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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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五十三 招かれざる客

空気が揺らぐ。
キイイィイイィ…──と発せられる高音。

大気を振動させるその得体の知れないナルの術に、角都は涼しい顔を装いながら、内心冷や汗を掻いていた。

(…なんだ?アレは…)


目的である九尾の人柱力である波風ナル。獲物がわざわざ自ら出向いてきたとほくそ笑んだものの、その獲物自身が生み出す術を目の当たりにして、角都は珍しく動揺する。


現在、飛段とは引き離され、戦力を分断されている身。
多勢に無勢だが、今まで幾つもの修羅場を潜り抜けてきた角都にとってはこの危地も大した問題ではない。もっとも、ナルトとはもう二度と戦いたいとは思わないが。


しかしながら、自分の知らぬ術となると話は別だ。特に相手は人柱力。油断はならない。
現に、大気を揺るがすほどの凄まじいチャクラが練り込まれているモノだと一目でわかる。


(アレをくらったらヤバい…絶対にダメだ…)


余裕を失う。それほどの脅威をナルの術から感じ取った角都は、警戒態勢を更に厳重なものとした。
ナルの術に煽られ、地面に転がる石が飛び、周囲の木々の枝が吹き荒れる。飛び交う障害物を払いのけながら、ヤマトが肩越しにカカシへ説明した。


「…っ、これでもまだ五割程度の完成度なんですよね…」

完成には至らなかった術だが、それでもこれほどのものとは…とカカシは眼を見張った。
「ほお…」と感心する再不斬の隣で、ナルが角都目掛けて駆けだす。影分身三人がかりで生み出した螺旋丸…いや、螺旋丸に似た術がナルの拳上で渦を巻いた。


「これが九尾の人柱力の力か…化け物らしい術だ」
「てめぇには言われたくないってばよ!」

影分身で陽動し、本体が角都に接近する。しかしその術が相手に届く寸前に、ナルの拳上の渦が掻き消えてしまった。霧散する。


「マズイ…失敗だ」

ナルの新術。会得するのも相当難しく、更に五割程度までしか完成していない、いわば未完成の術。
つまりは発動持続時間が短いのだ。

間際になって発動せずに終わったことを悟って、ヤマトが絶望の声を零す。
その声が耳に届くや否や、再不斬とカカシが地を蹴った。


「くく…っ。どんな大層な術かと思えば…不発のようだな」

形勢逆転。自身の攻撃範囲に自ら躍り出たナルへ、角都は触手を伸ばす。
【禁術・地怨虞】の触手がナルの四肢を縛り付けた。


「ぐ…っ」
「ならばもう見るべき点は無いな──心臓を頂く」


ナルの動きを封じ、その心臓を狙う。
触手で身動きできないその身体から心臓を抜き取ろうとした角都の頭上に、直後影が落ちた。


「一度の失敗で決めつけんなよ。心の狭いヤローだ…なっ!」


心臓を貰おうと動く角都の触手がバッサリ斬られる。首切り包丁でナルを縛る触手を断ち切った再不斬に続き、ナルを救出したカカシがヤマトに目配せする。
カカシの合図を受け、ヤマトは木遁の術で角都の追撃を防ぐ。

腕を大木に変えたヤマトの隣に、ナルを救出したカカシが降り立った。
同じく、ナルを助けるのに一役買った再不斬が横目でヤマトを見遣る。
腕を大木にして伸ばすその術に彼は秘かに眼を細めた。


「流石意外性ナンバーワンだよ、お前は」
「褒めてんのか、けなしてんのか、ハッキリしてほしいってばよ…」


カカシの物言いにガックリと肩を落とすナル。
しかし心底悔しがっている様子に、カカシは思案顔を浮かべる。
ナルの術について補足したヤマトの説明に、カカシは更に思考を巡らせた。


