DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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準々決勝開幕!!
前書き
休みの日筋トレと買い物とこれしかしてない……
「お客さんいっぱいいるね!!」
シートノックを終えベンチからスタンドを見ている莉愛。彼女はストレッチをしている瑞姫に声をかける。
「ほとんど偵察だろうけどね。カメラ構えている人いっぱいいるし」
興奮気味の彼女を宥めるように冷静にそう答える。それを聞いて再度スタンドを見渡す莉愛もカメラが多くあることに気付き、残念そうにタメ息をつく。
「観客なんか関係ないでしょ。しっかり陽香さんをリードするのが莉愛の役目なんだから」
「そうだけどさぁ……」
昨年の夏の甲子園大会を見ていたため試合になれば多くの観客がいると思っていた彼女。しかし、地方大会……ましてや女子野球となると観客数は少なくなるのは必然。それがようやくわかってきたからか、今日のスタンドに多くの人がいることに盛り上がっていたのだ。
「そんなことより莉愛ちゃんはそろそろヒット打たないとね」
「キャッ!!」
二人の会話を聞いていた優愛が莉愛の後ろから声をかける。それが突然だったため、彼女が近付いてきていることに気が付いていなかった莉愛は震え上がっていた。
「優愛ちゃん先輩!!びっくりさせないでください!!」
「そんな隙だらけだと足元掬われるぞぉ!!こんな風に!!」
「きゃああああ!!」
抱き付くような体勢から少女のお尻を鷲掴みにする優愛。その緊張感のないやり取りに真田が苛立ちを露にする。
「ミーティングするぞ!!集まれ!!」
試合前のミーティング。それは最後の打ち合わせをするための重要な時間である。そのため緊張感が薄れている選手たちを集め再度気を引き締め直そうという狙いがあった。
「お前は投げておかなくていいのか」
「はい。あとは攻撃中にキャッチボールすれば大丈夫です」
この試合は先攻になっている明宝学園。そのためブルペンでの投球練習を陽香はほどほどに済ませ、ベストな状態でマウンドに上がれるようにと調整していた。
「お前ら気合い抜けすぎだぞ。昨日大勝したことなんか今日の試合じゃ役に立たないからな」
彼女たちの緊張感が薄れていた理由、それは前日の三回戦をコールドゲームで決めたことによる慢心だった。苦戦も考えられた試合で常に主導権を握り続けていたこともあり、楽勝ムードが出てしまっていた。
「仕方ない……嫌でも気合いが入る情報を教えてやるよ」
「「「「「??」」」」」
ニヤリと笑みを浮かべる監督。前日は疲労を取るためにと試合観戦をしなかったため、彼女たちは今日の対戦相手であり東京都四強と呼ばれている翼星学園のことをほとんど把握できていない。本当はそれで問題ないと考えていた真田だったが、あまりにも彼女たちがだらけているためあえて伏せていた情報を伝えることにする。
「翼星は現在野球界にある球種を全て使うことができると言われている」
「「「「「!?」」」」」
それを聞いた瞬間に一斉にブルペンを見る少女たち。そこで投げている左のサイドスローの背番号1は特に際立ったものを持っているようには見えなかった。
「翼星は三人の投手の継投を使ってくる。ここまでコールドはないが、失点もない。完全な守備偏重型のチームだ」
シートノックで守備の動きがいいことは確認していたが、投手力が高いことまでは把握できていなかった。しかし、このタイミングでそれを教えられたことにより彼女たちの空気はピリッとしたものになっている。
「先発は左のサイドスロー山口。こいつはスライダーにスクリュー、スラーブ、ツーシームにナックルを使ってくる」
「ナックル?」
「爪で弾くように投げることで回転を失くし、揺れるような軌道を描きながら落ちてくるボールだよ」
「え!?ボールが揺れるの!?」
野球を始めたばかりの莉愛は初めて聞いた球種に驚きを隠せない。
「投げた時は回転しないんだけど、ミットに向かう間に縫い目に空気抵抗で風があたるから、それによってボールがブレるの。投げた本人もどこに行くかわからないから厄介だよ」
「うわぁ、無責任なボール」
瑞姫の解説を聞いた莉愛の的を射た発言に吹き出す面々。少女はなぜみんなが笑っているのかわからないといった顔をしている。
「次に出てくるのは右のアンダースローの遠藤。球種はカーブにスローカーブ、シュート、シンカー、フォークボールにチェンジアップ、それに下手投げ特有のライズボールがある。三人の中で一番球種が多い」
