。



「フフ……”リィンを灰獅子隊の軍団長にすれば、紅き翼の時のように灰獅子隊に協力する人々が現れる”と思っていたけど、まさか高位の魔族達に加えて天使達の協力まで取りつけるなんて、完全に想定外だったわ。」

「なっ……という事は教官はリィンのあの”悪い癖”も計算に入れてリィンを灰獅子隊の軍団長にしたんですか……!」

「まあ、ルシエル殿を含めた天使の方々はともかく、ベアトリース殿を含めた高位の魔族の方々に関してはリィンの”悪い癖”が結果的にいい方向に向かっただけの話ですけどね……」

一方灰獅子隊の陣営の中でヴァリマール達の様子を見つめながら呟いたメンフィル帝国軍の女性将校――――――”モルテニアから転位魔術でレヴォリューションに転位したセシリア”は軍馬に騎乗して苦笑しながら灰獅子隊の陣営内で待機している魔族部隊や天使部隊を見つめて呟き、セシリアの言葉に軍馬に騎乗しているディミトリは驚き、エーデルガルトは当時の出来事を思い返して呆れた表情で呟いた。

「しかし、意外でしたよね~。本来なら”総参謀”として本陣で指揮を取ると思われた教官までこっちに来るなんて。――――――それもよりにもよって、この戦争の勝敗を決定づける事になる”事実上の決戦”に。」

「この大戦の全体的な指揮を担当しているのはリベールのカシウス中将の上、メンフィル帝国軍内での細かい指揮は他の参謀達で十分で貴方達に加勢する余力ができたから貴方達に加勢することにしたのよ。――――――貴方達が”リィンの仲間としてこの戦いでのリィンの邪魔をさせない為に彼らを阻む”ように、私もリィンの担当教官として…………そして貴方達の担当教官としてもこの大戦で”彼ら”を阻む事は最初から決めていたのよ。」

「そうだったのですか……」

「……それにしても意外ですね。効率を重視し、私情を挟まない事が求められる”参謀”――――――それもその”参謀”達の纏め役である教官がそんな非効率で私情も混じっている戦いをするなんて。――――――それも戦争の勝敗を決定づける事になるこの大戦で。」

地上に待機している飛竜に騎乗しているクロードに話しかけられて答えたセシリアの答えを聞いたディミトリは目を丸くして呟き、エーデルガルトは意外そうな表情を浮かべてセシリアを見つめて指摘した。

「確かに参謀には常に冷静な判断や効率を重視する事、そして私情を挟まない事が求められるわ。――――――『時には”ハメ”を外しても構わない。我々参謀もまた”人”なのだから。勿論、”ハメ”を外す際はその為の段取りをする必要はあるがね。』とパント様から教わったのよ。だから、私も自慢の教え子である貴方達の成長を傍で見る事もそうだけど、最悪エレボニアへの留学によって親しくなり、絆を結んだ人達に嫌われることになってもその人達の為にもかつてはお世話になった国を救おうとしている教え(リィン)に教え(リィン)の担当教官としてせめて肝心な戦いの時くらいは力になろうと思っていたのよ。」

「教官……」

「へ~、パント卿の教えでそんな教えもあるんですか。……勉強になりました。」

セシリアの話を聞いてセシリアの教官としての自分達やリィンへの気遣いを知ったディミトリは尊敬の眼差しでセシリアを見つめ、クロードは興味ありげな表情を浮かべて呟いた。

「それに、貴方達もそうだけど、Ⅶ(かれら)にも教えてあげるのが”筋”だと思ったからよ。――――――今回の要請(オーダー)を含めた連合や新生軍が出した灰獅子隊(リィンやあなたたち)への要請(オーダー)のほとんどは”Ⅶ組”と(ゆかり)がある事柄だったのかを。」

「私達だけでなく、Ⅶ組にも……?ステラやフォルデ先輩は教官が『リィン達が本当にエレボニアと決別できているかどうかを試す為かつ、リィンがこの戦争で更なる上の地位に着くことで戦後のエレボニアについて口出しできる立場になった時、トールズ士官学院に通っていた経験でエレボニアの人々と親しいリィンの二心を疑うかもしれない方々を納得させる理由を作る為』じゃないかと推測していましたが。」