「螺旋手裏剣と言っても、ゼロ距離で相手にぶつけないとダメなんです。だから影分身で陽動をかけるのが基本だったんですが…」
「…わざわざ危ない橋を渡る必要もない。全員で奴を叩くのも一つの手だが…」


いのとチョウジにはシカマルの援護へ向かってもらったので、この場に残っているのは、ナル・カカシ・ヤマト、そして再不斬。
四対一なのだから相手に遠慮して一対一で闘う必要もない。
そう続けようとしたカカシは、ナルの強い決意の込められた双眸を目にして、言葉の先を呑み込んだ。


「…確かに危ない橋ってのはわかってる。でも今、オレはその危ない橋をひとりで渡りたいんだってばよ」

ナルの宣言に、カカシは黙って耳を傾ける。


「向こうに辿り着けなきゃ、オレはいつまで経ってもガキのままだ…だから、」

瞳を閉ざす。
閉ざされた瞼の裏の闇。暗闇の中、一条の光の橋が自分の足元に伸びている。
その先にいる人影をナルは認めた。桜を木ノ葉隠れの里へ連れ帰ることができた一方、連れ戻せなかった相手。
赤く渦巻く写輪眼がナルを射抜く。


「────その橋を外すようなことはしないでくれ」


ナルの懇願も含まれた強い意志に、カカシは眩しげに眼を細める。
その隣で肩を竦めた再不斬がぽんっとカカシの肩を叩いた。

「本人がやる気になってんだ、尊重してやれよ」

過保護すぎるのも嫌われるぜ、と揶揄雑じりの再不斬の言葉に「うるさいな」と返してカカシはナルの決意を真正面から受け止めた。


「────行け、ナル」
「押忍!!」


カカシの許可が下り、気合と共にナルは額当てをしっかと結び直す。
再戦を挑むナルの気迫を感じ取って、角都は己の触手を更に広範囲に伸ばした。
遠距離タイプへ姿を変える。

「芸の無い奴だ。当たらなければ脅威ではないとまだわからんか」


そう嘲笑するものの、体型だけでなくチャクラも相当練り込んでいるその姿は明らかにナルの術を警戒しているのが窺える。
慎重な男である角都は、ナルの術に対抗すべく遠距離型へ姿を変えると、地を蹴った。


(陽動の影分身に付き合うほど暇じゃない。狙うは──オリジナルただ一人)

陽動であろう影分身を無視してオリジナルだと当たりをつけていたナル本人を狙う。
螺旋手裏剣を拳上に持つナル。彼女に向かって、遠距離戦用に長く伸ばした【禁術・地怨虞】が襲い掛かった。


「やはりこちらの手を読まれていたか…!」
「ナル…!」

陽動で引きつけているうちに本命のナルが敵に術をくらわす。
その陽動作戦を角都に見抜かれていると悟り、カカシとヤマトがナルの身を案じる。
彼らの叫びを耳にしながら、角都は(もう遅い)と嘲笑った。


「フ…奇妙な術だが、術者を潰せば脅威にはなり得ない────残念だったな」

大波のように押し寄せる触手は髪のように見えて、その実、非常に鋭い。
故に。


ナルの身体は鋭く伸ばした触手で容易く貫かれた。








「貴様らの心臓は此処で全員、俺が貰い受ける」


身体を串刺しにされ、地面に縫い留められたナルを見下ろし、角都は残った忍び達に視線を奔らせる。
己の失った心臓の代わりにせんと、値踏みするかのように、カカシ・ヤマト・再不斬を順に見遣った角都は、己の頭上へ落ちてくる影にようやく気付いた。


「な…こ、コイツ…!」

空から降ってきた影に気づいて、顔を上げる。
見上げたその先に、ナル本人が螺旋手裏剣を手に、此方へ目掛けて来るのが見えて角都は眼を見開いた。

「コイツ…陽動の中にオリジナルを…!」


最初に陽動だと思い込んだ影分身。その内の一体こそがナル本人だったのだ。


現に今、串刺しにしたナルがぼふんっと白煙と化したのを視界の端に捉えながら、角都は回避の動きに転じる。
先ほどよりも上手く影分身を利用して接戦してくるナルに感心しつつも、彼女の行動を角都は逸早く気づくことが出来た。よってギリギリだが避けられる。

