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送り提灯

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第二章

「江戸じゃあ」
「そうだな、おいらも江戸に住んで長いけどな」
「慣れないですか」
「どうもな」
「三代住んだらなれますよ」
「そうなんだな」
「はい、そうなります」
 こう源内に話した。
「ですから先生も女房貰って」
「子供作ってか」
「それで三代です」
「女房持つつもりねえからそれは無理だな」
 源内は笑って返した、そしてだった。
 蕎麦を男と比べるとやや慣れない感じで噛まずに飲んだ、そのうえで。
 蕎麦を食った、その夜だった。
 自分に仕えている福助を連れて法恩寺に向かった、その中で福助は源内に尋ねた。
「あの、旦那様」
「どうしたんだい」
「いえ、その女に会って」 
「襲われたりしたらかい」
「どうしますか?」
「その時はその時だ」
 笑ってだ、源内は福助に返した。提灯は福助が持っていて彼は手ぶらである。
「逃げるぜ」
「それで終わりですか」
「ああ、おいら刀は専門外だからな」
 それでというのだ。
「使うのは頭だからな」
「それで、ですか」
「だからおめえも逃げろ」
 女が襲い掛かって来た時はというのだ。
「いいな」
「そうするんですか」
「そうさ、相手が襲い掛かってきたらな」
「それだけですか」
「特に考えることはねえさ」
 声は飄々としていた。
「何もなかったらそのままでな」
「襲い掛かってきたらですか」
「逃げるんだよ」
 まさにそれだけだというのだ。
「そういうことだ、それじゃあな」
「これからですね」
「法恩寺の方に行くぜ」
「わかりました」
 福助も頷いた、剃り跡が青々しい小柄で愛嬌のある感じの男だ。彼がそう言ってそうしてであった。
 二人は法恩寺の前に来た、すると。
 そこに話の通り提灯を持った女がいた、別嬪で艶めかしい。福助はその女を怪訝な目で見て源内に言った。
「話の通りですね」
「そうだな」 
 源内の声はここでも飄々としていた。
「いたな」
「それで、ですね」
「今からな」
「声をかけますか」
「そうするな、結構な別嬪さんじゃねえか」
 源内は福助に笑って話した。
「だったら一緒に歩くのもいいってもんだ」
「余裕ですね」
「別に人を取って食わないとな」
 そうでなければというのだ。
「別にいいだろ」
「そういうものですか」
「ああ、じゃあ行くぜ」
 実際に余裕のある声であった、そして物腰もそうで。
 源内は福助を連れて女のところに行って声をかけた。
「何処に行くんで」
「すぐそこに」
 女は言われている通りの返事をした。 
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