セシリアが口にしたある言葉が気になったエーデルガルトは眉を顰めて指摘した。

「フフ、私の考えに対する推測の評価点として100点満点で評価するとしたら60点くらいね。」

「え……という事は他にもまだあるのですか?」

エーデルガルトの指摘に静かな笑みを浮かべて答えたセシリアの答えを聞いたディミトリは呆けた後不思議そうな表情で訊ね

「ええ。”残りの40点”に関してはⅦ(かれら)と相対した時に教えてあげましょう。」

ディミトリの疑問にセシリアは頷いて答えた。



「あの、マスター……本当に私達でよろしかったのですか?」

「何の事ですか?」

セシリア達が会話をしている同じ頃、セシリア達のように灰獅子の陣営内で待機しているデュバリィはリアンヌに訊ね、訊ねられたリアンヌは問い返した。

「デュバリィが言いたいのは、シュバルツァー達の件です、マスター。」

「転生する前のマスター――――――”槍の聖女”の”想い”も受け継いでいるマスターならば、”槍の聖女が我が子のように大切に想っていたシュバルツァー”の為にシュバルツァーに直接加勢するか、もしくは傍で見守りたいのではなかったのかとデュバリィは言いたいのです。」

「二人とも私のセリフを取るんじゃありませんわ!」

デュバリィの代わりにエンネアとアイネスが答え、二人の言葉を聞いたデュバリィは思わず二人に突っ込み、それを見たリアンヌ達の様子を近くで見守っていたローゼリアは冷や汗をかいて脱力した。

「コホン。二人の言っている事もそうですが、”有角の若獅子達”の相手等、私達と私達と共に彼らを阻む”黒獅子達”や”白銀の剣聖”達で十分ですのに、オリエ殿はまだしもマスター自らが相手をする必要はないと思うのですが……それこそ”有角の若獅子達”に協力している唯一驚異的戦力であろ”光の剣匠”が出てこようと、彼の相手は”白銀の剣聖”が担当するのですから、マスターまで”有角の若獅子達”を阻む必要性はないと思うのですわ。」

「いえ、この戦場に限って言えば、銀の騎神(アルグレオン)起動者(ライザー)たる私の力も必要でしょう。」

「……なるほど。そういえば、”有角の若獅子達”には二体の”騎神”とその”起動者”達がいる事もそうだが、機甲兵も保有しているな。」

「彼らが介入した今までの戦場と違って、この戦場は”騎神や機甲兵の力を存分に振るえる戦場”だから、間違いなく騎神もそうだけど、機甲兵も活用して彼らを阻むメンバーを超えてシュバルツァー少将達に辿り着いて目的を阻もうとするでしょうね。それを考えるとこちらも騎神で対抗する必要はあるでしょうね。」

気を取り直して指摘したデュバリィの指摘に対して答えた後自身の背後に待機している銀の騎神――――――アルグレオンに視線を向けたリアンヌの話を聞いて事情を察したアイネスとエンネアはそれぞれ納得した様子で呟き

「……要請(オーダー)内容である目標自身と戦う相手はシュバルツァー――――――”灰”と最初から決まっていた為当然”灰”と共に戦う騎神達には連携力が求められるのですから、その”灰”を駆るシュバルツァーと兄妹としてもそうですが男女としての仲も深いエリゼ・エリス姉妹が駆る”白”と”金”は間違いなく”灰”との連携力は高いでしょうからエリス達も外せませんし、唯一エリゼ・エリス姉妹程シュバルツァーとの連携力の高さは出せないと思われるミルディーヌ公女がオリエ殿と共に有角の若獅子達側の騎神達を相手にした所で、オリエ殿はともかく公女には荷が重すぎ相手ですわね……」

デュバリィも二人に続くように複雑そうな表情を浮かべて推測した。



「それらの件も関係していますが、”リアンヌ・サンドロットの想い”を受け継いだ私だからこそ、果たすべき役目でもあるからです。――――――彼女が愛し、仕えたドライケルス帝の志を受け継ぐ者達が”全ての元凶”に挑む”資格”があるかどうかを確かめる為にも。」

