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イベリス

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第三十六話 恐ろしい強さその十

「そう言われたのはね」
「卵焼きは美味しいからですね」
「当時卵は高かったしね」
「ご馳走だったんですね」
「だからでね」 
 それでというのだ。
「大鵬さんは横綱さんで」
「強かったからですか」
「人気で」
「それで巨人はですね」
「北朝鮮みたいな宣伝の結果だよ」
 そのせいだというのだ。
「強さもあったけれどね」
「王さん長嶋さんですね」
「その前も強かったんだ」
「そうですか」
「千葉さん、別所さん、与那嶺さんがいて」
 ここで部長は顔を顰めさせて咲に話した。
「川上哲治だね」
「確か監督やった」
「あの人だよ、この人バッティングは凄かったけれど」 
 打撃の神様と呼ばれていた、弾丸ライナーやテキサスヒットが有名で赤バットがトレードマークだった。
「守備はやる気自体なくてチームプレーもね」
「しなかったんですか」
「もう自分だけの人で」
「何か色々自分の監督の座を脅かす人追い出したとか」
「それで軍隊にもいたけれど」
 戦争中に赤紙が来てのことだ。
「階級が上の人にはへらへらして下の人にはね」
「きつくあたったんですか」
「その中に丹波哲郎さんいたんだ」
「あの俳優も」
「小山さんも知ってるね」
「有名な人ですね」
 咲は丹波哲郎と聞いてこう言った。
「そうですよね」
「名優だったんだよ」
「存在感が凄くて」
「あの人もそうした時代の人で」
 戦争があったというのだ。
「軍隊に召集されて」
「川上さんに会ったんですか」
「物凄い偶然だと思うけれど」
「プロ野球選手と俳優さんが同じ部隊って」
「これも運命かもね」
「そうですね」
「それで丹波哲郎もね」 
 その彼もというのだ。
「随分いじめられたらしいんだ」
「そうだったんですか」
「あの人悪気はないけれど態度でかいので有名だったから」
 このことで有名だった、兎角台詞を覚えないだの堂々と遅刻して来るだの言われたがその存在感とキャラクターでよしとされていた、不思議な魅力の持ち主であった。
「それでね」
「川上哲治にですか」
「殴られたりしたらしいんだ」
「階級も下だったので」
「そうらしいね」
「そうだったんですね」
「これだけならまだあるけれど」
 部長は嫌な顔をして話した。
「戦争中はね」
「軍隊ですしね」
「鉄拳制裁が当たり前の時代でね」
「軍隊は特にですね」
「けれど随分酷くやられたらしくて」
 これは丹波哲郎本人が語っていたらしい。 
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