真田は笑いを堪えながら次の投手の解説をする。まだブルペンにはいないため何とも言えないが、彼女たちの頭の中ではおおよそのイメージは出来上がっていた。
「三人目は右のオーバースローの大場。球種はカットボールにVスライダー、ナックルカーブ、そしてスプリットが決め球だな」
しかもこの中で一番速いと付け加える真田。高校野球でありながらプロ野球のような分業制を敷いている対戦相手には彼女たちも驚くことしかできない。
「他にも色んな球種はあるが似たようなボールが多いからな。相手チームは多種多様な球種と硬い守備力に満足な攻めをできずに破れてきたってことさ」
真剣な表情でミーティングを聞いている教え子たちを見て満足げな笑みを見せる。
「だが逆に言えばこれだけ多種多様な球種がありながら三人で継投しなければいけないとも言える。なんでだと思う?」
「なんでですか?」
「球が遅いんだよ」
それを聞いて納得した少女たち。数人わかっていない者もいたため、わかりやすいように説明する。
「一番速い大場の最速は114km。先発の山口は107km。遠藤に至っては94kmしかない。だから翼星は目先を変えるように短いイニングで継投し、球種も多くして守り抜く野球を徹底しているんだ」
ただし、厄介なのは球種だけではないと話を続ける。
「山口はサイドスロー特有のスライダーとシンカーで空振りを取りに来る。ツーシームとスラーブは凡打やタイミングを外すためのボールだな。
そのあとに遠藤が来る。こいつは球種が多い上に山口よりも10kmも遅い。目先も変わる上に球のスピードに慣れるまで時間がかかる。
そしてそこから20km速い大場だ。こいつはスピード系のボールを多投してくるから、遠藤に慣れてしまうとその緩急で一巡なんてあっという間に終わる。この投手間での緩急もあいつらの武器になるんだ」
力がないなら全員の力でそれを補おうと考えた翼星。それは結果として毎年安定した成績を残す要因にもなっている。
「ただ、攻略法も簡単と言えば簡単なんだよな」
「そうなんですか?」
「そうだ。それぞれがもっとも多く投げてくる球種に狙いを絞ってやればいい」
狙われればその球種は投じにくくなる。しかし、多彩な球種があろうと必ず軸になる球種は限りがあるため、それが投げられなくなると思うような投球ができなくなる。
「球が遅いから見極めをしっかりしつつ狙い球が来たら多少ボールでも振っていっていい。転がすとかライナー性とかも序盤は考えなくていい。狙い球を思い切りかっ飛ばしてやれ」
「「「「「はい!!」」」」」
分かりやすく実践的な指示を受け円陣を解く少女たち。それを見ていた翼星側も指示を出していた。
「今日の攻め方は頭に入ってるよね?」
「「「「「はい!!」」」」」
「ならいつも通り守備から流れを作っていくよ」
翼星高校は必ずといっていいほど後攻を選ぶ。理由は先に硬い守りを見せつけ相手にミスはできないとプレッシャーを与えるため。それができれば彼女たちがペースを握ったといっても過言ではないからだ。
「明宝は打撃に定評があるからね。低めを丁寧に突いていくこと」
翼星学園の監督である佐々木美紅。彼女は見た目通り策略でゲームをコントロールすることに長けている。
「サインはいつも通りだけどわからない人いる?」
「「「「「……」」」」」
「大丈夫ならいいよ!!もしわからなかったら確認しておいてね」
「「「「「はい!!」」」」」
「よし、じゃああとは各自準備してベストを尽くそう」
「「「「「はい!!」」」」」
円陣を解き試合開始の時を待つ両校。佐々木はベンチからブルペンの様子を確認する。
(光の調子も良さそう。愛里の前にランナーを溜めれるかがキーになるかな?)
先発の山口の球が遠目からでも走っているのがわかる。そして素振りをしているチーム一のスラッガー鈴木もバットを振れており、その打撃の爆発に期待を寄せる。
「審判出てきたよ、整列!!」
グラウンドに審判が出てくる。それはまもなく試合開始であることを意味しており、選手たちはベンチ前に整列する。
「整列!!」
ホームベース前に来る審判。真ん中に立つ初老の男性が手を挙げたのを合図に両校の選手たちが元気よく中央に集まってきた。
後書き
いかがだったでしょうか。
いよいよ本気の試合第一ゲームスタートです。果たして莉愛ちゃんは活躍できるのか!?
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