とある星の力を使いし者
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第166話
「ふ~ん。
それで、クラスの皆と仲良くすき焼きパーティって事。
この私の晩御飯は放っておいて。」
「お前、もしかして怒っているか?」
「もしかしてじゃなくて、怒っているのよ。
何杯一人でコーヒーを飲んだと思っているのよ。」
桔梗の文句を聞きながら、麻生は放課後桔梗に電話しておくのを忘れた事を激しく後悔した。
今、麻生がいるのは先程のすき焼き屋ではなく、スポーツ用品を扱う店の近くに佇んでいた。
スポーツ用品に用があるのではなく、その近くに設置されているアンテナに用があった。
ここは地下街なので、電波が非常に悪い。
なので、設置されているアンテナの近くでしか真面に通話する事ができない。
すき焼きはどうなったかというと、育ち盛りの高校生達はセットの鍋だけでは物足りず、追加注文がテーブルに届くまでは各自自由行動という事になった。
大半のメンバーはお店の中でぎゃあぎゃあ騒いでいる。
麻生も馬鹿騒ぎには参加せず、隅の方でゆっくりと水を飲んで追加の鍋を待っていた。
その時、制理が何かを思い出したのか麻生に言った。
「ねぇ、芳川さんの夜ご飯とかどうなっているのよ?」
「あっ・・・・・」
制理に言われてようやく気がついた。
桔梗にすき焼きを食べに行くという事を、伝えていないし夜ご飯も作っていない。
夕方には帰ると言っているので、桔梗も自分で夜ご飯を作らず、麻生達の帰りを待っているだろう。
麻生の思わず出た声を聞いた制理は呆れたような顔をして言う。
「早く連絡してあげなさい。
きっと怒っているわよ。」
非常に面倒くさいことになった。
そう天を仰ぎながら、麻生はすき焼き屋を出てアンテナを探しに向かう。
予想通り、桔梗に連絡したら開口一番に怒られた。
ガミガミと怒鳴っているのではなく、静かに怒りを声に表していた。
「連絡をしなかったのは本当に済まなかった。」
これに関しては全面的に麻生が悪いので謝る。
「それで、いつ頃に戻ってくるの?」
反省しているのが分かったのか、いつも通りの声で聞いてくる。
「追加注文を頼んだからな。
もう少しかかる。」
「はぁ~、分かったわよ。
それまで一人寂しくコーヒーでも飲んでいるわ。」
「帰ったら腕によりをかけて作る。」
「期待しているわよ。」
最後には穏やかな口調に戻っていた。
通話を切って、少しだけ息を吐く。
すると、携帯が少しの間だけ震えた。
確認するとメールの着信だ。
相手は御坂美琴。
ハンディアンテナサービスのペア契約でメールアドレス交換して以来、これといって連絡はなかった。
つまり、これが初めての美琴からのメールになる。
内容を見ようとするが、『データが破損しているため内容を閲覧できません。』と書かれている。
何か用があると思うのだが、急用なら電話してくるだろうと、適当に考える。
携帯の時計を見ると、店を出て結構時間が経っている。
思いのほか桔梗の愚痴が長かった。
さっさと戻るか、と思った時だった。
周りの違和感を感じたのは。
完全下校時刻を過ぎでも、地下街には大学生を中心とした、麻生よりもやや年上の人達が行き交っていた。
その人達が麻生を除いて全員居なくなっている。
左右を見渡しても、人影すらない。
(この感じ、人払い。)
魔術師が魔術を隠蔽する為に、特定の人物を除く一般人を払う基本的な魔術。
だが、人払いが発動すれば否が応でも麻生はそれを感じ取る。
それなのに、その違和感などが全く感じなかった。
この感じは前にも経験した事がある。
前を見ると、そこには麻生に意味深な発言を残してきたあの猫がいた。
さっきまで見なかったのに、最初からそこに居たかのように思わされる。
「お前の方から来てくれるなんてな。」
「私を捜していたのか?」
突然現れた猫に全く驚く事無く、麻生は話しかける。
「お前、ダゴン秘密教団の事を知っていたんだろ。」
「そうだ。」
「なら、何故俺に教えなかった。
そうすれば、愛穂達はあんな思いをしなかったかもしれない。」