(ふ…運が悪かったな)

天は己に味方した。
もう少しナル本人の接近に気づくのが遅ければ、術を当てられたものを、と角都は冷笑する。



だが次の瞬間、己の心臓を誰かに抉られた感覚を覚え、角都は自身の胸元を手で押さえた。

「ぐは…ば、バカな…!?」



いきなり心臓が止まる。ストックしていた肩のお面が、パリンッと割れた。

急激な心臓の喪失。角都に隙が生まれる。
そしてその隙を逃すナルではない。

ぐらり、とふらつく角都の身体目掛け、螺旋手裏剣が炸裂する。
天は角都ではなく、ナルに味方したのだ。

急に角都の動きが鈍くなったことに気づいたカカシが、その原因に思い当って、口許に弧を描いた。


「シカマルのやつ…上手くやってくれたようだな」























薄暗い森の中。
静まり返った其処で己の高笑いがよく響く。


今し方殺したシカマルの遺体を前にひとしきり嗤った飛段はやがて笑いを抑えると、気を取り直して、首をコキリと鳴らした。

「行くか。流石に角都ももう終わってんだろ」


動かなくなったシカマルの身体に、飛段は背を向ける。
シカマルが辺り一面に仕掛けた起爆札付きクナイが縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の巣の如き其処で、飛段は余裕綽々とした風情で己の術を解いた。


【呪術・死司憑血】。対象者の血を体内に取り込むことで術者の身体と対象の身体がリンク。
自らの血で描いた陣の上で、術者が受けた傷が対象にも同様に現れる特異な呪術だ。
身体がリンクされた後は何処へ逃げようとも攻撃を回避するずべはなく、不死である飛段にしか実質使えない、必殺の威力を誇る術。


その術の餌食となったシカマルに無防備に背中を向けた飛段は、直後、迫りくるクナイに驚きを隠せなかった。

飛段の額当てが飛ぶ。
首の頸動脈を狙ったクナイが鈍い光を放った。


「な…っ!?」
「チ…ッ、浅いか」


舌打ちするシカマルの攻撃に、飛段は眼を見開く。
己の術で死んだはずの男が影真似の術で自身を拘束するよりも、彼が生きている事実に対する驚愕のほうが大きかった。


「な…てめぇ…なァんで生きてやがる!?」
「残念だったな。てめぇが殺したのは、てめぇの相方のほうだよ」


飛段の疑問に、シカマルが種明かしする。


角都の血が入った血液用カプセル。
再不斬によって抜かれた角都の血を飛段の得物に付着させ、その血を取り込ませ、シカマル自身はやられたふりをしていた。
それを使って飛段を罠に嵌め、角都の複数ある心臓を削るのに一役買ってもらったという話を淡々と語るシカマルを前に、利用された飛段の額に青筋が浮かぶ。


もっとも、流石にナルが角都へ術を当てるのにも一役買っているとは露知らず、シカマルは酷く冷静に飛段を見据えた。

シカマルの種明かしの説明を受け、逆上しかけた飛段は、ややあって落ち着きを取り戻すように、ふ──っと長く息をついた。


「大したもんだ。俺と角都、どちらも追い詰める為に此処まで綿密な計画を企てるとはな…だが、」


自身の身体を縛る影から逃れ、立ち上がる。
まったくの自由にはなれないものの、多少なりとも動ける我が身に、飛段はニタリと嗤った。


「お前…縛るたびにだんだん術の強さと効果の持続時間がお粗末になってきてるぜ。つまるところ、てめぇのチャクラも限界なんじゃないのか…ええ、おい」


己の身体を縛る影の効力を見抜き、飛段はシカマルへ足を進める。
思った通り、チャクラ切れでもしたのか、膝をついて動かぬシカマルへ、飛段はにやり、と口角を吊り上げた。


