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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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クロスファイヤー

 
前書き
コロナがついに身近まで迫ってきました… 

 
『一回の表、明宝学園の攻撃は一番・ライト・新田さん』

打席に入る栞里。彼女が打席に入るとキャッチャーを務める岡田(オカダ)はベンチに視線を送る。

(先頭にサインを出すようなことはないか。でも初球から振ってくるようなことするかな?)

自分たちが多彩な球種を使ってくることは耳にしているはず。それなら少しでも見極めるために球数を放らせようと考えてするのがセオリー。

(まずは入れておこう。ただしこいつで……)

出したサインはスライダー。マウンドを任せれている山口が持つ球種の中でもっとも自信があるボールを選択した。

右打者である栞里に対して左からのスライダーは内に切り込んでくる球種。踏み込めば差し込まれる可能性が高いボールだったが、栞里はこれを果敢に振っていき、打球はキャッチャーは地面へと突き刺さる。

「ファール!!」

ボールの上っ面を叩く形になった。スイングをした彼女はバットを見た後、すぐに構えに入る。

(待球なんてしてくるチームじゃないか。ならこいつはどう?)

続くボールの変化球。ただし、先程のスライダーよりもスピードが遅く変化も大きい球、スラーブを要求する。

(低く外れてもいい。当てないでね)
(了解)

変化が大きい分コントロールが難しい球種。そのため右打者には滅多に使わないが初球の反応を見て使用することを決めた。
外から大きく入ってくるスラーブ。栞里はこれに反応したが、バットは出なかった。

「ボール」

ワンバウンドするほどの大きな変化。その変化量に反応が遅れてスイングできなかったが判定に救われた。

















「うわっ!!今のがスラーブ!?」
「左打者にこれは厳しいだろうな」

スタンドからこの試合を観戦しているのはこの日の第一試合でコールドゲームを決め、一番乗りでのベスト4入りを決めた東英学園の選手たち。準決勝まで間が空くこともあり、この日は試合を観戦することになったようだ。

「でもランナー出てあのボールは使えないでしょ?」
「確かに……」

山口のスラーブの使用頻度が低い最大の理由はその大きすぎる変化。本来なら武器になるはずのその変化が仇となりなかなか使用するにできないでいる。

「次は何で行く?」
「外にストレートで十分だろ」
「なんで?」
「緩いボールを二つ見せた後ならあの程度のストレートでも十分さ」
「あの程度って……」

大河原の発言に苦笑いを浮かべる。だが、彼女がそう言いたくなる気持ちもわかる。

「瞳さん、強気だね」コソッ
「秋にボール球ホームランにしてるからね」コソッ
「そりゃそう言いたくなるよ」

秋の対戦で大河原は山口と対戦している。その時は変化球で追い込まれてから外の見せ球であろうストレートをスタンドまでかっ飛ばした。そんな彼女の言葉だからこそ、説得力がある。

