イベリス
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十五話 テストの結果を受けてその四
「お父さんって」
「そうでしょ」
「ええ、全くね」
「関東の他の県内のことは言わないのよ」
「そうよね」
「けれど何でかね」
咲に顔を向けビールを飲みつつ話した。
「埼玉県はね」
「言うの」
「そうなのよ」
「それ不思議ね」
「うちからちょっとの距離だけれどね」
母は自宅から埼玉県までの距離の話もした。
「けれどね」
「それでもよね」
「お父さんはどうしてもね」
「埼玉県は嫌なのね」
「偏見あるのよ」
「この通り」
「そういうことよ、それでね」
その偏見の為にというのだ。
「今こうしてなのよ」
「埼玉県への転勤が嫌だっていうのね」
「そういうことよ」
「漫画であったんだ、埼玉県は田舎と」
父はさらに経口補給水を飲みつつ話した。
「そしてそれがあんまりにも凄かったからな」
「埼玉嫌になったの」
「そうだ、子供の頃に読んでな」
「それからなの」
「お父さんは埼玉だけは嫌になった」
「相当変な漫画読んだのね。今だと名古屋とか群馬舞台にした漫画もあるわよ」
咲は普通に言った。
「群馬は秘境扱いよ」
「そうよね、埼玉が田舎ならね」
それならとだ、母はビールを缶に口を当ててごくごくと飲んでいる娘に応えた。
「それこそね」
「群馬なんて何?」
「秘境になるわね」
「もうね」
「それでもなのよ」
「お父さんはこう言うのね」
「そう、まああくまでお父さんだけのことよ」
母の言葉はクールなものだった。
「というかそう言っても別に仕事行かない訳じゃないわよ」
「仕事は行く」
父もそれは絶対だと答えた。
「何があってもな」
「そうでしょ」
「仕事をしないでどうするんだ」
自分の妻に強い声で語った。
「それこそ」
「そうよね」
「幾ら埼玉が嫌でもな」
それでもというのだ。
「仕事に行く」
「そうしてよね」
「働くからな」
「お父さん仕事は真面目にするから」
「仕事は真面目にだ」
それこそとだ、父も言った。
「だからな」
「そうするわね」
「絶対にな」
「それじゃあよ」
母はまた言った。
「頑張ってね」
「埼玉でもか」
「仕事やるならよ」
それならというのだ。
ページ上へ戻る