「お前も邪神様を信仰していれば、救いの手があったかもな…」

蹲るシカマルへ、得物を振り上げる。
黒い棒だが、切っ先が鋭く尖った得物が暗い森にもよく映えた。

「今から邪神様を信じるならその改心に免じて…ってまァ、」


ふ、と脳裏に過ぎった金髪の己の邪神様を思い浮かべる。
彼を崇める信仰者は自分以外にはいらねぇな、と至極当然の考えに至って、飛段は前言撤回した。


「邪神様が許しても俺が許すわけねぇけどな、バァ──カっ!」


そして飛段は、得物をシカマル目掛け、振り落とす。
恐怖で慄くシカマルが眼を大きく見開いた。




その表情が一瞬で切り替わる。


「許してもらわなくても結構だぜ────【影寄せの術】! !」






刹那、辺り一面に張り巡らされた起爆札付きワイヤーの影が一斉に飛段へ集結される。
否、影で起爆札付きワイヤーそのものが引き寄せられ、飛段の身体を瞬く間に拘束した。

「な…なんだと!?」


今度は影だけでなく、物理的にも縛られた飛段が愕然とする。先ほどまで焦燥感と恐怖で震えていたはずのシカマルが余裕染みた笑みを浮かべたのも癪に障った。

「まだてめぇを拘束できるだけのチャクラは残ってるんでな」


あえてチャクラ切れに見せかけたシカマルにまんまと騙された飛段は、次いでシカマルが取り出したクナイに身構える。
だがてっきり自分へ投擲されるだろうと思ったクナイは、シカマルによってあらぬ方向へ投げられた。

いや、目印がさりげなく施されていた地面へ、そのクナイは狙い通り、突き刺さる。


「なにを…」
「黙って見とけ」


シカマルの不可解な行動に疑問を浮かべる飛段へ、素っ気なく答える。
すると目印の施された地面に徐々に罅が入ってゆく。



その割れ目は次第に広がり、やがて大きな穴となった。
そう、ちょうど飛段が拘束されている地点を中心に。



あまりの光景に、言葉を失った飛段は動揺を露わに、シカマルへ詰問した。

「どういうことだ…いつの間にこんな、」


穴を掘る暇など無かったはずだ。それもこんな深く、底が見えないほどの大きなモノなど。
飛段の問いに、シカマルはなんでもないように肩を竦める。

「前以て此処に仕掛けを準備していただけのことだ」



その返答で、ようやく飛段は気づいた。

我武者羅に飛段と角都を引き離したのではなく、自分を此処へ誘い込む為、己はシカマルの手の上で転がされていたのだと。

全てが計算の内だったのか、と絶句する飛段の耳に、酷く冷静な声が響く。



「そいつがお前の墓穴だ…わざわざ用意してやったんだから感謝して大人しく埋まってろ」
「ハッ、俺は死なねぇよ…身体がバラバラになって首だけになってもな。それに、俺には邪神様の加護がある」


爆薬を身体に巻き付けられても強がる飛段に、シカマルは嘆息する。
ふ、と周囲に視線を投げたシカマルの眼を追い駆けた飛段は、思いもよらぬ動物に眼を瞬かせた。


「し、鹿…?」
「…この森は火ノ国でも特別な場所でな。俺達一族だけが立ち入ることを許されている。お前が泣こうが喚こうが、此処にいるのは俺達一族と鹿だけだ」


助けは来ない、と淡々と告げるシカマルと飛段のやり取りを、まるで記録するかのように鹿が見ている。
その黒々とした瞳がどうにも不気味に見えて、飛段の身体が無意識にブルリ、と振るえた。

