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イベリス

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第三十二話 夜の会話その六

「いい答えは出ないものよ」
「不眠症になるまで悩んでもなの」
「そういう時に考えても堂々巡りになるから」
 それ故にというのだ。
「もうね」
「考えるよりなの」
「もう徹底的に身体と頭を動かして」
 その様にしてというのだ。
「もうへとへとになってね」
「寝る方がいいの」
「そして不眠症を解消させてから」
「考えるといいのに」
「それでそこまで悩むなら一人で考えない」 
 このことも大事だというのだ。
「誰かに相談することよ、一人だと堂々巡りになるから」
「今言った通りに」
「そうしても答えは出ないし選択肢が悪い方向にいって」
 そうしてというのだ。
「よくない考えにも至るから」
「それでなのね」
「そこまで悩むなら」
「誰かに相談することね」
「一人で悩むのもよくないわ」
 これもというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、誰かに相談することもね」
「いいのね」
「袋小路になることは避けることよ」
「だから不眠症にならない様にして」
「なってもそうしてね」
 身体と心を徹底的に動かしてぐっすりと寝てというのだ、母は咲に彼女が寝る前にこうした話をするのだった。
「それで誰かにもね」
「相談することね」
「お母さんでもお父さんでもいいし」
「お姉ちゃんでもいいの」
「そうね、愛ちゃんどうもね」
 母は彼女のことについても述べた。
「派手なだけみたいね」
「私の言った通りでしょ」
「大学入ってから急に派手になってね」
「悪い娘になったと思ったの」
「ええ、どうもね」
「お父さんもよね」
「親は何してるのかしらってね」 
 そこまでというのだ。
「考えたわ」
「そうなのね」
「けれどそれは外見だけね」
「私が言った通りでしょ」
「中身はいい娘のままなのね」
「お姉ちゃん確かにファッションは派手だけれど」
 それでもとだ、咲は母に話した。
「あれでね」
「根は真面目ってことね」
「そう、だからね」
「安心していいのね」
「悪いことしないから」
「派手な遊びとかしないのね」
「絶対にね」
 咲もこのことは太鼓判を押した。
「そうよ」
「それだとね」
「お姉ちゃんにもなのね」
「相談してもね」 
 そうしてもというのだ。
「いいわ」
「そうなのね」
「お母さんはあんたに幸せになって欲しいの」
 母の言葉はこの日最も切実で真摯なものになった、見ればその顔も子供のことを心配する母親のものになっている。
 その顔でだった、母は咲にさらに話した。
「だからね」
「それでなのね」
「悩みがあったらね」
「それを解決することね」
「悩むことは本当に生きていたらあるわ」
「人間だったら」
「その時に悩み過ぎてね」
 そうしてというのだ。 
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