「それは……」

リアンヌの意志を知ったエンネアは複雑そうな表情を浮かべて答えを濁した。

「それに、デュバリィ。貴女は彼と約束をしたのでしょう?――――――この戦争でエレボニアを救う為にⅦ(なかま)と決別した彼を”見極める”と。それとエリスが正式に貴女の”弟子”になった事もアイネスとエンネアから聞いています。貴女にとっての初めての”弟子”の成長を見守り、また”師”として守る役目がある貴女の方が私よりもエレボニアを救う為に”恩師”に挑むシュバルツァー少将達の傍で戦うべきです。」

「!私如きへの気遣いの為にも、本来のマスターの役目を私達に譲ってくださったのですか……!」

優し気な微笑みを浮かべたリアンヌに指摘されたデュバリィは目を見開いて驚きの表情でリアンヌを見つめた。

「―――――話は以上です。そろそろ出陣の時間です。私に代わり、ヴァンダイク元帥達と直接戦うシュバルツァー少将達への援護も兼ねた見届け役、貴女達に任せましたよ、デュバリィ、アイネス、エンネア。」

「「「イエス・マスター!!」」」

そして表情を引き締めたリアンヌの指示にそれぞれ胸に手を当てて力強く答えたデュバリィ達はその場から立ち去った。



「……やれやれ。頭ではヌシが”リアンヌではない”とわかっているが、それでもリアンヌに見えてしまうのは今のヌシ――――――”シルフィア”という者もリアンヌと並ぶ程の不器用な性格をしている者じゃからかの?」

デュバリィ達が立ち去るとローゼリアが溜息を吐いてリアンヌに近づいて声をかけた。

「フフ、”私――――――シルフィアが不器用な性格”である事に関しては否定しません。……敢えて”彼女”と異なる点で挙げるとすれば、私は”彼女”と違い、”母”でもあるという事でしょうか。」

「そういえば、メンフィルの現皇帝の母親は”シルフィア”であったな……もし、”獅子戦役”の決戦で命を落として”不死者”にならなければ、ドライケルスと結ばれてエレボニア皇帝の跡継ぎの母になっていたであろうことも考えると”リアンヌ”と”シルフィア”は性格だけでなく、”あらゆる部分”でそっくりじゃの。」

苦笑しながら答えたリアンヌの話を聞いてある事を思い出したローゼリアは静かな表情で呟いてリアンヌを見つめた。

「確かに言われてみればそうですね………――――――それで、”貴女の知っているリアンヌの事について”何を知りたいのですか?」

「……ッ!フン、察しが良い事といい、ますますあやつそっくりじゃの………ならば、訊ねさせてもらう。――――――どうしてリアンヌは”呪い”の件について妾に少しでも相談してくれなかったのじゃ……!?リアンヌも、ドライケルスも……!呪いとなればまず魔女(わらわ)じゃろうが……!?」

静かに問いかけたリアンヌの問いかけに唇を噛み締めたローゼリアは鼻を鳴らして呟いた後辛そうな表情を浮かべてリアンヌに問いかけた。

「―――彼は言っていました。『これはあくまで人の業なのだ。平穏を取り戻した人の世ですらロゼに泣きつくようでは”他の至宝”の二の舞、三の舞。生涯を終えようとする老いぼれがあまりに格好がつかぬだろう?』」

「………っ……………!!」

リアンヌを通しての今は亡き友の言葉を聞いたローゼリアは息を呑んだ。

「―――”私”にとっても、これはただの個人的な”意地”でしかありません。大切な友人(あなた)に、そんなものを背負わせるわけにはいかないでしょう?」

「……………………ッ…………揃いも揃って……………………水臭くて、救いようのない阿呆どもが……………………いや…………一番の阿呆はそれに気づけもせなんだ妾か…………」

リアンヌ・サンドロッドの自分への心遣いを知ったローゼリアは寂しげな笑みを浮かべた。



「……話はわかった。これが最後の問いじゃ。何故”意地”を通してでも”全ての元凶”を滅ぼすつもりであったあやつはヌシに後の事を託して逝くことができたのじゃ………!?」