巨大な穴の上で宙吊りにされている飛段を前に、シカマルはライターをカチカチと鳴らす。
そのライターはアスマが愛用していたモノだ。


ふと以前、アスマと語った日々のことを思い出して、シカマルは顔を伏せた。
双眸を軽く閉ざす。














「おまえ…大名の件、断ったんだって?」

鳥の囀り声が響き、長閑な昼下がり。

芝生で寝転がっていたシカマルへ、師が問いを投げる。
アスマの質問に、腕を枕にしながら手持ち無沙汰に草を抜いていたシカマルは欠伸を噛み殺しながら、無言で応えた。

火ノ国大名名義の正式な依頼で大名の近衛官に欲しいというもので、守護忍十二士の入口とも言える。
いわば大出世の入口なのだが、それをシカマルは断ったのだ。


「外の世界を見るのも悪くないと思うがなァ~。俺も守護忍十二士での経験があればこそ、今の俺があると思わないでもないからな」

寝っ転がりがら、煙草を吹かすアスマの隣で、シカマルは面倒くさそうに「俺は変わらないよ。これからも面倒くさいのは御免だ」と師を見ずに答える。

相変わらず面倒くさがりの生徒を横目で見遣って、アスマは苦笑いを零した。
だが「ただ、」と続けられたシカマルの言葉に耳を傾ける。


「なんていうか、チョウジやいのや…ま、ナルや…気になってしょうがねぇから里にいるだけっていうか…」

一名の名前を呼ぶ時だけ若干口ごもるシカマルを微笑ましげに横目で見遣って、アスマは笑う。


「お前にも火の意志ってのがあったんだな」

寝転がっていた状態から身体を起こしたアスマを、シカマルは見上げる。
座って木ノ葉の里を一望したアスマは、改めてシカマルを見遣った。


「この里を守ろうという強い意志がお前の中にもあるってことさ」
「そんな大袈裟なことじゃねぇよ」

そっぽを向くシカマルの背中をアスマは「照れるなよ」とバシバシ強かに叩いた。


「痛いっての」
「気になるから守りたい…そうなんだろ?」


痛みを訴えるシカマルへ、アスマは更に問いかける。
口ごもった相手の名前をあえて出さずに意味深に語るアスマへ、シカマルはやはり依然として顔を合わせずに素っ気なく答えた。


「…同じ木ノ葉の忍びだからってだけだよ」
「そ―かい」

くつくつ、と肩を震わせ笑ったアスマは、里を眺める。
平和の象徴ともいえる長閑な光景を前に、アスマは穏やかに言葉を続けた。


「その火の意志が里を照らすんだ…ま、親父の受け売りだがな」


今は病院の奥の病室で寝たきりになっている三代目火影を思い浮かべながら、アスマは眼を細める。
煙草をプラプラと揺らすアスマの隣で、いきなり立ち上がったシカマルは、肩越しに振り返った。


「んじゃ、いつかアスマも照らしてやるよ……なんてな」


生意気な答えに、ふ、と口許に笑みを湛えたアスマは、上手そうに煙草を吸い込んだ。



「ま、お前さんはナルが一番気になるようだがな」
「んな…べ、べつにナルだけじゃねぇよ」
「照れるな照れるな」

言い当てられ、かッ、と顔に熱が上る。
顔を赤くしたシカマルが言い訳するも、ガハハハッ、と豪快に笑うアスマを見ていると毒気が抜かれてゆく。

ややあって、二人の哄笑が木ノ葉の里を明るく照らすように響き渡っていった。
















過去の情景を思い出して、シカマルは静かに双眸を開ける。
途端、タイミング良くライターの火がかちりと点いた。

息を深く吐いて、シカマルはアスマの形見であるライターの火を見つめる。


今からシカマルが何をしようとしているのか理解して、飛段は暴れた。
身体を縛る起爆札付きワイヤーから逃れようとする。
しかしながら、暴れれば暴れるほどワイヤーは強く身体に食い込んでくる。