そしてそれは岡田も同じだったようで外角へのストレート。際どいコースだったが栞里はこれを打っていき、打球は一塁への鋭い当たりだったがわずかにラインを割ってしまう。

「追い込んだな」
「次は何で行きたい?」
「山口ならナックルで決まりだろ?」

長いイニングを投げる投手なら決め球を終盤まで温存するが彼女たちの売りは継投。それなら序盤から惜しみ無く球種をさらけ出しても問題ない。

小さなテイクバックから放たれた四球目。その軌道はスタンドから見ても山なりになっており、バッターは体勢が崩れてしまう。

「ストライク!!バッターアウト!!」

不規則な変化を生み出すナックル。しかもその直前にはストレートを投じられていたこともあり、栞里はタイミングを合わせることができず空振り三振に倒れてしまった。

















「栞里さんが三振……」

ベンチの横で陽香とキャッチボールをしていた莉愛は三振に仕留められた先輩を見て口を真一文字に結ぶ。

「莉愛」
「あ!!すみません!!」

陽香から呼ばれて慌てて向き直る莉愛。相手である彼女は真剣そのものの顔をしており、莉愛も集中力を上げていく。

(あのナックルは打ちにくそうだな」

遠目から見ても打ちにくさが伝わる魔球。これには彼女だけでなくベンチから見ていた仲間たちも目付きを鋭くしていた。

「どうだった?」
「すごいよ!!ナックルみたいだった!!」
「だからナックル何だって……」

伊織からの問いに興奮しながら答える栞里。そのボケに真田が突っ込みを入れるとドッと笑いが巻き起こった。

「で?実際どう?」
「かなり厳しいかな?でもスライダーとストレートは普通って感じ。ミーティング通り狙い球を絞っていけば打てるよ」

打ち取られてもただでは帰ってこない。だからこそ真田は彼女をトップバッターに置いているのだ。

(あのナックルが来ると打てなさそう……追い込まれる前に決めないといけないな)

続いて打席に立っているのは紗枝。彼女は栞里からの情報は得られていないものの、自分が打つべき球はよくわかっていた。

(狙うはスライダー。ストレートは見せ球で使ってくると思う!!)

打席に入った彼女をじっと見た岡田はサインを送る。彼女がサインを送ると山口は一瞬の間があった後、頷いて投球に入る。

(何?今の間……)

そのわずかな間合いが気になった紗枝。彼女はこれから予想外のサインが出たと考えた。

(まさか初球からナックル?)

決め球を最初に出されれば少なからず動揺すると考えられる。そう思った紗枝はじっくり見ようと待ちに徹することにした……が!!

「うわっ!!」

放たれたボールは顔面目掛けてやって来たため、紗枝は倒れるように回避した。

「ごめん!!大丈夫?」
「どうも……」

心配そうな顔で手を貸す岡田。紗枝はその手を借りて立ち上がるが、その時の彼女の表情は笑っていた。

(なるほど……だから間が生まれたのか……)

キャッチャーの要求は危険球スレスレのボール。だからピッチャーは一瞬躊躇いが生まれたのだと紗枝は理解した。

(内に見せたなら次は外でしょ?)

今の球が見せ球なら恐怖心で腰を引かせることが目的のはず。それがわかっているからこそ、紗枝は意識を外に向ける。

(美紅先生の予想通り負けん気が強い子だな。これなら次のボールを振ってくれるぞ)

予定通りに動いてくれる相手にニヤケが止まらない岡田。彼女は続くサインを送ると、今度は間髪入れずに山口も頷く。

(やっぱり予定通りだったんだ!!じゃあ絶対外だ!!)

速いテンポのサイン交換で予想から確信へと変わった。案の定投じられたのは外から入ってくるスライダー。

(予想通り!!)

紗枝は狙い通りのボールに喜んで食いつく。しかし、その前の残像が残っていたのか、バットの出だしが遅れた。

ガキッ

鈍いスイングから快音が響くわけもなく打球は力ないセカンドゴロ。簡単に2アウトになってしまう。

「2アウト!!愛里!!雪乃(ユキノ)!!もっとこっち!!」
「オッケー!!」
「はい!!」

ショートとセカンドをサード側に寄せる。打者は莉子とあり、これでは内角を攻めてくることが安易に読める。

「焦ったな」
「すみません」

ベンチに戻る紗枝に声をかける陽香。狙いがわかったゆえに気持ちが焦った彼女の頭をポンポンと叩きながらベンチへと送り出す。

「ドンマイ」
「ごめんごめん」

莉愛とも簡単な言葉を交わすだけでベンチへと戻る紗枝。彼女はバッティング手袋を外しながら守備の準備をしている。

「今度は内角攻めか?」
「さぁ?どうかな?」

わざとらしく問いかけてみた莉子にこれまた同じように濁す岡田。莉子は打席に入り、再度ポジションを確認する。

(ショートとセカンドが寄っているなら内角攻めがセオリーだけど……そんな単純に来るか?)