「それは(シルフィア)の方が 彼女(リアンヌ)よりも生への渇望があり、そして (シルフィア)が紡いでいた”絆”であるリウイ陛下達の方が、”全ての元凶”を滅ぼせる確率が遥かに高かったからです。」

「魔王と女神の血を受け継ぎし異世界の半魔人の王とかの王を支える”光と闇の英雄”達、そして”匠王”達に”神殺し”達か………実際、かの王は皇太子を救う為にエマ達が突入した”地精”の本拠地でも生身で”全ての元凶”――――――”黒の騎神”を圧倒したとの事じゃし、異世界の”匠王”やその娘達はあの”地精”を遥かに超える技術力を修め、そして”黒の騎神”をも圧倒した半魔人の王すらも圧倒したという”神殺し”……あやつはヌシが宿った事によってヌシの記憶から、かの王達の”力”を知った事で”意地”を貫き通す必要は無い事を悟った事もそうじゃが、かの王達がいればもはや自分は必要ではなく、むしろ”黒の騎神を確実に滅ぼせる者達の障害”になると判断し、かの王達との”絆”が深いヌシに後の事を託したという事か……」

「……………………………貴女の知りたい事はこれで”全て”ですので、私はこれで失礼します、”ローゼリア殿”。」

複雑そうな表情を浮かべてリアンヌ・サンドロットの考えを推測したローゼリアに対してリアンヌは何も答えず、目を伏せて黙り込んだ後目を見開いてローゼリアを見つめて答えた後アルグレオンに乗り込もうとした。

「――――――待て。」

「?」

しかしその時ローゼリアがリアンヌを呼び止め、呼び止められたリアンヌは不思議そうな表情を浮かべてローゼリアに視線を向けた。

「今後妾の事は”ロゼ”と呼べ。」

「しかしその呼び方は貴女の友である”彼女”の呼び方なのですから、”シルフィア”である私には貴女をそう呼ぶ”資格”は……」

「今のヌシもまた、”リアンヌ”じゃろうが!そもそもあやつに限らず、妾を”ロゼ”と呼ぶ者達は他にもたくさんいるし、あやつに”後の事を託された”のならば、当然”残された妾の事も託された”のじゃから、責任を取って妾の新たな友となるのが”筋”じゃろうが!」

「…………………………フフ、それを言われると反論できませんね。」

ローゼリアの反論に一瞬目を丸くして呆けて黙り込んだリアンヌはやがて苦笑し

「貴女がそれでよろしいのでしたら、今後とも改めてよろしくお願いします、”ロゼ”。それとシュバルツァー少将達の件、デュバリィ達共々よろしくお願いします。」

「うむ。元々”灰”の小僧達の件に関してはヌシに頼まれなくてもそのつもりじゃったから、ヌシも存分に暴れてくるといい!」

そして優し気な微笑みを浮かべてローゼリアを見つめて答え、リアンヌの言葉にローゼリアは口元に笑みを浮かべて頷いて指摘した。



「はい、はい………――――――わかりました。リィンさん、お父様――――――リウイ陛下より灰獅子隊の出陣命令が出されました。」

「了解しました、プリネ皇女殿下。」

「――――――少しいいかい、リィン。」

通信機で誰かとの通信を終えたプリネに呼びかけられたリィンは頷いた後ヴァリマールを灰獅子隊の陣営に向けて号令をかけようとしたその時、シズナが声をかけた。

「どうしたんだ、シズナ。」

「これ程の”大戦(おおいくさ)”――――――それも、”戦争の勝敗を決定づける事になる事実上の決戦”でもあるのだから、配下や仲間達に号令以外の激励の言葉をかけるのが”軍を率いる将の役目”というものだよ。――――――先程の公女や兄弟子達のようにね。」