「これは火の意志だ…俺達の里を守ろうという強い意志だ」


その言葉を最後に、シカマルはライターを穴へ投げ入れる。
ライターの火は飛段の身体中の起爆札の一つに触れた。

着火、
そして、爆発。


誘爆も続き、白煙が立ち上る。
大きな爆発と火炎が飛段を呑み込んでゆく。


その火に照らされたシカマルの顔は、ただ、静かだった。





















「影使いの小僧に助けられたな」
「それを考慮してもあの術は攻撃回数が桁外れだよ」

カカシと同じく、角都の一瞬の隙に気づいた再不斬が、力を使い果たして倒れ伏せたナルを横目で見遣りながら呟く。

確かにシカマルが飛段を利用して角都の心臓をひとつ潰したかげで無事、ナルの術が発動できたのもあるが、それにしても…とカカシは【写輪眼】を発動させながら答えた。


ナルの【風遁・螺旋手裏剣】が直撃し、凄まじい爆風が周囲を襲う。
その威力や凄まじく、中心にいる角都がひとたまりもないことは一目瞭然だ。


針状に変形した極小の風遁のチャクラが角都の全身、それも細胞の経絡系全てを破壊してゆく。
【写輪眼】を以てしても見切れないほどの攻撃回数。
まるで毒のようだ、とカカシはナルの術を解析しながら驚愕する。


更に非常に高い威力である術はまるで小さな台風の如く、付近の木々をも根こそぎ打ち払ってゆく。
あとにはクレーターのように抉られた地面が残り、その中心へ角都が力なく墜落してゆくのが見えた。

「なんて術だ…」

驚嘆の眼差しでカカシはナルを見つめる。
付きっ切りで修行に付き合っていたヤマトが満足げに微笑んだ。


「終わったな…」
「…………」


一段落したとばかりに安堵の息をつくカカシに、再不斬は何も返さなかった。
クレーターの中心でボロボロになって這い蹲っている角都を見下ろす。


よろよろとなんとか立ち上がったナルを視界の端で捉え、彼女の成長ぶりに改めて感心したカカシは、「さてと、」と角都へ視線を投げた。
後始末をする為、クレーター内へ足を踏み入れようとしたカカシをヤマトが見送る。







彼らの注意と視線は、この時、角都に向いていた。
だから、気づけなかった。
いや、気づけたとしても遅すぎた。









「────強くなったね、ナル」


え、と声を出す暇もなく、背後からの衝撃に意識を失う。
ガクリ、と地面へ力なく激突するはずだったナルの身体は、気絶させた相手によって、やわらかく受け止められた。

「な…おまえは…!?」


この場に今までいなかった第三者の声音に、カカシとヤマトが一斉に振り返った。
いつの間にか、ナルの後ろに佇んでいた人物に彼らは驚きを隠せない。ただでさえ力を使い果たしたナルが気を失っている状況に、カカシとヤマトは冷や汗を掻く。


警戒態勢を取る二人に構わず、彼は気絶したナルへそっと囁いた。


「でも、その術はあまり使わないほうがいい。身体に負担がかかりすぎるからね」


仙術を使えば話は別だけど、とさりげなく助言しながら、彼は────ナルトは顔を上げる。


目深に被ったフードの陰で、ナルと同じ青の双眸が静かに細められた。 
 

 
後書き
シカマルサイドとナルサイド、二場面同時進行です。
シカマル側とナル側が偶然タイミング遭ってますが、そこはご容赦くださいませ…ある意味、共同作業みたいにしたかったんです(笑)


あと、前回の話で「次回も二場面は原作と大体同じだと思いますが、その次くらいから来ます」と予告したけど、あれは嘘だ…
今回の話の最後の最後で来ちゃいましたね…!!

次回もどうぞよろしくお願いいたします!!

 
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