Fate/WizarDragonknight
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武神の処刑人
『その勝負待った!』
「……?」
敵意のない意味合いに、ウィザードとブライは、それぞれの剣を収める。
「何?」
『この勝負、オレ様が預かってやる!』
「この声は……」
聞いただけで、思わず背筋が凍る。
そして、その姿は闇夜の中より現れる。
社の中を通って来る、小さな白い存在。大きな頭と小さな体を持つ、人形のようなそれは、にやりと歪んだ口を固定したまま、ウィザードたちを見据えていた。
「キサマ……」
「コエムシ!」
ウィザードも良く知るその存在に、声を荒げる。
聖杯戦争の監督役の一人、コエムシ。今まで何度も、ウィザードたちへ処刑人と呼ばれる疑似サーヴァントを差し向けてきた、紛れもない敵。
だが今回、コエムシはウィザードたちには一瞬だけしか目線を投げない。彼の視線の先は、トレギアだけだった。
『やいフェイカー! てめえ、良くもレイを始末してくれやがったな!?』
「おや? いけなかったかな? 処刑人は君たちが用意したサーヴァントの敵だろう? それに、処刑人を倒したことがあるのは私だけではないはずだが」
トレギアは、そう言いながらウィザードへ目線を配る。
『お……ま、まあそれは別にルール違反じゃねえからいいんだがよ……それに、そこのブライだって倒してるし……じゃねえよ!』
コエムシは全身を大きく揺らした。
『お前はお前で、それ以上のルール違反やってんだよ!』
「ルール違反? この私が?」
トレギアは首を傾げた。
「参加者同士の殺し合いが、聖杯戦争のルールなのだろう? ならば、私は何もルール違反はしていないはずだが」
『してんだよ! 重大なルール違反をよ!』
コエムシは続ける。
『一サーヴァントが、令呪を書き変えるとか、ふざけんじゃねえ!』
紗夜さんのことか、とウィザードは口にはしなかった。
「そこのブライはいいのにかい?」
トレギアはブライを指差す。
「彼だって、令呪を自分自身のものにしているじゃないか。これも立派なルール違反だろう?」
「フン」
鼻を鳴らすブライを見ながら、コエムシは首(胴体)を振る。
『アイツはサーヴァントを放棄したからいいんだよ。お前は、マスターを勝手に自分のマスターにしただろうが! そうなると、参加者の数が減っちまうだろ!』
「参加者が考慮することじゃないだろう? これはただの殺し合いなんだからさあ?」
『令呪の種類数が減らされるのは運営側としては大迷惑なんだよ! 非っ常に不本意だけどよお……今回は、ウィザードたちと手を組んでやる!』
「いや、俺お前の味方するの嫌なんだけど……!」
ウィザードの言葉を無視しながら、コエムシは叫んだ。
『来やがれ! 最強の処刑人!』
コエムシの声に応えるように、その背後にそれは現れた。
銀色のオーロラ。監督役が幾度となく使ってきたそれを見ると、否が応でも体が警戒する。
そして。
ウィザード、ブライ、そしてトレギアを通り過ぎていった銀のオーロラが召喚した者。
それは、鎧武者。だが、人間の生身の部分は見当たらない、群青色の体をした人物。
兜や鎧は、全て血のような紅に染まっており、見るだけでぞっとする。ところどころにどす黒い模様が刻まれ、落ち武者のようにも思える。
彼は、無骨な剣と、同じく紅の剣。二本の剣を広げ、宣言した。
「天下は私のものだ!」
『ああ! いいぜ。フェイカーを始末してくれたら、元の世界で世界征服でも何でもしろよ!』
コエムシの声に頷いた鎧武者は、紅の剣___よく見れば、その刀身は果実の切り身にも見える___を掲げ、名乗った。
「我が名は、武神鎧武!」
「武神鎧武……この前の英語の処刑人……とは違うよな?」
彼は、そのままトレギアへ刃を向けた。オレンジの切り身のような模様をしているそれは、見た目とは裏腹に強烈な殺意を感じられた。
トレギアは「おやおや」と首を振りながら、