この猫とは何度か会っている。
ダゴン秘密教団の事などを教える事もできた筈だ。
それなのに、この猫はしなかった。
麻生は殺気を猫に向ける。
「ふっ。」
それを猫は鼻で笑った。
「何が可笑しい?」
その態度が麻生を苛立たせる。
「結果論だな。
例え、私がダゴン秘密教団の事を教えても、あの結果は覆す事はできなかった。
バルドが出てきたのだ。
今のお前では逆立ちしても勝てる相手ではない。
黄泉川達も同様だ。
腕と足が一本ずつ無くしただけで済んで、良かったと思わないとな。」
「テメェ。」
堪らず麻生は拳を握り、猫に殴りにかかる。
麻生の拳は容易くアスファルトを砕く。
そこに猫の死体はない。
「バルドが出てくるのは星も予想していなかった。」
右を向くと、怪我一つない猫が立っている。
猫の発言を聞いて、麻生は眉をひそめる。
「星も予想していなかっただと?」
「そうだ。
これまでの戦いの結果は星も予想していた。
0930事件では上条当麻と共に前方のヴェントを倒す筈だった。
なのに、ティンダロスの猟犬を従えた魔術師、そしてバルドがやってきた。
星の想定していた結果とは大きく離れた。」
「つまり、あれか。
俺は今まで星の掌の上で踊っていたって事か。」
「そういう事になるな。」
「そうか・・・・・自分自身で選んで戦ってきたのに、それすらも星に決められていたのか。
まるで、ピエロだな。
ふふふ・・・・あははははははは。」
思わず笑いが込み上げた。
何かが壊れたかのように笑う麻生を猫は黙って見つめている。
「あははは・・・・・はぁ~。」
笑うだけ笑った麻生は一息つく。
その後だった。
ダン!!、と麻生がすぐ横の壁を思いっきり殴りつけたのは。
「ふざけんじゃねぇぇ!!!!
俺が歩いてきた道も思いも全部が星が決められているなんて、ふざけんなよぉぉぉ!!!!」
もう一度壁を殴りつける。
壁は穴が空き、周囲にはひびが入っている。
「私は予想と言った筈だ。
確定ではない。」
「黙れ、そんな言葉がこの俺に通じると思うか!
星の力を扱える俺に!」
血走った眼で、猫に今までにない殺気をぶつける。
「星の予測はもはや確定だ。
全ての起源、未来、平行世界の全てを観測して記録している。
そんな星がその気になれば、全ての人間の人生を操る事ができる。」
麻生は星に人生を狂わされた。
全ての真理を見せられ、人の闇の見せられ、絶望した。
全てに絶望している所を、愛穂達に助けられた。
そして、上条を初めとする多くの人々と出会った。
今まで歩いてきた道は自分の意思で決め、その思いも様々な人に影響を受けてきた。
麻生恭介として生き、星の意思とは全く関係なく、自分の意思で自分の道を歩いていると思っていた。
実際は違った。
全ては星が決めたレールの上を歩いていたのだ。
「お前がどう思うが勝手だ。
しかし、バルドがあの時介入してきた時点で、この物語は星すら予想できない道を辿っている。」
猫は淡々とマニュアルを読むアナウンスのような口調で話す。
「お前は何がしたいんだ?
それを俺に言ってどうなる?」
「それが私の役目だからだ。
今はまだ、私が言っている意味が分からないだろう。
この言葉はお前だけに伝えるために、わざわざ人払いをした訳ではない。」
そう言って、猫は麻生に背中を向ける。
「おい、まだ聞きたい事がたくさんある。
星の守護者とはなんだ?
ダゴン秘密教団は何が目的なんだ?」
麻生の問いかけに、猫は何も答えない。
こちらに振り向く事無く、猫は地下街の奥の闇に消えて行った。
それと同時に、人の足音や話し声などの生活音が復活する。
人払いが消えたのだ。
そろそろ、すき焼きの鍋が運ばれているだろう。
麻生はその場から動く事無く、ただ拳を強く握りしめるのだった。
後書き
もの凄く短いですが、気にしないでください。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
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