魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第103話:世界に届く唄
響がマリアのガングニールを纏い、この戦いを終わらせるべく制御室を後にした。あおいからクリスと透がファントムと化したメデューサとの戦闘に突入し、苦戦していると言う報せが入ったのだ。
後に残されたマリアは、その場に座り込み無気力にただ時が過ぎるのを待っていた。愛する者、信じる者を奪われ、もう何もする気が起きなかったのだ。
「セレナ……マム……ガルド……」
何時だってそうだった。自分は間に合わない。セレナだって、助けてくれたのは魔法使いで自分はただ見ているだけだった。
自分の無力さが嫌になる。いっそ消えてしまいたい。
「マリア姉さん!」
「マリア!」
その時、マリアの耳にセレナとガルドの声が響いた。ハッとして顔を上げそちらを見ると、駆け寄ってくるセレナとガルドの姿があった。
「セレナ、ガルド! あなた達、どうして?」
「説明は省くが、助けられた。俺もセレナも無事だ」
この戦い、最早首謀者と化したのはジェネシスだ。であれば、制御室も選挙に来る可能性が高い。
悠長に説明している暇はなかった。
「姉さん……」
「セレナ……ごめんなさい。私、何も出来なかった――!?」
セレナが生きていてくれた事は素直に嬉しい。だがそれは、彼女の不甲斐無さを払拭するには至らなかった。セレナとガルドをマリアが助けた訳では無いのだ。
結局、自分が何かしなくても世界は回るのだと言う事を実感し、更なる無力感がマリアの心を覆っていった。
それをセレナは敏感に感じ取った。
「違うよ、マリア姉さん。まだ何も終わってない。姉さんにも出来る事はある」
「そんな事ない!? 私じゃあなた達を救えなかった。世界も動かせなかった!? 私の歌に、私自身に、何かを成し遂げる力なんて無いのよ!」
「そんな事ない!!」
マリアの慟哭に負けない声量でセレナが声を上げた。つい先程までベッドの上から動けない人間だったとは思えないほどだ。
「もう一度、自分の心に目を向けて。今、マリア姉さんがやりたい事は何?」
「私の、やりたい事……」
先程と打って変わって優しい声色での問い掛けに、マリアは落ち着きを取り戻し自分の心に目を向けた。
その時、ガルドは制御室の外が騒がしくなったのを感じそちらに体を向けた。
「――歌で、世界を救いたい。月の落下が齎す災厄から、皆を助けたい……」
そうだ、そもそも自分はその為に戦う事を選んだのだ。例え世界の敵となろうと、多くの人を救う為に悪の汚名を背負うと決めた。それがセレナも救う事となると信じたからだ。
マリアの心からの想いを聞き、セレナが優しく笑みを浮かべるとそっとマリアを立たせた。
「それじゃあ、やろう。それを……私も手伝うから。だから、生まれたままの感情を隠さないで……1人で全部背負い込まないで。私も居るんだから」
「セレナ……」
優しいセレナの励ましに、マリアの目に力が戻っていく。
それと時を同じくして、制御室にメイジが雪崩れ込んできた。しかも全員幹部候補の白仮面だ。彼らの姿に、マリアが顔を険しくしてセレナを抱き寄せる。
そこにガルドが立ち塞がる。彼は2人を守る為、メイジ達の前で仁王立ちしていた。
「ガルド!」
「ガルド君!」
「……心配するな。セレナとマリア、2人には指一本触れさせない」
〈ドライバーオン、プリーズ〉
ガルドは両手の中指にそれぞれ指輪を嵌めると、右手をハンドオーサーに翳してドライバーを出現させる。ドライバーの左右のレバーを操作し、ハンドオーサーの向きを変えた。
〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン! シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉
颯人が変身する時と同じ音声が周囲に響く。ガルドは久しく聞いていなかったその音声に薄く笑みを浮かべると、ウィザードリングを嵌めた左手をハンドオーサーに翳した。
「変身!」
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉
ガルドが左手を上に翳すと、4分割された魔法陣が出現する。魔法陣はそれぞれ炎・水・風・土属性を持ち、それが1つに合わさりガルドに向けて降りてきた。
そしてガルドの体が魔法陣を通過すると、そこには新たな魔法使いが姿を現していた。
ウィザードに近い姿をしているが、肩・胸・腕・足を守る鎧がある。仮面や鎧の宝石部分は灰色で、頭には額部分から頭頂部に向けて角が一本ついている。
それは嘗て、ガルドがセレナを助ける為に纏った魔法使いの鎧。その名も――――
「キャスター……魔法使いキャスター」
「あ、あれは……」
「ガルド君……やっぱり――!」
その姿をマリアとセレナは覚えていた。忘れる訳もない、嘗てネフィリムの起動実験が行われたあの日、セレナを助けてくれたのがキャスターの姿をしたガルドだったのだ。
〈コネクト、プリーズ〉
変身したガルドはコネクトの魔法で何かを取り出した。
彼が取り出したのは槍。ガングニール程ではないが穂先が大きく、柄と刃の基部に魔法石とハンドオーサーがついている。
ガルドはその取り出した槍――マイティガンランス――で床を一閃し足下に一筋の傷をつけると、石突で床を突いた。
「来るなら……来い。ここから先には、何人たりとも通しはしない!」
メイジ達に向け宣言するガルド。凄まじい威圧感がメイジ達に向けられ、思わず後退るのが見て取れた。
それでも彼らは退く事は無かった。琥珀メイジに比べれば自我があるとは言え、命令には絶対服従のメイジ達。勝手に退くと言う事を彼らは選択できない。
各々ライドスクレイパーを手に白メイジ達が突撃してくる。それをガルドは迎撃する。
最も接近してきた奴を薙ぎ払いで吹き飛ばし、その隙に攻撃してきたメイジに対しては石突で突いて行動を阻害し追撃の一閃で戦闘不能に追い込む。更に返す刃で横を通り抜けようとしていたメイジを斬り付けると、そのまま引っ掛けて振り回し別のメイジに叩き付けた。
白メイジは幹部候補として将来を有望された魔法使い達。その実力は琥珀メイジとは一線を画し、メデューサ達幹部に及ばないとは言え徒党を組めばその強さは侮れないものとなる。
その白メイジの徒党を相手に、ガルドは全く引けを取らない戦いを見せる。宣言通り、床に付けた傷から先へは誰一人通す事なく次々とメイジを倒していく。
その姿にセレナは勇気を貰い、マリアを奮い立たせた。
「さぁ、姉さん!」
希望に満ちたセレナの言葉に、マリアも頷き立ち上がる。
そして2人の口から、歌が紡がれた。
「りんごは 浮かんだ お空に」
「りんごは 落っこちた 地べたに」
「星が」
「「生まれて」」
「歌が」
「「生まれて」」
「ルル・アメルは 笑った」
「「とこしえと──」」
2人の歌は、続いていた中継により世界に届けられていく。
義務や責任感ではない、純粋な想いと共に紡がれた唄。
それは世界中の人々の心に染み渡っていき、歌を聞いた人々は導かれるように天を見上げ、祈るように手を合わせる。
誰が示し合わせた訳でもなく、誰かに教わった訳でもなく、世界中の様々な人種の人々が想いを一つにしていく。
人と人が歌で繋がり、全世界70億の人々の歌が世界を包み込んだ。
それは地球から離れつつある制御室でも観測する事が出来た。
大気圏脱出の準備一切なしで打ち上げられたので、加速により室内は酷い有様だったがナスターシャ教授はまだ生きていた。パワードスーツになる車椅子を起動し、瓦礫の中から這い出したナスターシャ教授はフロンティアから送られてくるデータで現状を把握した。
「世界中より集められたフォニックゲインが……フロンティアを経由して、ここに集束している。これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能――!」
元々老体であったことに加え、病を抱えた体だ。もう長くない事は彼女自身がよく分かっている。それでもまだ出来る事はあると、ナスターシャ教授は地上へと通信を試みた。
「マリア……マリア……」
『マリア――!』
「マムッ!?」
「マムッ!」
ナスターシャ教授からの通信は、無事にフロンティアまで届いた。彼女の声を聞き、マリアとセレナがコンソールへと駆け寄る。特にマリアは、ナスターシャ教授がウェル博士により制御室毎地球から放り出された事を知っているので、生存を報せる声を聞けて安堵していた。