普通ポジショニングは投球のギリギリまで粘る。そうしなければコースがバレてしまう可能性があるからだ。しかし、ここまで極端に動かすということは、逆に罠であることも考えられる。

(まずは見てみるか。真ん中以外は振らない)

狙う球は山口が多く投げてくるストレート、スライダー、そしてシンカーだが、例えその球種が来ても厳しいコースなら手を出さない。そう決めて打席に入る莉子。対する岡田は気楽な思考をしていた。

(2アウトランナーなし。ここは塁に出してもいいよ)

ここから点を奪うにはホームランか連打しかない。高い守備力が売りの自分たちがエラーをすることなど考えていないからこそ、この状況は自由に攻めることができる。

(その代わり厳しく攻める。それを打たれたら仕方ない)
(了解)

塁に出してもいいがタダで塁をくれてやるわけがない。岡田は頭の中で既に決めている決め球を生かすための配球を計算する。

(まずはこれだ)

頷き投球に入る山口。そこから放たれたボールは真ん中への甘いボールに見えた。

(甘い……いや、このスピードは……)

違和感を感じた莉子は出しかけたバットを止める。真ん中に向かっていたボールはブレーキがかかったように、逃げるような軌道で落ちていく。

「ストライク!!」

真ん中からのシンカー。それもストライクに入れることにより仮に振ってきても内野ゴロを奪えると考えての初球。その目的は果たせなかったが、カウントはバッテリー有利になる。

(ここでナックルを行くよ)

二球続けての変化球。しかし、それは彼女の決め球ともいえるボールであるため、莉子のスイングはその軌道を捉えられず空振り。追い込まれてしまう。

(ナックルをここで使うか……相当自信があるんだな)

二球続けても打たれないと自信があるからナックルをここで使ってきたと考えた莉子。しかし、岡田はそんなことを考えていない。

(今ので緩いボールに目が慣れている。しかもこの変化……次もナックルが来ると思うよね?)

まるで思考を読み取っているかのような彼女の頭脳。完全に主導権を得た彼女は笑みを浮かべ、決めていたサインを送る。

(ぶつけないでね?)
(そうなったらごめんね)

山口もそれがわかっていたからか、小さく笑みを浮かべながら構えに入る。

(ん?立ち位置が……)

モーションに入るサウスポー。彼女をじっと見ていた莉子はある違和感を覚えると、すぐに球種が判別できた。

((ナックルの後にこれは対応できないでしょ!!))

岡田も山口もこのアウトを取ることに何の疑問も感じていなかった。プレートを一塁側いっぱいに使い、右打者の胸元へと飛び込んでいくストレート。

(いい!!完璧なクロスファイヤー!!)

左投手対右打者でもっとも有効になるボールと考えられるクロスファイヤー。しかも山口はサイドスロー。ただでさえも角度が厳しいそのボールが、より食い込んでくるように入ってくる。さらに秀逸なのはその前のナックル。打者はそれに目が慣れた後に速い球。食い込んでくるそのボールを捉えることは困難。

(やっぱり……)

しかしそれは、球種が読まれていない時に限る。

キンッ

「「!!」」

追い込み方も決め球も、コントロールも完璧だったはずのボール。しかし莉子は投げた瞬間に体を開き、スイングするというよりも当てるといった感じにボールを捉えた。

「ショート!!」

打球はレフト、ショート、サードの間へと上がる。あらかじめレフト寄りに守っていたショートが飛び込むが、打球はそのグラブを掠めるように落ちる。

「ボール二つ!!」

落ちたボールをレフトが処理し二塁へ送球する。素早い対応だったことで莉子は一塁を回ったところでストップしていた。

(分かりやすすぎたかな?完全に読まれてた)

意識付けのために極端なリードを試みたがそれにより彼女からは読まれてしまい、うまく捌かれてしまった。しかし、岡田はベンチの佐々木が手で丸を作っていることに気が付く。

(水島がうまかっただけか。そりゃそうだよね、普通のバッターならわかってても差し込まれて内野ゴロが関の山だろうし……)

自分たちのやり方に何も間違いがなかったことを確認した少女たちはアウトカウントを確認し合うと、次の打者へと意識を移す。

(U-18では一番を務める強打者……でも、左打ちである限り山口を打つのは無理だよ)

女子野球トップクラスの強打者を打席に迎えながらも余裕な表情を崩さない翼星ナイン。対する優愛はいつも通りのマイペースさで打席へと入った。





 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
最初調子が良くてその勢いのままに水の滅竜魔導士書いて戻ってきて仕上げるという勢いをうまく使う作戦。
そしてまだ初回にも関わらず一話使う長さ。何なら優愛の打席だけで一話書けそうな勢いな件について。 
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