「フフ、そうですね。今までは号令ばかりでしたから、こんな時くらいは兵達の士気をより上げる事で生存率を少しでも上げる為にも激励の言葉をかけてあげるべきですね。」

「ステラの言う通りだな。お前の活躍もそうだが常に先頭に立って勝利に導いたお前を間近で見てきた灰獅子隊の面々は当然として、お前の”力”を認めたベアトリースちゃん率いる魔族部隊にお前の”正義に共感すると共に””恩返し”の為にも協力してくれているルシエルちゃん率いる天使部隊のみんなはお前を慕ってこれまで戦ってきたんだから、そんなお前からの激励の言葉があれば、更にやる気を出すんじゃねぇのか?」

シズナはリィンにある提案をし、その提案を聞いたステラとフォルデはそれぞれ同意した。

「………わかった、やってみる。」

「フフ、だったらまずは私が君の”姉弟子”として”手本”を見せてあげるよ。」

リィンが自身の提案に同意するとシズナは静かな笑みを浮かべて答えた後斑鳩の猟兵達へと振り向いて激励の言葉をかけた。



「――――――”斑鳩”総員!この大戦はゼムリア大陸全土に我ら”斑鳩”の”名”と”力”を示す絶好の機会である事は百も承知しているだろう!スポンサーも今まで請けた依頼の中で最大級だし、”国”が依頼するレベルの大金である報酬も”全額前払い”という豪胆な事までしてくれた。――――――ならば、次は我らがスポンサーに示す番だ!スポンサー――――――メンフィルが”ゼムリア大陸真の覇者”と呼ばれているように、”ゼムリア大陸真の最強の猟兵団”と呼ばれるべき猟兵団は”赤い星座”でもなく、”西風の旅団”でもなく、我ら”斑鳩”である事を!」

「ハッ!!」

「オオオオオオオオォォォォォォォォ――――――ッ!!」

シズナの激励に対して斑鳩の猟兵達は士気を高めてそれぞれ力強く答え、それを確認したシズナは『次はリィンの番だ』と伝えるかのようにヴァリマールに視線を向けてウインクをした。

「――――――灰獅子隊総員並びに協力者総員!大戦の前に、俺がみんなに言っておきたいのはこれだけだ。……誰も死ぬな!みんなが協力し合った事で、ここまで灰獅子隊は”戦死者”を一人も出さずに来れたんだ。最後まで油断せず、もてる力の全てをだしきって……この長い戦いに終止符を打とう!仲間や家族を悲しませたくなければ生き延びろ!」

「オオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオ――――――ッ!!」

ヴァリマールの操縦席にいるリィンはシズナのウインクに頷いた後灰獅子隊の面々に対して力強い激励の言葉をかけ、リィンの激励の言葉によって灰獅子隊の面々はそれぞれの武器を空に掲げて勇ましい雄叫びで返した。

「――――――灰獅子隊、出陣!狙うは敵軍総大将ヴァンダイク元帥の首唯一つ!全軍、進軍開始ッ!!」

「――――――侍衆”斑鳩”、出陣!我ら”斑鳩”の力を世界に示せっ!!」

「オオオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオオ――――――ッ!!」

そしてそれぞれの得物を戦場に向けたリィンとシズナの力強い号令によってその場にいる全員は雄叫びを上げた後ハーケン門に向かって戦場を駆けるヴァンダイク元帥達に向けて進軍を開始した――――――!

 
 

 
後書き
灰獅子隊の中では一番の新参であるはずのシズナが何気にリィンとのダブル号令を務めるという灰獅子隊の面々の中で別格扱いになってしまったのも、リィンの姉弟子だからでしょうかねww後セリスの二つ名は私が考えたこの物語のオリジナル二つ名にしました。せめて、黎の軌跡で判明していたら助かったのですけどね。




それと予想以上に文章が多くなってしまって区切らざるをリィン達が出陣する所で得なくなり、エステル達が登場するという予告詐欺を行ってしまい、申し訳ございません(汗)エステル達の登場は次回になると思います……多分(オイッ!)なお、リィン達が待機している場面や出陣する場面のBGMも”誓いを胸に”や”天と地の境界”ですが、出陣する場面のBGMは”天と地の境界”以外にファイアーエムブレム封印の剣の”新たなる光の下へ”もあると思ってください。 
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