『セレナ、あなた大丈夫なのですか!?』
「うん、私は大丈夫。それよりマム? マムの方こそ大丈夫なの?」
声しか聞こえないが、それでも声の調子からナスターシャ教授の不調をセレナは感じ取った。
『心配には及びません。それより、あなた達の歌に世界が共鳴しています。これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です! 月は私が責任を持って止めますッ!』
「マムッ!?」
覚悟を決めたナスターシャ教授の言葉。これが最後の通信になると察し、マリアは思わず声を上げる。
セレナはナスターシャ教授が打ち上げられた事は知らない。だがナスターシャ教授の言葉と、何よりもマリアの様子から同様にナスターシャ教授が命の危機にある事を察した。
「姉さん……マムは……」
『私の事は気にしなくとも大丈夫です』
どの道老い先短い身だ。残り少ない命を、世界を救う為に使えるのであれば悔いはない。
いや……正確に言えば心残りはある。
ここで別れては、マリアもセレナも悲しむのは分かっている。それに調や切歌に別れの挨拶が出来ない事も残念だし、ガルドとの再会を喜べないのも悔いとなるだろう。
だが最早時間はないし、何よりも最期の言葉を伝えたい相手はマリア以外にあり得なかった。
世界を救う為とは言え、悪を演じさせ一番辛い役割を押し付けてしまった。その事への懺悔でもあるし、同時に自分が最も信頼しそして自分を信頼してくれた。
そんな彼女にこそ、ナスターシャ教授は言葉を投げかけたかった。それはマリアを縛り付けてしまったナスターシャ教授の責任でもあるし、それと同時にマリアの母替わりを努めてきたものの義務でもあった。
『もう何もあなたを縛るものはありません……行きなさい、マリア。行って私に、あなたの歌を聴かせなさい』
「マム……」
言外に全てを託すと言うナスターシャ教授からの信頼の表れでもある言葉は、今までマリアを縛り付けていた鎖を解き放った。
マリアは大きく頷き、涙を拭うと遠く地球を離れつつあるナスターシャ教授に向け笑って応えた。
「オーケー、マム。世界最高のステージの幕を上げましょうッ!!」
「姉さん、私も…………あ――」
マリアに続きセレナも立ち上がるが、瞬間セレナの視界が暗くなり崩れ落ちそうになる。マリアは倒れそうになるセレナの体を慌てて支えた。
「セレナッ!?」
『思った通り、本調子ではないようですね。無理はいけません、セレナ』
「でも、私……姉さんを助けたくて……」
マリアを手助けしたくてここまで来たのに、何も出来ずに終わるなどとセレナは尚も立とうとした。そんなセレナをマリアは優しく床に降ろす。
「もう十分、助けてもらってる。ありがとう、セレナ。あなたのおかげで私はまた歌えた。だから安心して」
「マリア姉さん……」
マリアの言葉にセレナの表情が柔らかくなる。
それと同時にガルドが最後のメイジを倒した。宣言通り、誰一人背後に通す事無くマリアとセレナの2人を守り抜いたのだ。
「マリアとマムの言う通りだ。セレナ、後はマリアに託そう。安心しろ、俺がサポートする。だからセレナはもう休め」
「ガルド君……うん、分かった。姉さんの事、お願いね」
「あぁ」
「大丈夫よセレナ。終わったらちゃんと返すから」
「ちょ、姉さん!?」
マリアの発言にセレナが顔を赤くする。よく見るとガルドの顔も少し赤い。
そんな2人の様子に、マリアが先程とは異なる笑みを浮かべる。
「ふふっ! それじゃあセレナ……行ってくるわ」
「もう……行ってらっしゃい。姉さん」
後書き
という訳で第103話でした。
今回より新たな魔法使い、その名もキャスター参戦です。ソーサラーがそのまま仲間になるかもと思ってた方は御免なさい。
キャスターは戦い方としてはビーストに近いものとなる予定です。今回は武器での戦いをちょっと見せた程度でしたが、次回以降本当のキャスターの戦いをお見せできると思います。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに。それでは。
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