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花好きの男

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第一章

                花好きの男
 神代詠人は子供の頃から花が好きである、細表で四角い眼鏡と収まりの悪い紫に近い色の髪と鋭利な顔立ちですらりとしている。
 彼はいつも花を見て花についての本もよく読んでいた、その彼を見て妹の秋桜はこんなことを言った。
「男の人でそんな花好きも珍しくない?」
「何言ってるの、うちはお花屋さんでしょ」
 その妹に母の晃代が言う、二人共茶色の髪を短くしていて細面で切れ長の目である。気の強そうな顔立ちもそっくりだ。ただし娘の方が背が高く胸が大きく脚も長い。
「だからよ」
「いいってうのね」
「むしろあんたみたいに薙刀だファッションだってね」
「部活とかファッションに夢中になるのが中学生でしょ」
「そうだけれど少しはお花に興味持ちなさい」 
 こう娘に言うのだった。
「むしろお兄ちゃんはいいの」
「うちがお花屋さんだから」
「それにお花が好きで悪いことないでしょ」
「うちの商品売れるしね」
 秋代はあっさりと述べた。
「そうよね」
「商売から見ればそうよ」
「うちもね」
「皆がお花好きなら」
 それならというのだ。
「うちのお店でも買ってくれるから」
「いいわね」
「こんないいことはないわ。花言葉だって勉強してるしね」
「お兄ちゃんそうよね」
「だからいいの、むしろあんたよ」
 娘をビシッと指差して告げた。
「お花のことも勉強しなさい」
「お花屋の娘だから」
「そうよ、花言葉もね」
「学校のお勉強と合わせて?」
「そうよ、二人共成績は悪くないんだしあんたはそっちもよ」
 娘にはこう言う、そしてだった。
 母は詠人がだった。
 華道やフラワーコーディネイトを学びたいと言うと強い声で答えた。
「いいじゃない、やりなさい」
「どっちもいいんだ」
「当り前よ、うちはお花屋よ」 
 だからだというのだ。
「お花が好きで悪いことはないでしょ」
「そうだよね」
「芸術にもなってるしそれも学びたいならね」
 その芸術をというのだ。
「好きなだけよ」
「やればいいんだ」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「あんたお花が好きで誰かに言われたことはあるかしら」
 母は息子に問うた。
「これまで」
「男なのに女みたいだって言われたことあるよ」
 詠人はそれはと答えた。
「小学生の頃」
「それで何て答えたのかしら」
「それが悪いのかなって」
「そう答えたのね」
「そうなんだ」
「悪くないわよ、和歌で男の人が謡ってるでしょ」
「ああ、多いね」
「日本軍見なさい、桜に菊がいつもあったわ」
 軍隊の話もした。
「お父さんも菊については特に五月蠅いでしょ」
「商品全体にそうでね」
 詠人は自分によく似ているが最近白髪が増えてきた父のことも思い出した、一家で花屋を営んでいる彼のことを。 
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