「面倒だなあ……」
「異世界の武神よ……その命を頂こう!」
右手の剣を向け、武神鎧武と名乗った武将はトレギアへ挑んでいった。
トレギアはほほ笑みながら、その剣技を避ける。
「おいおい……まさか、私に来るのか」
「でりゃああああああ!」
武神鎧武のドスの利いた声とともに、二本の剣が振り下ろされた。
トレギアはそれぞれを片手で受け止めるが、やがて受け流す。
「全く……」
トレギアは両手の剣を引いて押し返す。
そのまま即座に、両手より発生した雷を放った。
だが群青色の雷を、臙脂色の刃が切り落とす。さらに、武神鎧武は雷を切り裂きながら、どんどんトレギアとの距離を詰めていく。
「はああああっ!」
武神鎧武の斬撃が、トレギアの首を討ちとろうとする。
だが、トレギアは両手を腰に回しながら、ギリギリの動きで反り続ける。
トレギアは、武神鎧武の剣___黒い、無双セイバーを弾き、トレラムノーを放つ。
赤い斬撃が、武神鎧武の斬撃と重なり、爆発する。
「本当に面倒だな……ギャラクトロン!」
トレギアは指を鳴らす。
すると、その頭上に、虹色の魔法陣が現れた。ウィザードのものとは書かれている模様が全くことなるそれより現れたのは、白いボディを持つロボット。銀河の中から現れた龍を思わせる風貌のそれは、登場と同時に武神鎧武へその腕を振るう。
「むっ!」
武神鎧武は二本の剣を交差させるとともに、ギャラクトロンの腕より魔法陣が発生。そこから、虹色の光線が放たれた。
二本の剣でそれを防ぎ、武人鎧武は先にギャラクトロンへ斬りつけていく。
だが、肉弾戦が効きづらいと判断したギャラクトロンは、即座にその後頭部の部品を動かす。
長い髪のようなそれは、瞬時に武神鎧武の腕を掴まえ、つるし上げた。
「おのれ!」
武神鎧武は無双セイバーで即座にアームのパーツを切り落とす。
ギャラクトロンは悲鳴のような駆動音の直後、パイプオルガンのような音声とともに虹色の光線を放つ。
武神鎧武は二本の剣を底で組み合わせて薙刀にし、回転させてその光線を弾く。
そのままギャラクトロンを蹴り飛ばし、呼びかけた。
「来い! ウツボカズラ怪人!」
武神鎧武の言葉とともに、今度はファスナーの音が響く。空間そのものに作られたファスナーが開くと、その奥より新たな怪物を呼び寄せた。
それは、緑の怪人。名の通り、ウツボカズラのような姿のそれは、ファスナーから飛び出すと同時に、ギャラクトロンにぶつかる。
「へえ……君も怪獣を呼び出せるのか……」
武神鎧武の応援に、トレギアは舌を巻く。
その間にも、武神鎧武はその刃をトレギアへ振るう。
トレギアと武神鎧武、ギャラクトロンとウツボカズラ怪人。
どちらに加勢することもなく、ウィザードとブライはその戦いを見守ることしかできなかった。
「本当に面倒だ……」
トレギアはいつしか、武神鎧武を相手にすることに業を煮やしてきた。
やがて彼は、武神鎧武が振り下ろした二本の剣をその手首から捕まえる。
「君にあげるよ。ハルト君」
そのまま、トレギアは武神鎧武をウィザードへ放り投げた。
「!」
受け身さえとれなかったウィザードは、そのまま武神鎧武の体を受け止め、地面を転がる。
ともに起き上がった時、武神鎧武はすでにウィザードを睨んでいた。
「貴様……」
武神鎧武がウィザードを視界に入れた途端、その雰囲気が変わった。
ウィザードは周りを見渡し、その標的が自分以外にいないことに気付く。
「なんか、嫌な予感……」
「武神ウィザード……覚悟ッ!」
「やっぱり俺か!?」
武神鎧武が、その二本の剣を振り下ろしてきた。
ウィザードは慌てて、ソードガンを横にしてそれを防ぐ。
「おい、お前の相手は俺じゃないだろ! コエムシはトレ……フェイカーを倒せって言ってるんだぞ! あっち! 分かる? あっち!」
「黙れ! おのれ武神ウィザード……この恨み、忘れたとは言わさん!」
「俺はアンタとは初対面なんですけど! そもそも、武神ウィザードってなんだよ! 武神いらないよ俺ウィザードだよ!」
二本の剣で、的確に攻撃を加えてくる武神鎧武。
ウィザードは剣の合間にジャンプしながら、指輪を入れ替える。
「武神ウィザード! 今度こそ、その首もらった!」
「少しは人の話を聞け!」
『ハリケーン プリーズ』
風の魔法陣が、武神鎧武を引き離す。さらに、戻って来た魔法陣がウィザードの赤を緑に染め上げていく。
「大体、何で俺に突っかかって来るんだよ! トレギア狙ってよトレギアを!」
「黙れ! 貴様だけは許さん!」
すると、武神鎧武の剣が、ウィザードの鎧を切り裂く。
痛みに堪えながら、ウィザードは「あったま来た!」と指輪を入れ替える。
『ブラッドオレンジ スカッシュ』
『チョーイイネ サンダー サイコー』
武神鎧武が、ベルトに付けられているカッティングブレードを操作すると同時に、ウィザードもまた雷の魔法を発動させた。
雷と斬撃。二つの威力はほとんど互角で、互いに衝撃で吹き飛んだ。
「おうおう。苦戦しているね。ハルト君」
起き上がるウィザードへ、トレギアがほほ笑んだ。
「他人事みたいに言わないでよ……! 大体、アンタに差し向けてきた相手なんだから、お前が戦ってよ!」
「彼は私よりも君に夢中なようだからね。君に任せるよ」
「あ、おい待って!」
ウィザードが止める間もなく、トレギアの姿が闇夜に消えていく。
その間にも、武神鎧武が次の手を打ってきた。
「おのれ! ウツボカズラ怪人!」
武神鎧武の号令とともに、ギャラクトロンと戦闘を行っているウツボカズラ怪人がこちらに目を向けた。
「ああもうっ!」
ウィザードは足元に風を発生させ、飛び乗る。
そのまま一気に上昇。ウィザーソードガンをガンモードにして発砲した。
だが、武神鎧武もまた、無双セイバーのトリガーを引く。銃としての役割を担うそれは、そのままウィザードとの銃撃戦となる。
『バインド プリーズ』
さらに、上空からの束縛の魔法。
緑の風が、二体の怪人とギャラクトロンを縛り上げる。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
さらに、続けての必殺技。
緑の魔法陣が、空中のウィザードの足元に出現する。風が竜巻のように渦巻き、ウィザードの足元に集っていく。
そして、空気中に残るウィザードの雷もまた、ウィザードの力となる。
「だああああああああああ!」
「させるか! ウツボカズラ怪人!」
武神鎧武の命令に、ウツボカズラ怪人は頷く。
風に縛り上げられたギャラクトロンを掴まえ、ウィザードへ放り投げてきた。
そのまま勢いを止めることなく、ウィザードはギャラクトロンを蹴り貫く。風によって得られた貫通力は、そのままギャラクトロンを爆散させた。
そして、その着地の瞬間、完全にウィザードは無防備になってしまう。
「!」
背後から襲い掛かるウツボカズラ怪人へ急いで応戦しようにも、もう間に合わない。
だが、その緑の触手は、ウィザードの前で止まった。
それは。
ラプラスソード。
「ブライ……!?」
「勘違いするな。貴様を倒すのはこのオレだ」
受け止めたブライは、そのままウツボカズラ怪人の剣を切り上げ、振り下ろす。
火花を散らしたウツボカズラ怪人は、そのままよろめいた。
さらに、その隙を逃すブライではない。
素早い剣技と斬撃に、ウツボカズラ怪人の体はどんどん切り刻まれていく。
そして。
振り下ろされたラプラスソードより、無数の紫の衝撃波が地面より吹き上がる。
「ぎゃああああああああああ!」
悲鳴とともに爆発するウツボカズラ怪人。
一部始終を見届けた武神鎧武が、ブライを睨む。
「貴様! この世界の武神か!」
「武神だと……? 違う。オレは……!」
ブライの手から、紫の光が溢れ出ていく。
その手を掲げ、ムーの戦士は誇り高く名乗った。
「オレはブライ……ムー大陸最後の生き残り、ブライだ!」
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